使徒行伝

第一章

1テオピロよ、わたしは先(さき)に第(だい)一巻(かん)を著(あら)わして、イエスが行(おこな)い、また教(おし)えはじめてから、 2お選(えら)びになった使徒(しと)たちに、聖霊(せいれい)によって命(めい)じたのち、天(てん)に上(あ)げられた日(ひ)までのことを、ことごとくしるした。 3イエスは苦難(くなん)を受(う)けたのち、自分(じぶん)の生(い)きていることを数々(かずかず)の確(たし)かな証拠(しょうこ)によって示(しめ)し、四十日(にち)にわたってたびたび彼(かれ)らに現(あらわ)れて、神(かみ)の国(くに)のことを語(かた)られた。 4そして食事(しょくじ)を共(とも)にしているとき、彼(かれ)らにお命(めい)じになった、「エルサレムから離(はな)れないで、かねてわたしから聞(き)いていた父(ちち)の約束(やくそく)を待(ま)っているがよい。 5すなわち、ヨハネは水(みず)でバプテスマを授(さづ)けたが、あなたがたは間(ま)もなく聖霊(せいれい)によって、バプテスマを授(さづ)けられるであろう」。

6さて、弟子(でし)たちが一緒(いっしょ)に集(あつ)まったとき、イエスに問(と)うて言(い)った、「主(しゅ)よ、イスラエルのために国(くに)を復興(ふっこう)なさるのは、この時(とき)なのですか」。 7彼(かれ)らに言(い)われた、「時期(じき)や場合(ばあい)は、父(ちち)がご自分(じぶん)の権威(けんい)によって定(さだ)めておられるのであって、あなたがたの知(し)る限(かぎ)りではない。 8ただ、聖霊(せいれい)があなたがたにくだる時(とき)、あなたがたは力(ちから)を受(う)けて、エルサレム、ユダヤとサマリヤの全土(ぜんど)、さらに地(ち)のはてまで、わたしの証人(しょうにん)となるであろう」。 9こう言(い)い終(おわ)ると、イエスは彼(かれ)らの見(み)ている前(まえ)で天(てん)に上(あ)げられ、雲(くも)に迎(むか)えられて、その姿(すがた)が見(み)えなくなった。 10イエスの上(のぼ)って行(い)かれるとき、彼(かれ)らが天(てん)を見(み)つめていると、見(み)よ、白(しろ)い衣(ころも)を着(き)たふたりの人(ひと)が、彼(かれ)らのそばに立(た)っていて 11言(い)った、「ガリラヤの人(ひと)たちよ、なぜ天(てん)を仰(あお)いで立(た)っているのか。あなたがたを離(はな)れて天(てん)に上(あ)げられたこのイエスは、天(てん)に上(のぼ)って行(い)かれるのをあなたがたが見(み)たのと同(おな)じ有様(ありさま)で、またおいでになるであろう」。

12それから彼(かれ)らは、オリブという山(やま)を下(くだ)ってエルサレムに帰(かえ)った。この山(やま)はエルサレムに近(ちか)く、安息日(あんそくにち)に許(ゆる)されている距離(きょり)のところにある。 13彼(かれ)らは、市内(しない)に行(い)って、その泊(と)まっていた屋上(おくじょう)の間(ま)にあがった。その人(ひと)たちは、ペテロ、ヨハネ、ヤコブ、アンデレ、ピリポとトマス、バルトロマイとマタイ、アルパヨの子(こ)ヤコブと熱心(ねっしん)党(とう)のシモンとヤコブの子(こ)ユダとであった。 14彼(かれ)らはみな、婦人(ふじん)たち、特(とく)にイエスの母(はは)マリヤ、およびイエスの兄弟(きょうだい)たちと共(とも)に、心(こころ)を合(あ)わせて、ひたすら祈(いのり)をしていた。

15そのころ、百二十名(めい)ばかりの人々(ひとびと)が、一団(いちだん)となって集(あつ)まっていたが、ペテロはこれらの兄弟(きょうだい)たちの中(なか)に立(た)って言(い)った、 16「兄弟(きょうだい)たちよ、イエスを捕(とら)えた者(もの)たちの手(て)びきになったユダについては、聖霊(せいれい)がダビデの口(くち)をとおして預言(よげん)したその言葉(ことば)は、成就(じょうじゅ)しなければならなかった。 17彼(かれ)はわたしたちの仲間(なかま)に加(くわ)えられ、この務(つとめ)を授(さず)かっていた者(もの)であった。( 18彼(かれ)は不義(ふぎ)の報酬(ほうしゅう)で、ある地所(じしょ)を手(て)に入(い)れたが、そこへまっさかさまに落(お)ちて、腹(はら)がまん中(なか)から引(ひ)き裂(さ)け、はらわたがみな流(なが)れ出(で)てしまった。 19そして、この事(こと)はエルサレムの全(ぜん)住民(じゅうみん)に知(し)れわたり、そこで、この地所(じしょ)が彼(かれ)らの国語(こくご)でアケルダマと呼(よ)ばれるようになった。「血(ち)の地所(じしょ)」との意(い)である。) 20詩篇(しへん)に、
『その屋敷(やしき)は荒(あ)れ果(は)てよ、
そこにはひとりも住(す)む者(もの)がいなくなれ』
と書(か)いてあり、また
『その職(しょく)は、ほかの者(もの)に取(と)らせよ』
とあるとおりである。 21そういうわけで、主(しゅ)イエスがわたしたちの間(あいだ)にゆききされた期間中(きかんちゅう)、 22すなわち、ヨハネのバプテスマの時(とき)から始(はじ)まって、わたしたちを離(はな)れて天(てん)に上(あ)げられた日(ひ)に至(いた)るまで、始終(しじゅう)わたしたちと行動(こうどう)を共(とも)にした人(ひと)たちのうち、だれかひとりが、わたしたちに加(くわ)わって主(しゅ)の復活(ふっかつ)の証人(しょうにん)にならねばならない」。 23そこで一同(いちどう)は、バルサバと呼(よ)ばれ、またの名(な)をユストというヨセフと、マッテヤとのふたりを立(た)て、 24祈(いの)って言(い)った、「すべての人(ひと)の心(こころ)をご存(ぞん)じである主(しゅ)よ。このふたりのうちのどちらを選(えら)んで、 25ユダがこの使徒(しと)の職務(しょくむ)から落(お)ちて、自分(じぶん)の行(い)くべきところへ行(い)ったそのあとを継(つ)がせなさいますか、お示(しめ)し下(くだ)さい」。 26それから、ふたりのためにくじを引(ひ)いたところ、マッテヤに当(あた)ったので、この人(ひと)が十一人(にん)の使徒(しと)たちに加(くわ)えられることになった。

第二章

1五旬節(ごじゅんせつ)の日(ひ)がきて、みんなの者(もの)が一緒(いっしょ)に集(あつ)まっていると、 2突然(とつぜん)、激(はげ)しい風(かぜ)が吹(ふ)いてきたような音(おと)が天(てん)から起(おこ)ってきて、一同(いちどう)がすわっていた家(いえ)いっぱいに響(ひび)きわたった。 3また、舌(した)のようなものが、炎(ほのお)のように分(わか)れて現(あらわ)れ、ひとりびとりの上(うえ)にとどまった。 4すると、一同(いちどう)は聖霊(せいれい)に満(み)たされ、御霊(みたま)が語(かた)らせるままに、いろいろの他国(たこく)の言葉(ことば)で語(かた)り出(だ)した。

5さて、エルサレムには、天下(てんか)のあらゆる国々(くにぐに)から、信仰(しんこう)深(ぶか)いユダヤ人(じん)たちがきて住(す)んでいたが、 6この物音(ものおと)に大(おお)ぜいの人(ひと)が集(あつ)まってきて、彼(かれ)らの生(うま)れ故郷(こきょう)の国語(こくご)で、使徒(しと)たちが話(はな)しているのを、だれもかれも聞(き)いてあっけに取(と)られた。 7そして驚(おどろ)き怪(あや)しんで言(い)った、「見(み)よ、いま話(はな)しているこの人(ひと)たちは、皆(みな)ガリラヤ人(びと)ではないか。 8それだのに、わたしたちがそれぞれ、生(うま)れ故郷(こきょう)の国語(こくご)を彼(かれ)らから聞(き)かされるとは、いったい、どうしたことか。 9わたしたちの中(なか)には、パルテヤ人(びと)、メジヤ人(びと)、エラム人(びと)もおれば、メソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポントとアジヤ、 10フルギヤとパンフリヤ、エジプトとクレネに近(ちか)いリビヤ地方(ちほう)などに住(す)む者(もの)もいるし、またローマ人(じん)で旅(たび)にきている者(もの)、 11ユダヤ人(じん)と改宗者(かいしゅうしゃ)、クレテ人(びと)とアラビヤ人(じん)もいるのだが、あの人々(ひとびと)がわたしたちの国語(こくご)で、神(かみ)の大(おお)きな働(はたら)きを述(の)べるのを聞(き)くとは、どうしたことか」。 12みんなの者(もの)は驚(おどろ)き惑(まど)って、互(たがい)に言(い)い合(あ)った、「これは、いったい、どういうわけなのだろう」。 13しかし、ほかの人(ひと)たちはあざ笑(わら)って、「あの人(ひと)たちは新(あたら)しい酒(さけ)で酔(よ)っているのだ」と言(い)った。

14そこで、ペテロが十一人(にん)の者(もの)と共(とも)に立(た)ちあがり、声(こえ)をあげて人々(ひとびと)に語(かた)りかけた。

「ユダヤの人(ひと)たち、ならびにエルサレムに住(す)むすべてのかたがた、どうか、この事(こと)を知(し)っていただきたい。わたしの言(い)うことに耳(みみ)を傾(かたむ)けていただきたい。 15今(いま)は朝(あさ)の九時(じ)であるから、この人(ひと)たちは、あなたがたが思(おも)っているように、酒(さけ)に酔(よ)っているのではない。 16そうではなく、これは預言者(よげんしゃ)ヨエルが預言(よげん)していたことに外(ほか)ならないのである。すなわち、
17『神(かみ)がこう仰(おお)せになる。
終(おわ)りの時(とき)には、
わたしの霊(れい)をすべての人(ひと)に注(そそ)ごう。
そして、あなたがたのむすこ娘(むすめ)は預言(よげん)をし、
若者(わかもの)たちは幻(まぼろし)を見(み)、
老人(ろうじん)たちは夢(ゆめ)を見(み)るであろう。
18その時(とき)には、わたしの男女(だんじょ)の僕(しもべ)たちにも
わたしの霊(れい)を注(そそ)ごう。
そして彼(かれ)らも預言(よげん)をするであろう。
19また、上(うえ)では、天(てん)に奇跡(きせき)を見(み)せ、
下(した)では、地(ち)にしるしを、
すなわち、血(ち)と火(ひ)と立(た)ちこめる煙(けむり)とを、
見(み)せるであろう。
20主(しゅ)の大(おお)いなる輝(かがや)かしい日(ひ)が来(く)る前(まえ)に、
日(ひ)はやみに
月(つき)は血(ち)に変(かわ)るであろう。
21そのとき、主(しゅ)の名(な)を呼(よ)び求(もと)める者(もの)は、
みな救(すく)われるであろう』。
22イスラエルの人(ひと)たちよ、今(いま)わたしの語(かた)ることを聞(き)きなさい。あなたがたがよく知(し)っているとおり、ナザレ人(びと)イエスは、神(かみ)が彼(かれ)をとおして、あなたがたの中(なか)で行(おこな)われた数々(かずかず)の力(ちから)あるわざと奇跡(きせき)としるしとにより、神(かみ)からつかわされた者(もの)であることを、あなたがたに示(しめ)されたかたであった。 23このイエスが渡(わた)されたのは神(かみ)の定(さだ)めた計画(けいかく)と予知(よち)とによるのであるが、あなたがたは彼(かれ)を不法(ふほう)の人々(ひとびと)の手(て)で十字架(じゅうじか)につけて殺(ころ)した。 24神(かみ)はこのイエスを死(し)の苦(くる)しみから解(と)き放(はな)って、よみがえらせたのである。イエスが死(し)に支配(しはい)されているはずはなかったからである。 25ダビデはイエスについてこう言(い)っている、
『わたしは常(つね)に目(め)の前(まえ)に主(しゅ)を見(み)た。
主(しゅ)は、わたしが動(うご)かされないため、
わたしの右(みぎ)にいて下(くだ)さるからである。
26それゆえ、わたしの心(こころ)は楽(たの)しみ、
わたしの舌(した)はよろこび歌(うた)った。
わたしの肉体(にくたい)もまた、望(のぞ)みに生(い)きるであろう。
27あなたは、わたしの魂(たましい)を黄泉(よみ)に捨(す)ておくことをせず、
あなたの聖者(せいじゃ)が朽(く)ち果(は)てるのを、お許(ゆる)しにならないであろう。
28あなたは、いのちの道(みち)をわたしに示(しめ)し、
み前(まえ)にあって、わたしを喜(よろこ)びで満(み)たして下(くだ)さるであろう』。
29兄弟(きょうだい)たちよ、族長(ぞくちょう)ダビデについては、わたしはあなたがたにむかって大胆(だいたん)に言(い)うことができる。彼(かれ)は死(し)んで葬(ほうむ)られ、現(げん)にその墓(はか)が今日(きょう)に至(いた)るまで、わたしたちの間(あいだ)に残(のこ)っている。 30彼(かれ)は預言者(よげんしゃ)であって、『その子孫(しそん)のひとりを王位(おうい)につかせよう』と、神(かみ)が堅(かた)く彼(かれ)に誓(ちか)われたことを認(みと)めていたので、 31キリストの復活(ふっかつ)をあらかじめ知(し)って、『彼(かれ)は黄泉(よみ)に捨(す)ておかれることがなく、またその肉体(にくたい)が朽(く)ち果(は)てることもない』と語(かた)ったのである。 32このイエスを、神(かみ)はよみがえらせた。そして、わたしたちは皆(みな)その証人(しょうにん)なのである。 33それで、イエスは神(かみ)の右(みぎ)に上(あ)げられ、父(ちち)から約束(やくそく)の聖霊(せいれい)を受(う)けて、それをわたしたちに注(そそ)がれたのである。このことは、あなたがたが現(げん)に見聞(みき)きしているとおりである。 34ダビデが天(てん)に上(のぼ)ったのではない。彼(かれ)自身(じしん)こう言(い)っている、
『主(しゅ)はわが主(しゅ)に仰(おお)せになった、
35あなたの敵(てき)をあなたの足(あし)台(だい)にするまでは、
わたしの右(みぎ)に座(ざ)していなさい』。
36だから、イスラエルの全(ぜん)家(か)は、この事(こと)をしかと知(し)っておくがよい。あなたがたが十字架(じゅうじか)につけたこのイエスを、神(かみ)は、主(しゅ)またキリストとしてお立(た)てになったのである」。

37人々(ひとびと)はこれを聞(き)いて、強(つよ)く心(こころ)を刺(さ)され、ペテロやほかの使徒(しと)たちに、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしたちは、どうしたらよいのでしょうか」と言(い)った。 38すると、ペテロが答(こた)えた、「悔(く)い改(あらた)めなさい。そして、あなたがたひとりびとりが罪(つみ)のゆるしを得(え)るために、イエス・キリストの名(な)によって、バプテスマを受(う)けなさい。そうすれば、あなたがたは聖霊(せいれい)の賜物(たまもの)を受(う)けるであろう。 39この約束(やくそく)は、われらの主(しゅ)なる神(かみ)の召(め)しにあずかるすべての者(もの)、すなわちあなたがたと、あなたがたの子(こ)らと、遠(とお)くの者(もの)一同(いちどう)とに、与(あた)えられているものである」。 40ペテロは、ほかになお多(おお)くの言葉(ことば)であかしをなし、人々(ひとびと)に「この曲(まが)った時代(じだい)から救(すく)われよ」と言(い)って勧(すす)めた。 41そこで、彼(かれ)の勧(すす)めの言葉(ことば)を受(う)けいれた者(もの)たちは、バプテスマを受(う)けたが、その日(ひ)、仲間(なかま)に加(くわ)わったものが三千人(にん)ほどあった。 42そして一同(いちどう)はひたすら、使徒(しと)たちの教(おしえ)を守(まも)り、信徒(しんと)の交(まじ)わりをなし、共(とも)にパンをさき、祈(いのり)をしていた。

43みんなの者(もの)におそれの念(ねん)が生(しょう)じ、多(おお)くの奇跡(きせき)としるしとが、使徒(しと)たちによって、次々(つぎつぎ)に行(おこな)われた。 44信者(しんじゃ)たちはみな一緒(いっしょ)にいて、いっさいの物(もの)を共有(きょうゆう)にし、 45資産(しさん)や持(も)ち物(もの)を売(う)っては、必要(ひつよう)に応(おう)じてみんなの者(もの)に分(わ)け与(あた)えた。 46そして日々(ひび)心(こころ)を一つにして、絶(た)えず宮(みや)もうでをなし、家(いえ)ではパンをさき、よろこびと、まごころとをもって、食事(しょくじ)を共(とも)にし、 47神(かみ)をさんびし、すべての人(ひと)に好意(こうい)を持(も)たれていた。そして主(しゅ)は、救(すく)われる者(もの)を日々(ひび)仲間(なかま)に加(くわ)えて下(くだ)さったのである。

第三章

1さて、ペテロとヨハネとが、午後(ごご)三時(じ)の祈(いのり)のときに宮(みや)に上(のぼ)ろうとしていると、 2生(うま)れながら足(あし)のきかない男(おとこ)が、かかえられてきた。この男(おとこ)は、宮(みや)もうでに来(く)る人々(ひとびと)に施(ほどこ)しをこうため、毎日(まいにち)、「美(うつく)しの門(もん)」と呼(よ)ばれる宮(みや)の門(もん)のところに、置(お)かれていた者(もの)である。 3彼(かれ)は、ペテロとヨハネとが、宮(みや)にはいって行(い)こうとしているのを見(み)て、施(ほどこ)しをこうた。 4ペテロとヨハネとは彼(かれ)をじっと見(み)て、「わたしたちを見(み)なさい」と言(い)った。 5彼(かれ)は何(なに)かもらえるのだろうと期待(きたい)して、ふたりに注目(ちゅうもく)していると、 6ペテロが言(い)った、「金銀(きんぎん)はわたしには無(な)い。しかし、わたしにあるものをあげよう。ナザレ人(びと)イエス・キリストの名(な)によって歩(ある)きなさい」。 7こう言(い)って彼(かれ)の右手(みぎて)を取(と)って起(おこ)してやると、足(あし)と、くるぶしとが、立(た)ちどころに強(つよ)くなって、 8踊(おど)りあがって立(た)ち、歩(ある)き出(だ)した。そして、歩(ある)き回(まわ)ったり踊(おど)ったりして神(かみ)をさんびしながら、彼(かれ)らと共(とも)に宮(みや)にはいって行(い)った。 9民衆(みんしゅう)はみな、彼(かれ)が歩(ある)き回(まわ)り、また神(かみ)をさんびしているのを見(み)、 10これが宮(みや)の「美(うつく)しの門(もん)」のそばにすわって、施(ほどこ)しをこうていた者(もの)であると知(し)り、彼(かれ)の身(み)に起(おこ)ったことについて、驚(おどろ)き怪(あや)しんだ。

11彼(かれ)がなおもペテロとヨハネとにつきまとっているとき、人々(ひとびと)は皆(みな)ひどく驚(おどろ)いて、「ソロモンの廊(ろう)」と呼(よ)ばれる柱廊(ちゅうろう)にいた彼(かれ)らのところに駆(か)け集(あつ)まってきた。 12ペテロはこれを見(み)て、人々(ひとびと)にむかって言(い)った、「イスラエルの人(ひと)たちよ、なぜこの事(こと)を不思議(ふしぎ)に思(おも)うのか。また、わたしたちが自分(じぶん)の力(ちから)や信心(しんじん)で、あの人(ひと)を歩(ある)かせたかのように、なぜわたしたちを見(み)つめているのか。 13アブラハム、イサク、ヤコブの神(かみ)、わたしたちの先祖(せんぞ)の神(かみ)は、その僕(しもべ)イエスに栄光(えいこう)を賜(たま)わったのであるが、あなたがたは、このイエスを引(ひ)き渡(わた)し、ピラトがゆるすことに決(き)めていたのに、それを彼(かれ)の面前(めんぜん)で拒(こば)んだ。 14あなたがたは、この聖(せい)なる正(ただ)しいかたを拒(こば)んで、人殺(ひとごろ)しの男(おとこ)をゆるすように要求(ようきゅう)し、 15いのちの君(きみ)を殺(ころ)してしまった。しかし、神(かみ)はこのイエスを死人(しにん)の中(なか)から、よみがえらせた。わたしたちは、その事(こと)の証人(しょうにん)である。 16そして、イエスの名(な)が、それを信(しん)じる信仰(しんこう)のゆえに、あなたがたのいま見(み)て知(し)っているこの人(ひと)を、強(つよ)くしたのであり、イエスによる信仰(しんこう)が、彼(かれ)をあなたがた一同(いちどう)の前(まえ)で、このとおり完全(かんぜん)にいやしたのである。

17さて、兄弟(きょうだい)たちよ、あなたがたは知(し)らずにあのような事(こと)をしたのであり、あなたがたの指導者(しどうしゃ)たちとても同様(どうよう)であったことは、わたしにわかっている。 18神(かみ)はあらゆる預言者(よげんしゃ)の口(くち)をとおして、キリストの受難(じゅなん)を予告(よこく)しておられたが、それをこのように成就(じょうじゅ)なさったのである。 19だから、自分(じぶん)の罪(つみ)をぬぐい去(さ)っていただくために、悔(く)い改(あらた)めて本心(ほんしん)に立(た)ちかえりなさい。 20それは、主(しゅ)のみ前(まえ)から慰(なぐさ)めの時(とき)がきて、あなたがたのためにあらかじめ定(さだ)めてあったキリストなるイエスを、神(かみ)がつかわして下(くだ)さるためである。 21このイエスは、神(かみ)が聖(せい)なる預言者(よげんしゃ)たちの口(くち)をとおして、昔(むかし)から預言(よげん)しておられた万物(ばんぶつ)更新(こうしん)の時(とき)まで、天(てん)にとどめておかれねばならなかった。 22モーセは言(い)った、『主(しゅ)なる神(かみ)は、わたしをお立(た)てになったように、あなたがたの兄弟(きょうだい)の中(なか)から、ひとりの預言者(よげんしゃ)をお立(た)てになるであろう。その預言者(よげんしゃ)があなたがたに語(かた)ることには、ことごとく聞(き)きしたがいなさい。 23彼(かれ)に聞(き)きしたがわない者(もの)は、みな民(たみ)の中(なか)から滅(ほろ)ぼし去(さ)られるであろう』。 24サムエルをはじめ、その後(のち)つづいて語(かた)ったほどの預言者(よげんしゃ)はみな、この時(とき)のことを予告(よこく)した。 25あなたがたは預言者(よげんしゃ)の子(こ)であり、神(かみ)があなたがたの先祖(せんぞ)たちと結(むす)ばれた契約(けいやく)の子(こ)である。神(かみ)はアブラハムに対(たい)して、『地上(ちじょう)の諸(しょ)民族(みんぞく)は、あなたの子孫(しそん)によって祝福(しゅくふく)を受(う)けるであろう』と仰(おお)せられた。 26神(かみ)がまずあなたがたのために、その僕(しもべ)を立(た)てて、おつかわしになったのは、あなたがたひとりびとりを、悪(あく)から立(た)ちかえらせて、祝福(しゅくふく)にあずからせるためなのである」。

第四章

1彼(かれ)らが人々(ひとびと)にこのように語(かた)っているあいだに、祭司(さいし)たち、宮守(みやもり)がしら、サドカイ人(びと)たちが近寄(ちかよ)ってきて、 2彼(かれ)らが人々(ひとびと)に教(おしえ)を説(と)き、イエス自身(じしん)に起(おこ)った死人(しにん)の復活(ふっかつ)を宣伝(せんでん)しているのに気(き)をいら立(た)て、 3彼(かれ)らに手(て)をかけて捕(とら)え、はや日(ひ)が暮(く)れていたので、翌(よく)朝(あさ)まで留置(りゅうち)しておいた。 4しかし、彼(かれ)らの話(はなし)を聞(き)いた多(おお)くの人(ひと)たちは信(しん)じた。そして、その男(おとこ)の数(かず)が五千人(にん)ほどになった。

5明(あ)くる日(ひ)、役人(やくにん)、長老(ちょうろう)、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが、エルサレムに召集(しょうしゅう)された。 6大祭司(だいさいし)アンナスをはじめ、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル、そのほか大祭司(だいさいし)の一族(いちぞく)もみな集(あつ)まった。 7そして、そのまん中(なか)に使徒(しと)たちを立(た)たせて尋問(じんもん)した、「あなたがたは、いったい、なんの権威(けんい)、また、だれの名(な)によって、このことをしたのか」。 8その時(とき)、ペテロが聖霊(せいれい)に満(み)たされて言(い)った、「民(たみ)の役人(やくにん)たち、ならびに長老(ちょうろう)たちよ、 9わたしたちが、きょう、取調(とりしら)べを受(う)けているのは、病人(びょうにん)に対(たい)してした良(よ)いわざについてであり、この人(ひと)がどうしていやされたかについてであるなら、 10あなたがたご一同(いちどう)も、またイスラエルの人々(ひとびと)全体(ぜんたい)も、知(し)っていてもらいたい。この人(ひと)が元気(げんき)になってみんなの前(まえ)に立(た)っているのは、ひとえに、あなたがたが十字架(じゅうじか)につけて殺(ころ)したのを、神(かみ)が死人(しにん)の中(なか)からよみがえらせたナザレ人(びと)イエス・キリストの御名(みな)によるのである。 11このイエスこそは『あなたがた家(いえ)造(つく)りらに捨(す)てられたが、隅(すみ)のかしら石(いし)となった石(いし)』なのである。 12この人(ひと)による以外(いがい)に救(すくい)はない。わたしたちを救(すく)いうる名(な)は、これを別(べつ)にしては、天下(てんか)のだれにも与(あた)えられていないからである」。

13人々(ひとびと)はペテロとヨハネとの大胆(だいたん)な話(はな)しぶりを見(み)、また同時(どうじ)に、ふたりが無学(むがく)な、ただの人(ひと)たちであることを知(し)って、不思議(ふしぎ)に思(おも)った。そして彼(かれ)らがイエスと共(とも)にいた者(もの)であることを認(みと)め、 14かつ、彼(かれ)らにいやされた者(もの)がそのそばに立(た)っているのを見(み)ては、まったく返(かえ)す言葉(ことば)がなかった。 15そこで、ふたりに議会(ぎかい)から退場(たいじょう)するように命(めい)じてから、互(たがい)に協議(きょうぎ)をつづけて 16言(い)った、「あの人(ひと)たちを、どうしたらよかろうか。彼(かれ)らによって著(いちじる)しいしるしが行(おこな)われたことは、エルサレムの住民(じゅうみん)全体(ぜんたい)に知(し)れわたっているので、否定(ひてい)しようもない。 17ただ、これ以上(いじょう)このことが民衆(みんしゅう)の間(あいだ)にひろまらないように、今後(こんご)はこの名(な)によって、いっさいだれにも語(かた)ってはいけないと、おどしてやろうではないか」。 18そこで、ふたりを呼(よ)び入(い)れて、イエスの名(な)によって語(かた)ることも説(と)くことも、いっさい相成(あいな)らぬと言(い)いわたした。 19ペテロとヨハネとは、これに対(たい)して言(い)った、「神(かみ)に聞(き)き従(したが)うよりも、あなたがたに聞(き)き従(したが)う方(ほう)が、神(かみ)の前(まえ)に正(ただ)しいかどうか、判断(はんだん)してもらいたい。 20わたしたちとしては、自分(じぶん)の見(み)たこと聞(き)いたことを、語(かた)らないわけにはいかない」。 21そこで、彼(かれ)らはふたりを更(さら)におどしたうえ、ゆるしてやった。みんなの者(もの)が、この出来事(できごと)のために、神(かみ)をあがめていたので、その人々(ひとびと)の手前(てまえ)、ふたりを罰(ばっ)するすべがなかったからである。 22そのしるしによっていやされたのは、四十歳(さい)あまりの人(ひと)であった。

23ふたりはゆるされてから、仲間(なかま)の者(もの)たちのところに帰(かえ)って、祭司長(さいしちょう)たちや長老(ちょうろう)たちが言(い)ったいっさいのことを報告(ほうこく)した。 24一同(いちどう)はこれを聞(き)くと、口(くち)をそろえて、神(かみ)にむかい声(こえ)をあげて言(い)った、「天(てん)と地(ち)と海(うみ)と、その中(なか)のすべてのものとの造(つく)りぬしなる主(しゅ)よ。 25あなたは、わたしたちの先祖(せんぞ)、あなたの僕(しもべ)ダビデの口(くち)をとおして、聖霊(せいれい)によって、こう仰(おお)せになりました、
『なぜ、異邦人(いほうじん)らは、騒(さわ)ぎ立(た)ち、
もろもろの民(たみ)は、むなしいことを図(はか)り、
26地上(ちじょう)の王(おう)たちは、立(た)ちかまえ、
支配者(しはいしゃ)たちは、党(とう)を組(く)んで、
主(しゅ)とそのキリストとに逆(さか)らったのか』。
27まことに、ヘロデとポンテオ・ピラトとは、異邦人(いほうじん)らやイスラエルの民(たみ)と一緒(いっしょ)になって、この都(みやこ)に集(あつ)まり、あなたから油(あぶら)を注(そそ)がれた聖(せい)なる僕(しもべ)イエスに逆(さか)らい、 28み手(て)とみ旨(むね)とによって、あらかじめ定(さだ)められていたことを、なし遂(と)げたのです。 29主(しゅ)よ、いま、彼(かれ)らの脅迫(きょうはく)に目(め)をとめ、僕(しもべ)たちに、思(おも)い切(き)って大胆(だいたん)に御言葉(みことば)を語(かた)らせて下(くだ)さい。 30そしてみ手(て)を伸(の)ばしていやしをなし、聖(せい)なる僕(しもべ)イエスの名(な)によって、しるしと奇跡(きせき)とを行(おこな)わせて下(くだ)さい」。 31彼(かれ)らが祈(いの)り終(お)えると、その集(あつ)まっていた場所(ばしょ)が揺(ゆ)れ動(うご)き、一同(いちどう)は聖霊(せいれい)に満(み)たされて、大胆(だいたん)に神(かみ)の言(ことば)を語(かた)り出(だ)した。

32信(しん)じた者(もの)の群(む)れは、心(こころ)を一つにし思(おも)いを一つにして、だれひとりその持(も)ち物(もの)を自分(じぶん)のものだと主張(しゅちょう)する者(もの)がなく、いっさいの物(もの)を共有(きょうゆう)にしていた。 33使徒(しと)たちは主(しゅ)イエスの復活(ふっかつ)について、非常(ひじょう)に力強(ちからづよ)くあかしをした。そして大(おお)きなめぐみが、彼(かれ)ら一同(いちどう)に注(そそ)がれた。 34彼(かれ)らの中(なか)に乏(とぼ)しい者(もの)は、ひとりもいなかった。地所(じしょ)や家屋(かおく)を持(も)っている人(ひと)たちは、それを売(う)り、売(う)った物(もの)の代金(だいきん)をもってきて、 35使徒(しと)たちの足(あし)もとに置(お)いた。そしてそれぞれの必要(ひつよう)に応(おう)じて、だれにでも分(わ)け与(あた)えられた。

36クプロ生(うま)れのレビ人(びと)で、使徒(しと)たちにバルナバ(「慰(なぐさ)めの子(こ)」との意(い))と呼(よ)ばれていたヨセフは、 37自分(じぶん)の所有(しょゆう)する畑(はたけ)を売(う)り、その代金(だいきん)をもってきて、使徒(しと)たちの足(あし)もとに置(お)いた。

第五章

1ところが、アナニヤという人(ひと)とその妻(つま)サッピラとは共(とも)に資産(しさん)を売(う)ったが、 2共謀(きょうぼう)して、その代金(だいきん)をごまかし、一部(いちぶ)だけを持(も)ってきて、使徒(しと)たちの足(あし)もとに置(お)いた。 3そこで、ペテロが言(い)った、「アナニヤよ、どうしてあなたは、自分(じぶん)の心(こころ)をサタンに奪(うば)われて、聖霊(せいれい)を欺(あざむ)き、地所(じしょ)の代金(だいきん)をごまかしたのか。 4売(う)らずに残(のこ)しておけば、あなたのものであり、売(う)ってしまっても、あなたの自由(じゆう)になったはずではないか。どうして、こんなことをする気(き)になったのか。あなたは人(ひと)を欺(あざむ)いたのではなくて、神(かみ)を欺(あざむ)いたのだ」。 5アナニヤはこの言葉(ことば)を聞(き)いているうちに、倒(たお)れて息(いき)が絶(た)えた。このことを伝(つた)え聞(き)いた人々(ひとびと)は、みな非常(ひじょう)なおそれを感(かん)じた。 6それから、若者(わかもの)たちが立(た)って、その死体(したい)を包(つつ)み、運(はこ)び出(だ)して葬(ほうむ)った。

7三時間(じかん)ばかりたってから、たまたま彼(かれ)の妻(つま)が、この出来事(できごと)を知(し)らずに、はいってきた。 8そこで、ペテロが彼女(かのじょ)にむかって言(い)った、「あの地所(じしょ)は、これこれの値段(ねだん)で売(う)ったのか。そのとおりか」。彼女(かのじょ)は「そうです、その値段(ねだん)です」と答(こた)えた。 9ペテロは言(い)った、「あなたがたふたりが、心(こころ)を合(あ)わせて主(しゅ)の御霊(みたま)を試(こころ)みるとは、何事(なにごと)であるか。見(み)よ、あなたの夫(おっと)を葬(ほうむ)った人(ひと)たちの足(あし)が、そこの門口(かどぐち)にきている。あなたも運(はこ)び出(だ)されるであろう」。 10すると女(おんな)は、たちまち彼(かれ)の足(あし)もとに倒(たお)れて、息(いき)が絶(た)えた。そこに若者(わかもの)たちがはいってきて、女(おんな)が死(し)んでしまっているのを見(み)、それを運(はこ)び出(だ)してその夫(おっと)のそばに葬(ほうむ)った。 11教会(きょうかい)全体(ぜんたい)ならびにこれを伝(つた)え聞(き)いた人(ひと)たちは、みな非常(ひじょう)なおそれを感(かん)じた。

12そのころ、多(おお)くのしるしと奇跡(きせき)とが、次々(つぎつぎ)に使徒(しと)たちの手(て)により人々(ひとびと)の中(なか)で行(おこな)われた。そして、一同(いちどう)は心(こころ)を一つにして、ソロモンの廊(ろう)に集(あつ)まっていた。 13ほかの者(もの)たちは、だれひとり、その交(まじ)わりに入(い)ろうとはしなかったが、民衆(みんしゅう)は彼(かれ)らを尊敬(そんけい)していた。 14しかし、主(しゅ)を信(しん)じて仲間(なかま)に加(くわ)わる者(もの)が、男女(だんじょ)とも、ますます多(おお)くなってきた。 15ついには、病人(びょうにん)を大通(おおどお)りに運(はこ)び出(だ)し、寝台(しんだい)や寝床(ねどこ)の上(うえ)に置(お)いて、ペテロが通(とお)るとき、彼(かれ)の影(かげ)なりと、そのうちのだれかにかかるようにしたほどであった。 16またエルサレム附近(ふきん)の町々(まちまち)からも、大(おお)ぜいの人(ひと)が、病人(びょうにん)や汚(けが)れた霊(れい)に苦(くる)しめられている人(ひと)たちを引(ひ)き連(つ)れて、集(あつ)まってきたが、その全部(ぜんぶ)の者(もの)が、ひとり残(のこ)らずいやされた。

17そこで、大祭司(だいさいし)とその仲間(なかま)の者(もの)、すなわち、サドカイ派(は)の人(ひと)たちが、みな嫉妬(しっと)の念(ねん)に満(み)たされて立(た)ちあがり、 18使徒(しと)たちに手(て)をかけて捕(とら)え、公共(こうきょう)の留置場(りゅうちじょう)に入(い)れた。 19ところが夜(よる)、主(しゅ)の使(つかい)が獄(ごく)の戸(と)を開(ひら)き、彼(かれ)らを連(つ)れ出(だ)して言(い)った、 20「さあ行(い)きなさい。そして、宮(みや)の庭(にわ)に立(た)ち、この命(いのち)の言葉(ことば)を漏(も)れなく、人々(ひとびと)に語(かた)りなさい」。 21彼(かれ)らはこれを聞(き)き、夜明(よあ)けごろ宮(みや)にはいって教(おし)えはじめた。

一方(いっぽう)では、大祭司(だいさいし)とその仲間(なかま)の者(もの)とが、集(あつ)まってきて、議会(ぎかい)とイスラエル人(びと)の長老(ちょうろう)一同(いちどう)とを召集(しょうしゅう)し、使徒(しと)たちを引(ひ)き出(だ)してこさせるために、人(ひと)を獄(ごく)につかわした。 22そこで、下役(したやく)どもが行(い)って見(み)ると、使徒(しと)たちが獄(ごく)にいないので、引(ひ)き返(かえ)して報告(ほうこく)した、 23「獄(ごく)には、しっかりと錠(じょう)がかけてあり、戸口(とぐち)には、番人(ばんにん)が立(た)っていました。ところが、あけて見(み)たら、中(なか)にはだれもいませんでした」。 24宮守(みやもり)がしらと祭司長(さいしちょう)たちとは、この報告(ほうこく)を聞(き)いて、これは、いったい、どんな事(こと)になるのだろうと、あわて惑(まど)っていた。 25そこへ、ある人(ひと)がきて知(し)らせた、「行(い)ってごらんなさい。あなたがたが獄(ごく)に入(い)れたあの人(ひと)たちが、宮(みや)の庭(にわ)に立(た)って、民衆(みんしゅう)を教(おし)えています」。 26そこで宮守(みやもり)がしらが、下役(したやく)どもと一緒(いっしょ)に出(で)かけて行(い)って、使徒(しと)たちを連(つ)れてきた。しかし、人々(ひとびと)に石(いし)で打(う)ち殺(ころ)されるのを恐(おそ)れて、手荒(てあら)なことはせず、 27彼(かれ)らを連(つ)れてきて、議会(ぎかい)の中(なか)に立(た)たせた。すると、大祭司(だいさいし)が問(と)うて 28言(い)った、「あの名(な)を使(つか)って教(おし)えてはならないと、きびしく命(めい)じておいたではないか。それだのに、なんという事(こと)だ。エルサレム中(なか)にあなたがたの教(おしえ)を、はんらんさせている。あなたがたは確(たし)かに、あの人(ひと)の血(ち)の責任(せきにん)をわたしたちに負(お)わせようと、たくらんでいるのだ」。 29これに対(たい)して、ペテロをはじめ使徒(しと)たちは言(い)った、「人間(にんげん)に従(したが)うよりは、神(かみ)に従(したが)うべきである。 30わたしたちの先祖(せんぞ)の神(かみ)は、あなたがたが木(き)にかけて殺(ころ)したイエスをよみがえらせ、 31そして、イスラエルを悔(く)い改(あらた)めさせてこれに罪(つみ)のゆるしを与(あた)えるために、このイエスを導(みちび)き手(て)とし救主(すくいぬし)として、ご自身(じしん)の右(みぎ)に上(あ)げられたのである。 32わたしたちはこれらの事(こと)の証人(しょうにん)である。神(かみ)がご自身(じしん)に従(したが)う者(もの)に賜(たま)わった聖霊(せいれい)もまた、その証人(しょうにん)である」。

33これを聞(き)いた者(もの)たちは、激(はげ)しい怒(いか)りのあまり、使徒(しと)たちを殺(ころ)そうと思(おも)った。 34ところが、国民(こくみん)全体(ぜんたい)に尊敬(そんけい)されていた律法(りっぽう)学者(がくしゃ)ガマリエルというパリサイ人(びと)が、議会(ぎかい)で立(た)って、使徒(しと)たちをしばらくのあいだ外(そと)に出(だ)すように要求(ようきゅう)してから、 35一同(いちどう)にむかって言(い)った、「イスラエルの諸君(しょくん)、あの人(ひと)たちをどう扱(あつか)うか、よく気(き)をつけるがよい。 36先(さき)ごろ、チゥダが起(おこ)って、自分(じぶん)を何(なに)か偉(えら)い者(もの)のように言(い)いふらしたため、彼(かれ)に従(したが)った男(おとこ)の数(かず)が、四百人(にん)ほどもあったが、結局(けっきょく)、彼(かれ)は殺(ころ)されてしまい、従(したが)った者(もの)もみな四散(しさん)して、全(まった)く跡(あと)方(ほう)もなくなっている。 37そののち、人口(じんこう)調査(ちょうさ)の時(とき)に、ガリラヤ人(ひと)ユダが民衆(みんしゅう)を率(ひき)いて反乱(はんらん)を起(おこ)したが、この人(ひと)も滅(ほろ)び、従(したが)った者(もの)もみな散(ち)らされてしまった。 38そこで、この際(さい)、諸君(しょくん)に申(もう)し上(あ)げる。あの人(ひと)たちから手(て)を引(ひ)いて、そのなすままにしておきなさい。その企(くわだ)てや、しわざが、人間(にんげん)から出(で)たものなら、自滅(じめつ)するだろう。 39しかし、もし神(かみ)から出(で)たものなら、あの人(ひと)たちを滅(ほろ)ぼすことはできまい。まかり違(ちが)えば、諸君(しょくん)は神(かみ)を敵(てき)にまわすことになるかも知(し)れない」。そこで彼(かれ)らはその勧告(かんこく)にしたがい、 40使徒(しと)たちを呼(よ)び入(い)れて、むち打(う)ったのち、今後(こんご)イエスの名(な)によって語(かた)ることは相成(あいな)らぬと言(い)いわたして、ゆるしてやった。 41使徒(しと)たちは、御名(みな)のために恥(はじ)を加(くわ)えられるに足(た)る者(もの)とされたことを喜(よろこ)びながら、議会(ぎかい)から出(で)てきた。 42そして、毎日(まいにち)、宮(みや)や家(いえ)で、イエスがキリストであることを、引(ひ)きつづき教(おし)えたり宣(の)べ伝(つた)えたりした。

第六章

1そのころ、弟子(でし)の数(かず)がふえてくるにつれて、ギリシヤ語(ご)を使(つか)うユダヤ人(じん)たちから、ヘブル語(ご)を使(つか)うユダヤ人(じん)たちに対(たい)して、自分(じぶん)たちのやもめらが、日々(ひび)の配給(はいきゅう)で、おろそかにされがちだと、苦情(くじょう)を申(もう)し立(た)てた。 2そこで、十二使徒(しと)は弟子(でし)全体(ぜんたい)を呼(よ)び集(あつ)めて言(い)った、「わたしたちが神(かみ)の言(ことば)をさしおいて、食卓(しょくたく)のことに携(たずさ)わるのはおもしろくない。 3そこで、兄弟(きょうだい)たちよ、あなたがたの中(なか)から、御霊(みたま)と知恵(ちえ)とに満(み)ちた、評判(ひょうばん)のよい人(ひと)たち七人(にん)を捜(さが)し出(だ)してほしい。その人(ひと)たちにこの仕事(しごと)をまかせ、 4わたしたちは、もっぱら祈(いのり)と御言(みことば)のご用(よう)に当(あた)ることにしよう」。 5この提案(ていあん)は会衆(かいしゅう)一同(いちどう)の賛成(さんせい)するところとなった。そして信仰(しんこう)と聖霊(せいれい)とに満(み)ちた人(ひと)ステパノ、それからピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、およびアンテオケの改宗者(かいしゅうしゃ)ニコラオを選(えら)び出(だ)して、 6使徒(しと)たちの前(まえ)に立(た)たせた。すると、使徒(しと)たちは祈(いの)って手(て)を彼(かれ)らの上(うえ)においた。

7こうして神(かみ)の言(ことば)は、ますますひろまり、エルサレムにおける弟子(でし)の数(かず)が、非常(ひじょう)にふえていき、祭司(さいし)たちも多数(たすう)、信仰(しんこう)を受(う)けいれるようになった。

8さて、ステパノは恵(めぐ)みと力(ちから)とに満(み)ちて、民衆(みんしゅう)の中(なか)で、めざましい奇跡(きせき)としるしとを行(おこな)っていた。 9すると、いわゆる「リベルテン」の会堂(かいどう)に属(ぞく)する人々(ひとびと)、クレネ人(びと)、アレキサンドリヤ人(びと)、キリキヤやアジヤからきた人々(ひとびと)などが立(た)って、ステパノと議論(ぎろん)したが、 10彼(かれ)は知恵(ちえ)と御霊(みたま)とで語(かた)っていたので、それに対抗(たいこう)できなかった。 11そこで、彼(かれ)らは人々(ひとびと)をそそのかして、「わたしたちは、彼(かれ)がモーセと神(かみ)とを汚(けが)す言葉(ことば)を吐(は)くのを聞(き)いた」と言(い)わせた。 12その上(うえ)、民衆(みんしゅう)や長老(ちょうろう)たちや律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちを煽動(せんどう)し、彼(かれ)を襲(おそ)って捕(とら)えさせ、議会(ぎかい)にひっぱってこさせた。 13それから、偽(いつわ)りの証人(しょうにん)たちを立(た)てて言(い)わせた、「この人(ひと)は、この聖所(せいじょ)と律法(りっぽう)とに逆(さか)らう言葉(ことば)を吐(は)いて、どうしても、やめようとはしません。 14『あのナザレ人(びと)イエスは、この聖所(せいじょ)を打(う)ちこわし、モーセがわたしたちに伝(つた)えた慣例(かんれい)を変(か)えてしまうだろう』などと、彼(かれ)が言(い)うのを、わたしたちは聞(き)きました」。 15議会(ぎかい)で席(せき)についていた人(ひと)たちは皆(みな)、ステパノに目(め)を注(そそ)いだが、彼(かれ)の顔(かお)は、ちょうど天使(てんし)の顔(かお)のように見(み)えた。

第七章

1大祭司(だいさいし)は「そのとおりか」と尋(たず)ねた。 2そこで、ステパノが言(い)った、

「兄弟(きょうだい)たち、父(ちち)たちよ、お聞(き)き下(くだ)さい。わたしたちの父祖(ふそ)アブラハムが、カランに住(す)む前(まえ)、まだメソポタミヤにいたとき、栄光(えいこう)の神(かみ)が彼(かれ)に現(あらわ)れて 3仰(おお)せになった、『あなたの土地(とち)と親族(しんぞく)から離(はな)れて、あなたにさし示(しめ)す地(ち)に行(い)きなさい』。 4そこで、アブラハムはカルデヤ人(びと)の地(ち)を出(で)て、カランに住(す)んだ。そして、彼(かれ)の父(ちち)が死(し)んだのち、神(かみ)は彼(かれ)をそこから、今(いま)あなたがたの住(す)んでいるこの地(ち)に移住(いじゅう)させたが、 5そこでは、遺産(いさん)となるものは何(なに)一つ、一歩(いっぽ)の幅(はば)の土地(とち)すらも、与(あた)えられなかった。ただ、その地(ち)を所領(しょりょう)として授(さづ)けようとの約束(やくそく)を、彼(かれ)と、そして彼(かれ)にはまだ子(こ)がなかったのに、その子孫(しそん)とに与(あた)えられたのである。 6神(かみ)はこう仰(おお)せになった、『彼(かれ)の子孫(しそん)は他国(たこく)に身(み)を寄(よ)せるであろう。そして、そこで四百年(ねん)のあいだ、奴隷(どれい)にされて虐待(ぎゃくたい)を受(う)けるであろう』。 7それから、さらに仰(おお)せになった、『彼(かれ)らを奴隷(どれい)にする国民(こくみん)を、わたしはさばくであろう。その後(のち)、彼(かれ)らはそこからのがれ出(で)て、この場所(ばしょ)でわたしを礼拝(れいはい)するであろう』。 8そして、神(かみ)はアブラハムに、割礼(かつれい)の契約(けいやく)をお与(あた)えになった。こうして、彼(かれ)はイサクの父(ちち)となり、これに八日目(かめ)に割礼(かつれい)を施(ほどこ)し、それから、イサクはヤコブの父(ちち)となり、ヤコブは十二人(にん)の族長(ぞくちょう)たちの父(ちち)となった。

9族長(ぞくちょう)たちは、ヨセフをねたんで、エジプトに売(う)りとばした。しかし、神(かみ)は彼(かれ)と共(とも)にいまして、 10あらゆる苦難(くなん)から彼(かれ)を救(すく)い出(だ)し、エジプト王(おう)パロの前(まえ)で恵(めぐ)みを与(あた)え、知恵(ちえ)をあらわさせた。そこで、パロは彼(かれ)を宰相(さいしょう)の任(にん)につかせ、エジプトならびに王家(おうけ)全体(ぜんたい)の支配(しはい)に当(あた)らせた。 11時(とき)に、エジプトとカナンとの全土(ぜんど)にわたって、ききんが起(おこ)り、大(おお)きな苦難(くなん)が襲(おそ)ってきて、わたしたちの先祖(せんぞ)たちは、食物(しょくもつ)が得(え)られなくなった。 12ヤコブは、エジプトには食糧(しょくりょう)があると聞(き)いて、初(はじ)めに先祖(せんぞ)たちをつかわしたが、 13二回(かい)目(め)の時(とき)に、ヨセフが兄弟(きょうだい)たちに、自分(じぶん)の身(み)の上(うえ)を打(う)ち明(あ)けたので、彼(かれ)の親族(しんぞく)関係(かんけい)がパロに知(し)れてきた。 14ヨセフは使(つかい)をやって、父(ちち)ヤコブと七十五人(にん)にのぼる親族(しんぞく)一同(いちどう)とを招(まね)いた。 15こうして、ヤコブはエジプトに下(くだ)り、彼(かれ)自身(じしん)も先祖(せんぞ)たちもそこで死(し)に、 16それから彼(かれ)らは、シケムに移(うつ)されて、かねてアブラハムがいくらかの金(かね)を出(だ)してこの地(ち)のハモルの子(こ)らから買(か)っておいた墓(はか)に、葬(ほうむ)られた。

17神(かみ)がアブラハムに対(たい)して立(た)てられた約束(やくそく)の時期(じき)が近(ちか)づくにつれ、民(たみ)はふえてエジプト全土(ぜんど)にひろがった。 18やがて、ヨセフのことを知(し)らない別(べつ)な王(おう)が、エジプトに起(おこ)った。 19この王(おう)は、わたしたちの同族(どうぞく)に対(たい)し策略(さくりゃく)をめぐらして、先祖(せんぞ)たちを虐待(ぎゃくたい)し、その幼(おさ)な子(ご)らを生(い)かしておかないように捨(す)てさせた。 20モーセが生(うま)れたのは、ちょうどこのころのことである。彼(かれ)はまれに見(み)る美(うつく)しい子(こ)であった。三か月(げつ)の間(あいだ)は、父(ちち)の家(いえ)で育(そだ)てられたが、 21そののち捨(す)てられたのを、パロの娘(むすめ)が拾(ひろ)いあげて、自分(じぶん)の子(こ)として育(そだ)てた。 22モーセはエジプト人(じん)のあらゆる学問(がくもん)を教(おし)え込(こ)まれ、言葉(ことば)にもわざにも、力(ちから)があった。

23四十歳(さい)になった時(とき)、モーセは自分(じぶん)の兄弟(きょうだい)であるイスラエル人(びと)たちのために尽(つく)すことを、思(おも)い立(た)った。 24ところが、そのひとりがいじめられているのを見(み)て、これをかばい、虐待(ぎゃくたい)されているその人(ひと)のために、相手(あいて)のエジプト人(じん)を撃(う)って仕返(しかえ)しをした。 25彼(かれ)は、自分(じぶん)の手(て)によって神(かみ)が兄弟(きょうだい)たちを救(すく)って下(くだ)さることを、みんなが悟(さと)るものと思(おも)っていたが、実際(じっさい)はそれを悟(さと)らなかったのである。 26翌日(よくじつ)モーセは、彼(かれ)らが争(あらそ)い合(あ)っているところに現(あらわ)れ、仲裁(ちゅうさい)しようとして言(い)った、『まて、君(きみ)たちは兄弟(きょうだい)同志(どうし)ではないか。どうして互(たがい)に傷(きず)つけ合(あ)っているのか』。 27すると、仲間(なかま)をいじめていた者(もの)が、モーセを突(つ)き飛(と)ばして言(い)った、『だれが、君(きみ)をわれわれの支配者(しはいしゃ)や裁判人(さいばんにん)にしたのか。 28君(きみ)は、きのう、エジプト人(じん)を殺(ころ)したように、わたしも殺(ころ)そうと思(おも)っているのか』。 29モーセは、この言葉(ことば)を聞(き)いて逃(に)げ、ミデアンの地(ち)に身(み)を寄(よ)せ、そこで男(おとこ)の子(こ)ふたりをもうけた。

30四十年(ねん)たった時(とき)、シナイ山(ざん)の荒野(あらの)において、御使(みつかい)が柴(しば)の燃(も)える炎(ほのお)の中(なか)でモーセに現(あらわ)れた。 31彼(かれ)はこの光景(こうけい)を見(み)て不思議(ふしぎ)に思(おも)い、それを見(み)きわめるために近寄(ちかよ)ったところ、主(しゅ)の声(こえ)が聞(きこ)えてきた、 32『わたしは、あなたの先祖(せんぞ)たちの神(かみ)、アブラハム、イサク、ヤコブの神(かみ)である』。モーセは恐(おそ)れおののいて、もうそれを見(み)る勇気(ゆうき)もなくなった。 33すると、主(しゅ)が彼(かれ)に言(い)われた、『あなたの足(あし)から、くつを脱(ぬ)ぎなさい。あなたの立(た)っているこの場所(ばしょ)は、聖(せい)なる地(ち)である。 34わたしは、エジプトにいるわたしの民(たみ)が虐待(ぎゃくたい)されている有様(ありさま)を確(たし)かに見(み)とどけ、その苦悩(くのう)のうめき声(ごえ)を聞(き)いたので、彼(かれ)らを救(すく)い出(だ)すために下(くだ)ってきたのである。さあ、今(いま)あなたをエジプトにつかわそう』。

35こうして、『だれが、君(きみ)を支配者(しはいしゃ)や裁判人(さいばんにん)にしたのか』と言(い)って排斥(はいせき)されたこのモーセを、神(かみ)は、柴(しば)の中(なか)で彼(かれ)に現(あらわ)れた御使(みつかい)の手(て)によって、支配者(しはいしゃ)、解放者(かいほうしゃ)として、おつかわしになったのである。 36この人(ひと)が、人々(ひとびと)を導(みちび)き出(だ)して、エジプトの地(ち)においても、紅海(こうかい)においても、また四十年(ねん)のあいだ荒野(あらの)においても、奇跡(きせき)としるしとを行(おこな)ったのである。 37この人(ひと)が、イスラエル人(ひと)たちに、『神(かみ)はわたしをお立(た)てになったように、あなたがたの兄弟(きょうだい)たちの中(なか)から、ひとりの預言者(よげんしゃ)をお立(た)てになるであろう』と言(い)ったモーセである。 38この人(ひと)が、シナイ山(ざん)で、彼(かれ)に語(かた)りかけた御使(みつかい)や先祖(せんぞ)たちと共(とも)に、荒野(あらの)における集会(しゅうかい)にいて、生(い)ける御言葉(みことば)を授(さず)かり、それをあなたがたに伝(つた)えたのである。 39ところが、先祖(せんぞ)たちは彼(かれ)に従(したが)おうとはせず、かえって彼(かれ)を退(しりぞ)け、心(こころ)の中(なか)でエジプトにあこがれて、 40『わたしたちを導(みちび)いてくれる神々(かみがみ)を造(つく)って下(くだ)さい。わたしたちをエジプトの地(ち)から導(みちび)いてきたあのモーセがどうなったのか、わかりませんから』とアロンに言(い)った。 41そのころ、彼(かれ)らは子(こ)牛(うし)の像(ぞう)を造(つく)り、その偶像(ぐうぞう)に供(そな)え物(もの)をささげ、自分(じぶん)たちの手(て)で造(つく)ったものを祭(まつ)ってうち興じていた。 42そこで、神(かみ)は顔(かお)をそむけ、彼(かれ)らを天(てん)の星(ほし)を拝(おが)むままに任(まか)せられた。預言者(よげんしゃ)の書(しょ)にこう書(か)いてあるとおりである、
『イスラエルの家(いえ)よ、
四十年(ねん)のあいだ荒野(あらの)にいた時(とき)に、
いけにえと供(そな)え物(もの)とを、わたしにささげたことがあったか。
43あなたがたは、モロクの幕屋(まくや)やロンパの星(ほし)の神(かみ)を、かつぎ回(まわ)った。
それらは、拝(おが)むために自分(じぶん)で造(つく)った偶像(ぐうぞう)に過(す)ぎぬ。
だからわたしは、あなたがたをバビロンのかなたへ、移(うつ)してしまうであろう』。

44わたしたちの先祖(せんぞ)には、荒野(あらの)にあかしの幕屋(まくや)があった。それは、見(み)たままの型(かた)にしたがって造(つく)るようにと、モーセに語(かた)ったかたのご命令(めいれい)どおりに造(つく)ったものである。 45この幕屋(まくや)は、わたしたちの先祖(せんぞ)が、ヨシュアに率(ひき)いられ、神(かみ)によって諸(しょ)民族(みんぞく)を彼(かれ)らの前(まえ)から追(お)い払(はら)い、その所領(しょりょう)をのり取(と)ったときに、そこに持(も)ち込(こ)まれ、次々(つぎつぎ)に受(う)け継(つ)がれて、ダビデの時代(じだい)に及(およ)んだものである。 46ダビデは、神(かみ)の恵(めぐ)みをこうむり、そして、ヤコブの神(かみ)のために宮(みや)を造営(ぞうえい)したいと願(ねが)った。 47けれども、じっさいにその宮(みや)を建(た)てたのは、ソロモンであった。 48しかし、いと高(たか)き者(もの)は、手(て)で造(つく)った家(いえ)の内(うち)にはお住(す)みにならない。預言者(よげんしゃ)が言(い)っているとおりである、
49『主(しゅ)が仰(おお)せられる、
どんな家(いえ)をわたしのために建(た)てるのか。
わたしのいこいの場所(ばしょ)は、どれか。
天(てん)はわたしの王座(おうざ)、
地(ち)はわたしの足(あし)台(だい)である。

50これは皆(みな)わたしの手(て)が造(つく)ったものではないか』。 51ああ、強情(ごうじょう)で、心(こころ)にも耳(みみ)にも割礼(かつれい)のない人(ひと)たちよ。あなたがたは、いつも聖霊(せいれい)に逆(さか)らっている。それは、あなたがたの先祖(せんぞ)たちと同(おな)じである。 52いったい、あなたがたの先祖(せんぞ)が迫害(はくがい)しなかった預言者(よげんしゃ)が、ひとりでもいたか。彼(かれ)らは正(ただ)しいかたの来(く)ることを予告(よこく)した人(ひと)たちを殺(ころ)し、今(いま)やあなたがたは、その正(ただ)しいかたを裏切(うらぎ)る者(もの)、また殺(ころ)す者(もの)となった。 53あなたがたは、御使(みつかい)たちによって伝(つた)えられた律法(りっぽう)を受(う)けたのに、それを守(まも)ることをしなかった」。

54人々(ひとびと)はこれを聞(き)いて、心(こころ)の底(そこ)から激(はげ)しく怒(いか)り、ステパノにむかって、歯(は)ぎしりをした。 55しかし、彼(かれ)は聖霊(せいれい)に満(み)たされて、天(てん)を見(み)つめていると、神(かみ)の栄光(えいこう)が現(あらわ)れ、イエスが神(かみ)の右(みぎ)に立(た)っておられるのが見(み)えた。 56そこで、彼(かれ)は「ああ、天(てん)が開(ひら)けて、人(ひと)の子(こ)が神(かみ)の右(みぎ)に立(た)っておいでになるのが見(み)える」と言(い)った。 57人々(ひとびと)は大声(おおごえ)で叫(さけ)びながら、耳(みみ)をおおい、ステパノを目(め)がけて、いっせいに殺到(さっとう)し、 58彼(かれ)を市外(しがい)に引(ひ)き出(だ)して、石(いし)で打(う)った。これに立(た)ち合(あ)った人(ひと)たちは、自分(じぶん)の上着(うわぎ)を脱(ぬ)いで、サウロという若者(わかもの)の足(あし)もとに置(お)いた。 59こうして、彼(かれ)らがステパノに石(いし)を投(な)げつけている間(あいだ)、ステパノは祈(いの)りつづけて言(い)った、「主(しゅ)イエスよ、わたしの霊(れい)をお受(う)け下(くだ)さい」。 60そして、ひざまずいて、大声(おおごえ)で叫(さけ)んだ、「主(しゅ)よ、どうぞ、この罪(つみ)を彼(かれ)らに負(お)わせないで下(くだ)さい」。こう言(い)って、彼(かれ)は眠(ねむ)りについた。

第八章

1サウロは、ステパノを殺(ころ)すことに賛成(さんせい)していた。

その日(ひ)、エルサレムの教会(きょうかい)に対(たい)して大(おお)迫害(はくがい)が起(おこ)り、使徒(しと)以外(いがい)の者(もの)はことごとく、ユダヤとサマリヤとの地方(ちほう)に散(ち)らされて行(い)った。 2信仰(しんこう)深(ぶか)い人(ひと)たちはステパノを葬(ほうむ)り、彼(かれ)のために胸(むね)を打(う)って、非常(ひじょう)に悲(かな)しんだ。 3ところが、サウロは家々(いえいえ)に押(お)し入(い)って、男(おとこ)や女(おんな)を引(ひ)きずり出(だ)し、次々(つぎつぎ)に獄(ごく)に渡(わた)して、教会(きょうかい)を荒(あら)し回(まわ)った。

4さて、散(ち)らされて行(い)った人(ひと)たちは、御言(みことば)を宣(の)べ伝(つた)えながら、めぐり歩(ある)いた。 5ピリポはサマリヤの町(まち)に下(くだ)って行(い)き、人々(ひとびと)にキリストを宣(の)べはじめた。 6群衆(ぐんしゅう)はピリポの話(はなし)を聞(き)き、その行(おこな)っていたしるしを見(み)て、こぞって彼(かれ)の語(かた)ることに耳(みみ)を傾(かたむ)けた。 7汚(けが)れた霊(れい)につかれた多(おお)くの人々(ひとびと)からは、その霊(れい)が大声(おおごえ)でわめきながら出(で)て行(い)くし、また、多(おお)くの中風(ちゅうぶ)をわずらっている者(もの)や、足(あし)のきかない者(もの)がいやされたからである。 8それで、この町(まち)では人々(ひとびと)が、大変(たいへん)なよろこびかたであった。

9さて、この町(まち)に以前(いぜん)からシモンという人(ひと)がいた。彼(かれ)は魔術(まじゅつ)を行(おこな)ってサマリヤの人(ひと)たちを驚(おどろ)かし、自分(じぶん)をさも偉(えら)い者(もの)のように言(い)いふらしていた。 10それで、小(ちい)さい者(もの)から大(おお)きい者(もの)にいたるまで皆(みな)、彼(かれ)について行(い)き、「この人(ひと)こそは『大能(たいのう)』と呼(よ)ばれる神(かみ)の力(ちから)である」と言(い)っていた。 11彼(かれ)らがこの人(ひと)について行(い)ったのは、ながい間(あいだ)その魔術(まじゅつ)に驚(おどろ)かされていたためであった。 12ところが、ピリポが神(かみ)の国(くに)とイエス・キリストの名(な)について宣(の)べ伝(つた)えるに及(およ)んで、男(おとこ)も女(おんな)も信(しん)じて、ぞくぞくとバプテスマを受(う)けた。 13シモン自身(じしん)も信(しん)じて、バプテスマを受(う)け、それから、引(ひ)きつづきピリポについて行(い)った。そして、数々(かずかず)のしるしやめざましい奇跡(きせき)が行(おこな)われるのを見(み)て、驚(おどろ)いていた。

14エルサレムにいる使徒(しと)たちは、サマリヤの人々(ひとびと)が、神(かみ)の言(ことば)を受(う)け入(い)れたと聞(き)いて、ペテロとヨハネとを、そこにつかわした。 15ふたりはサマリヤに下(くだ)って行(い)って、みんなが聖霊(せいれい)を受(う)けるようにと、彼(かれ)らのために祈(いの)った。 16それは、彼(かれ)らはただ主(しゅ)イエスの名(な)によってバプテスマを受(う)けていただけで、聖霊(せいれい)はまだだれにも下(くだ)っていなかったからである。 17そこで、ふたりが手(て)を彼(かれ)らの上(うえ)においたところ、彼(かれ)らは聖霊(せいれい)を受(う)けた。 18シモンは、使徒(しと)たちが手(て)をおいたために、御霊(みたま)が人々(ひとびと)に授(さづ)けられたのを見(み)て、金(かね)をさし出(だ)し、 19「わたしが手(て)をおけばだれにでも聖霊(せいれい)が授(さづ)けられるように、その力(ちから)をわたしにも下(くだ)さい」と言(い)った。 20そこで、ペテロが彼(かれ)に言(い)った、「おまえの金(かね)は、おまえもろとも、うせてしまえ。神(かみ)の賜物(たまもの)が、金(かね)で得(え)られるなどと思(おも)っているのか。 21おまえの心(こころ)が神(かみ)の前(まえ)に正(ただ)しくないから、おまえは、とうてい、この事(こと)にあずかることができない。 22だから、この悪事(あくじ)を悔(く)いて、主(しゅ)に祈(いの)れ。そうすればあるいはそんな思(おも)いを心(こころ)にいだいたことが、ゆるされるかも知(し)れない。 23おまえには、まだ苦(にが)い胆汁(たんじゅう)があり、不義(ふぎ)のなわ目(め)がからみついている。それが、わたしにわかっている」。 24シモンはこれを聞(き)いて言(い)った、「仰(おお)せのような事(こと)が、わたしの身(み)に起(おこ)らないように、どうぞ、わたしのために主(しゅ)に祈(いの)って下(くだ)さい」。

25使徒(しと)たちは力強(ちからづよ)くあかしをなし、また主(しゅ)の言(ことば)を語(かた)った後(のち)、サマリヤ人(ひと)の多(おお)くの村々(むらむら)に福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)えて、エルサレムに帰(かえ)った。

26しかし、主(しゅ)の使(つかい)がピリポにむかって言(い)った、「立(た)って南方(なんぽう)に行(い)き、エルサレムからガザへ下(くだ)る道(みち)に出(で)なさい」(このガザは、今(いま)は荒(あ)れはてている)。 27そこで、彼(かれ)は立(た)って出(で)かけた。すると、ちょうど、エチオピヤ人(じん)の女王(じょおう)カンダケの高官(こうかん)で、女王(じょおう)の財宝(ざいほう)全部(ぜんぶ)を管理(かんり)していた宦官(かんがん)であるエチオピヤ人(じん)が、礼拝(れいはい)のためエルサレムに上(のぼ)り、 28その帰途(きと)についていたところであった。彼(かれ)は自分(じぶん)の馬車(ばしゃ)に乗(の)って、預言者(よげんしゃ)イザヤの書(しょ)を読(よ)んでいた。 29御霊(みたま)がピリポに「進(すす)み寄(よ)って、あの馬車(ばしゃ)に並(なら)んで行(い)きなさい」と言(い)った。 30そこでピリポが駆(か)けて行(い)くと、預言者(よげんしゃ)イザヤの書(しょ)を読(よ)んでいるその人(ひと)の声(こえ)が聞(きこ)えたので、「あなたは、読(よ)んでいることが、おわかりですか」と尋(たず)ねた。 31彼(かれ)は「だれかが、手(て)びきをしてくれなければ、どうしてわかりましょう」と答(こた)えた。そして、馬車(ばしゃ)に乗(の)って一緒(いっしょ)にすわるようにと、ピリポにすすめた。 32彼(かれ)が読(よ)んでいた聖書(せいしょ)の箇所(かしょ)は、これであった、
「彼(かれ)は、ほふり場(ば)に引(ひ)かれて行(い)く羊(ひつじ)のように、
また、黙々(もくもく)として、
毛(け)を刈(か)る者(もの)の前(まえ)に立(た)つ小羊(こひつじ)のように、
口(くち)を開(ひら)かない。
33彼(かれ)は、いやしめられて、
そのさばきも行(おこな)われなかった。
だれが、彼(かれ)の子孫(しそん)のことを語(かた)ることができようか、
彼(かれ)の命(いのち)が地上(ちじょう)から取(と)り去(さ)られているからには」。
34宦官(かんがん)はピリポにむかって言(い)った、「お尋(たず)ねしますが、ここで預言者(よげんしゃ)はだれのことを言(い)っているのですか。自分(じぶん)のことですか、それとも、だれかほかの人(ひと)のことですか」。 35そこでピリポは口(くち)を開(ひら)き、この聖(せい)句(く)から説(と)き起(おこ)して、イエスのことを宣(の)べ伝(つた)えた。 36道(みち)を進(すす)んで行(い)くうちに、水(みず)のある所(ところ)にきたので、宦官(かんがん)が言(い)った、「ここに水(みず)があります。わたしがバプテスマを受(う)けるのに、なんのさしつかえがありますか」。〔 37これに対(たい)して、ピリポは、「あなたがまごころから信(しん)じるなら、受(う)けてさしつかえはありません」と言(い)った。すると、彼(かれ)は「わたしは、イエス・キリストを神(かみ)の子(こ)と信(しん)じます」と答(こた)えた。〕 38そこで車(くるま)をとめさせ、ピリポと宦官(かんがん)と、ふたりとも、水(みず)の中(なか)に降(お)りて行(い)き、ピリポが宦官(かんがん)にバプテスマを授(さづ)けた。 39ふたりが水(みず)から上(あ)がると、主(しゅ)の霊(れい)がピリポをさらって行(い)ったので、宦官(かんがん)はもう彼(かれ)を見(み)ることができなかった。宦官(かんがん)はよろこびながら旅(たび)をつづけた。 40その後(のち)、ピリポはアゾトに姿(すがた)をあらわして、町々(まちまち)をめぐり歩(ある)き、いたるところで福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)えて、ついにカイザリヤに着(つ)いた。

第九章

1さてサウロは、なおも主(しゅ)の弟子(でし)たちに対(たい)する脅迫(きょうはく)、殺害(さつがい)の息(いき)をはずませながら、大祭司(だいさいし)のところに行(い)って、 2ダマスコの諸(しょ)会堂(かいどう)あての添書(てんしょ)を求(もと)めた。それは、この道(みち)の者(もの)を見(み)つけ次第(しだい)、男女(だんじょ)の別(べつ)なく縛(しば)りあげて、エルサレムにひっぱって来(く)るためであった。 3ところが、道(みち)を急(いそ)いでダマスコの近(ちか)くにきたとき、突然(とつぜん)、天(てん)から光(ひかり)がさして、彼(かれ)をめぐり照(てら)した。 4彼(かれ)は地(ち)に倒(たお)れたが、その時(とき)「サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか」と呼(よ)びかける声(こえ)を聞(き)いた。 5そこで彼(かれ)は「主(しゅ)よ、あなたは、どなたですか」と尋(たず)ねた。すると答(こたえ)があった、「わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているイエスである。 6さあ立(た)って、町(まち)にはいって行(い)きなさい。そうすれば、そこであなたのなすべき事(こと)が告(つ)げられるであろう」。 7サウロの同行者(どうこうしゃ)たちは物(もの)も言(い)えずに立(た)っていて、声(こえ)だけは聞(きこ)えたが、だれも見(み)えなかった。 8サウロは地(ち)から起(お)き上(あ)がって目(め)を開(ひら)いてみたが、何(なに)も見(み)えなかった。そこで人々(ひとびと)は、彼(かれ)の手(て)を引(ひ)いてダマスコへ連(つ)れて行(い)った。 9彼(かれ)は三日間(かかん)、目(め)が見(み)えず、また食(た)べることも飲(の)むこともしなかった。

10さて、ダマスコにアナニヤというひとりの弟子(でし)がいた。この人(ひと)に主(しゅ)が幻(まぼろし)の中(なか)に現(あらわ)れて、「アナニヤよ」とお呼(よ)びになった。彼(かれ)は「主(しゅ)よ、わたしでございます」と答(こた)えた。 11そこで主(しゅ)が彼(かれ)に言(い)われた、「立(た)って、『真(ま)すぐ』という名(な)の路地(ろじ)に行(い)き、ユダの家(いえ)でサウロというタルソ人(びと)を尋(たず)ねなさい。彼(かれ)はいま祈(いの)っている。 12彼(かれ)はアナニヤという人(ひと)がはいってきて、手(て)を自分(じぶん)の上(うえ)において再(ふたた)び見(み)えるようにしてくれるのを、幻(まぼろし)で見(み)たのである」。 13アナニヤは答(こた)えた、「主(しゅ)よ、あの人(ひと)がエルサレムで、どんなにひどい事(こと)をあなたの聖徒(せいと)たちにしたかについては、多(おお)くの人(ひと)たちから聞(き)いています。 14そして彼(かれ)はここでも、御名(みな)をとなえる者(もの)たちをみな捕縛(ほばく)する権(けん)を、祭司長(さいしちょう)たちから得(え)てきているのです」。 15しかし、主(しゅ)は仰(おお)せになった、「さあ、行(い)きなさい。あの人(ひと)は、異邦人(いほうじん)たち、王(おう)たち、またイスラエルの子(こ)らにも、わたしの名(な)を伝(つた)える器(うつわ)として、わたしが選(えら)んだ者(もの)である。 16わたしの名(な)のために彼(かれ)がどんなに苦(くる)しまなければならないかを、彼(かれ)に知(し)らせよう」。 17そこでアナニヤは、出(で)かけて行(い)ってその家(いえ)にはいり、手(て)をサウロの上(うえ)において言(い)った、「兄弟(きょうだい)サウロよ、あなたが来(く)る途中(とちゅう)で現(あらわ)れた主(しゅ)イエスは、あなたが再(ふたた)び見(み)えるようになるため、そして聖霊(せいれい)に満(み)たされるために、わたしをここにおつかわしになったのです」。 18するとたちどころに、サウロの目(め)から、うろこのようなものが落(お)ちて、元(もと)どおり見(み)えるようになった。そこで彼(かれ)は立(た)ってバプテスマを受(う)け、 19また食事(しょくじ)をとって元気(げんき)を取(と)りもどした。

サウロは、ダマスコにいる弟子(でし)たちと共(とも)に数日間(すうじつかん)を過(す)ごしてから、 20ただちに諸(しょ)会堂(かいどう)でイエスのことを宣(の)べ伝(つた)え、このイエスこそ神(かみ)の子(こ)であると説(と)きはじめた。 21これを聞(き)いた人(ひと)たちはみな非常(ひじょう)に驚(おどろ)いて言(い)った、「あれは、エルサレムでこの名(な)をとなえる者(もの)たちを苦(くる)しめた男(おとこ)ではないか。その上(うえ)ここにやってきたのも、彼(かれ)らを縛(しば)りあげて、祭司長(さいしちょう)たちのところへひっぱって行(い)くためではなかったか」。 22しかし、サウロはますます力(ちから)が加(くわ)わり、このイエスがキリストであることを論証(ろんしょう)して、ダマスコに住(す)むユダヤ人(じん)たちを言(い)い伏(ふ)せた。

23相当(そうとう)の日数(にっすう)がたったころ、ユダヤ人(じん)たちはサウロを殺(ころ)す相談(そうだん)をした。 24ところが、その陰謀(いんぼう)が彼(かれ)の知(し)るところとなった。彼(かれ)らはサウロを殺(ころ)そうとして、夜昼(よるひる)、町(まち)の門(もん)を見守(みまも)っていたのである。 25そこで彼(かれ)の弟子(でし)たちが、夜(よる)の間(あいだ)に彼(かれ)をかごに乗(の)せて、町(まち)の城壁(じょうへき)づたいにつりおろした。

26サウロはエルサレムに着(つ)いて、弟子(でし)たちの仲間(なかま)に加(くわ)わろうと努(つと)めたが、みんなの者(もの)は彼(かれ)を弟子(でし)だとは信(しん)じないで、恐(おそ)れていた。 27ところが、バルナバは彼(かれ)の世話(せわ)をして使徒(しと)たちのところへ連(つ)れて行(い)き、途中(とちゅう)で主(しゅ)が彼(かれ)に現(あらわ)れて語(かた)りかけたことや、彼(かれ)がダマスコでイエスの名(な)で大胆(だいたん)に宣(の)べ伝(つた)えた次第(しだい)を、彼(かれ)らに説明(せつめい)して聞(き)かせた。 28それ以来(いらい)、彼(かれ)は使徒(しと)たちの仲間(なかま)に加(くわ)わり、エルサレムに出入(でい)りし、主(しゅ)の名(な)によって大胆(だいたん)に語(かた)り、 29ギリシヤ語(ご)を使(つか)うユダヤ人(じん)たちとしばしば語(かた)り合(あ)い、また論(ろん)じ合(あ)った。しかし、彼(かれ)らは彼(かれ)を殺(ころ)そうとねらっていた。 30兄弟(きょうだい)たちはそれと知(し)って、彼(かれ)をカイザリヤに連(つ)れてくだり、タルソへ送(おく)り出(だ)した。

31こうして教会(きょうかい)は、ユダヤ、ガリラヤ、サマリヤ全(ぜん)地方(ちほう)にわたって平安(へいあん)を保(たも)ち、基礎(きそ)がかたまり、主(しゅ)をおそれ聖霊(せいれい)にはげまされて歩(あゆ)み、次第(しだい)に信徒(しんと)の数(かず)を増(ま)して行(い)った。

32ペテロは方々(ほうぼう)をめぐり歩(ある)いたが、ルダに住(す)む聖徒(せいと)たちのところへも下(くだ)って行(い)った。 33そして、そこで、八年間(ねんかん)も床(とこ)についているアイネヤという人(ひと)に会(あ)った。この人(ひと)は中風(ちゅうぶ)であった。 34ペテロが彼(かれ)に言(い)った、「アイネヤよ、イエス・キリストがあなたをいやして下(くだ)さるのだ。起(お)きなさい。そして床(とこ)を取(と)りあげなさい」。すると、彼(かれ)はただちに起(お)きあがった。 35ルダとサロンに住(す)む人(ひと)たちは、みなそれを見(み)て、主(しゅ)に帰依(きえ)した。

36ヨッパにタビタ(これを訳(やく)すと、ドルカス、すなわち、かもしか)という女(おんな)弟子(でし)がいた。数々(かずかず)のよい働(はたら)きや施(ほどこ)しをしていた婦人(ふじん)であった。 37ところが、そのころ病気(びょうき)になって死(し)んだので、人々(ひとびと)はそのからだを洗(あら)って、屋上(おくじょう)の間(ま)に安置(あんち)した。 38ルダはヨッパに近(ちか)かったので、弟子(でし)たちはペテロがルダにきていると聞(き)き、ふたりの者(もの)を彼(かれ)のもとにやって、「どうぞ、早(はや)くこちらにおいで下(くだ)さい」と頼(たの)んだ。 39そこでペテロは立(た)って、ふたりの者(もの)に連(つ)れられてきた。彼(かれ)が着(つ)くとすぐ、屋上(おくじょう)の間(ま)に案内(あんない)された。すると、やもめたちがみんな彼(かれ)のそばに寄(よ)ってきて、ドルカスが生前(せいぜん)つくった下着(したぎ)や上着(うわぎ)の数々(かずかず)を、泣(な)きながら見(み)せるのであった。 40ペテロはみんなの者(もの)を外(そと)に出(だ)し、ひざまずいて祈(いの)った。それから死体(したい)の方(ほう)に向(む)いて、「タビタよ、起(お)きなさい」と言(い)った。すると彼女(かのじょ)は目(め)をあけ、ペテロを見(み)て起(お)きなおった。 41ペテロは彼女(かのじょ)に手(て)をかして立(た)たせた。それから、聖徒(せいと)たちや、やもめたちを呼(よ)び入(い)れて、彼女(かのじょ)が生(い)きかえっているのを見(み)せた。 42このことがヨッパ中(ちゅう)に知(し)れわたり、多(おお)くの人々(ひとびと)が主(しゅ)を信(しん)じた。 43ペテロは、皮(かわ)なめしシモンという人(ひと)の家(いえ)に泊(と)まり、しばらくの間(あいだ)ヨッパに滞在(たいざい)した。

第一〇章

1さて、カイザリヤにコルネリオという名(な)の人(ひと)がいた。イタリヤ隊(たい)と呼(よ)ばれた部隊(ぶたい)の百卒長(ひゃくそつちょう)で、 2信心(しんじん)深(ぶか)く、家族(かぞく)一同(いちどう)と共(とも)に神(かみ)を敬(うやま)い、民(たみ)に数々(かずかず)の施(ほどこ)しをなし、絶(た)えず神(かみ)に祈(いのり)をしていた。 3ある日(ひ)の午後(ごご)三時(じ)ごろ、神(かみ)の使(つかい)が彼(かれ)のところにきて、「コルネリオよ」と呼(よ)ぶのを、幻(まぼろし)ではっきり見(み)た。 4彼(かれ)は御使(みつかい)を見(み)つめていたが、恐(おそ)ろしくなって、「主(しゅ)よ、なんでございますか」と言(い)った。すると御使(みつかい)が言(い)った、「あなたの祈(いのり)や施(ほどこ)しは神(かみ)のみ前(まえ)にとどいて、おぼえられている。 5ついては今(いま)、ヨッパに人(ひと)をやって、ペテロと呼(よ)ばれるシモンという人(ひと)を招(まね)きなさい。 6この人(ひと)は、海(うみ)べに家(いえ)をもつ皮(かわ)なめしシモンという者(もの)の客(きゃく)となっている」。 7このお告(つ)げをした御使(みつかい)が立(た)ち去(さ)ったのち、コルネリオは、僕(しもべ)ふたりと、部下(ぶか)の中(なか)で信心(しんじん)深(ぶか)い兵卒(へいそつ)ひとりとを呼(よ)び、 8いっさいの事(こと)を説明(せつめい)して聞(き)かせ、ヨッパへ送(おく)り出(だ)した。

9翌日(よくじつ)、この三人(にん)が旅(たび)をつづけて町(まち)の近(ちか)くにきたころ、ペテロは祈(いのり)をするため屋上(おくじょう)にのぼった。時(とき)は昼(ひる)の十二時(じ)ごろであった。 10彼(かれ)は空腹(くうふく)をおぼえて、何(なに)か食(た)べたいと思(おも)った。そして、人々(ひとびと)が食事(しょくじ)の用意(ようい)をしている間(あいだ)に、夢心地(ゆめごこち)になった。 11すると、天(てん)が開(ひら)け、大(おお)きな布(ぬの)のような入(い)れ物(もの)が、四(よ)すみをつるされて、地上(ちじょう)に降(お)りて来(く)るのを見(み)た。 12その中(なか)には、地上(ちじょう)の四つ足(あし)や這(は)うもの、また空(そら)の鳥(とり)など、各種(かくしゅ)の生(い)きものがはいっていた。 13そして声(こえ)が彼(かれ)に聞(きこ)えてきた、「ペテロよ。立(た)って、それらをほふって食(た)べなさい」。 14ペテロは言(い)った、「主(しゅ)よ、それはできません。わたしは今(いま)までに、清(きよ)くないもの、汚(けが)れたものは、何一(なにひと)つ食(た)べたことがありません」。 15すると、声(こえ)が二度目(どめ)にかかってきた、「神(かみ)がきよめたものを、清(きよ)くないなどと言(い)ってはならない」。 16こんなことが三度(ど)もあってから、その入(い)れ物(もの)はすぐ天(てん)に引(ひ)き上(あ)げられた。

17ペテロが、いま見(み)た幻(まぼろし)はなんの事(こと)だろうかと、ひとり思案(しあん)にくれていると、ちょうどその時(とき)、コルネリオから送(おく)られた人(ひと)たちが、シモンの家(いえ)を尋(たず)ね当(あ)てて、その門口(かどぐち)に立(た)っていた。 18そして声(こえ)をかけて、「ペテロと呼(よ)ばれるシモンというかたが、こちらにお泊(と)まりではございませんか」と尋(たず)ねた。 19ペテロはなおも幻(まぼろし)について、思(おも)いめぐらしていると、御霊(みたま)が言(い)った、「ごらんなさい、三人(にん)の人(ひと)たちが、あなたを尋(たず)ねてきている。 20さあ、立(た)って下(した)に降(お)り、ためらわないで、彼(かれ)らと一緒(いっしょ)に出(で)かけるがよい。わたしが彼(かれ)らをよこしたのである」。 21そこでペテロは、その人(ひと)たちのところに降(お)りて行(い)って言(い)った、「わたしがお尋(たず)ねのペテロです。どんなご用(よう)でおいでになったのですか」。 22彼(かれ)らは答(こた)えた、「正(ただ)しい人(ひと)で、神(かみ)を敬(うやま)い、ユダヤの全国民(ぜんこくみん)に好感(こうかん)を持(も)たれている百卒長(ひゃくそつちょう)コルネリオが、あなたを家(いえ)に招(まね)いてお話(はなし)を伺(うかが)うようにとのお告(つ)げを、聖(せい)なる御使(みつかい)から受(う)けましたので、参(まい)りました」。 23そこで、ペテロは、彼(かれ)らを迎(むか)えて泊(と)まらせた。

翌日(よくじつ)、ペテロは立(た)って、彼(かれ)らと連(つ)れだって出(で)発(はっ)した。ヨッパの兄弟(きょうだい)たち数人(すうにん)も一緒(いっしょ)に行(い)った。 24その次(つぎ)の日(ひ)に、一行(いっこう)はカイザリヤに着(つ)いた。コルネリオは親族(しんぞく)や親(した)しい友人(ゆうじん)たちを呼(よ)び集(あつ)めて、待(ま)っていた。 25ペテロがいよいよ到着(とうちゃく)すると、コルネリオは出迎(でむか)えて、彼(かれ)の足(あし)もとにひれ伏(ふ)して拝(はい)した。 26するとペテロは、彼(かれ)を引(ひ)き起(おこ)して言(い)った、「お立(た)ちなさい。わたしも同(おな)じ人間(にんげん)です」。 27それから共(とも)に話(はな)しながら、へやにはいって行(い)くと、そこには、すでに大(おお)ぜいの人(ひと)が集(あつ)まっていた。 28ペテロは彼(かれ)らに言(い)った、「あなたがたが知(し)っているとおり、ユダヤ人(じん)が他国(たこく)の人(ひと)と交際(こうさい)したり、出入(でい)りしたりすることは、禁(きん)じられています。ところが、神(かみ)は、どんな人間(にんげん)をも清(きよ)くないとか、汚(けが)れているとか言(い)ってはならないと、わたしにお示(しめ)しになりました。 29お招(まね)きにあずかった時(とき)、少(すこ)しもためらわずに参(まい)ったのは、そのためなのです。そこで伺(うかが)いますが、どういうわけで、わたしを招(まね)いてくださったのですか」。 30これに対(たい)してコルネリオが答(こた)えた、「四日(か)前(まえ)、ちょうどこの時刻(じこく)に、わたしが自宅(じたく)で午後(ごご)三時(じ)の祈(いのり)をしていますと、突然(とつぜん)、輝(かがや)いた衣(ころも)を着(き)た人(ひと)が、前(まえ)に立(た)って申(もう)しました、 31『コルネリオよ、あなたの祈(いのり)は聞(き)きいれられ、あなたの施(ほどこ)しは神(かみ)のみ前(まえ)におぼえられている。 32そこでヨッパに人(ひと)を送(おく)ってペテロと呼(よ)ばれるシモンを招(まね)きなさい。その人(ひと)は皮(かわ)なめしシモンの海沿(うみぞ)いの家(いえ)に泊(と)まっている』。 33それで、早速(さっそく)あなたをお呼(よ)びしたのです。ようこそおいで下(くだ)さいました。今(いま)わたしたちは、主(しゅ)があなたにお告(つ)げになったことを残(のこ)らず伺(うかが)おうとして、みな神(かみ)のみ前(まえ)にまかり出(で)ているのです」。

34そこでペテロは口(くち)を開(ひら)いて言(い)った、「神(かみ)は人(ひと)をかたよりみないかたで、 35神(かみ)を敬(うやま)い義(ぎ)を行(おこな)う者(もの)はどの国民(こくみん)でも受(う)けいれて下(くだ)さることが、ほんとうによくわかってきました。 36あなたがたは、神(かみ)がすべての者(もの)の主(しゅ)なるイエス・キリストによって平和(へいわ)の福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)えて、イスラエルの子(こ)らにお送(おく)り下(くだ)さった御言(みことば)をご存(ぞん)じでしょう。 37それは、ヨハネがバプテスマを説(と)いた後(のち)、ガリラヤから始(はじ)まってユダヤ全土(ぜんど)にひろまった福音(ふくいん)を述(の)べたものです。 38神(かみ)はナザレのイエスに聖霊(せいれい)と力(ちから)とを注(そそ)がれました。このイエスは、神(かみ)が共(とも)におられるので、よい働(はたら)きをしながら、また悪魔(あくま)に押(おさ)えつけられている人々(ひとびと)をことごとくいやしながら、巡回(じゅんかい)されました。 39わたしたちは、イエスがこうしてユダヤ人(じん)の地(ち)やエルサレムでなさったすべてのことの証人(しょうにん)であります。人々(ひとびと)はこのイエスを木(き)にかけて殺(ころ)したのです。 40しかし神(かみ)はイエスを三日(か)目(め)によみがえらせ、 41全部(ぜんぶ)の人々(ひとびと)にではなかったが、わたしたち証人(しょうにん)としてあらかじめ選(えら)ばれた者(もの)たちに現(あらわ)れるようにして下(くだ)さいました。わたしたちは、イエスが死人(しにん)の中(なか)から復活(ふっかつ)された後(のち)、共(とも)に飲食(いんしょく)しました。 42それから、イエスご自身(じしん)が生者(せいじゃ)と死者(ししゃ)との審判者(しんぱんしゃ)として神(かみ)に定(さだ)められたかたであることを、人々(ひとびと)に宣(の)べ伝(つた)え、またあかしするようにと、神(かみ)はわたしたちにお命(めい)じになったのです。 43預言者(よげんしゃ)たちもみな、イエスを信(しん)じる者(もの)はことごとく、その名(な)によって罪(つみ)のゆるしが受(う)けられると、あかしをしています」。

44ペテロがこれらの言葉(ことば)をまだ語(かた)り終(お)えないうちに、それを聞(き)いていたみんなの人(ひと)たちに、聖霊(せいれい)がくだった。 45割礼(かつれい)を受(う)けている信者(しんじゃ)で、ペテロについてきた人(ひと)たちは、異邦人(いほうじん)たちにも聖霊(せいれい)の賜物(たまもの)が注(そそ)がれたのを見(み)て、驚(おどろ)いた。 46それは、彼(かれ)らが異言(いげん)を語(かた)って神(かみ)をさんびしているのを聞(き)いたからである。そこで、ペテロが言(い)い出(だ)した、 47「この人(ひと)たちがわたしたちと同(おな)じように聖霊(せいれい)を受(う)けたからには、彼(かれ)らに水(みず)でバプテスマを授(さづ)けるのを、だれがこばみ得(え)ようか」。 48こう言(い)って、ペテロはその人々(ひとびと)に命(めい)じて、イエス・キリストの名(な)によってバプテスマを受(う)けさせた。それから、彼(かれ)らはペテロに願(ねが)って、なお数日(すうじつ)のあいだ滞在(たいざい)してもらった。

第一一章

1さて、異邦人(いほうじん)たちも神(かみ)の言(ことば)を受(う)けいれたということが、使徒(しと)たちやユダヤにいる兄弟(きょうだい)たちに聞(きこ)えてきた。 2そこでペテロがエルサレムに上(のぼ)ったとき、割礼(かつれい)を重(おも)んじる者(もの)たちが彼(かれ)をとがめて言(い)った、 3「あなたは、割礼(かつれい)のない人(ひと)たちのところに行(い)って、食事(しょくじ)を共(とも)にしたということだが」。 4そこでペテロは口(くち)を開(ひら)いて、順序(じゅんじょ)正(ただ)しく説明(せつめい)して言(い)った、 5「わたしがヨッパの町(まち)で祈(いの)っていると、夢心地(ゆめごこち)になって幻(まぼろし)を見(み)た。大(おお)きな布(ぬの)のような入(い)れ物(もの)が、四(よ)すみをつるされて、天(てん)から降(お)りてきて、わたしのところにとどいた。 6注意(ちゅうい)して見(み)つめていると、地上(ちじょう)の四つ足(あし)、野(の)の獣(けもの)、這(は)うもの、空(そら)の鳥(とり)などが、はいっていた。 7それから声(こえ)がして、『ペテロよ、立(た)って、それらをほふって食(た)べなさい』と、わたしに言(い)うのが聞(きこ)えた。 8わたしは言(い)った、『主(しゅ)よ、それはできません。わたしは今(いま)までに、清(きよ)くないものや汚(けが)れたものを口(くち)に入(い)れたことが一度(いちど)もございません』。 9すると、二度目(どめ)に天(てん)から声(こえ)がかかってきた、『神(かみ)がきよめたものを、清(きよ)くないなどと言(い)ってはならない』。 10こんなことが三度(ど)もあってから、全部(ぜんぶ)のものがまた天(てん)に引(ひ)き上(あ)げられてしまった。 11ちょうどその時(とき)、カイザリヤからつかわされてきた三人(にん)の人(ひと)が、わたしたちの泊(と)まっていた家(いえ)に着(つ)いた。 12御霊(みたま)がわたしに、ためらわずに彼(かれ)らと共(とも)に行(い)けと言(い)ったので、ここにいる六人(にん)の兄弟(きょうだい)たちも、わたしと一緒(いっしょ)に出(で)かけて行(い)き、一同(いちどう)がその人(ひと)の家(いえ)にはいった。 13すると彼(かれ)はわたしたちに、御使(みつかい)が彼(かれ)の家(いえ)に現(あらわ)れて、『ヨッパに人(ひと)をやって、ペテロと呼(よ)ばれるシモンを招(まね)きなさい。 14この人(ひと)は、あなたとあなたの全(ぜん)家族(かぞく)とが救(すく)われる言葉(ことば)を語(かた)って下(くだ)さるであろう』と告(つ)げた次第(しだい)を、話(はな)してくれた。 15そこでわたしが語(かた)り出(だ)したところ、聖霊(せいれい)が、ちょうど最初(さいしょ)わたしたちの上(うえ)にくだったと同(おな)じように、彼(かれ)らの上(うえ)にくだった。 16その時(とき)わたしは、主(しゅ)が『ヨハネは水(みず)でバプテスマを授(さづ)けたが、あなたがたは聖霊(せいれい)によってバプテスマを受(う)けるであろう』と仰(おお)せになった言葉(ことば)を思(おも)い出(だ)した。 17このように、わたしたちが主(しゅ)イエス・キリストを信(しん)じた時(とき)に下(くだ)さったのと同(おな)じ賜物(たまもの)を、神(かみ)が彼(かれ)らにもお与(あた)えになったとすれば、わたしのような者(もの)が、どうして神(かみ)を妨(さまた)げることができようか」。 18人々(ひとびと)はこれを聞(き)いて黙(だま)ってしまった。それから神(かみ)をさんびして、「それでは神(かみ)は、異邦人(いほうじん)にも命(いのち)にいたる悔改(くいあらた)めをお与(あた)えになったのだ」と言(い)った。

19さて、ステパノのことで起(おこ)った迫害(はくがい)のために散(ち)らされた人々(ひとびと)は、ピニケ、クプロ、アンテオケまでも進(すす)んで行(い)ったが、ユダヤ人(じん)以外(いがい)の者(もの)には、だれにも御言(みことば)を語(かた)っていなかった。 20ところが、その中(なか)に数人(すうにん)のクプロ人(びと)とクレネ人(びと)がいて、アンテオケに行(い)ってからギリシヤ人(じん)にも呼(よ)びかけ、主(しゅ)イエスを宣(の)べ伝(つた)えていた。 21そして、主(しゅ)のみ手(て)が彼(かれ)らと共(とも)にあったため、信(しん)じて主(しゅ)に帰依(きえ)するものの数(かず)が多(おお)かった。

22このうわさがエルサレムにある教会(きょうかい)に伝(つた)わってきたので、教会(きょうかい)はバルナバをアンテオケにつかわした。 23彼(かれ)は、そこに着(つ)いて、神(かみ)のめぐみを見(み)てよろこび、主(しゅ)に対(たい)する信仰(しんこう)を揺(ゆ)るがない心(こころ)で持(も)ちつづけるようにと、みんなの者(もの)を励(はげ)ました。 24彼(かれ)は聖霊(せいれい)と信仰(しんこう)とに満(み)ちた立派(りっぱ)な人(ひと)であったからである。こうして主(しゅ)に加(くわ)わる人々(ひとびと)が、大(おお)ぜいになった。 25そこでバルナバはサウロを捜(さが)しにタルソへ出(で)かけて行(い)き、 26彼(かれ)を見(み)つけたうえ、アンテオケに連(つ)れて帰(かえ)った。ふたりは、まる一年(ねん)、ともどもに教会(きょうかい)で集(あつ)まりをし、大(おお)ぜいの人々(ひとびと)を教(おし)えた。このアンテオケで初(はじ)めて、弟子(でし)たちがクリスチャンと呼(よ)ばれるようになった。

27そのころ、預言者(よげんしゃ)たちがエルサレムからアンテオケにくだってきた。 28その中(なか)のひとりであるアガボという者(もの)が立(た)って、世界中(せかいじゅう)に大(だい)ききんが起(おこ)るだろうと、御霊(みたま)によって預言(よげん)したところ、果(はた)してそれがクラウデオ帝(てい)の時(とき)に起(おこ)った。 29そこで弟子(でし)たちは、それぞれの力(ちから)に応(おう)じて、ユダヤに住(す)んでいる兄弟(きょうだい)たちに援助(えんじょ)を送(おく)ることに決(き)めた。 30そして、それをバルナバとサウロとの手(て)に託(たく)して、長老(ちょうろう)たちに送(おく)りとどけた。

第一二章

1そのころ、ヘロデ王(おう)は教会(きょうかい)のある者(もの)たちに圧迫(あっぱく)の手(て)をのばし、 2ヨハネの兄弟(きょうだい)ヤコブをつるぎで切(き)り殺(ころ)した。 3そして、それがユダヤ人(じん)たちの意(い)にかなったのを見(み)て、さらにペテロをも捕(とら)えにかかった。それは除酵祭(じょこうさい)の時(とき)のことであった。 4ヘロデはペテロを捕(とら)えて獄(ごく)に投(とう)じ、四人(にん)一組(くみ)の兵卒(へいそつ)四組(くみ)に引(ひ)き渡(わた)して、見張(みは)りをさせておいた。過越(すぎこし)の祭(まつり)のあとで、彼(かれ)を民衆(みんしゅう)の前(まえ)に引(ひ)き出(だ)すつもりであったのである。 5こうして、ペテロは獄(ごく)に入(い)れられていた。教会(きょうかい)では、彼(かれ)のために熱心(ねっしん)な祈(いのり)が神(かみ)にささげられた。

6ヘロデが彼(かれ)を引(ひ)き出(だ)そうとしていたその夜(よる)、ペテロは二重(にじゅう)の鎖(くさり)につながれ、ふたりの兵卒(へいそつ)の間(あいだ)に置(お)かれて眠(ねむ)っていた。番兵(ばんぺい)たちは戸口(とぐち)で獄(ごく)を見張(みは)っていた。 7すると、突然(とつぜん)、主(しゅ)の使(つかい)がそばに立(た)ち、光(ひかり)が獄内(ごくない)を照(てら)した。そして御使(みつかい)はペテロのわき腹(ばら)をつついて起(おこ)し、「早(はや)く起(お)きあがりなさい」と言(い)った。すると鎖(くさり)が彼(かれ)の両手(りょうて)から、はずれ落(お)ちた。 8御使(みつかい)が「帯(おび)をしめ、くつをはきなさい」と言(い)ったので、彼(かれ)はそのとおりにした。それから「上着(うわぎ)を着(き)て、ついてきなさい」と言(い)われたので、 9ペテロはついて出(で)て行(い)った。彼(かれ)には御使(みつかい)のしわざが現実(げんじつ)のこととは考(かんが)えられず、ただ幻(まぼろし)を見(み)ているように思(おも)われた。 10彼(かれ)らは第(だい)一、第(だい)二の衛所(えいしょ)を通(とお)りすぎて、町(まち)に抜(ぬ)ける鉄(てつ)門(もん)のところに来(く)ると、それがひとりでに開(ひら)いたので、そこを出(で)て一つの通路(つうろ)に進(すす)んだとたんに、御使(みつかい)は彼(かれ)を離(はな)れ去(さ)った。 11その時(とき)ペテロはわれにかえって言(い)った、「今(いま)はじめて、ほんとうのことがわかった。主(しゅ)が御使(みつかい)をつかわして、ヘロデの手(て)から、またユダヤ人(じん)たちの待(ま)ちもうけていたあらゆる災(わざわい)から、わたしを救(すく)い出(だ)して下(くだ)さったのだ」。

12ペテロはこうとわかってから、マルコと呼(よ)ばれているヨハネの母(はは)マリヤの家(いえ)に行(い)った。その家(いえ)には大(おお)ぜいの人(ひと)が集(あつ)まって祈(いの)っていた。 13彼(かれ)が門(もん)の戸(と)をたたいたところ、ロダという女中(じょちゅう)が取次(とりつ)ぎに出(で)てきたが、 14ペテロの声(こえ)だとわかると、喜(よろこ)びのあまり、門(もん)をあけもしないで家(いえ)に駆(か)け込(こ)み、ペテロが門口(かどぐち)に立(た)っていると報告(ほうこく)した。 15人々(ひとびと)は「あなたは気(き)が狂(くる)っている」と言(い)ったが、彼女(かのじょ)は自分(じぶん)の言(い)うことに間違(まちが)いはないと、言(い)い張(は)った。そこで彼(かれ)らは「それでは、ペテロの御使(みつかい)だろう」と言(い)った。 16しかし、ペテロが門(もん)をたたきつづけるので、彼(かれ)らがあけると、そこにペテロがいたのを見(み)て驚(おどろ)いた。 17ペテロは手(て)を振(ふ)って彼(かれ)らを静(しず)め、主(しゅ)が獄(ごく)から彼(かれ)を連(つ)れ出(だ)して下(くだ)さった次第(しだい)を説明(せつめい)し、「このことを、ヤコブやほかの兄弟(きょうだい)たちに伝(つた)えて下(くだ)さい」と言(い)い残(のこ)して、どこかほかの所(ところ)へ出(で)て行(い)った。

18夜(よ)が明(あ)けると、兵卒(へいそつ)たちの間(あいだ)に、ペテロはいったいどうなったのだろうと、大(たい)へんな騒(さわ)ぎが起(おこ)った。 19ヘロデはペテロを捜(さが)しても見(み)つからないので、番兵(ばんぺい)たちを取(と)り調(しら)べたうえ、彼(かれ)らを死刑(しけい)に処(しょ)するように命(めい)じ、そして、ユダヤからカイザリヤにくだって行(い)って、そこに滞在(たいざい)した。

20さて、ツロとシドンとの人々(ひとびと)は、ヘロデの怒(いか)りに触(ふれ)ていたので、一同(いちどう)うちそろって王(おう)をおとずれ、王(おう)の侍従(じじゅう)官(かん)ブラストに取(と)りいって、和解(わかい)かたを依頼(いらい)した。彼(かれ)らの地方(ちほう)が、王(おう)の国(くに)から食糧(しょくりょう)を得(え)ていたからである。 21定(さだ)められた日(ひ)に、ヘロデは王(おう)服(ふく)をまとって王座(おうざ)にすわり、彼(かれ)らにむかって演説(えんぜつ)をした。 22集(あつ)まった人々(ひとびと)は、「これは神(かみ)の声(こえ)だ、人間(にんげん)の声(こえ)ではない」と叫(さけ)びつづけた。 23するとたちまち、主(しゅ)の使(つかい)が彼(かれ)を打(う)った。神(かみ)に栄光(えいこう)を帰(き)することをしなかったからである。彼(かれ)は虫(むし)にかまれて息(いき)が絶(た)えてしまった。

24こうして、主(しゅ)の言(ことば)はますます盛(さか)んにひろまって行(い)った。

25バルナバとサウロとは、その任務(にんむ)を果(はた)したのち、マルコと呼(よ)ばれていたヨハネを連(つ)れて、エルサレムから帰(かえ)ってきた。

第一三章

1さて、アンテオケにある教会(きょうかい)には、バルナバ、ニゲルと呼(よ)ばれるシメオン、クレネ人(びと)ルキオ、領主(りょうしゅ)ヘロデの乳兄弟(ちきょうだい)マナエン、およびサウロなどの預言者(よげんしゃ)や教師(きょうし)がいた。 2一同(いちどう)が主(しゅ)に礼拝(れいはい)をささげ、断食(だんじき)をしていると、聖霊(せいれい)が「さあ、バルナバとサウロとを、わたしのために聖(せい)別(べつ)して、彼(かれ)らに授(さづ)けておいた仕事(しごと)に当(あた)らせなさい」と告(つ)げた。 3そこで一同(いちどう)は、断食(だんじき)と祈(いのり)とをして、手(て)をふたりの上(うえ)においた後(のち)、出発(しゅっぱつ)させた。

4ふたりは聖霊(せいれい)に送(おく)り出(だ)されて、セルキヤにくだり、そこから舟(ふね)でクプロに渡(わた)った。 5そしてサラミスに着(つ)くと、ユダヤ人(じん)の諸(しょ)会堂(かいどう)で神(かみ)の言(ことば)を宣(の)べはじめた。彼(かれ)らはヨハネを助(たす)け手(て)として連(つ)れていた。 6島(しま)全体(ぜんたい)を巡回(じゅんかい)して、パポスまで行(い)ったところ、そこでユダヤ人(じん)の魔術(まじゅつ)師(し)、バルイエスというにせ預言者(よげんしゃ)に出会(であ)った。 7彼(かれ)は地方(ちほう)総督(そうとく)セルギオ・パウロのところに出入(でい)りをしていた。この総督(そうとく)は賢明(けんめい)な人(ひと)であって、バルナバとサウロとを招(まね)いて、神(かみ)の言(ことば)を聞(き)こうとした。 8ところが魔術(まじゅつ)師(し)エルマ(彼(かれ)の名(な)は「魔術(まじゅつ)師(し)」との意(い))は、総督(そうとく)を信仰(しんこう)からそらそうとして、しきりにふたりの邪魔(じゃま)をした。 9サウロ、またの名(な)はパウロ、は聖霊(せいれい)に満(み)たされ、彼(かれ)をにらみつけて 10言(い)った、「ああ、あらゆる偽(いつわ)りと邪悪(じゃあく)とでかたまっている悪魔(あくま)の子(こ)よ、すべて正(ただ)しいものの敵(てき)よ。主(しゅ)のまっすぐな道(みち)を曲(ま)げることを止(や)めないのか。 11見(み)よ、主(しゅ)のみ手(て)がおまえの上(うえ)に及(およ)んでいる。おまえは盲(めくら)になって、当分(とうぶん)、日(ひ)の光(ひかり)が見(み)えなくなるのだ」。たちまち、かすみとやみとが彼(かれ)にかかったため、彼(かれ)は手(て)さぐりしながら、手(て)を引(ひ)いてくれる人(ひと)を捜(さが)しまわった。 12総督(そうとく)はこの出来事(できごと)を見(み)て、主(しゅ)の教(おしえ)にすっかり驚(おどろ)き、そして信(しん)じた。

13パウロとその一行(いっこう)は、パポスから船出(ふなで)して、パンフリヤのペルガに渡(わた)った。ここでヨハネは一行(いっこう)から身(み)を引(ひ)いて、エルサレムに帰(かえ)ってしまった。 14しかしふたりは、ペルガからさらに進(すす)んで、ピシデヤのアンテオケに行(い)き、安息日(あんそくにち)に会堂(かいどう)にはいって席(せき)に着(つ)いた。 15律法(りっぽう)と預言(よげん)書(しょ)の朗読(ろうどく)があったのち、会堂司(かいどうづかさ)たちが彼(かれ)らのところに人(ひと)をつかわして、「兄弟(きょうだい)たちよ、もしあなたがたのうち、どなたか、この人々(ひとびと)に何(なに)か奨励(しょうれい)の言葉(ことば)がありましたら、どうぞお話(はな)し下(くだ)さい」と言(い)わせた。 16そこでパウロが立(た)ちあがり、手(て)を振(ふ)りながら言(い)った。

「イスラエルの人(ひと)たち、ならびに神(かみ)を敬(うやま)うかたがたよ、お聞(き)き下(くだ)さい。 17この民(たみ)イスラエルの神(かみ)は、わたしたちの先祖(せんぞ)を選(えら)び、エジプトの地(ち)に滞在(たいざい)中(ちゅう)、この民(たみ)を大(おお)いなるものとし、み腕(うで)を高(たか)くさし上(あ)げて、彼(かれ)らをその地(ち)から導(みちび)き出(だ)された。 18そして約(やく)四十年(ねん)にわたって、荒野(あらの)で彼(かれ)らをはぐくみ、 19カナンの地(ち)では七つの異(い)民族(みんぞく)を打(う)ち滅(ほろ)ぼし、その地(ち)を彼(かれ)らに譲(ゆず)り与(あた)えられた。 20それらのことが約(やく)四百五十年(ねん)の年月(ねんげつ)にわたった。その後(のち)、神(かみ)はさばき人(ひと)たちをおつかわしになり、預言者(よげんしゃ)サムエルの時(とき)に及(およ)んだ。 21その時(とき)、人々(ひとびと)が王(おう)を要求(ようきゅう)したので、神(かみ)はベニヤミン族(ぞく)の人(ひと)、キスの子(こ)サウロを四十年間(ねんかん)、彼(かれ)らにおつかわしになった。 22それから神(かみ)はサウロを退(しりぞ)け、ダビデを立(た)てて王(おう)とされたが、彼(かれ)についてあかしをして、『わたしはエッサイの子(こ)ダビデを見(み)つけた。彼(かれ)はわたしの心(こころ)にかなった人(ひと)で、わたしの思(おも)うところを、ことごとく実行(じっこう)してくれるであろう』と言(い)われた。 23神(かみ)は約束(やくそく)にしたがって、このダビデの子孫(しそん)の中(なか)から救主(すくいぬし)イエスをイスラエルに送(おく)られたが、 24そのこられる前(まえ)に、ヨハネがイスラエルのすべての民(たみ)に悔改(くいあらた)めのバプテスマを、あらかじめ宣(の)べ伝(つた)えていた。 25ヨハネはその一生(いっしょう)の行程(こうてい)を終(おわ)ろうとするに当(あた)って言(い)った、『わたしは、あなたがたが考(かんが)えているような者(もの)ではない。しかし、わたしのあとから来(く)るかたがいる。わたしはそのくつを脱(ぬ)がせてあげる値(ね)うちもない』。 26兄弟(きょうだい)たち、アブラハムの子孫(しそん)のかたがた、ならびに皆(みな)さんの中(なか)の神(かみ)を敬(うやま)う人(ひと)たちよ。この救(すくい)の言葉(ことば)はわたしたちに送(おく)られたのである。 27エルサレムに住(す)む人々(ひとびと)やその指導者(しどうしゃ)たちは、イエスを認(みと)めずに刑(けい)に処(しょ)し、それによって、安息日(あんそくにち)ごとに読(よ)む預言者(よげんしゃ)の言葉(ことば)が成就(じょうじゅ)した。 28また、なんら死(し)に当(あた)る理由(りゆう)が見(み)いだせなかったのに、ピラトに強要(きょうよう)してイエスを殺(ころ)してしまった。 29そして、イエスについて書(か)いてあることを、皆(みな)なし遂(と)げてから、人々(ひとびと)はイエスを木(き)から取(と)りおろして墓(はか)に葬(ほうむ)った。 30しかし、神(かみ)はイエスを死人(しにん)の中(なか)から、よみがえらせたのである。 31イエスは、ガリラヤからエルサレムへ一緒(いっしょ)に上(のぼ)った人(ひと)たちに、幾日(いくにち)ものあいだ現(あらわ)れ、そして、彼(かれ)らは今(いま)や、人々(ひとびと)に対(たい)してイエスの証人(しょうにん)となっている。 32わたしたちは、神(かみ)が先祖(せんぞ)たちに対(たい)してなされた約束(やくそく)を、ここに宣(の)べ伝(つた)えているのである。 33神(かみ)は、イエスをよみがえらせて、わたしたち子孫(しそん)にこの約束(やくそく)を、お果(はた)しになった。それは詩篇(しへん)の第(だい)二篇(へん)にも、『あなたこそは、わたしの子(こ)。きょう、わたしはあなたを生(う)んだ』と書(か)いてあるとおりである。 34また、神(かみ)がイエスを死人(しにん)の中(なか)からよみがえらせて、いつまでも朽(く)ち果(は)てることのないものとされたことについては、『わたしは、ダビデに約束(やくそく)した確(たし)かな聖(せい)なる祝福(しゅくふく)を、あなたがたに授(さづ)けよう』と言(い)われた。 35だから、ほかの箇所(かしょ)でもこう言(い)っておられる、『あなたの聖者(せいじゃ)が朽(く)ち果(は)てるようなことは、お許(ゆる)しにならないであろう』。 36事実(じじつ)、ダビデは、その時代(じだい)の人々(ひとびと)に神(かみ)のみ旨(むね)にしたがって仕(つか)えたが、やがて眠(ねむ)りにつき、先祖(せんぞ)たちの中(なか)に加(くわ)えられて、ついに朽(く)ち果(は)ててしまった。 37しかし、神(かみ)がよみがえらせたかたは、朽(く)ち果(は)てることがなかったのである。 38だから、兄弟(きょうだい)たちよ、この事(こと)を承知(しょうち)しておくがよい。すなわち、このイエスによる罪(つみ)のゆるしの福音(ふくいん)が、今(いま)やあなたがたに宣(の)べ伝(つた)えられている。そして、モーセの律法(りっぽう)では義(ぎ)とされることができなかったすべての事(こと)についても、 39信(しん)じる者(もの)はもれなく、イエスによって義(ぎ)とされるのである。 40だから預言者(よげんしゃ)たちの書(しょ)にかいてある次(つぎ)のようなことが、あなたがたの身(み)に起(おこ)らないように気(き)をつけなさい。
41『見(み)よ、侮(あなど)る者(もの)たちよ。驚(おどろ)け、そして滅(ほろ)び去(さ)れ。
わたしは、あなたがたの時代(じだい)に一つの事(こと)をする。
それは、人(ひと)がどんなに説明(せつめい)して聞(き)かせても、
あなたがたのとうてい信(しん)じないような事(こと)なのである』」。

42ふたりが会堂(かいどう)を出(で)る時(とき)、人々(ひとびと)は次(つぎ)の安息日(あんそくにち)にも、これと同(おな)じ話(はなし)をしてくれるようにと、しきりに願(ねが)った。 43そして集会(しゅうかい)が終(おわ)ってからも、大(おお)ぜいのユダヤ人(じん)や信心(しんじん)深(ぶか)い改宗者(かいしゅうしゃ)たちが、パウロとバルナバとについてきたので、ふたりは、彼(かれ)らが引(ひ)きつづき神(かみ)のめぐみにとどまっているようにと、説(と)きすすめた。

44次(つぎ)の安息日(あんそくにち)には、ほとんど全市(ぜんし)をあげて、神(かみ)の言(ことば)を聞(き)きに集(あつ)まってきた。 45するとユダヤ人(じん)たちは、その群衆(ぐんしゅう)を見(み)てねたましく思(おも)い、パウロの語(かた)ることに口(くち)ぎたなく反対(はんたい)した。 46パウロとバルナバとは大胆(だいたん)に語(かた)った、「神(かみ)の言(ことば)は、まず、あなたがたに語(かた)り伝(つた)えられなければならなかった。しかし、あなたがたはそれを退(しりぞ)け、自分(じぶん)自身(じしん)を永遠(えいえん)の命(いのち)にふさわしからぬ者(もの)にしてしまったから、さあ、わたしたちはこれから方向(ほうこう)をかえて、異邦人(いほうじん)たちの方(ほう)に行(い)くのだ。 47主(しゅ)はわたしたちに、こう命(めい)じておられる、
『わたしは、あなたを立(た)てて異邦人(いほうじん)の光(ひかり)とした。
あなたが地(ち)の果(はて)までも救(すくい)をもたらすためである』」。
48異邦人(いほうじん)たちはこれを聞(き)いてよろこび、主(しゅ)の御言(みことば)をほめたたえてやまなかった。そして、永遠(えいえん)の命(いのち)にあずかるように定(さだ)められていた者(もの)は、みな信(しん)じた。 49こうして、主(しゅ)の御言(みことば)はこの地方(ちほう)全体(ぜんたい)にひろまって行(い)った。 50ところが、ユダヤ人(じん)たちは、信心(しんじん)深(ぶか)い貴婦人(きふじん)たちや町(まち)の有力(ゆうりょく)者(しゃ)たちを煽動(せんどう)して、パウロとバルナバを迫害(はくがい)させ、ふたりをその地方(ちほう)から追(お)い出(だ)させた。 51ふたりは、彼(かれ)らに向(む)けて足(あし)のちりを払(はら)い落(おと)して、イコニオムへ行(い)った。 52弟子(でし)たちは、ますます喜(よろこ)びと聖霊(せいれい)とに満(み)たされていた。

第一四章

1ふたりは、イコニオムでも同(おな)じようにユダヤ人(じん)の会堂(かいどう)にはいって語(かた)った結果(けっか)、ユダヤ人(じん)やギリシヤ人(じん)が大(おお)ぜい信(しん)じた。 2ところが、信(しん)じなかったユダヤ人(じん)たちは異邦人(いほうじん)たちをそそのかして、兄弟(きょうだい)たちに対(たい)して悪意(あくい)をいだかせた。 3それにもかかわらず、ふたりは長(なが)い期間(きかん)をそこで過(す)ごして、大胆(だいたん)に主(しゅ)のことを語(かた)った。主(しゅ)は、彼(かれ)らの手(て)によってしるしと奇跡(きせき)とを行(おこな)わせ、そのめぐみの言葉(ことば)をあかしされた。 4そこで町(まち)の人々(ひとびと)が二派(は)に分(わか)れ、ある人(ひと)たちはユダヤ人(じん)の側(がわ)につき、ある人(ひと)たちは使徒(しと)の側(がわ)についた。 5その時(とき)、異邦人(いほうじん)やユダヤ人(じん)が役人(やくにん)たちと一緒(いっしょ)になって反対(はんたい)運動(うんどう)を起(おこ)し、使徒(しと)たちをはずかしめ、石(いし)で打(う)とうとしたので、 6ふたりはそれと気(き)づいて、ルカオニヤの町々(まちまち)、ルステラ、デルベおよびその附近(ふきん)の地(ち)へのがれ、 7そこで引(ひ)きつづき福音(ふくいん)を伝(つた)えた。

8ところが、ルステラに足(あし)のきかない人(ひと)が、すわっていた。彼(かれ)は生(うま)れながらの足(あし)なえで、歩(ある)いた経験(けいけん)が全(まった)くなかった。 9この人(ひと)がパウロの語(かた)るのを聞(き)いていたが、パウロは彼(かれ)をじっと見(み)て、いやされるほどの信仰(しんこう)が彼(かれ)にあるのを認(みと)め、 10大声(おおごえ)で「自分(じぶん)の足(あし)で、まっすぐに立(た)ちなさい」と言(い)った。すると彼(かれ)は踊(おど)り上(あ)がって歩(ある)き出(だ)した。 11群衆(ぐんしゅう)はパウロのしたことを見(み)て、声(こえ)を張(は)りあげ、ルカオニヤの地方(ちほう)語(ご)で、「神々(かみがみ)が人間(にんげん)の姿(すがた)をとって、わたしたちのところにお下(くだ)りになったのだ」と叫(さけ)んだ。 12彼(かれ)らはバルナバをゼウスと呼(よ)び、パウロはおもに語(かた)る人(ひと)なので、彼(かれ)をヘルメスと呼(よ)んだ。 13そして、郊外(こうがい)にあるゼウス神殿(しんでん)の祭司(さいし)が、群衆(ぐんしゅう)と共(とも)に、ふたりに犠牲(ぎせい)をささげようと思(おも)って、雄(お)牛(うし)数頭(すうとう)と花輪(はなわ)とを門前(もんぜん)に持(も)ってきた。 14ふたりの使徒(しと)バルナバとパウロとは、これを聞(き)いて自分(じぶん)の上着(うわぎ)を引(ひ)き裂(さ)き、群衆(ぐんしゅう)の中(なか)に飛(と)び込(こ)んで行(い)き、叫(さけ)んで 15言(い)った、「皆(みな)さん、なぜこんな事(こと)をするのか。わたしたちとても、あなたがたと同(おな)じような人間(にんげん)である。そして、あなたがたがこのような愚(ぐ)にもつかぬものを捨(す)てて、天(てん)と地(ち)と海(うみ)と、その中(なか)のすべてのものをお造(つく)りになった生(い)ける神(かみ)に立(た)ち帰(かえ)るようにと、福音(ふくいん)を説(と)いているものである。 16神(かみ)は過(す)ぎ去(さ)った時代(じだい)には、すべての国々(くにぐに)の人(ひと)が、それぞれの道(みち)を行(い)くままにしておかれたが、 17それでも、ご自分(じぶん)のことをあかししないでおられたわけではない。すなわち、あなたがたのために天(てん)から雨(あめ)を降(ふ)らせ、実(みの)りの季節(きせつ)を与(あた)え、食物(しょくもつ)と喜(よろこ)びとで、あなたがたの心(こころ)を満(み)たすなど、いろいろのめぐみをお与(あた)えになっているのである」。 18こう言(い)って、ふたりは、やっとのことで、群衆(ぐんしゅう)が自分(じぶん)たちに犠牲(ぎせい)をささげるのを、思(おも)い止(とど)まらせた。

19ところが、あるユダヤ人(じん)たちはアンテオケやイコニオムから押(お)しかけてきて、群衆(ぐんしゅう)を仲間(なかま)に引(ひ)き入(い)れたうえ、パウロを石(いし)で打(う)ち、死(し)んでしまったと思(おも)って、彼(かれ)を町(まち)の外(そと)に引(ひ)きずり出(だ)した。 20しかし、弟子(でし)たちがパウロを取(と)り囲(かこ)んでいる間(あいだ)に、彼(かれ)は起(お)きあがって町(まち)にはいって行(い)った。そして翌日(よくじつ)には、バルナバと一緒(いっしょ)にデルベにむかって出(で)かけた。 21その町(まち)で福音(ふくいん)を伝(つた)えて、大(おお)ぜいの人(ひと)を弟子(でし)とした後(のち)、ルステラ、イコニオム、アンテオケの町々(まちまち)に帰(かえ)って行(い)き、 22弟子(でし)たちを力(ちから)づけ、信仰(しんこう)を持(も)ちつづけるようにと奨励(しょうれい)し、「わたしたちが神(かみ)の国(くに)にはいるのには、多(おお)くの苦難(くなん)を経(へ)なければならない」と語(かた)った。 23また教会(きょうかい)ごとに彼(かれ)らのために長老(ちょうろう)たちを任命(にんめい)し、断食(だんじき)をして祈(いの)り、彼(かれ)らをその信(しん)じている主(しゅ)にゆだねた。

24それから、ふたりはピシデヤを通過(つうか)してパンフリヤにきたが、 25ペルガで御言(みことば)を語(かた)った後(のち)、アタリヤにくだり、 26そこから舟(ふね)でアンテオケに帰(かえ)った。彼(かれ)らが今(いま)なし終(おわ)った働(はたら)きのために、神(かみ)の祝福(しゅくふく)を受(う)けて送(おく)り出(だ)されたのは、このアンテオケからであった。 27彼(かれ)らは到着(とうちゃく)早々(そうそう)、教会(きょうかい)の人々(ひとびと)を呼(よ)び集(あつ)めて、神(かみ)が彼(かれ)らと共(とも)にいてして下(くだ)さった数々(かずかず)のこと、また信仰(しんこう)の門(もん)を異邦人(いほうじん)に開(ひら)いて下(くだ)さったことなどを、報告(ほうこく)した。 28そして、ふたりはしばらくの間(あいだ)、弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)に過(す)ごした。

第一五章

1さて、ある人(ひと)たちがユダヤから下(くだ)ってきて、兄弟(きょうだい)たちに「あなたがたも、モーセの慣例(かんれい)にしたがって割礼(かつれい)を受(う)けなければ、救(すく)われない」と、説(と)いていた。 2そこで、パウロやバルナバと彼(かれ)らとの間(あいだ)に、少(すく)なからぬ紛糾(ふんきゅう)と争論(そうろん)とが生(しょう)じたので、パウロ、バルナバそのほか数人(すうにん)の者(もの)がエルサレムに上(のぼ)り、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちと、この問題(もんだい)について協議(きょうぎ)することになった。 3彼(かれ)らは教会(きょうかい)の人々(ひとびと)に見送(みおく)られ、ピニケ、サマリヤをとおって、道(みち)すがら、異邦人(いほうじん)たちの改宗(かいしゅう)の模様(もよう)をくわしく説明(せつめい)し、すべての兄弟(きょうだい)たちを大(おお)いに喜(よろこ)ばせた。 4エルサレムに着(つ)くと、彼(かれ)らは教会(きょうかい)と使徒(しと)たち、長老(ちょうろう)たちに迎(むか)えられて、神(かみ)が彼(かれ)らと共(とも)にいてなされたことを、ことごとく報告(ほうこく)した。 5ところが、パリサイ派(は)から信仰(しんこう)にはいってきた人(ひと)たちが立(た)って、「異邦人(いほうじん)にも割礼(かつれい)を施(ほどこ)し、またモーセの律法(りっぽう)を守(まも)らせるべきである」と主張(しゅちょう)した。

6そこで、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちが、この問題(もんだい)について審議(しんぎ)するために集(あつ)まった。 7激(はげ)しい争論(そうろん)があった後(のち)、ペテロが立(た)って言(い)った、「兄弟(きょうだい)たちよ、ご承知(しょうち)のとおり、異邦人(いほうじん)がわたしの口(くち)から福音(ふくいん)の言葉(ことば)を聞(き)いて信(しん)じるようにと、神(かみ)は初(はじ)めのころに、諸君(しょくん)の中(なか)からわたしをお選(えら)びになったのである。 8そして、人(ひと)の心(こころ)をご存(ぞん)じである神(かみ)は、聖霊(せいれい)をわれわれに賜(たま)わったと同様(どうよう)に彼(かれ)らにも賜(たま)わって、彼(かれ)らに対(たい)してあかしをなし、 9また、その信仰(しんこう)によって彼(かれ)らの心(こころ)をきよめ、われわれと彼(かれ)らとの間(あいだ)に、なんの分(わ)けへだてもなさらなかった。 10しかるに、諸君(しょくん)はなぜ、今(いま)われわれの先祖(せんぞ)もわれわれ自身(じしん)も、負(お)いきれなかったくびきをあの弟子(でし)たちの首(くび)にかけて、神(かみ)を試(こころ)みるのか。 11確(たし)かに、主(しゅ)イエスのめぐみによって、われわれは救(すく)われるのだと信(しん)じるが、彼(かれ)らとても同様(どうよう)である」。

12すると、全(ぜん)会衆(かいしゅう)は黙(だま)ってしまった。それから、バルナバとパウロとが、彼(かれ)らをとおして異邦人(いほうじん)の間(あいだ)に神(かみ)が行(おこな)われた数々(かずかず)のしるしと奇跡(きせき)のことを、説明(せつめい)するのを聞(き)いた。 13ふたりが語(かた)り終(お)えた後(のち)、ヤコブはそれに応(おう)じて述(の)べた、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしの意見(いけん)を聞(き)いていただきたい。 14神(かみ)が初(はじ)めに異邦人(いほうじん)たちを顧(かえり)みて、その中(なか)から御名(みな)を負(お)う民(たみ)を選(えら)び出(だ)された次第(しだい)は、シメオンがすでに説明(せつめい)した。 15預言者(よげんしゃ)たちの言葉(ことば)も、それと一致(いっち)している。すなわち、こう書(か)いてある、
16『その後(のち)、わたしは帰(かえ)ってきて、
倒(たお)れたダビデの幕屋(まくや)を建(た)てかえ、
くずれた箇所(かしょ)を修理(しゅうり)し、
それを立(た)て直(なお)そう。
17残(のこ)っている人々(ひとびと)も、
わたしの名(な)を唱(とな)えているすべての異邦人(いほうじん)も、
主(しゅ)を尋(たず)ね求(もと)めるようになるためである。
18世(よ)の初(はじ)めからこれらの事(こと)を知(し)らせておられる主(しゅ)が、こう仰(おお)せになった』。
19そこで、わたしの意見(いけん)では、異邦人(いほうじん)の中(なか)から神(かみ)に帰依(きえ)している人(ひと)たちに、わずらいをかけてはいけない。 20ただ、偶像(ぐうぞう)に供(そな)えて汚(けが)れた物(もの)と、不品行(ふひんこう)と、絞(し)め殺(ころ)したものと、血(ち)とを、避(さ)けるようにと、彼(かれ)らに書(か)き送(おく)ることにしたい。 21古(ふる)い時代(じだい)から、どの町(まち)にもモーセの律法(りっぽう)を宣(の)べ伝(つた)える者(もの)がいて、安息日(あんそくにち)ごとにそれを諸(しょ)会堂(かいどう)で朗読(ろうどく)するならわしであるから」。

22そこで、使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちは、全(ぜん)教会(きょうかい)と協議(きょうぎ)した末(すえ)、お互(たがい)の中(なか)から人々(ひとびと)を選(えら)んで、パウロやバルナバと共(とも)に、アンテオケに派遣(はけん)することに決(き)めた。選(えら)ばれたのは、バルサバというユダとシラスとであったが、いずれも兄弟(きょうだい)たちの間(あいだ)で重(おも)んじられていた人(ひと)たちであった。 23この人(ひと)たちに託(たく)された書面(しょめん)はこうである。

「あなたがたの兄弟(きょうだい)である使徒(しと)および長老(ちょうろう)たちから、アンテオケ、シリヤ、キリキヤにいる異邦人(いほうじん)の兄弟(きょうだい)がたに、あいさつを送(おく)る。 24こちらから行(い)ったある者(もの)たちが、わたしたちからの指示(しじ)もないのに、いろいろなことを言(い)って、あなたがたを騒(さわ)がせ、あなたがたの心(こころ)を乱(みだ)したと伝(つた)え聞(き)いた。 25そこで、わたしたちは人々(ひとびと)を選(えら)んで、愛(あい)するバルナバおよびパウロと共(とも)に、あなたがたのもとに派遣(はけん)することに、衆議(しゅうぎ)一決(いっけつ)した。 26このふたりは、われらの主(しゅ)イエス・キリストの名(な)のために、その命(いのち)を投(な)げ出(だ)した人々(ひとびと)であるが、 27彼(かれ)らと共(とも)に、ユダとシラスとを派遣(はけん)する次第(しだい)である。この人(ひと)たちは、あなたがたに、同(おな)じ趣旨(しゅし)のことを、口頭(こうとう)でも伝(つた)えるであろう。 28すなわち、聖霊(せいれい)とわたしたちとは、次(つぎ)の必要(ひつよう)事項(じこう)のほかは、どんな負担(ふたん)をも、あなたがたに負(お)わせないことに決(き)めた。 29それは、偶像(ぐうぞう)に供(そな)えたものと、血(ち)と、絞(し)め殺(ころ)したものと、不品行(ふひんこう)とを、避(さ)けるということである。これらのものから遠(とお)ざかっておれば、それでよろしい。以上(いじょう)」。

30さて、一行(いっこう)は人々(ひとびと)に見送(みおく)られて、アンテオケに下(くだ)って行(い)き、会衆(かいしゅう)を集(あつ)めて、その書面(しょめん)を手渡(てわた)した。 31人々(ひとびと)はそれを読(よ)んで、その勧(すす)めの言葉(ことば)をよろこんだ。 32ユダとシラスとは共(とも)に預言者(よげんしゃ)であったので、多(おお)くの言葉(ことば)をもって兄弟(きょうだい)たちを励(はげ)まし、また力(ちから)づけた。 33ふたりは、しばらくの時(とき)を、そこで過(す)ごした後(のち)、兄弟(きょうだい)たちから、旅(たび)の平安(へいあん)を祈(いの)られて、見送(みおく)りを受(う)け、自分(じぶん)らを派遣(はけん)した人々(ひとびと)のところに帰(かえ)って行(い)った。〔 34しかし、シラスだけは、引(ひ)きつづきとどまることにした。〕 35パウロとバルナバとはアンテオケに滞在(たいざい)をつづけて、ほかの多(おお)くの人(ひと)たちと共(とも)に、主(しゅ)の言葉(ことば)を教(おし)えかつ宣(の)べ伝(つた)えた。

36幾日(いくにち)かの後(のち)、パウロはバルナバに言(い)った、「さあ、前(まえ)に主(しゅ)の言葉(ことば)を伝(つた)えたすべての町々(まちまち)にいる兄弟(きょうだい)たちを、また訪問(ほうもん)して、みんながどうしているかを見(み)てこようではないか」。 37そこで、バルナバはマルコというヨハネも一緒(いっしょ)に連(つ)れて行(い)くつもりでいた。 38しかし、パウロは、前(まえ)にパンフリヤで一行(いっこう)から離(はな)れて、働(はたら)きを共(とも)にしなかったような者(もの)は、連(つ)れて行(い)かないがよいと考(かんが)えた。 39こうして激論(げきろん)が起(おこ)り、その結果(けっか)ふたりは互(たがい)に別(わか)れ別(わか)れになり、バルナバはマルコを連(つ)れてクプロに渡(わた)って行(い)き、 40パウロはシラスを選(えら)び、兄弟(きょうだい)たちから主(しゅ)の恵(めぐ)みにゆだねられて、出(で)発(はっ)した。 41そしてパウロは、シリヤ、キリキヤの地方(ちほう)をとおって、諸(しょ)教会(きょうかい)を力(ちから)づけた。

第一六章

1それから、彼(かれ)はデルベに行(い)き、次(つぎ)にルステラに行(い)った。そこにテモテという名(な)の弟子(でし)がいた。信者(しんじゃ)のユダヤ婦人(ふじん)を母(はは)とし、ギリシヤ人(じん)を父(ちち)としており、 2ルステラとイコニオムの兄弟(きょうだい)たちの間(あいだ)で、評判(ひょうばん)のよい人物(じんぶつ)であった。 3パウロはこのテモテを連(つ)れて行(い)きたかったので、その地方(ちほう)にいるユダヤ人(じん)の手前(てまえ)、まず彼(かれ)に割礼(かつれい)を受(う)けさせた。彼(かれ)の父(ちち)がギリシヤ人(じん)であることは、みんな知(し)っていたからである。 4それから彼(かれ)らは通(とお)る町々(まちまち)で、エルサレムの使徒(しと)たちや長老(ちょうろう)たちの取(と)り決(き)めた事項(じこう)を守(まも)るようにと、人々(ひとびと)にそれを渡(わた)した。 5こうして、諸(しょ)教会(きょうかい)はその信仰(しんこう)を強(つよ)められ、日(ひ)ごとに数(かず)を増(ま)していった。

6それから彼(かれ)らは、アジヤで御言(みことば)を語(かた)ることを聖霊(せいれい)に禁(きん)じられたので、フルギヤ・ガラテヤ地方(ちほう)をとおって行(い)った。 7そして、ムシヤのあたりにきてから、ビテニヤに進(すす)んで行(い)こうとしたところ、イエスの御霊(みたま)がこれを許(ゆる)さなかった。 8それで、ムシヤを通過(つうか)して、トロアスに下(くだ)って行(い)った。 9ここで夜(よる)、パウロは一つの幻(まぼろし)を見(み)た。ひとりのマケドニヤ人(びと)が立(た)って、「マケドニヤに渡(わた)ってきて、わたしたちを助(たす)けて下(くだ)さい」と、彼(かれ)に懇願(こんがん)するのであった。 10パウロがこの幻(まぼろし)を見(み)た時(とき)、これは彼(かれ)らに福音(ふくいん)を伝(つた)えるために、神(かみ)がわたしたちをお招(まね)きになったのだと確信(かくしん)して、わたしたちは、ただちにマケドニヤに渡(わた)って行(い)くことにした。

11そこで、わたしたちはトロアスから船出(ふなで)して、サモトラケに直航(ちょっこう)し、翌日(よくじつ)ネアポリスに着(つ)いた。 12そこからピリピへ行(い)った。これはマケドニヤのこの地方(ちほう)第(だい)一の町(まち)で、植民(しょくみん)都市(とし)であった。わたしたちは、この町(まち)に数日間(すうじつかん)滞在(たいざい)した。 13ある安息日(あんそくにち)に、わたしたちは町(まち)の門(もん)を出(で)て、祈(いの)り場(ば)があると思(おも)って、川(かわ)のほとりに行(い)った。そして、そこにすわり、集(あつ)まってきた婦人(ふじん)たちに話(はなし)をした。 14ところが、テアテラ市(し)の紫(むらさき)布(ぬの)の商人(しょうにん)で、神(かみ)を敬(うやま)うルデヤという婦人(ふじん)が聞(き)いていた。主(しゅ)は彼女(かのじょ)の心(こころ)を開(ひら)いて、パウロの語(かた)ることに耳(みみ)を傾(かたむ)けさせた。 15そして、この婦人(ふじん)もその家族(かぞく)も、共(とも)にバプテスマを受(う)けたが、その時(とき)、彼女(かのじょ)は「もし、わたしを主(しゅ)を信(しん)じる者(もの)とお思(おも)いでしたら、どうぞ、わたしの家(いえ)にきて泊(と)まって下(くだ)さい」と懇望(こんもう)し、しいてわたしたちをつれて行(い)った。

16ある時(とき)、わたしたちが、祈(いの)り場(ば)に行(い)く途中(とちゅう)、占(うらな)いの霊(れい)につかれた女(おんな)奴隷(どれい)に出会(であ)った。彼女(かのじょ)は占(うらな)いをして、その主人(しゅじん)たちに多(おお)くの利益(りえき)を得(え)させていた者(もの)である。 17この女(おんな)が、パウロやわたしたちのあとを追(お)ってきては、「この人(ひと)たちは、いと高(たか)き神(かみ)の僕(しもべ)たちで、あなたがたに救(すくい)の道(みち)を伝(つた)えるかただ」と、叫(さけ)び出(だ)すのであった。 18そして、そんなことを幾(いく)日間(にちかん)もつづけていた。パウロは困(こま)りはてて、その霊(れい)にむかい「イエス・キリストの名(な)によって命(めい)じる。その女(おんな)から出(で)て行(い)け」と言(い)った。すると、その瞬間(しゅんかん)に霊(れい)が女(おんな)から出(で)て行(い)った。

19彼女(かのじょ)の主人(しゅじん)たちは、自分(じぶん)らの利益(りえき)を得(え)る望(のぞ)みが絶(た)えたのを見(み)て、パウロとシラスとを捕(とら)え、役人(やくにん)に引(ひ)き渡(わた)すため広場(ひろば)に引(ひ)きずって行(い)った。 20それから、ふたりを長官(ちょうかん)たちの前(まえ)に引(ひ)き出(だ)して訴(うった)えた、「この人(ひと)たちはユダヤ人(じん)でありまして、わたしたちの町(まち)をかき乱(みだ)し、 21わたしたちローマ人(じん)が、採用(さいよう)も実行(じっこう)もしてはならない風習(ふうしゅう)を宣伝(せんでん)しているのです」。 22群衆(ぐんしゅう)もいっせいに立(た)って、ふたりを責(せ)めたてたので、長官(ちょうかん)たちはふたりの上着(うわぎ)をはぎ取(と)り、むちで打(う)つことを命(めい)じた。 23それで、ふたりに何(なに)度(ど)もむちを加(くわ)えさせたのち、獄(ごく)に入(い)れ、獄吏(ごくり)にしっかり番(ばん)をするようにと命(めい)じた。 24獄吏(ごくり)はこの厳命(げんめい)を受(う)けたので、ふたりを奥(おく)の獄屋(ごくや)に入(い)れ、その足(あし)に足(あし)かせをしっかとかけておいた。

25真夜中(まよなか)ごろ、パウロとシラスとは、神(かみ)に祈(いの)り、さんびを歌(うた)いつづけたが、囚人(しゅうじん)たちは耳(みみ)をすまして聞(き)きいっていた。 26ところが突然(とつぜん)、大(おお)地震(じしん)が起(おこ)って、獄(ごく)の土台(どだい)が揺(ゆ)れ動(うご)き、戸(と)は全部(ぜんぶ)たちまち開(ひら)いて、みんなの者(もの)の鎖(くさり)が解(と)けてしまった。 27獄吏(ごくり)は目(め)をさまし、獄(ごく)の戸(と)が開(ひら)いてしまっているのを見(み)て、囚人(しゅうじん)たちが逃(に)げ出(だ)したものと思(おも)い、つるぎを抜(ぬ)いて自殺(じさつ)しかけた。 28そこでパウロは大声(おおごえ)をあげて言(い)った、「自害(じがい)してはいけない。われわれは皆(みな)ひとり残(のこ)らず、ここにいる」。 29すると、獄吏(ごくり)は、あかりを手(て)に入(い)れた上(うえ)、獄(ごく)に駆(か)け込(こ)んできて、おののきながらパウロとシラスの前(まえ)にひれ伏(ふ)した。 30それから、ふたりを外(そと)に連(つ)れ出(だ)して言(い)った、「先生(せんせい)がた、わたしは救(すく)われるために、何(なに)をすべきでしょうか」。 31ふたりが言(い)った、「主(しゅ)イエスを信(しん)じなさい。そうしたら、あなたもあなたの家族(かぞく)も救(すく)われます」。 32それから、彼(かれ)とその家族(かぞく)一同(いちどう)とに、神(かみ)の言(ことば)を語(かた)って聞(き)かせた。 33彼(かれ)は真夜中(まよなか)にもかかわらず、ふたりを引(ひ)き取(と)って、その打(う)ち傷(きず)を洗(あら)ってやった。そして、その場(ば)で自分(じぶん)も家族(かぞく)も、ひとり残(のこ)らずバプテスマを受(う)け、 34さらに、ふたりを自分(じぶん)の家(いえ)に案内(あんない)して食事(しょくじ)のもてなしをし、神(かみ)を信(しん)じる者(もの)となったことを、全(ぜん)家族(かぞく)と共(とも)に心(こころ)から喜(よろこ)んだ。

35夜(よ)が明(あ)けると、長官(ちょうかん)たちは警(けい)吏(り)らをつかわして、「あの人(ひと)たちを釈放(しゃくほう)せよ」と言(い)わせた。 36そこで、獄吏(ごくり)はこの言葉(ことば)をパウロに伝(つた)えて言(い)った、「長官(ちょうかん)たちが、あなたがたを釈放(しゃくほう)させるようにと、使(つかい)をよこしました。さあ、出(で)てきて、無事(ぶじ)にお帰(かえ)りなさい」。 37ところが、パウロは警(けい)吏(り)らに言(い)った、「彼(かれ)らは、ローマ人(じん)であるわれわれを、裁判(さいばん)にかけもせずに、公衆(こうしゅう)の前(まえ)でむち打(う)ったあげく、獄(ごく)に入(い)れてしまった。しかるに今(いま)になって、ひそかに、われわれを出(だ)そうとするのか。それは、いけない。彼(かれ)ら自身(じしん)がここにきて、われわれを連(つ)れ出(だ)すべきである」。 38警(けい)吏(り)らはこの言葉(ことば)を長官(ちょうかん)たちに報告(ほうこく)した。すると長官(ちょうかん)たちは、ふたりがローマ人(じん)だと聞(き)いて恐(おそ)れ、 39自分(じぶん)でやってきてわびた上(うえ)、ふたりを獄(ごく)から連(つ)れ出(だ)し、町(まち)から立(た)ち去(さ)るようにと頼(たの)んだ。 40ふたりは獄(ごく)を出(で)て、ルデヤの家(いえ)に行(い)った。そして、兄弟(きょうだい)たちに会(あ)って勧(すす)めをなし、それから出(で)かけた。

第一七章

1一行(いっこう)は、アムピポリスとアポロニヤとをとおって、テサロニケに行(い)った。ここにはユダヤ人(じん)の会堂(かいどう)があった。 2パウロは例(れい)によって、その会堂(かいどう)にはいって行(い)って、三つの安息日(あんそくにち)にわたり、聖書(せいしょ)に基(もとづ)いて彼(かれ)らと論(ろん)じ、 3キリストは必(かなら)ず苦難(くなん)を受(う)け、そして死人(しにん)の中(なか)からよみがえるべきこと、また「わたしがあなたがたに伝(つた)えているこのイエスこそは、キリストである」とのことを、説明(せつめい)もし論証(ろんしょう)もした。 4ある人(ひと)たちは納得(なっとく)がいって、パウロとシラスにしたがった。その中(なか)には、信心(しんじん)深(ぶか)いギリシヤ人(じん)が多数(たすう)あり、貴婦人(きふじん)たちも少(すく)なくなかった。 5ところが、ユダヤ人(じん)たちは、それをねたんで、町(まち)をぶらついているならず者(もの)らを集(あつ)めて暴動(ぼうどう)を起(おこ)し、町(まち)を騒(さわ)がせた。それからヤソンの家(いえ)を襲(おそ)い、ふたりを民衆(みんしゅう)の前(まえ)にひっぱり出(だ)そうと、しきりに捜(さが)した。 6しかし、ふたりが見(み)つからないので、ヤソンと兄弟(きょうだい)たち数人(すうにん)を、市(し)の当局者(とうきょくしゃ)のところに引(ひ)きずって行(い)き、叫(さけ)んで言(い)った、「天下(てんか)をかき回(まわ)してきたこの人(ひと)たちが、ここにもはいり込(こ)んでいます。 7その人(ひと)たちをヤソンが自分(じぶん)の家(いえ)に迎(むか)え入(い)れました。この連中(れんちゅう)は、みなカイザルの詔勅(しょうちょく)にそむいて行動(こうどう)し、イエスという別(べつ)の王(おう)がいるなどと言(い)っています」。 8これを聞(き)いて、群衆(ぐんしゅう)と市(し)の当局者(とうきょくしゃ)は不安(ふあん)に感(かん)じた。 9そして、ヤソンやほかの者(もの)たちから、保証(ほしょう)金(きん)を取(と)った上(うえ)、彼(かれ)らを釈放(しゃくほう)した。

10そこで、兄弟(きょうだい)たちはただちに、パウロとシラスとを、夜(よる)の間(あいだ)にベレヤへ送(おく)り出(だ)した。ふたりはベレヤに到着(とうちゃく)すると、ユダヤ人(じん)の会堂(かいどう)に行(い)った。 11ここにいるユダヤ人(じん)はテサロニケの者(もの)たちよりも素直(すなお)であって、心(こころ)から教(おしえ)を受(う)けいれ、果(はた)してそのとおりかどうかを知(し)ろうとして、日々(ひび)聖書(せいしょ)を調(しら)べていた。 12そういうわけで、彼(かれ)らのうちの多(おお)くの者(もの)が信者(しんじゃ)になった。また、ギリシヤの貴婦人(きふじん)や男子(だんし)で信(しん)じた者(もの)も、少(すく)なくなかった。 13テサロニケのユダヤ人(じん)たちは、パウロがベレヤでも神(かみ)の言(ことば)を伝(つた)えていることを知(し)り、そこにも押(お)しかけてきて、群衆(ぐんしゅう)を煽動(せんどう)して騒(さわ)がせた。 14そこで、兄弟(きょうだい)たちは、ただちにパウロを送(おく)り出(だ)して、海(うみ)べまで行(い)かせ、シラスとテモテとはベレヤに居残(いのこ)った。 15パウロを案内(あんない)した人(ひと)たちは、彼(かれ)をアテネまで連(つ)れて行(い)き、テモテとシラスとになるべく早(はや)く来(く)るようにとのパウロの伝言(でんごん)を受(う)けて、帰(かえ)った。

16さて、パウロはアテネで彼(かれ)らを待(ま)っている間(あいだ)に、市内(しない)に偶像(ぐうぞう)がおびただしくあるのを見(み)て、心(こころ)に憤(いきどお)りを感(かん)じた。 17そこで彼(かれ)は、会堂(かいどう)ではユダヤ人(じん)や信心(しんじん)深(ぶか)い人(ひと)たちと論(ろん)じ、広場(ひろば)では毎日(まいにち)そこで出会(であ)う人々(ひとびと)を相手(あいて)に論(ろん)じた。 18また、エピクロス派(は)やストア派(は)の哲学者(てつがくしゃ)数人(すうにん)も、パウロと議論(ぎろん)を戦(たたか)わせていたが、その中(なか)のある者(もの)たちが言(い)った、「このおしゃべりは、いったい、何(なに)を言(い)おうとしているのか」。また、ほかの者(もの)たちは、「あれは、異国(いこく)の神々(かみがみ)を伝(つた)えようとしているらしい」と言(い)った。パウロが、イエスと復活(ふっかつ)とを、宣(の)べ伝(つた)えていたからであった。 19そこで、彼(かれ)らはパウロをアレオパゴスの評議所(ひょうぎしょ)に連(つ)れて行(い)って、「君(きみ)の語(かた)っている新(あたら)しい教(おしえ)がどんなものか、知(し)らせてもらえまいか。 20君(きみ)がなんだか珍(めず)らしいことをわれわれに聞(き)かせているので、それがなんの事(こと)なのか知(し)りたいと思(おも)うのだ」と言(い)った。 21いったい、アテネ人(びと)もそこに滞在(たいざい)している外国(がいこく)人(じん)もみな、何(なに)か耳新(みみあたら)しいことを話(はな)したり聞(き)いたりすることのみに、時(とき)を過(す)ごしていたのである。 22そこでパウロは、アレオパゴスの評議所(ひょうぎしょ)のまん中(なか)に立(た)って言(い)った。

「アテネの人(ひと)たちよ、あなたがたは、あらゆる点(てん)において、すこぶる宗教(しゅうきょう)心(こころ)に富(と)んでおられると、わたしは見(み)ている。 23実(じつ)は、わたしが道(みち)を通(とお)りながら、あなたがたの拝(おが)むいろいろなものを、よく見(み)ているうちに、『知(し)られない神(かみ)に』と刻(きざ)まれた祭壇(さいだん)もあるのに気(き)がついた。そこで、あなたがたが知(し)らずに拝(おが)んでいるものを、いま知(し)らせてあげよう。 24この世界(せかい)と、その中(なか)にある万物(ばんぶつ)とを造(つく)った神(かみ)は、天地(てんち)の主(しゅ)であるのだから、手(て)で造(つく)った宮(みや)などにはお住(す)みにならない。 25また、何(なに)か不足(ふそく)でもしておるかのように、人(ひと)の手(て)によって仕(つか)えられる必要(ひつよう)もない。神(かみ)は、すべての人々(ひとびと)に命(いのち)と息(いき)と万物(ばんぶつ)とを与(あた)え、 26また、ひとりの人(ひと)から、あらゆる民族(みんぞく)を造(つく)り出(りだ)して、地(ち)の全面(ぜんめん)に住(す)まわせ、それぞれに時代(じだい)を区分(くぶん)し、国土(こくど)の境界(きょうかい)を定(さだ)めて下(くだ)さったのである。 27こうして、人々(ひとびと)が熱心(ねっしん)に追(お)い求(もと)めて捜(さが)しさえすれば、神(かみ)を見(み)いだせるようにして下(くだ)さった。事実(じじつ)、神(かみ)はわれわれひとりびとりから遠(とお)く離(はな)れておいでになるのではない。 28われわれは神(かみ)のうちに生(い)き、動(うご)き、存在(そんざい)しているからである。あなたがたのある詩人(しじん)たちも言(い)ったように、
『われわれも、確(たし)かにその子孫(しそん)である』。
29このように、われわれは神(かみ)の子孫(しそん)なのであるから、神(かみ)たる者(もの)を、人間(にんげん)の技巧(ぎこう)や空想(くうそう)で金(きん)や銀(ぎん)や石(いし)などに彫(ほ)り付(つ)けたものと同(おな)じと、見(み)なすべきではない。 30神(かみ)は、このような無知(むち)の時代(じだい)を、これまでは見過(みす)ごしにされていたが、今(いま)はどこにおる人(ひと)でも、みな悔(く)い改(あらた)めなければならないことを命(めい)じておられる。 31神(かみ)は、義(ぎ)をもってこの世界(せかい)をさばくためその日(ひ)を定(さだ)め、お選(えら)びになったかたによってそれをなし遂(と)げようとされている。すなわち、このかたを死人(しにん)の中(なか)からよみがえらせ、その確証(かくしょう)をすべての人(ひと)に示(しめ)されたのである」。

32死人(しにん)のよみがえりのことを聞(き)くと、ある者(もの)たちはあざ笑(わら)い、またある者(もの)たちは、「この事(こと)については、いずれまた聞(き)くことにする」と言(い)った。 33こうして、パウロは彼(かれ)らの中(なか)から出(で)て行(い)った。 34しかし、彼(かれ)にしたがって信(しん)じた者(もの)も、幾人(いくにん)かあった。その中(なか)には、アレオパゴスの裁判人(さいばんにん)デオヌシオとダマリスという女(おんな)、また、その他(た)の人々(ひとびと)もいた。

第一八章

1その後(のち)、パウロはアテネを去(さ)ってコリントへ行(い)った。 2そこで、アクラというポント生(うま)れのユダヤ人(じん)と、その妻(つま)プリスキラとに出会(であ)った。クラウデオ帝(てい)が、すべてのユダヤ人(じん)をローマから退去(たいきょ)させるようにと、命令(めいれい)したため、彼(かれ)らは近(ちか)ごろイタリヤから出(で)てきたのである。 3パウロは彼(かれ)らのところに行(い)ったが、互(たがい)に同業(どうぎょう)であったので、その家(いえ)に住(す)み込(こ)んで、一緒(いっしょ)に仕事(しごと)をした。天幕(てんまく)造(つく)りがその職業(しょくぎょう)であった。 4パウロは安息日(あんそくにち)ごとに会堂(かいどう)で論(ろん)じては、ユダヤ人(じん)やギリシヤ人(じん)の説得(せっとく)に努(つと)めた。

5シラスとテモテが、マケドニヤから下(くだ)ってきてからは、パウロは御言(みことば)を伝(つた)えることに専念(せんねん)し、イエスがキリストであることを、ユダヤ人(じん)たちに力強(ちからづよ)くあかしした。 6しかし、彼(かれ)らがこれに反抗(はんこう)してののしり続(つづ)けたので、パウロは自分(じぶん)の上着(うわぎ)を振(ふ)りはらって、彼(かれ)らに言(い)った、「あなたがたの血(ち)は、あなたがた自身(じしん)にかえれ。わたしには責任(せきにん)がない。今(いま)からわたしは異邦人(いほうじん)の方(ほう)に行(い)く」。 7こう言(い)って、彼(かれ)はそこを去(さ)り、テテオ・ユストという神(かみ)を敬(うやま)う人(ひと)の家(いえ)に行(い)った。その家(いえ)は会堂(かいどう)と隣(とな)り合(あ)っていた。 8会堂司(かいどうづかさ)クリスポは、その家族(かぞく)一同(いちどう)と共(とも)に主(しゅ)を信(しん)じた。また多(おお)くのコリント人(びと)も、パウロの話(はなし)を聞(き)いて信(しん)じ、ぞくぞくとバプテスマを受(う)けた。 9すると、ある夜(よ)、幻(まぼろし)のうちに主(しゅ)がパウロに言(い)われた、「恐(おそ)れるな。語(かた)りつづけよ、黙(だま)っているな。 10あなたには、わたしがついている。だれもあなたを襲(おそ)って、危害(きがい)を加(くわ)えるようなことはない。この町(まち)には、わたしの民(たみ)が大(おお)ぜいいる」。 11パウロは一年(ねん)六か月(げつ)の間(あいだ)ここに腰(こし)をすえて、神(かみ)の言(ことば)を彼(かれ)らの間(あいだ)に教(おし)えつづけた。

12ところが、ガリオがアカヤの総督(そうとく)であった時(とき)、ユダヤ人(じん)たちは一緒(いっしょ)になってパウロを襲(おそ)い、彼(かれ)を法廷(ほうてい)にひっぱって行(い)って訴(うった)えた、 13「この人(ひと)は、律法(りっぽう)にそむいて神(かみ)を拝(おが)むように、人々(ひとびと)をそそのかしています」。 14パウロが口(くち)を開(ひら)こうとすると、ガリオはユダヤ人(じん)たちに言(い)った、「ユダヤ人(じん)諸君(しょくん)、何(なに)か不法(ふほう)行為(こうい)とか、悪質(あくしつ)の犯罪(はんざい)とかのことなら、わたしは当然(とうぜん)、諸君(しょくん)の訴(うった)えを取(と)り上(あ)げもしようが、 15これは諸君(しょくん)の言葉(ことば)や名称(めいしょう)や律法(りっぽう)に関(かん)する問題(もんだい)なのだから、諸君(しょくん)みずから始末(しまつ)するがよかろう。わたしはそんな事(こと)の裁判人(さいばんにん)にはなりたくない」。 16こう言(い)って、彼(かれ)らを法廷(ほうてい)から追(お)いはらった。 17そこで、みんなの者(もの)は、会堂司(かいどうづかさ)ソステネを引(ひ)き捕(とら)え、法廷(ほうてい)の前(まえ)で打(う)ちたたいた。ガリオはそれに対(たい)して、そ知(し)らぬ顔(かお)をしていた。

18さてパウロは、なお幾日(いくにち)ものあいだ滞在(たいざい)した後(のち)、兄弟(きょうだい)たちに別(わか)れを告(つ)げて、シリヤへ向(む)け出帆(しゅっぱん)した。プリスキラとアクラも同行(どうこう)した。パウロは、かねてから、ある誓願(せいがん)を立(た)てていたので、ケンクレヤで頭(あたま)をそった。 19一行(いっこう)がエペソに着(つ)くと、パウロはふたりをそこに残(のこ)しておき、自分(じぶん)だけ会堂(かいどう)にはいって、ユダヤ人(じん)たちと論(ろん)じた。 20人々(ひとびと)は、パウロにもっと長(なが)いあいだ滞在(たいざい)するように願(ねが)ったが、彼(かれ)は聞(き)きいれないで、 21「神(かみ)のみこころなら、またあなたがたのところに帰(かえ)ってこよう」と言(い)って、別(わか)れを告(つ)げ、エペソから船出(ふなで)した。 22それから、カイザリヤで上陸(じょうりく)してエルサレムに上(のぼ)り、教会(きょうかい)にあいさつしてから、アンテオケに下(くだ)って行(い)った。 23そこにしばらくいてから、彼(かれ)はまた出(で)かけ、ガラテヤおよびフルギヤの地方(ちほう)を歴訪(れきほう)して、すべての弟子(でし)たちを力(ちから)づけた。

24さて、アレキサンデリヤ生(うま)れで、聖書(せいしょ)に精通(せいつう)し、しかも、雄弁(ゆうべん)なアポロというユダヤ人(じん)が、エペソにきた。 25この人(ひと)は主(しゅ)の道(みち)に通(つう)じており、また、霊(れい)に燃(も)えてイエスのことを詳(くわ)しく語(かた)ったり教(おし)えたりしていたが、ただヨハネのバプテスマしか知(し)っていなかった。 26彼(かれ)は会堂(かいどう)で大胆(だいたん)に語(かた)り始(はじ)めた。それをプリスキラとアクラとが聞(き)いて、彼(かれ)を招(まね)きいれ、さらに詳(くわ)しく神(かみ)の道(みち)を解(と)き聞(き)かせた。 27それから、アポロがアカヤに渡(わた)りたいと思(おも)っていたので、兄弟(きょうだい)たちは彼(かれ)を励(はげ)まし、先方(せんぽう)の弟子(でし)たちに、彼(かれ)をよく迎(むか)えるようにと、手紙(てがみ)を書(か)き送(おく)った。彼(かれ)は到着(とうちゃく)して、すでにめぐみによって信者(しんじゃ)になっていた人(ひと)たちに、大(おお)いに力(ちから)になった。 28彼(かれ)はイエスがキリストであることを、聖書(せいしょ)に基(もとづ)いて示(しめ)し、公然(こうぜん)と、ユダヤ人(じん)たちを激(はげ)しい語調(ごちょう)で論破(ろんぱ)したからである。

第一九章

1アポロがコリントにいた時(とき)、パウロは奥地(おくち)をとおってエペソにきた。そして、ある弟子(でし)たちに出会(であ)って、 2彼(かれ)らに「あなたがたは、信仰(しんこう)にはいった時(とき)に、聖霊(せいれい)を受(う)けたのか」と尋(たず)ねたところ、「いいえ、聖霊(せいれい)なるものがあることさえ、聞(き)いたことがありません」と答(こた)えた。 3「では、だれの名(な)によってバプテスマを受(う)けたのか」と彼(かれ)がきくと、彼(かれ)らは「ヨハネの名(な)によるバプテスマを受(う)けました」と答(こた)えた。 4そこで、パウロが言(い)った、「ヨハネは悔改(くいあらた)めのバプテスマを授(さづ)けたが、それによって、自分(じぶん)のあとに来(く)るかた、すなわち、イエスを信(しん)じるように、人々(ひとびと)に勧(すす)めたのである」。 5人々(ひとびと)はこれを聞(き)いて、主(しゅ)イエスの名(な)によるバプテスマを受(う)けた。 6そして、パウロが彼(かれ)らの上(うえ)に手(て)をおくと、聖霊(せいれい)が彼(かれ)らにくだり、それから彼(かれ)らは異言(いげん)を語(かた)ったり、預言(よげん)をしたりし出(だ)した。 7その人(ひと)たちはみんなで十二人(にん)ほどであった。

8それから、パウロは会堂(かいどう)にはいって、三か月(げつ)のあいだ、大胆(だいたん)に神(かみ)の国(くに)について論(ろん)じ、また勧(すす)めをした。 9ところが、ある人(ひと)たちは心(こころ)をかたくなにして、信(しん)じようとせず、会衆(かいしゅう)の前(まえ)でこの道(みち)をあしざまに言(い)ったので、彼(かれ)は弟子(でし)たちを引(ひ)き連(つ)れて、その人(ひと)たちから離(はな)れ、ツラノの講堂(こうどう)で毎日(まいにち)論(ろん)じた。 10それが二年間(ねんかん)も続(つづ)いたので、アジヤに住(す)んでいる者(もの)は、ユダヤ人(じん)もギリシヤ人(じん)も皆(みな)、主(しゅ)の言(ことば)を聞(き)いた。

11神(かみ)は、パウロの手(て)によって、異常(いじょう)な力(ちから)あるわざを次々(つぎつぎ)になされた。 12たとえば、人々(ひとびと)が、彼(かれ)の身(み)につけている手(て)ぬぐいや前掛(まえか)けを取(と)って病人(びょうにん)にあてると、その病気(びょうき)が除(のぞ)かれ、悪霊(あくれい)が出(で)て行(い)くのであった。 13そこで、ユダヤ人(じん)のまじない師(し)で、遍歴(へんれき)している者(もの)たちが、悪霊(あくれい)につかれている者(もの)にむかって、主(しゅ)イエスの名(な)をとなえ、「パウロの宣(の)べ伝(つた)えているイエスによって命(めい)じる。出(で)て行(い)け」と、ためしに言(い)ってみた。 14ユダヤの祭司長(さいしちょう)スケワという者(もの)の七人(にん)のむすこたちも、そんなことをしていた。 15すると悪霊(あくれい)がこれに対(たい)して言(い)った、「イエスなら自分(じぶん)は知(し)っている。パウロもわかっている。だが、おまえたちは、いったい何者(なにもの)だ」。 16そして、悪霊(あくれい)につかれている人(ひと)が、彼(かれ)らに飛(と)びかかり、みんなを押(おさ)えつけて負(ま)かしたので、彼(かれ)らは傷(きず)を負(お)ったまま裸(はだか)になって、その家(いえ)を逃(に)げ出(だ)した。 17このことがエペソに住(す)むすべてのユダヤ人(じん)やギリシヤ人(じん)に知(し)れわたって、みんな恐怖(きょうふ)に襲(おそ)われ、そして、主(しゅ)イエスの名(な)があがめられた。 18また信者(しんじゃ)になった者(もの)が大(おお)ぜいきて、自分(じぶん)の行為(こうい)を打(う)ちあけて告白(こくはく)した。 19それから、魔術(まじゅつ)を行(おこな)っていた多(おお)くの者(もの)が、魔術(まじゅつ)の本(ほん)を持(も)ち出(だ)してきては、みんなの前(まえ)で焼(や)き捨(す)てた。その値段(ねだん)を総計(そうけい)したところ、銀(ぎん)五万にも上(のぼ)ることがわかった。 20このようにして、主(しゅ)の言(ことば)はますます盛(さか)んにひろまり、また力(ちから)を増(ま)し加(くわ)えていった。

21これらの事(こと)があった後(のち)、パウロは御霊(みたま)に感(かん)じて、マケドニヤ、アカヤをとおって、エルサレムへ行(い)く決心(けっしん)をした。そして言(い)った、「わたしは、そこに行(い)ったのち、ぜひローマをも見(み)なければならない」。 22そこで、自分(じぶん)に仕(つか)えている者(もの)の中(なか)から、テモテとエラストとのふたりを、まずマケドニヤに送(おく)り出(だ)し、パウロ自身(じしん)は、なおしばらくアジヤにとどまった。

23そのころ、この道(みち)について容易(ようい)ならぬ騒動(そうどう)が起(おこ)った。 24そのいきさつは、こうである。デメテリオという銀細工人(ぎんざいくにん)が、銀(ぎん)でアルテミス神殿(しんでん)の模型(もけい)を造(つく)って、職人(しょくにん)たちに少(すく)なからぬ利益(りえき)を得(え)させていた。 25この男(おとこ)がその職人(しょくにん)たちや、同類(どうるい)の仕事(しごと)をしていた者(もの)たちを集(あつ)めて言(い)った、「諸君(しょくん)、われわれがこの仕事(しごと)で、金(かね)もうけをしていることは、ご承知(しょうち)のとおりだ。 26しかるに、諸君(しょくん)の見聞(みき)きしているように、あのパウロが、手(て)で造(つく)られたものは神様(かみさま)ではないなどと言(い)って、エペソばかりか、ほとんどアジヤ全体(ぜんたい)にわたって、大(おお)ぜいの人々(ひとびと)を説(と)きつけて誤(あやま)らせた。 27これでは、お互(たがい)の仕事(しごと)に悪評(あくひょう)が立(た)つおそれがあるばかりか、大(おお)女神(めがみ)アルテミスの宮(みや)も軽(かろ)んじられ、ひいては全(ぜん)アジヤ、いや全(ぜん)世界(せかい)が拝(おが)んでいるこの大(おお)女神(めがみ)のご威光(いこう)さえも、消(き)えてしまいそうである」。

28これを聞(き)くと、人々(ひとびと)は怒(いか)りに燃(も)え、大声(おおごえ)で「大(おお)いなるかな、エペソ人(びと)のアルテミス」と叫(さけ)びつづけた。 29そして、町中(まちじゅう)が大(だい)混乱(こんらん)に陥(おちい)り、人々(ひとびと)はパウロの道連(みちづ)れであるマケドニヤ人(びと)ガイオとアリスタルコとを捕(とら)えて、いっせいに劇場(げきじょう)へなだれ込(こ)んだ。 30パウロは群衆(ぐんしゅう)の中(なか)にはいって行(い)こうとしたが、弟子(でし)たちがそれをさせなかった。 31アジヤ州(しゅう)の議員(ぎいん)で、パウロの友人(ゆうじん)であった人(ひと)たちも、彼(かれ)に使(つかい)をよこして、劇場(げきじょう)にはいって行(い)かないようにと、しきりに頼(たの)んだ。 32中(なか)では、集会(しゅうかい)が混乱(こんらん)に陥(おちい)ってしまって、ある者(もの)はこのことを、ほかの者(もの)はあのことを、どなりつづけていたので、大多数(だいたすう)の者(もの)は、なんのために集(あつ)まったのかも、わからないでいた。 33そこで、ユダヤ人(じん)たちが、前(まえ)に押(お)し出(だ)したアレキサンデルなる者(もの)を、群衆(ぐんしゅう)の中(なか)のある人(ひと)たちが促(うなが)したため、彼(かれ)は手(て)を振(ふ)って、人々(ひとびと)に弁明(べんめい)を試(こころ)みようとした。 34ところが、彼(かれ)がユダヤ人(じん)だとわかると、みんなの者(もの)がいっせいに「大(おお)いなるかな、エペソ人(びと)のアルテミス」と二時間(じかん)ばかりも叫(さけ)びつづけた。 35ついに、市(し)の書記(しょき)役(やく)が群衆(ぐんしゅう)を押(お)し静(しず)めて言(い)った、「エペソの諸君(しょくん)、エペソ市(し)が大(おお)女神(めがみ)アルテミスと、天(あま)くだったご神体(しんたい)との守護(しゅご)役(やく)であることを知(し)らない者(もの)が、ひとりでもいるだろうか。 36これは否定(ひてい)のできない事実(じじつ)であるから、諸君(しょくん)はよろしく静(しず)かにしているべきで、乱暴(らんぼう)な行動(こうどう)は、いっさいしてはならない。 37諸君(しょくん)はこの人(ひと)たちをここにひっぱってきたが、彼(かれ)らは宮(みや)を荒(あら)す者(もの)でも、われわれの女神(めがみ)をそしる者(もの)でもない。 38だから、もしデメテリオなりその職人(しょくにん)仲間(なかま)なりが、だれかに対(たい)して訴(うった)え事(こと)があるなら、裁判(さいばん)の日(ひ)はあるし、総督(そうとく)もいるのだから、それぞれ訴(うった)え出(で)るがよい。 39しかし、何(なに)かもっと要求(ようきゅう)したい事(こと)があれば、それは正式(せいしき)の議会(ぎかい)で解決(かいけつ)してもらうべきだ。 40きょうの事件(じけん)については、この騒(さわ)ぎを弁護(べんご)できるような理由(りゆう)が全(まった)くないのだから、われわれは治安(ちあん)をみだす罪(つみ)に問(と)われるおそれがある」。 41こう言(い)って、彼(かれ)はこの集会(しゅうかい)を解散(かいさん)させた。

第二〇章

1騒(さわ)ぎがやんだ後(のち)、パウロは弟子(でし)たちを呼(よ)び集(あつ)めて激励(げきれい)を与(あた)えた上(うえ)、別(わか)れのあいさつを述(の)べ、マケドニヤへ向(む)かって出発(しゅっぱつ)した。 2そして、その地方(ちほう)をとおり、多(おお)くの言葉(ことば)で人々(ひとびと)を励(はげ)ましたのち、ギリシヤにきた。 3彼(かれ)はそこで三か月(げつ)を過(す)ごした。それからシリヤへ向(む)かって、船出(ふなで)しようとしていた矢先(やさき)、彼(かれ)に対(たい)するユダヤ人(じん)の陰謀(いんぼう)が起(おこ)ったので、マケドニヤを経由(けいゆ)して帰(かえ)ることに決(けっ)した。 4プロの子(こ)であるエペソ人(びと)ソパテロ、テサロニケ人(びと)アリスタルコとセクンド、デルベ人(びと)ガイオ、それからテモテ、またアジヤ人(びと)テキコとトロピモがパウロの同行者(どうこうしゃ)であった。 5この人(ひと)たちは先(せん)発(ぱつ)して、トロアスでわたしたちを待(ま)っていた。 6わたしたちは、除酵祭(じょこうさい)が終(おわ)ったのちに、ピリピから出帆(しゅっぱん)し、五日(か)かかってトロアスに到着(とうちゃく)して、彼(かれ)らと落(お)ち合(あ)い、そこに七日間(なぬかかん)滞在(たいざい)した。

7週(しゅう)の初(はじ)めの日(ひ)に、わたしたちがパンをさくために集(あつ)まった時(とき)、パウロは翌日(よくじつ)出発(しゅっぱつ)することにしていたので、しきりに人々(ひとびと)と語(かた)り合(あ)い、夜中(よなか)まで語(かた)りつづけた。 8わたしたちが集(あつ)まっていた屋上(おくじょう)の間(ま)には、あかりがたくさんともしてあった。 9ユテコという若者(わかもの)が窓(まど)に腰(こし)をかけていたところ、パウロの話(はなし)がながながと続(つづ)くので、ひどく眠(ねむ)けがさしてきて、とうとうぐっすり寝入(ねい)ってしまい、三階(かい)から下(した)に落(お)ちた。抱(いだ)き起(おこ)してみたら、もう死(し)んでいた。 10そこでパウロは降(お)りてきて、若者(わかもの)の上(うえ)に身(み)をかがめ、彼(かれ)を抱(いだ)きあげて、「騒(さわ)ぐことはない。まだ命(いのち)がある」と言(い)った。 11そして、また上(あ)がって行(い)って、パンをさいて食(た)べてから、明(あ)けがたまで長(なが)いあいだ人々(ひとびと)と語(かた)り合(あ)って、ついに出発(しゅっぱつ)した。 12人々(ひとびと)は生(い)きかえった若者(わかもの)を連(つ)れかえり、ひとかたならず慰(なぐさ)められた。

13さて、わたしたちは先(さき)に舟(ふね)に乗(の)り込(こ)み、アソスへ向(む)かって出帆(しゅっぱん)した。そこからパウロを舟(ふね)に乗(の)せて行(い)くことにしていた。彼(かれ)だけは陸路(りくろ)をとることに決(き)めていたからである。 14パウロがアソスで、わたしたちと落(お)ち合(あ)った時(とき)、わたしたちは彼(かれ)を舟(ふね)に乗(の)せてミテレネに行(い)った。 15そこから出帆(しゅっぱん)して、翌日(よくじつ)キヨスの沖合(おきあい)にいたり、次(つぎ)の日(ひ)にサモスに寄(よ)り、その翌日(よくじつ)ミレトに着(つ)いた。 16それは、パウロがアジヤで時間(じかん)をとられないため、エペソには寄(よ)らないで続(ぞっ)航(こう)することに決(き)めていたからである。彼(かれ)は、できればペンテコステの日(ひ)には、エルサレムに着(つ)いていたかったので、旅(たび)を急(いそ)いだわけである。

17そこでパウロは、ミレトからエペソに使(つかい)をやって、教会(きょうかい)の長老(ちょうろう)たちを呼(よ)び寄(よ)せた。 18そして、彼(かれ)のところに寄(よ)り集(あつ)まってきた時(とき)、彼(かれ)らに言(い)った。

「わたしが、アジヤの地(ち)に足(あし)を踏(ふ)み入(い)れた最初(さいしょ)の日(ひ)以来(いらい)、いつもあなたがたとどんなふうに過(す)ごしてきたか、よくご存(ぞん)じである。 19すなわち、謙遜(けんそん)の限(かぎ)りをつくし、涙(なみだ)を流(なが)し、ユダヤ人(じん)の陰謀(いんぼう)によってわたしの身(み)に及(およ)んだ数々(かずかず)の試練(しれん)の中(なか)にあって、主(しゅ)に仕(つか)えてきた。 20また、あなたがたの益(えき)になることは、公衆(こうしゅう)の前(まえ)でも、また家々(いえいえ)でも、すべてあますところなく話(はな)して聞(き)かせ、また教(おし)え、 21ユダヤ人(じん)にもギリシヤ人(じん)にも、神(かみ)に対(たい)する悔改(くいあらた)めと、わたしたちの主(しゅ)イエスに対(たい)する信仰(しんこう)とを、強(つよ)く勧(すす)めてきたのである。 22今(いま)や、わたしは御霊(みたま)に迫(せま)られてエルサレムへ行(い)く。あの都(みやこ)で、どんな事(こと)がわたしの身(み)にふりかかって来(く)るか、わたしにはわからない。 23ただ、聖霊(せいれい)が至(いた)るところの町々(まちまち)で、わたしにはっきり告(つ)げているのは、投獄(とうごく)と患難(かんなん)とが、わたしを待(ま)ちうけているということだ。 24しかし、わたしは自分(じぶん)の行程(こうてい)を走(はし)り終(お)え、主(しゅ)イエスから賜(たま)わった、神(かみ)のめぐみの福音(ふくいん)をあかしする任務(にんむ)を果(はた)し得(え)さえしたら、このいのちは自分(じぶん)にとって、少(すこ)しも惜(お)しいとは思(おも)わない。 25わたしはいま信(しん)じている、あなたがたの間(あいだ)を歩(ある)き回(まわ)って御国(みくに)を宣(の)べ伝(つた)えたこのわたしの顔(かお)を、みんなが今後(こんご)二度(ど)と見(み)ることはあるまい。 26だから、きょう、この日(ひ)にあなたがたに断言(だんげん)しておく。わたしは、すべての人(ひと)の血(ち)について、なんら責任(せきにん)がない。 27神(かみ)のみ旨(むね)を皆(みな)あますところなく、あなたがたに伝(つた)えておいたからである。 28どうか、あなたがた自身(じしん)に気(き)をつけ、また、すべての群(む)れに気(き)をくばっていただきたい。聖霊(せいれい)は、神(かみ)が御子(みこ)の血(ち)であがない取(と)られた神(かみ)の教会(きょうかい)を牧(ぼく)させるために、あなたがたをその群(む)れの監督者(かんとくしゃ)にお立(た)てになったのである。 29わたしが去(さ)った後(のち)、狂暴(きょうぼう)なおおかみが、あなたがたの中(なか)にはいり込(こ)んできて、容赦(ようしゃ)なく群(む)れを荒(あら)すようになることを、わたしは知(し)っている。 30また、あなたがた自身(じしん)の中(なか)からも、いろいろ曲(まが)ったことを言(い)って、弟子(でし)たちを自分(じぶん)の方(ほう)に、ひっぱり込(こ)もうとする者(もの)らが起(おこ)るであろう。 31だから、目(め)をさましていなさい。そして、わたしが三年(ねん)の間(あいだ)、夜(よる)も昼(ひる)も涙(なみだ)をもって、あなたがたひとりびとりを絶(た)えずさとしてきたことを、忘(わす)れないでほしい。 32今(いま)わたしは、主(しゅ)とその恵(めぐ)みの言(ことば)とに、あなたがたをゆだねる。御言(みことば)には、あなたがたの徳(とく)をたて、聖(せい)別(べつ)されたすべての人々(ひとびと)と共(とも)に、御国(みくに)をつがせる力(ちから)がある。 33わたしは、人(ひと)の金(きん)や銀(ぎん)や衣服(いふく)をほしがったことはない。 34あなたがた自身(じしん)が知(し)っているとおり、わたしのこの両手(りょうて)は、自分(じぶん)の生活(せいかつ)のためにも、また一緒(いっしょ)にいた人(ひと)たちのためにも、働(はたら)いてきたのだ。 35わたしは、あなたがたもこのように働(はたら)いて、弱(よわ)い者(もの)を助(たす)けなければならないこと、また『受(う)けるよりは与(あた)える方(ほう)が、さいわいである』と言(い)われた主(しゅ)イエスの言葉(ことば)を記憶(きおく)しているべきことを、万事(ばんじ)について教(おし)え示(しめ)したのである」。

36こう言(い)って、パウロは一同(いちどう)と共(とも)にひざまずいて祈(いの)った。 37みんなの者(もの)は、はげしく泣(な)き悲(かな)しみ、パウロの首(くび)を抱(いだ)いて、幾度(いくど)も接吻(せっぷん)し、 38もう二度(ど)と自分(じぶん)の顔(かお)を見(み)ることはあるまいと彼(かれ)が言(い)ったので、特(とく)に心(こころ)を痛(いた)めた。それから彼(かれ)を舟(ふね)まで見送(みおく)った。

第二一章

1さて、わたしたちは人々(ひとびと)と別(わか)れて船出(ふなで)してから、コスに直航(ちょっこう)し、次(つぎ)の日(ひ)はロドスに、そこからパタラに着(つ)いた。 2ここでピニケ行(い)きの舟(ふね)を見(み)つけたので、それに乗(の)り込(こ)んで出帆(しゅっぱん)した。 3やがてクプロが見(み)えてきたが、それを左手(ひだりて)にして通(とお)りすぎ、シリヤへ航行(こうこう)をつづけ、ツロに入港(にゅうこう)した。ここで積荷(つみに)が陸上(りくあ)げされることになっていたからである。 4わたしたちは、弟子(でし)たちを捜(さが)し出(だ)して、そこに七日間(なぬかかん)泊(と)まった。ところが彼(かれ)らは、御霊(みたま)の示(しめ)しを受(う)けて、エルサレムには上(のぼ)って行(い)かないようにと、しきりにパウロに注意(ちゅうい)した。 5しかし、滞在(たいざい)期間(きかん)が終(おわ)った時(とき)、わたしたちはまた旅立(たびだ)つことにしたので、みんなの者(もの)は、妻(つま)や子供(こども)を引(ひ)き連(つ)れて、町(まち)はずれまで、わたしたちを見送(みおく)りにきてくれた。そこで、共(とも)に海岸(かいがん)にひざまずいて祈(いの)り、 6互(たがい)に別(わか)れを告(つ)げた。それから、わたしたちは舟(ふね)に乗(の)り込(こ)み、彼(かれ)らはそれぞれ自分(じぶん)の家(いえ)に帰(かえ)った。

7わたしたちは、ツロからの航行(こうこう)を終(おわ)ってトレマイに着(つ)き、そこの兄弟(きょうだい)たちにあいさつをし、彼(かれ)らのところに一日(にち)滞在(たいざい)した。 8翌日(よくじつ)そこをたって、カイザリヤに着(つ)き、かの七人(にん)のひとりである伝道者(でんどうしゃ)ピリポの家(いえ)に行(い)き、そこに泊(と)まった。 9この人(ひと)に四人(にん)の娘(むすめ)があったが、いずれも処女(しょじょ)であって、預言(よげん)をしていた。 10幾日(いくにち)か滞在(たいざい)している間(あいだ)に、アガボという預言者(よげんしゃ)がユダヤから下(くだ)ってきた。 11そして、わたしたちのところにきて、パウロの帯(おび)を取(と)り、それで自分(じぶん)の手足(てあし)を縛(しば)って言(い)った、「聖霊(せいれい)がこうお告(つ)げになっている、『この帯(おび)の持(も)ち主(ぬし)を、ユダヤ人(じん)たちがエルサレムでこのように縛(しば)って、異邦人(いほうじん)の手(て)に渡(わた)すであろう』」。 12わたしたちはこれを聞(き)いて、土地(とち)の人(ひと)たちと一緒(いっしょ)になって、エルサレムには上(のぼ)って行(い)かないようにと、パウロに願(ねが)い続(つづ)けた。 13その時(とき)パウロは答(こた)えた、「あなたがたは、泣(な)いたり、わたしの心(こころ)をくじいたりして、いったい、どうしようとするのか。わたしは、主(しゅ)イエスの名(な)のためなら、エルサレムで縛(しば)られるだけでなく、死(し)ぬことをも覚悟(かくご)しているのだ」。 14こうして、パウロが勧告(かんこく)を聞(き)きいれてくれないので、わたしたちは「主(しゅ)のみこころが行(おこな)われますように」と言(い)っただけで、それ以上(いじょう)、何(なに)も言(い)わなかった。

15数日後(すうじつご)、わたしたちは旅装(りょそう)を整(ととの)えてエルサレムへ上(のぼ)って行(い)った。 16カイザリヤの弟子(でし)たちも数人(すうにん)、わたしたちと同行(どうこう)して、古(ふる)くからの弟子(でし)であるクプロ人(びと)マナソンの家(いえ)に案内(あんない)してくれた。わたしたちはその家(いえ)に泊(と)まることになっていたのである。

17わたしたちがエルサレムに到着(とうちゃく)すると、兄弟(きょうだい)たちは喜(よろこ)んで迎(むか)えてくれた。 18翌日(よくじつ)パウロはわたしたちを連(つ)れて、ヤコブを訪問(ほうもん)しに行(い)った。そこに長老(ちょうろう)たちがみな集(あつ)まっていた。 19パウロは彼(かれ)らにあいさつをした後(のち)、神(かみ)が自分(じぶん)の働(はたら)きをとおして、異邦人(いほうじん)の間(あいだ)になさった事(こと)どもを一々(いちいち)説明(せつめい)した。 20一同(いちどう)はこれを聞(き)いて神(かみ)をほめたたえ、そして彼(かれ)に言(い)った、「兄弟(きょうだい)よ、ご承知(しょうち)のように、ユダヤ人(じん)の中(なか)で信者(しんじゃ)になった者(もの)が、数万(すうまん)にものぼっているが、みんな律法(りっぽう)に熱心(ねっしん)な人(ひと)たちである。 21ところが、彼(かれ)らが伝(つた)え聞(き)いているところによれば、あなたは異邦人(いほうじん)の中(なか)にいるユダヤ人(じん)一同(いちどう)に対(たい)して、子供(こども)に割礼(かつれい)を施(ほどこ)すな、またユダヤの慣例(かんれい)にしたがうなと言(い)って、モーセにそむくことを教(おし)えている、ということである。 22どうしたらよいか。あなたがここにきていることは、彼(かれ)らもきっと聞(き)き込(こ)むに違(ちが)いない。 23ついては、今(いま)わたしたちが言(い)うとおりのことをしなさい。わたしたちの中(なか)に、誓願(せいがん)を立(た)てている者(もの)が四人(にん)いる。 24この人(ひと)たちを連(つ)れて行(い)って、彼(かれ)らと共(とも)にきよめを行(おこな)い、また彼(かれ)らの頭(あたま)をそる費用(ひよう)を引(ひ)き受(う)けてやりなさい。そうすれば、あなたについて、うわさされていることは、根(ね)も葉(は)もないことで、あなたは律法(りっぽう)を守(まも)って、正(ただ)しい生活(せいかつ)をしていることが、みんなにわかるであろう。 25異邦人(いほうじん)で信者(しんじゃ)になった人(ひと)たちには、すでに手紙(てがみ)で、偶像(ぐうぞう)に供(そな)えたものと、血(ち)と、絞(し)め殺(ころ)したものと、不品行(ふひんこう)とを、慎(つつし)むようにとの決議(けつぎ)が、わたしたちから知(し)らせてある」。 26そこでパウロは、その次(つぎ)の日(ひ)に四人(にん)の者(もの)を連(つ)れて、彼(かれ)らと共(とも)にきよめを受(う)けてから宮(みや)にはいった。そしてきよめの期間(きかん)が終(おわ)って、ひとりびとりのために供(そな)え物(もの)をささげる時(とき)を報告(ほうこく)しておいた。

27七日(なぬか)の期間(きかん)が終(おわ)ろうとしていた時(とき)、アジヤからきたユダヤ人(じん)たちが、宮(みや)の内(うち)でパウロを見(み)かけて、群衆(ぐんしゅう)全体(ぜんたい)を煽動(せんどう)しはじめ、パウロに手(て)をかけて叫(さけ)び立(た)てた、 28「イスラエルの人々(ひとびと)よ、加勢(かせい)にきてくれ。この人(ひと)は、いたるところで民(たみ)と律法(りっぽう)とこの場所(ばしょ)にそむくことを、みんなに教(おし)えている。その上(うえ)に、ギリシヤ人(じん)を宮(みや)の内(うち)に連(つ)れ込(こ)んで、この神聖(しんせい)な場所(ばしょ)を汚(けが)したのだ」。 29彼(かれ)らは、前(まえ)にエペソ人(びと)トロピモが、パウロと一緒(いっしょ)に町(まち)を歩(ある)いていたのを見(み)かけて、その人(ひと)をパウロが宮(みや)の内(うち)に連(つ)れ込(こ)んだのだと思(おも)ったのである。 30そこで、市(し)全体(ぜんたい)が騒(さわ)ぎ出(だ)し、民衆(みんしゅう)が駆(か)け集(あつ)まってきて、パウロを捕(とら)え、宮(みや)の外(そと)に引(ひ)きずり出(だ)した。そして、すぐそのあとに宮(みや)の門(もん)が閉(と)ざされた。 31彼(かれ)らがパウロを殺(ころ)そうとしていた時(とき)に、エルサレム全体(ぜんたい)が混乱(こんらん)状態(じょうたい)に陥(おちい)っているとの情報(じょうほう)が、守備(しゅび)隊(たい)の千卒長(せんそつちょう)にとどいた。 32そこで、彼(かれ)はさっそく、兵卒(へいそつ)や百卒長(ひゃくそつちょう)たちを率(ひき)いて、その場(ば)に駆(か)けつけた。人々(ひとびと)は千卒長(せんそつちょう)や兵卒(へいそつ)たちを見(み)て、パウロを打(う)ちたたくのをやめた。 33千卒長(せんそつちょう)は近寄(ちかよ)ってきてパウロを捕(とら)え、彼(かれ)を二重(にじゅう)の鎖(くさり)で縛(しば)っておくように命(めい)じた上(うえ)、パウロは何者(なにもの)か、また何(なに)をしたのか、と尋(たず)ねた。 34しかし、群衆(ぐんしゅう)がそれぞれ違(ちが)ったことを叫(さけ)びつづけるため、騒(さわ)がしくて、確(たし)かなことがわからないので、彼(かれ)はパウロを兵営(へいえい)に連(つ)れて行(い)くように命(めい)じた。 35パウロが階段(かいだん)にさしかかった時(とき)には、群衆(ぐんしゅう)の暴行(ぼうこう)を避(さ)けるため、兵卒(へいそつ)たちにかつがれて行(い)くという始末(しまつ)であった。 36大(おお)ぜいの民衆(みんしゅう)が「あれをやっつけてしまえ」と叫(さけ)びながら、ついてきたからである。

37パウロが兵営(へいえい)の中(なか)に連(つ)れて行(い)かれようとした時(とき)、千卒長(せんそつちょう)に、「ひと言(こと)あなたにお話(はな)してもよろしいですか」と尋(たず)ねると、千卒長(せんそつちょう)が言(い)った、「おまえはギリシヤ語(ご)が話(はな)せるのか。 38では、もしかおまえは、先(さき)ごろ反乱(はんらん)を起(おこ)した後(のち)、四千人(にん)の刺客(しかく)を引(ひ)き連(つ)れて荒野(あらの)へ逃(に)げて行(い)ったあのエジプト人(じん)ではないのか」。 39パウロは答(こた)えた、「わたしはタルソ生(うま)れのユダヤ人(じん)で、キリキヤのれっきとした都市(とし)の市民(しみん)です。お願(ねが)いですが、民衆(みんしゅう)に話(はなし)をさせて下(くだ)さい」。 40千卒長(せんそつちょう)が許(ゆる)してくれたので、パウロは階段(かいだん)の上(うえ)に立(た)ち、民衆(みんしゅう)にむかって手(て)を振(ふ)った。すると、一同(いちどう)がすっかり静粛(せいしゅく)になったので、パウロはヘブル語(ご)で話(はな)し出(だ)した。

第二二章

1「兄弟(きょうだい)たち、父(ちち)たちよ、いま申(もう)し上(あ)げるわたしの弁明(べんめい)を聞(き)いていただきたい」。 2パウロが、ヘブル語(ご)でこう語(かた)りかけるのを聞(き)いて、人々(ひとびと)はますます静粛(せいしゅく)になった。 3そこで彼(かれ)は言葉(ことば)をついで言(い)った、「わたしはキリキヤのタルソで生(うま)れたユダヤ人(じん)であるが、この都(みやこ)で育(そだ)てられ、ガマリエルのひざもとで先祖(せんぞ)伝来(でんらい)の律法(りっぽう)について、きびしい薫陶(くんとう)を受(う)け、今日(きょう)の皆(みな)さんと同(おな)じく神(かみ)に対(たい)して熱心(ねっしん)な者(もの)であった。 4そして、この道(みち)を迫害(はくがい)し、男(おとこ)であれ女(おんな)であれ、縛(しば)りあげて獄(ごく)に投(とう)じ、彼(かれ)らを死(し)に至(いた)らせた。 5このことは、大祭司(だいさいし)も長老(ちょうろう)たち一同(いちどう)も、証明(しょうめい)するところである。さらにわたしは、この人(ひと)たちからダマスコの同志(どうし)たちへあてた手紙(てがみ)をもらって、その地(ち)にいる者(もの)たちを縛(しば)りあげ、エルサレムにひっぱってきて、処罰(しょばつ)するため、出(で)かけて行(い)った。

6旅(たび)をつづけてダマスコの近(ちか)くにきた時(とき)に、真昼(まひる)ごろ、突然(とつぜん)、つよい光(ひかり)が天(てん)からわたしをめぐり照(てら)した。 7わたしは地(ち)に倒(たお)れた。そして、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか』と、呼(よ)びかける声(こえ)を聞(き)いた。 8これに対(たい)してわたしは、『主(しゅ)よ、あなたはどなたですか』と言(い)った。すると、その声(こえ)が、『わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているナザレ人(びと)イエスである』と答(こた)えた。 9わたしと一緒(いっしょ)にいた者(もの)たちは、その光(ひかり)は見(み)たが、わたしに語(かた)りかけたかたの声(こえ)は聞(き)かなかった。 10わたしが『主(しゅ)よ、わたしは何(なに)をしたらよいでしょうか』と尋(たず)ねたところ、主(しゅ)は言(い)われた、『起(お)きあがってダマスコに行(い)きなさい。そうすれば、あなたがするように決(き)めてある事(こと)が、すべてそこで告(つ)げられるであろう』。 11わたしは、光(ひかり)の輝(かがや)きで目(め)がくらみ、何(なに)も見(み)えなくなっていたので、連(つ)れの者(もの)たちに手(て)を引(ひ)かれながら、ダマスコに行(い)った。

12すると、律法(りっぽう)に忠実(ちゅうじつ)で、ダマスコ在住(ざいじゅう)のユダヤ人(じん)全体(ぜんたい)に評判(ひょうばん)のよいアナニヤという人(ひと)が、 13わたしのところにきて、そばに立(た)ち、『兄弟(きょうだい)サウロよ、見(み)えるようになりなさい』と言(い)った。するとその瞬間(しゅんかん)に、わたしの目(め)が開(ひら)いて、彼(かれ)の姿(すがた)が見(み)えた。 14彼(かれ)は言(い)った、『わたしたちの先祖(せんぞ)の神(かみ)が、あなたを選(えら)んでみ旨(むね)を知(し)らせ、かの義人(ぎじん)を見(み)させ、その口(くち)から声(こえ)をお聞(き)かせになった。 15それはあなたが、その見聞(みき)きした事(こと)につき、すべての人(ひと)に対(たい)して、彼(かれ)の証人(しょうにん)になるためである。 16そこで今(いま)、なんのためらうことがあろうか。すぐ立(た)って、み名(な)をとなえてバプテスマを受(う)け、あなたの罪(つみ)を洗(あら)い落(おと)しなさい』。

17それからわたしは、エルサレムに帰(かえ)って宮(みや)で祈(いの)っているうちに、夢(ゆめ)うつつになり、 18主(しゅ)にまみえたが、主(しゅ)は言(い)われた、『急(いそ)いで、すぐにエルサレムを出(で)て行(い)きなさい。わたしについてのあなたのあかしを、人々(ひとびと)が受(う)けいれないから』。 19そこで、わたしが言(い)った、『主(しゅ)よ、彼(かれ)らは、わたしがいたるところの会堂(かいどう)で、あなたを信(しん)じる人々(ひとびと)を獄(ごく)に投(とう)じたり、むち打(う)ったりしていたことを、知(し)っています。 20また、あなたの証人(しょうにん)ステパノの血(ち)が流(なが)された時(とき)も、わたしは立(た)ち合(あ)っていてそれに賛成(さんせい)し、また彼(かれ)を殺(ころ)した人(ひと)たちの上着(うわぎ)の番(ばん)をしていたのです』。 21すると、主(しゅ)がわたしに言(い)われた、『行(い)きなさい。わたしが、あなたを遠(とお)く異邦(いほう)の民(たみ)へつかわすのだ』」。

22彼(かれ)の言葉(ことば)をここまで聞(き)いていた人々(ひとびと)は、このとき、声(こえ)を張(は)りあげて言(い)った、「こんな男(おとこ)は地上(ちじょう)から取(と)り除(のぞ)いてしまえ。生(い)かしおくべきではない」。 23人々(ひとびと)がこうわめき立(た)てて、空中(くうちゅう)に上着(うわぎ)を投(な)げ、ちりをまき散(ち)らす始末(しまつ)であったので、 24千卒長(せんそつちょう)はパウロを兵営(へいえい)に引(ひ)き入(い)れるように命(めい)じ、どういうわけで、彼(かれ)に対(たい)してこんなにわめき立(た)てているのかを確(たし)かめるため、彼(かれ)をむちの拷問(ごうもん)にかけて、取(と)り調(しら)べるように言(い)いわたした。 25彼(かれ)らがむちを当(あ)てるため、彼(かれ)を縛(しば)りつけていた時(とき)、パウロはそばに立(た)っている百卒長(ひゃくそつちょう)に言(い)った、「ローマの市民(しみん)たる者(もの)を、裁判(さいばん)にかけもしないで、むち打(う)ってよいのか」。 26百卒長(ひゃくそつちょう)はこれを聞(き)き、千卒長(せんそつちょう)のところに行(い)って報告(ほうこく)し、そして言(い)った、「どうなさいますか。あの人(ひと)はローマの市民(しみん)なのです」。 27そこで、千卒長(せんそつちょう)がパウロのところにきて言(い)った、「わたしに言(い)ってくれ。あなたはローマの市民(しみん)なのか」。パウロは「そうです」と言(い)った。 28これに対(たい)して千卒長(せんそつちょう)が言(い)った、「わたしはこの市民(しみん)権(けん)を、多額(たがく)の金(かね)で買(か)い取(と)ったのだ」。するとパウロは言(い)った、「わたしは生(うま)れながらの市民(しみん)です」。 29そこで、パウロを取(と)り調(しら)べようとしていた人(ひと)たちは、ただちに彼(かれ)から身(み)を引(ひ)いた。千卒長(せんそつちょう)も、パウロがローマの市民(しみん)であること、また、そういう人(ひと)を縛(しば)っていたことがわかって、恐(おそ)れた。

30翌日(よくじつ)、彼(かれ)は、ユダヤ人(じん)がなぜパウロを訴(うった)え出(で)たのか、その真相(しんそう)を知(し)ろうと思(おも)って彼(かれ)を解(と)いてやり、同時(どうじ)に祭司長(さいしちょう)たちと全(ぜん)議会(ぎかい)とを召集(しょうしゅう)させ、そこに彼(かれ)を引(ひ)き出(だ)して、彼(かれ)らの前(まえ)に立(た)たせた。

第二三章

1パウロは議会(ぎかい)を見(み)つめて言(い)った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしは今日(きょう)まで、神(かみ)の前(まえ)に、ひたすら明(あき)らかな良心(りょうしん)にしたがって行動(こうどう)してきた」。 2すると、大祭司(だいさいし)アナニヤが、パウロのそばに立(た)っている者(もの)たちに、彼(かれ)の口(くち)を打(う)てと命(めい)じた。 3そのとき、パウロはアナニヤにむかって言(い)った、「白(しろ)く塗(ぬ)られた壁(かべ)よ、神(かみ)があなたを打(う)つであろう。あなたは、律法(りっぽう)にしたがって、わたしをさばくために座(ざ)についているのに、律法(りっぽう)にそむいて、わたしを打(う)つことを命(めい)じるのか」。 4すると、そばに立(た)っている者(もの)たちが言(い)った、「神(かみ)の大祭司(だいさいし)に対(たい)して無礼(ぶれい)なことを言(い)うのか」。 5パウロは言(い)った、「兄弟(きょうだい)たちよ、彼(かれ)が大祭司(だいさいし)だとは知(し)らなかった。聖書(せいしょ)に『民(たみ)のかしらを悪(わる)く言(い)ってはいけない』と、書(か)いてあるのだった」。

6パウロは、議員(ぎいん)の一部(いちぶ)がサドカイ人(びと)であり、一部(いちぶ)はパリサイ人(びと)であるのを見(み)て、議会(ぎかい)の中(なか)で声(こえ)を高(たか)めて言(い)った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしはパリサイ人(びと)であり、パリサイ人(びと)の子(こ)である。わたしは、死人(しにん)の復活(ふっかつ)の望(のぞ)みをいだいていることで、裁判(さいばん)を受(う)けているのである」。 7彼(かれ)がこう言(い)ったところ、パリサイ人(びと)とサドカイ人(びと)との間(あいだ)に争論(そうろん)が生(しょう)じ、会衆(かいしゅう)が相(あい)分(わか)れた。 8元来(がんらい)、サドカイ人(びと)は、復活(ふっかつ)とか天使(てんし)とか霊(れい)とかは、いっさい存在(そんざい)しないと言(い)い、パリサイ人(びと)は、それらは、みな存在(そんざい)すると主張(しゅちょう)している。 9そこで、大騒(おおさわ)ぎとなった。パリサイ派(は)のある律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが立(た)って、強(つよ)く主張(しゅちょう)して言(い)った、「われわれは、この人(ひと)には何(なに)も悪(わる)いことがないと思(おも)う。あるいは、霊(れい)か天使(てんし)かが、彼(かれ)に告(つ)げたのかも知(し)れない」。 10こうして、争論(そうろん)が激(はげ)しくなったので、千卒長(せんそつちょう)は、パウロが彼(かれ)らに引(ひ)き裂(さ)かれるのを気(き)づかって、兵卒(へいそつ)どもに、降(お)りて行(い)ってパウロを彼(かれ)らの中(なか)から力(ちから)づくで引(ひ)き出(だ)し、兵営(へいえい)に連(つ)れて来(く)るように、命(めい)じた。

11その夜(よ)、主(しゅ)がパウロに臨(のぞ)んで言(い)われた、「しっかりせよ。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなくてはならない」。

12夜(よ)が明(あ)けると、ユダヤ人(じん)らは申(もう)し合(あ)わせをして、パウロを殺(ころ)すまでは飲食(いんしょく)をいっさい断(た)つと、誓(ちか)い合(あ)った。 13この陰謀(いんぼう)に加(くわ)わった者(もの)は、四十人(にん)あまりであった。 14彼(かれ)らは、祭司長(さいしちょう)たちや長老(ちょうろう)たちのところに行(い)って、こう言(い)った。「われわれは、パウロを殺(ころ)すまでは何(なに)も食(た)べないと、堅(かた)く誓(ちか)い合(あ)いました。 15ついては、あなたがたは議会(ぎかい)と組(く)んで、彼(かれ)のことでなお詳(くわ)しく取調(とりしら)べをするように見(み)せかけ、パウロをあなたがたのところに連(つ)れ出(だ)すように、千卒長(せんそつちょう)に頼(たの)んで下(くだ)さい。われわれとしては、パウロがそこにこないうちに殺(ころ)してしまう手(て)はずをしています」。

16ところが、パウロの姉妹(しまい)の子(こ)が、この待伏(まちぶ)せのことを耳(みみ)にし、兵営(へいえい)にはいって行(い)って、パウロにそれを知(し)らせた。 17そこでパウロは、百卒長(ひゃくそつちょう)のひとりを呼(よ)んで言(い)った、「この若者(わかもの)を千卒長(せんそつちょう)のところに連(つ)れて行(い)ってください。何(なに)か報告(ほうこく)することがあるようですから」。 18この百卒長(ひゃくそつちょう)は若者(わかもの)を連(つ)れて行(い)き、千卒長(せんそつちょう)に引(ひ)きあわせて言(い)った、「囚人(しゅうじん)のパウロが、この若者(わかもの)があなたに話(はな)したいことがあるので、あなたのところに連(つ)れて行(い)ってくれるようにと、わたしを呼(よ)んで頼(たの)みました」。 19そこで千卒長(せんそつちょう)は、若者(わかもの)の手(て)を取(と)り、人(ひと)のいないところへ連(つ)れて行(い)って尋(たず)ねた、「わたしに話(はな)したいことというのは、何(なに)か」。 20若者(わかもの)が言(い)った、「ユダヤ人(じん)たちが、パウロのことをもっと詳(くわ)しく取調(とりしら)べをすると見(み)せかけて、あす議会(ぎかい)に彼(かれ)を連(つ)れ出(だ)すように、あなたに頼(たの)むことに決(き)めています。 21どうぞ、彼(かれ)らの頼(たの)みを取(と)り上(あ)げないで下(くだ)さい。四十人(にん)あまりの者(もの)が、パウロを待伏(まちぶ)せしているのです。彼(かれ)らは、パウロを殺(ころ)すまでは飲食(いんしょく)をいっさい断(た)つと、堅(かた)く誓(ちか)い合(あ)っています。そして、いま手(て)はずをととのえて、あなたの許可(きょか)を待(ま)っているところなのです」。 22そこで千卒長(せんそつちょう)は、「このことをわたしに知(し)らせたことは、だれにも口外(こうがい)するな」と命(めい)じて、若者(わかもの)を帰(かえ)した。

23それから彼(かれ)は、百卒長(ひゃくそつちょう)ふたりを呼(よ)んで言(い)った、「歩兵(ほへい)二百名(めい)、騎兵(きへい)七十名(めい)、槍(そう)兵(へい)二百名(めい)を、カイザリヤに向(む)け出発(しゅっぱつ)できるように、今夜(こんや)九時(じ)までに用意(ようい)せよ。 24また、パウロを乗(の)せるために馬(うま)を用意(ようい)して、彼(かれ)を総督(そうとく)ペリクスのもとへ無事(ぶじ)に連(つ)れて行(い)け」。 25さらに彼(かれ)は、次(つぎ)のような文面(ぶんめん)の手紙(てがみ)を書(か)いた。 26「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督(そうとく)ペリクス閣下(かっか)の平安(へいあん)を祈(いの)ります。 27本人(ほんにん)のパウロが、ユダヤ人(じん)らに捕(とら)えられ、まさに殺(ころ)されようとしていたのを、彼(かれ)のローマ市民(しみん)であることを知(し)ったので、わたしは兵卒(へいそつ)たちを率(ひき)いて行(い)って、彼(かれ)を救(すく)い出(だ)しました。 28それから、彼(かれ)が訴(うった)えられた理由(りゆう)を知(し)ろうと思(おも)い、彼(かれ)を議会(ぎかい)に連(つ)れて行(い)きました。 29ところが、彼(かれ)はユダヤ人(じん)の律法(りっぽう)の問題(もんだい)で訴(うった)えられたものであり、なんら死刑(しけい)または投獄(とうごく)に当(あた)る罪(つみ)のないことがわかりました。 30しかし、この人(ひと)に対(たい)して陰謀(いんぼう)がめぐらされているとの報告(ほうこく)がありましたので、わたしは取(と)りあえず、彼(かれ)を閣下(かっか)のもとにお送(おく)りすることにし、訴(うった)える者(もの)たちには、閣下(かっか)の前(まえ)で、彼(かれ)に対(たい)する申(もうし)立(た)てをするようにと、命(めい)じておきました」。

31そこで歩兵(ほへい)たちは、命(めい)じられたとおりパウロを引(ひ)き取(と)って、夜(よる)の間(あいだ)にアンテパトリスまで連(つ)れて行(い)き、 32翌日(よくじつ)は、騎兵(きへい)たちにパウロを護送(ごそう)させることにして、兵営(へいえい)に帰(かえ)って行(い)った。 33騎兵(きへい)たちは、カイザリヤに着(つ)くと、手紙(てがみ)を総督(そうとく)に手渡(てわた)し、さらにパウロを彼(かれ)に引(ひ)きあわせた。 34総督(そうとく)は手紙(てがみ)を読(よ)んでから、パウロに、どの州(しゅう)の者(もの)かと尋(たず)ね、キリキヤの出(で)だと知(し)って、 35「訴(うった)え人(ひと)たちがきた時(とき)に、おまえを調(しら)べることにする」と言(い)った。そして、ヘロデの官邸(かんてい)に彼(かれ)を守(まも)っておくように命(めい)じた。

第二四章

1五日(か)の後(のち)、大祭司(だいさいし)アナニヤは、長老(ちょうろう)数名(すうめい)と、テルトロという弁護人(べんごにん)とを連(つ)れて下(くだ)り、総督(そうとく)にパウロを訴(うった)え出(で)た。 2パウロが呼(よ)び出(だ)されたので、テルトロは論告(ろんこく)を始(はじ)めた。

「ペリクス閣下(かっか)、わたしたちが、閣下(かっか)のお陰(かげ)でじゅうぶんに平和(へいわ)を楽(たの)しみ、またこの国(くに)が、ご配慮(はいりょ)によって、 3あらゆる方面(ほうめん)に、またいたるところで改善(かいぜん)されていることは、わたしたちの感謝(かんしゃ)してやまないところであります。 4しかし、ご迷惑(めいわく)をかけないように、くどくどと述(の)べずに、手短(てみじか)かに申(もう)し上(あ)げますから、どうぞ、忍(しの)んでお聞(き)き取(と)りのほど、お願(ねが)いいたします。 5さて、この男(おとこ)は、疫病(えきびょう)のような人間(にんげん)で、世界中(せかいじゅう)のすべてのユダヤ人(じん)の中(なか)に騒(さわ)ぎを起(おこ)している者(もの)であり、また、ナザレ人(びと)らの異端(いたん)のかしらであります。 6この者(もの)が宮(みや)までも汚(けが)そうとしていたので、わたしたちは彼(かれ)を捕縛(ほばく)したのです。〔そして、律法(りっぽう)にしたがって、さばこうとしていたところ、 7千卒長(せんそつちょう)ルシヤが干渉(かんしょう)して、彼(かれ)を無理(むり)にわたしたちの手(て)から引(ひ)き離(はな)してしまい、 8彼(かれ)を訴(うった)えた人(ひと)たちには、閣下(かっか)のところに来(く)るようにと命(めい)じました。〕それで、閣下(かっか)ご自身(じしん)でお調(しら)べになれば、わたしたちが彼(かれ)を訴(うった)え出(で)た理由(りゆう)が、全部(ぜんぶ)おわかりになるでしょう」。 9ユダヤ人(じん)たちも、この訴(うった)えに同調(どうちょう)して、全(まった)くそのとおりだと言(い)った。 10そこで、総督(そうとく)が合図(あいず)をして発言(はつげん)を促(うなが)したので、パウロは答弁(とうべん)して言(い)った。

「閣下(かっか)が、多年(たねん)にわたり、この国民(こくみん)の裁判(さいばん)をつかさどっておられることを、よく承知(しょうち)していますので、わたしは喜(よろこ)んで、自分(じぶん)のことを弁明(べんめい)いたします。 11お調(しら)べになればわかるはずですが、わたしが礼拝(れいはい)をしにエルサレムに上(のぼ)ってから、まだ十二日(にち)そこそこにしかなりません。 12そして、宮(みや)の内(うち)でも、会堂(かいどう)内(うち)でも、あるいは市内(しない)でも、わたしがだれかと争論(そうろん)したり、群衆(ぐんしゅう)を煽動(せんどう)したりするのを見(み)たものはありませんし、 13今(いま)わたしを訴(うった)え出(で)ていることについて、閣下(かっか)の前(まえ)に、その証拠(しょうこ)をあげうるものはありません。 14ただ、わたしはこの事(こと)は認(みと)めます。わたしは、彼(かれ)らが異端(いたん)だとしている道(みち)にしたがって、わたしたちの先祖(せんぞ)の神(かみ)に仕(つか)え、律法(りっぽう)の教(おし)えるところ、また預言者(よげんしゃ)の書(しょ)に書(か)いてあることを、ことごとく信(しん)じ、 15また、正(ただ)しい者(もの)も正(ただ)しくない者(もの)も、やがてよみがえるとの希望(きぼう)を、神(かみ)を仰(あお)いでいだいているものです。この希望(きぼう)は、彼(かれ)ら自身(じしん)も持(も)っているのです。 16わたしはまた、神(かみ)に対(たい)しまた人(ひと)に対(たい)して、良心(りょうしん)に責(せ)められることのないように、常(つね)に努(つと)めています。 17さてわたしは、幾年(いくねん)ぶりかに帰(かえ)ってきて、同胞(どうほう)に施(ほどこ)しをし、また、供(そな)え物(もの)をしていました。 18そのとき、彼(かれ)らはわたしが宮(みや)できよめを行(おこな)っているのを見(み)ただけであって、群衆(ぐんしゅう)もいず、騒動(そうどう)もなかったのです。 19ところが、アジヤからきた数人(すうにん)のユダヤ人(じん)が――彼(かれ)らが、わたしに対(たい)して、何(なに)かとがめ立(た)てをすることがあったなら、よろしく閣下(かっか)の前(まえ)にきて、訴(うった)えるべきでした。 20あるいは、何(なに)かわたしに不正(ふせい)なことがあったなら、わたしが議会(ぎかい)の前(まえ)に立(た)っていた時(とき)、彼(かれ)らみずから、それを指摘(してき)すべきでした。 21ただ、わたしは、彼(かれ)らの中(なか)に立(た)って、『わたしは、死人(しにん)のよみがえりのことで、きょう、あなたがたの前(まえ)でさばきを受(う)けているのだ』と叫(さけ)んだだけのことです」。

22ここでペリクスは、この道(みち)のことを相当(そうとう)わきまえていたので、「千卒長(せんそつちょう)ルシヤが下(くだ)って来(く)るのを待(ま)って、おまえたちの事件(じけん)を判決(はんけつ)することにする」と言(い)って、裁判(さいばん)を延期(えんき)した。 23そして百卒長(ひゃくそつちょう)に、パウロを監禁(かんきん)するように、しかし彼(かれ)を寛大(かんだい)に取(と)り扱(あつか)い、友人(ゆうじん)らが世話(せわ)をするのを止(と)めないようにと、命(めい)じた。

24数日(すうじつ)たってから、ペリクスは、ユダヤ人(じん)である妻(つま)ドルシラと一緒(いっしょ)にきて、パウロを呼(よ)び出(だ)し、キリスト・イエスに対(たい)する信仰(しんこう)のことを、彼(かれ)から聞(き)いた。 25そこで、パウロが、正義(せいぎ)、節制(せっせい)、未来(みらい)の審判(しんぱん)などについて論(ろん)じていると、ペリクスは不安(ふあん)を感(かん)じてきて、言(い)った、「きょうはこれで帰(かえ)るがよい。また、よい機会(きかい)を得(え)たら、呼(よ)び出(だ)すことにする」。 26彼(かれ)は、それと同時(どうじ)に、パウロから金(かね)をもらいたい下(した)ごころがあったので、たびたびパウロを呼(よ)び出(だ)しては語(かた)り合(あ)った。

27さて、二か年(ねん)たった時(とき)、ポルキオ・フェストが、ペリクスと交代(こうたい)して任(にん)についた。ペリクスは、ユダヤ人(じん)の歓心(かんしん)を買(か)おうと思(おも)って、パウロを監禁(かんきん)したままにしておいた。

第二五章

1さて、フェストは、任地(にんち)に着(つ)いてから三日(か)の後(のち)、カイザリヤからエルサレムに上(のぼ)ったところ、 2祭司長(さいしちょう)たちやユダヤ人(じん)の重立(おもだ)った者(もの)たちが、パウロを訴(うった)え出(で)て、 3彼(かれ)をエルサレムに呼(よ)び出(だ)すよう取(と)り計(はか)らっていただきたいと、しきりに願(ねが)った。彼(かれ)らは途中(とちゅう)で待(ま)ち伏(ぶ)せして、彼(かれ)を殺(ころ)す考(かんが)えであった。 4ところがフェストは、パウロがカイザリヤに監禁(かんきん)してあり、自分(じぶん)もすぐそこへ帰(かえ)ることになっていると答(こた)え、 5そして言(い)った、「では、もしあの男(おとこ)に何(なに)か不都合(ふつごう)なことがあるなら、おまえたちのうちの有力(ゆうりょく)者(しゃ)らが、わたしと一緒(いっしょ)に下(くだ)って行(い)って、訴(うった)えるがよかろう」。

6フェストは、彼(かれ)らのあいだに八日(か)か十日(か)ほど滞在(たいざい)した後(のち)、カイザリヤに下(くだ)って行(い)き、その翌日(よくじつ)、裁判(さいばん)の席(せき)について、パウロを引(ひ)き出(だ)すように命(めい)じた。 7パウロが姿(すがた)をあらわすと、エルサレムから下(くだ)ってきたユダヤ人(じん)たちが、彼(かれ)を取(と)りかこみ、彼(かれ)に対(たい)してさまざまの重(おも)い罪状(ざいじょう)を申(もう)し立(た)てたが、いずれもその証拠(しょうこ)をあげることはできなかった。 8パウロは「わたしは、ユダヤ人(じん)の律法(りっぽう)に対(たい)しても、宮(みや)に対(たい)しても、またカイザルに対(たい)しても、なんら罪(つみ)を犯(おか)したことはない」と弁明(べんめい)した。 9ところが、フェストはユダヤ人(じん)の歓心(かんしん)を買(か)おうと思(おも)って、パウロにむかって言(い)った、「おまえはエルサレムに上(のぼ)り、この事件(じけん)に関(かん)し、わたしからそこで裁判(さいばん)を受(う)けることを承知(しょうち)するか」。 10パウロは言(い)った、「わたしは今(いま)、カイザルの法廷(ほうてい)に立(た)っています。わたしはこの法廷(ほうてい)で裁判(さいばん)されるべきです。よくご承知(しょうち)のとおり、わたしはユダヤ人(じん)たちに、何(なに)も悪(わる)いことをしてはいません。 11もしわたしが悪(わる)いことをし、死(し)に当(あた)るようなことをしているのなら、死(し)を免(まぬか)れようとはしません。しかし、もし彼(かれ)らの訴(うった)えることに、なんの根拠(こんきょ)もないとすれば、だれもわたしを彼(かれ)らに引(ひ)き渡(わた)す権利(けんり)はありません。わたしはカイザルに上訴(じょうそ)します」。 12そこでフェストは、陪席(ばいせき)の者(もの)たちと協議(きょうぎ)したうえ答(こた)えた、「おまえはカイザルに上訴(じょうそ)を申(もう)し出(で)た。カイザルのところに行(い)くがよい」。

13数日(すうじつ)たった後(のち)、アグリッパ王(おう)とベルニケとが、フェストに敬意(けいい)を表(ひょう)するため、カイザリヤにきた。 14ふたりは、そこに何(なに)日間(にちかん)も滞在(たいざい)していたので、フェストは、パウロのことを王(おう)に話(はな)して言(い)った、「ここに、ペリクスが囚人(しゅうじん)として残(のこ)して行(い)ったひとりの男(おとこ)がいる。 15わたしがエルサレムに行(い)った時(とき)、この男(おとこ)のことを、祭司長(さいしちょう)たちやユダヤ人(じん)の長老(ちょうろう)たちが、わたしに報告(ほうこく)し、彼(かれ)を罪(つみ)に定(さだ)めるようにと要求(ようきゅう)した。 16そこでわたしは、彼(かれ)らに答(こた)えた、『訴(うった)えられた者(もの)が、訴(うった)えた者(もの)の前(まえ)に立(た)って、告訴(こくそ)に対(たい)し弁明(べんめい)する機会(きかい)を与(あた)えられない前(まえ)に、その人(ひと)を見放(みはな)してしまうのは、ローマ人(じん)の慣例(かんれい)にはないことである』。 17それで、彼(かれ)らがここに集(あつ)まってきた時(とき)、わたしは時(とき)をうつさず、次(つぎ)の日(ひ)に裁判(さいばん)の席(せき)について、その男(おとこ)を引(ひ)き出(だ)させた。 18訴(うった)えた者(もの)たちは立(た)ち上(あ)がったが、わたしが推測(すいそく)していたような悪事(あくじ)は、彼(かれ)について何一(なにひと)つ申(もう)し立(た)てはしなかった。 19ただ、彼(かれ)と争(あらそ)い合(あ)っているのは、彼(かれ)ら自身(じしん)の宗教(しゅうきょう)に関(かん)し、また、死(し)んでしまったのに生(い)きているとパウロが主張(しゅちょう)しているイエスなる者(もの)に関(かん)する問題(もんだい)に過(す)ぎない。 20これらの問題(もんだい)を、どう取(と)り扱(あつか)ってよいかわからなかったので、わたしは彼(かれ)に、『エルサレムに行(い)って、これらの問題(もんだい)について、そこでさばいてもらいたくはないか』と尋(たず)ねてみた。 21ところがパウロは、皇帝(こうてい)の判決(はんけつ)を受(う)ける時(とき)まで、このまま自分(じぶん)をとどめておいてほしいと言(い)うので、カイザルに彼(かれ)を送(おく)りとどける時(とき)までとどめておくようにと、命(めい)じておいた」。 22そこで、アグリッパがフェストに「わたしも、その人(ひと)の言(い)い分(ぶん)を聞(き)いて見(み)たい」と言(い)ったので、フェストは、「では、あす彼(かれ)から聞(き)きとるようにしてあげよう」と答(こた)えた。

23翌日(よくじつ)、アグリッパとベルニケとは、大(おお)いに威儀(いぎ)をととのえて、千卒長(せんそつちょう)たちや市(し)の重立(おもだ)った人(ひと)たちと共(とも)に、引見所(いんけんじょ)にはいってきた。すると、フェストの命(めい)によって、パウロがそこに引(ひ)き出(だ)された。 24そこで、フェストが言(い)った、「アグリッパ王(おう)、ならびにご臨席(りんせき)の諸君(しょくん)。ごらんになっているこの人物(じんぶつ)は、ユダヤ人(じん)たちがこぞって、エルサレムにおいても、また、この地(ち)においても、これ以上(いじょう)、生(い)かしておくべきでないと叫(さけ)んで、わたしに訴(うった)え出(で)ている者(もの)である。 25しかし、彼(かれ)は死(し)に当(あた)ることは何(なに)もしていないと、わたしは見(み)ているのだが、彼(かれ)自身(じしん)が皇帝(こうてい)に上訴(じょうそ)すると言(い)い出(だ)したので、彼(かれ)をそちらへ送(おく)ることに決(き)めた。 26ところが、彼(かれ)について、主君(しゅくん)に書(か)きおくる確(たし)かなものが何(なに)もないので、わたしは、彼(かれ)を諸君(しょくん)の前(まえ)に、特(とく)に、アグリッパ王(おう)よ、あなたの前(まえ)に引(ひ)き出(だ)して、取調(とりしら)べをしたのち、上書(じょうしょ)すべき材料(ざいりょう)を得(え)ようと思(おも)う。 27囚人(しゅうじん)を送(おく)るのに、その告訴(こくそ)の理由(りゆう)を示(しめ)さないということは、不合理(ふごうり)だと思(おも)えるからである」。

第二六章

1アグリッパはパウロに、「おまえ自身(じしん)のことを話(はな)してもよい」と言(い)った。そこでパウロは、手(て)をさし伸(の)べて、弁明(べんめい)をし始(はじ)めた。

2「アグリッパ王(おう)よ、ユダヤ人(じん)たちから訴(うった)えられているすべての事(こと)に関(かん)して、きょう、あなたの前(まえ)で弁明(べんめい)することになったのは、わたしのしあわせに思(おも)うところであります。 3あなたは、ユダヤ人(じん)のあらゆる慣例(かんれい)や問題(もんだい)を、よく知(し)り抜(ぬ)いておられるかたですから、わたしの申(もう)すことを、寛大(かんだい)なお心(こころ)で聞(き)いていただきたいのです。

4さて、わたしは若(わか)い時代(じだい)には、初(はじ)めから自(じ)国民(こくみん)の中(なか)で、またエルサレムで過(す)ごしたのですが、そのころのわたしの生活(せいかつ)ぶりは、ユダヤ人(じん)がみんなよく知(し)っているところです。 5彼(かれ)らはわたしを初(はじ)めから知(し)っているので、証言(しょうげん)しようと思(おも)えばできるのですが、わたしは、わたしたちの宗教(しゅうきょう)の最(もっと)も厳格(げんかく)な派(は)にしたがって、パリサイ人(びと)としての生活(せいかつ)をしていたのです。 6今(いま)わたしは、神(かみ)がわたしたちの先祖(せんぞ)に約束(やくそく)なさった希望(きぼう)をいだいているために、裁判(さいばん)を受(う)けているのであります。 7わたしたちの十二の部族(ぶぞく)は、夜昼(よるひる)、熱心(ねっしん)に神(かみ)に仕(つか)えて、その約束(やくそく)を得(え)ようと望(のぞ)んでいるのです。王(おう)よ、この希望(きぼう)のために、わたしはユダヤ人(じん)から訴(うった)えられています。 8神(かみ)が死人(しにん)をよみがえらせるということが、あなたがたには、どうして信(しん)じられないことと思(おも)えるのでしょうか。

9わたし自身(じしん)も、以前(いぜん)には、ナザレ人(びと)イエスの名(な)に逆(さか)らって反対(はんたい)の行動(こうどう)をすべきだと、思(おも)っていました。 10そしてわたしは、それをエルサレムで敢行(かんこう)し、祭司長(さいしちょう)たちから権限(けんげん)を与(あた)えられて、多(おお)くの聖徒(せいと)たちを獄(ごく)に閉(と)じ込(こ)め、彼(かれ)らが殺(ころ)される時(とき)には、それに賛成(さんせい)の意(い)を表(あらわ)しました。 11それから、いたるところの会堂(かいどう)で、しばしば彼(かれ)らを罰(ばっ)して、無理(むり)やりに神(かみ)をけがす言葉(ことば)を言(い)わせようとし、彼(かれ)らに対(たい)してひどく荒(あ)れ狂(くる)い、ついに外国(がいこく)の町々(まちまち)にまで、迫害(はくがい)の手(て)をのばすに至(いた)りました。

12こうして、わたしは、祭司長(さいしちょう)たちから権限(けんげん)と委任(いにん)とを受(う)けて、ダマスコに行(い)ったのですが、 13王(おう)よ、その途中(とちゅう)、真昼(まひる)に、光(ひかり)が天(てん)からさして来(く)るのを見(み)ました。それは、太陽(たいよう)よりも、もっと光(ひか)り輝(かがや)いて、わたしと同行者(どうこうしゃ)たちとをめぐり照(てら)しました。 14わたしたちはみな地(ち)に倒(たお)れましたが、その時(とき)ヘブル語(ご)でわたしにこう呼(よ)びかける声(こえ)を聞(き)きました、『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害(はくがい)するのか。とげのあるむちをければ、傷(きず)を負(お)うだけである』。 15そこで、わたしが『主(しゅ)よ、あなたはどなたですか』と尋(たず)ねると、主(しゅ)は言(い)われた、『わたしは、あなたが迫害(はくがい)しているイエスである。 16さあ、起(お)きあがって、自分(じぶん)の足(あし)で立(た)ちなさい。わたしがあなたに現(あらわ)れたのは、あなたがわたしに会(あ)った事(こと)と、あなたに現(あらわ)れて示(しめ)そうとしている事(こと)とをあかしし、これを伝(つた)える務(つとめ)に、あなたを任(にん)じるためである。 17わたしは、この国民(こくみん)と異邦人(いほうじん)との中(なか)から、あなたを救(すく)い出(だ)し、あらためてあなたを彼(かれ)らにつかわすが、 18それは、彼(かれ)らの目(め)を開(ひら)き、彼(かれ)らをやみから光(ひかり)へ、悪魔(あくま)の支配(しはい)から神(かみ)のみもとへ帰(かえ)らせ、また、彼(かれ)らが罪(つみ)のゆるしを得(え)、わたしを信(しん)じる信仰(しんこう)によって、聖(せい)別(べつ)された人々(ひとびと)に加(くわ)わるためである』。

19それですから、アグリッパ王(おう)よ、わたしは天(てん)よりの啓示(けいじ)にそむかず、 20まず初(はじ)めにダマスコにいる人々(ひとびと)に、それからエルサレムにいる人々(ひとびと)、さらにユダヤ全土(ぜんど)、ならびに異邦人(いほうじん)たちに、悔(く)い改(あらた)めて神(かみ)に立(た)ち帰(かえ)り、悔改(くいあらた)めにふさわしいわざを行(おこな)うようにと、説(と)き勧(すす)めました。 21そのために、ユダヤ人(じん)は、わたしを宮(みや)で引(ひ)き捕(とら)えて殺(ころ)そうとしたのです。 22しかし、わたしは今日(こんにち)に至(いた)るまで神(かみ)の加護(かご)を受(う)け、このように立(た)って、小(ちい)さい者(もの)にも大(おお)きい者(もの)にもあかしをなし、預言者(よげんしゃ)たちやモーセが、今後(こんご)起(おこ)るべきだと語(かた)ったことを、そのまま述(の)べてきました。 23すなわち、キリストが苦難(くなん)を受(う)けること、また、死人(しにん)の中(なか)から最初(さいしょ)によみがえって、この国民(こくみん)と異邦人(いほうじん)とに、光(ひかり)を宣(の)べ伝(つた)えるに至(いた)ることを、あかししたのです」。 24パウロがこのように弁明(べんめい)をしていると、フェストは大声(おおごえ)で言(い)った、「パウロよ、おまえは気(き)が狂(くる)っている。博学(はくがく)が、おまえを狂(くる)わせている」。 25パウロが言(い)った、「フェスト閣下(かっか)よ、わたしは気(き)が狂(くる)ってはいません。わたしは、まじめな真実(しんじつ)の言葉(ことば)を語(かた)っているだけです。 26王(おう)はこれらのことをよく知(し)っておられるので、王(おう)に対(たい)しても、率直(そっちょく)に申(もう)し上(あ)げているのです。それは、片(かた)すみで行(おこな)われたのではないのですから、一つとして、王(おう)が見(み)のがされたことはないと信(しん)じます。 27アグリッパ王(おう)よ、あなたは預言者(よげんしゃ)を信(しん)じますか。信(しん)じておられると思(おも)います」。 28アグリッパがパウロに言(い)った、「おまえは少(すこ)し説(と)いただけで、わたしをクリスチャンにしようとしている」。 29パウロが言(い)った、「説(と)くことが少(すこ)しであろうと、多(おお)くであろうと、わたしが神(かみ)に祈(いの)るのは、ただあなただけでなく、きょう、わたしの言葉(ことば)を聞(き)いた人(ひと)もみな、わたしのようになって下(くだ)さることです。このような鎖(くさり)は別(べつ)ですが」。

30それから、王(おう)も総督(そうとく)もベルニケも、また列席(れっせき)の人々(ひとびと)も、みな立(た)ちあがった。 31退場(たいじょう)してから、互(たがい)に語(かた)り合(あ)って言(い)った、「あの人(ひと)は、死(し)や投獄(とうごく)に当(あた)るようなことをしてはいない」。 32そして、アグリッパがフェストに言(い)った、「あの人(ひと)は、カイザルに上訴(じょうそ)していなかったら、ゆるされたであろうに」。

第二七章

1さて、わたしたちが、舟(ふね)でイタリヤに行(い)くことが決(き)まった時(とき)、パウロとそのほか数人(すうにん)の囚人(しゅうじん)とは、近衛(このえ)隊(たい)の百卒長(ひゃくそつちょう)ユリアスに託(たく)された。 2そしてわたしたちは、アジヤ沿岸(えんがん)の各所(かくしょ)に寄港(きこう)することになっているアドラミテオの舟(ふね)に乗(の)り込(こ)んで、出帆(しゅっぱん)した。テサロニケのマケドニヤ人(びと)アリスタルコも同行(どうこう)した。 3次(つぎ)の日(ひ)、シドンに入港(にゅうこう)したが、ユリアスは、パウロを親切(しんせつ)に取(と)り扱(あつか)い、友人(ゆうじん)をおとずれてかんたいを受(う)けることを、許(ゆる)した。 4それからわたしたちは、ここから船出(ふなで)したが、逆風(ぎゃくふう)にあったので、クプロの島(しま)かげを航行(こうこう)し、 5キリキヤとパンフリヤの沖(おき)を過(す)ぎて、ルキヤのミラに入港(にゅうこう)した。 6そこに、イタリヤ行(い)きのアレキサンドリヤの舟(ふね)があったので、百卒長(ひゃくそつちょう)は、わたしたちをその舟(ふね)に乗(の)り込(こ)ませた。 7幾日(いくにち)ものあいだ、舟(ふね)の進(すす)みがおそくて、わたしたちは、かろうじてクニドの沖合(おきあい)にきたが、風(かぜ)がわたしたちの行(ゆ)く手(て)をはばむので、サルモネの沖(おき)、クレテの島(しま)かげを航行(こうこう)し、 8その岸(きし)に沿(そ)って進(すす)み、かろうじて「良(よ)き港(みなと)」と呼(よ)ばれる所(ところ)に着(つ)いた。その近(ちか)くにラサヤの町(まち)があった。

9長(なが)い時(とき)が経過(けいか)し、断食(だんじき)期(き)も過(す)ぎてしまい、すでに航海(こうかい)が危険(きけん)な季節(きせつ)になったので、パウロは人々(ひとびと)に警告(けいこく)して言(い)った、 10「皆(みな)さん、わたしの見(み)るところでは、この航海(こうかい)では、積荷(つみに)や船体(せんたい)ばかりでなく、われわれの生命(せいめい)にも、危害(きがい)と大(おお)きな損失(そんしつ)が及(およ)ぶであろう」。 11しかし百卒長(ひゃくそつちょう)は、パウロの意(い)見(み)よりも、船長(せんちょう)や船主(せんしゅ)の方(ほう)を信頼(しんらい)した。 12なお、この港(みなと)は冬(ふゆ)を過(す)ごすのに適(てき)しないので、大多数(だいたすう)の者(もの)は、ここから出(で)て、できればなんとかして、南西(なんせい)と北西(ほくせい)とに面(めん)しているクレテのピニクス港(こう)に行(い)って、そこで冬(ふゆ)を過(す)ごしたいと主張(しゅちょう)した。

13時(とき)に、南風(なんぷう)が静(しず)かに吹(ふ)いてきたので、彼(かれ)らは、この時(とき)とばかりにいかりを上(あ)げて、クレテの岸(きし)に沿(そ)って航行(こうこう)した。 14すると間(ま)もなく、ユーラクロンと呼(よ)ばれる暴風(ぼうふう)が、島(しま)から吹(ふ)きおろしてきた。 15そのために、舟(ふね)が流(なが)されて風(かぜ)に逆(さか)らうことができないので、わたしたちは吹(ふ)き流(なが)されるままに任(まか)せた。 16それから、クラウダという小島(こじま)の陰(かげ)に、はいり込(こ)んだので、わたしたちは、やっとのことで小舟(こぶね)を処置(しょち)することができ、 17それを舟(ふね)に引(ひ)き上(あ)げてから、綱(つな)で船体(せんたい)を巻(ま)きつけた。また、スルテスの洲(す)に乗(の)り上(あ)げるのを恐(おそ)れ、帆(ほ)をおろして流(なが)れるままにした。 18わたしたちは、暴風(ぼうふう)にひどく悩(なや)まされつづけたので、次(つぎ)の日(ひ)に、人々(ひとびと)は積荷(つみに)を捨(す)てはじめ、 19三日(か)目(め)には、船具(ふなぐ)までも、てずから投(な)げすてた。 20幾日(いくにち)ものあいだ、太陽(たいよう)も星(ほし)も見(み)えず、暴風(ぼうふう)は激(はげ)しく吹(ふ)きすさぶので、わたしたちの助(たす)かる最後(さいご)の望(のぞ)みもなくなった。

21みんなの者(もの)は、長(なが)いあいだ食事(しょくじ)もしないでいたが、その時(とき)、パウロが彼(かれ)らの中(なか)に立(た)って言(い)った、「皆(みな)さん、あなたがたが、わたしの忠告(ちゅうこく)を聞(き)きいれて、クレテから出(で)なかったら、このような危害(きがい)や損失(そんしつ)を被(こうむ)らなくてすんだはずであった。 22だが、この際(さい)、お勧(すす)めする。元気(げんき)を出(だ)しなさい。舟(ふね)が失(うしな)われるだけで、あなたがたの中(なか)で生命(せいめい)を失(うしな)うものは、ひとりもいないであろう。 23昨夜(さくや)、わたしが仕(つか)え、また拝(おが)んでいる神(かみ)からの御使(みつかい)が、わたしのそばに立(た)って言(い)った、 24『パウロよ、恐(おそ)れるな。あなたは必(かなら)ずカイザルの前(まえ)に立(た)たなければならない。たしかに神(かみ)は、あなたと同船(どうせん)の者(もの)を、ことごとくあなたに賜(たま)わっている』。 25だから、皆(みな)さん、元気(げんき)を出(だ)しなさい。万事(ばんじ)はわたしに告(つ)げられたとおりに成(な)って行(い)くと、わたしは、神(かみ)かけて信(しん)じている。 26われわれは、どこかの島(しま)に打(う)ちあげられるに相違(そうい)ない」。

27わたしたちがアドリヤ海(うみ)に漂(ただよ)ってから十四日(か)目(め)の夜(よる)になった時(とき)、真夜中(まよなか)ごろ、水夫(すいふ)らはどこかの陸地(りくち)に近(ちか)づいたように感(かん)じた。 28そこで、水(みず)の深(ふか)さを測(はか)ってみたところ、二十ひろであることがわかった。それから少(すこ)し進(すす)んで、もう一度(いちど)測(はか)ってみたら、十五ひろであった。 29わたしたちが、万一(まんいち)暗礁(あんしょう)に乗(の)り上(あ)げては大変(たいへん)だと、人々(ひとびと)は気(き)づかって、ともから四つのいかりを投(な)げおろし、夜(よ)の明(あ)けるのを待(ま)ちわびていた。 30その時(とき)、水夫(すいふ)らが舟(ふね)から逃(に)げ出(だ)そうと思(おも)って、へさきからいかりを投(な)げおろすと見(み)せかけ、小舟(こぶね)を海(うみ)におろしていたので、 31パウロは、百卒長(ひゃくそつちょう)や兵卒(へいそつ)たちに言(い)った、「あの人(ひと)たちが、舟(ふね)に残(のこ)っていなければ、あなたがたは助(たす)からない」。 32そこで兵卒(へいそつ)たちは、小舟(こぶね)の綱(つな)を断(た)ち切(き)って、その流(なが)れて行(い)くままに任(まか)せた。

33夜(よ)が明(あ)けかけたころ、パウロは一同(いちどう)の者(もの)に、食事(しょくじ)をするように勧(すす)めて言(い)った、「あなたがたが食事(しょくじ)もせずに、見張(みは)りを続(つづ)けてから、何(なに)も食(た)べないで、きょうが十四日(か)目(め)に当(あた)る。 34だから、いま食事(しょくじ)を取(と)ることをお勧(すす)めする。それが、あなたがたを救(すく)うことになるのだから。たしかに髪(かみ)の毛(け)ひとすじでも、あなたがたの頭(あたま)から失(うしな)われることはないであろう」。 35彼(かれ)はこう言(い)って、パンを取(と)り、みんなの前(まえ)で神(かみ)に感謝(かんしゃ)し、それをさいて食(た)べはじめた。 36そこで、みんなの者(もの)も元(もと)気(き)づいて食事(しょくじ)をした。 37舟(ふね)にいたわたしたちは、合(あ)わせて二百七十六人(にん)であった。 38みんなの者(もの)は、じゅうぶんに食事(しょくじ)をした後(のち)、穀物(こくもつ)を海(うみ)に投(な)げすてて舟(ふね)を軽(かろ)くした。

39夜(よ)が明(あ)けて、どこの土地(とち)かよくわからなかったが、砂浜(すなはま)のある入江(いりえ)が見(み)えたので、できれば、それに舟(ふね)を乗(の)り入(い)れようということになった。 40そこで、いかりを切(き)り離(はな)して海(うみ)に捨(す)て、同時(どうじ)にかじの綱(つな)をゆるめ、風(かぜ)に前(まえ)の帆(ほ)をあげて、砂浜(すなはま)にむかって進(すす)んだ。 41ところが、潮流(ちょうりゅう)の流(なが)れ合(あ)う所(ところ)に突(つ)き進(すす)んだため、舟(ふね)を浅瀬(あさせ)に乗(の)りあげてしまって、へさきがめり込(こ)んで動(うご)かなくなり、ともの方(ほう)は激浪(げきろう)のためにこわされた。 42兵卒(へいそつ)たちは、囚人(しゅうじん)らが泳(およ)いで逃(に)げるおそれがあるので、殺(ころ)してしまおうと図(はか)ったが、 43百卒長(ひゃくそつちょう)は、パウロを救(すく)いたいと思(おも)うところから、その意図(いと)をしりぞけ、泳(およ)げる者(もの)はまず海(うみ)に飛(と)び込(こ)んで陸(りく)に行(い)き、 44その他(た)の者(もの)は、板(いた)や舟(ふね)の破片(はへん)に乗(の)って行(い)くように命(めい)じた。こうして、全部(ぜんぶ)の者(もの)が上陸(じょうりく)して救(すく)われたのであった。

第二八章

1わたしたちが、こうして救(すく)われてからわかったが、これはマルタと呼(よ)ばれる島(しま)であった。 2土地(とち)の人々(ひとびと)は、わたしたちに並々(なみなみ)ならぬ親切(しんせつ)をあらわしてくれた。すなわち、降(ふ)りしきる雨(あめ)や寒(さむ)さをしのぐために、火(ひ)をたいてわたしたち一同(いちどう)をねぎらってくれたのである。 3そのとき、パウロはひとかかえの柴(しば)をたばねて火(ひ)にくべたところ、熱気(ねっき)のためにまむしが出(で)てきて、彼(かれ)の手(て)にかみついた。 4土地(とち)の人々(ひとびと)は、この生(い)きものがパウロの手(て)からぶら下(さ)がっているのを見(み)て、互(たがい)に言(い)った、「この人(ひと)は、きっと人殺(ひとごろ)しに違(ちが)いない。海(うみ)からはのがれたが、ディケーの神様(かみさま)が彼(かれ)を生(い)かしてはおかないのだ」。 5ところがパウロは、まむしを火(ひ)の中(なか)に振(ふ)り落(おと)して、なんの害(がい)も被(こうむ)らなかった。 6彼(かれ)らは、彼(かれ)が間(ま)もなくはれ上(あ)がるか、あるいは、たちまち倒(たお)れて死(し)ぬだろうと、様子(ようす)をうかがっていた。しかし、長(なが)い間(あいだ)うかがっていても、彼(かれ)の身(み)になんの変(かわ)ったことも起(おこ)らないのを見(み)て、彼(かれ)らは考(かんが)えを変(か)えて、「この人(ひと)は神様(かみさま)だ」と言(い)い出(だ)した。

7さて、その場所(ばしょ)の近(ちか)くに、島(しま)の首長(しゅちょう)、ポプリオという人(ひと)の所有(しょゆう)地(ち)があった。彼(かれ)は、そこにわたしたちを招待(しょうたい)して、三日(か)のあいだ親切(しんせつ)にもてなしてくれた。 8たまたま、ポプリオの父(ちち)が赤痢(せきり)をわずらい、高熱(こうねつ)で床(とこ)についていた。そこでパウロは、その人(ひと)のところにはいって行(い)って祈(いの)り、手(て)を彼(かれ)の上(うえ)においていやしてやった。 9このことがあってから、ほかに病気(びょうき)をしている島(しま)の人(ひと)たちが、ぞくぞくとやってきて、みないやされた。 10彼(かれ)らはわたしたちを非常(ひじょう)に尊敬(そんけい)し、出帆(しゅっぱん)の時(とき)には、必要(ひつよう)な品々(しなじな)を持(も)ってきてくれた。

11三か月(げつ)たった後(のち)、わたしたちは、この島(しま)に冬(ふゆ)ごもりをしていたデオスクリの船(ふね)飾(かざ)りのあるアレキサンドリヤの舟(ふね)で、出帆(しゅっぱん)した。 12そして、シラクサに寄港(きこう)して三日(か)のあいだ停泊(ていはく)し、 13そこから進(すす)んでレギオンに行(い)った。それから一日(にち)おいて、南風(なんぷう)が吹(ふ)いてきたのに乗(じょう)じ、ふつか目(め)にポテオリに着(つ)いた。 14そこで兄弟(きょうだい)たちに会(あ)い、勧(すす)められるまま、彼(かれ)らのところに七日間(なぬかかん)も滞在(たいざい)した。それからわたしたちは、ついにローマに到着(とうちゃく)した。 15ところが、兄弟(きょうだい)たちは、わたしたちのことを聞(き)いて、アピオ・ポロおよびトレス・タベルネまで出迎(でむか)えてくれた。パウロは彼(かれ)らに会(あ)って、神(かみ)に感謝(かんしゃ)し勇(いさ)み立(た)った。

16わたしたちがローマに着(つ)いた後(のち)、パウロは、ひとりの番兵(ばんぺい)をつけられ、ひとりで住(す)むことを許(ゆる)された。

17三日(か)たってから、パウロは、重立(おもだ)ったユダヤ人(じん)たちを招(まね)いた。みんなの者(もの)が集(あつ)まったとき、彼(かれ)らに言(い)った、「兄弟(きょうだい)たちよ、わたしは、わが国民(こくみん)に対(たい)しても、あるいは先祖(せんぞ)伝来(でんらい)の慣例(かんれい)に対(たい)しても、何一(なにひと)つそむく行為(こうい)がなかったのに、エルサレムで囚人(しゅうじん)としてローマ人(じん)たちの手(て)に引(ひ)き渡(わた)された。 18彼(かれ)らはわたしを取(と)り調(しら)べた結果(けっか)、なんら死(し)に当(あた)る罪状(ざいじょう)もないので、わたしを釈放(しゃくほう)しようと思(おも)ったのであるが、 19ユダヤ人(じん)たちがこれに反対(はんたい)したため、わたしはやむを得(え)ず、カイザルに上訴(じょうそ)するに至(いた)ったのである。しかしわたしは、わが同胞(どうほう)を訴(うった)えようなどとしているのではない。 20こういうわけで、あなたがたに会(あ)って語(かた)り合(あ)いたいと願(ねが)っていた。事実(じじつ)、わたしは、イスラエルのいだいている希望(きぼう)のゆえに、この鎖(くさり)につながれているのである」。 21そこで彼(かれ)らは、パウロに言(い)った、「わたしたちは、ユダヤ人(じん)たちから、あなたについて、なんの文書(ぶんしょ)も受(う)け取(と)っていないし、また、兄弟(きょうだい)たちの中(なか)からここにきて、あなたについて不利(ふり)な報告(ほうこく)をしたり、悪口(あっこう)を言(い)ったりした者(もの)もなかった。 22わたしたちは、あなたの考(かんが)えていることを、直接(ちょくせつ)あなたから聞(き)くのが、正(ただ)しいことだと思(おも)っている。実(じつ)は、この宗派(しゅうは)については、いたるところで反対(はんたい)のあることが、わたしたちの耳(みみ)にもはいっている」。

23そこで、日(ひ)を定(さだ)めて、大(おお)ぜいの人(ひと)が、パウロの宿(やど)につめかけてきたので、朝(あさ)から晩(ばん)まで、パウロは語(かた)り続(つづ)け、神(かみ)の国(くに)のことをあかしし、またモーセの律法(りっぽう)や預言者(よげんしゃ)の書(しょ)を引(ひ)いて、イエスについて彼(かれ)らの説得(せっとく)につとめた。 24ある者(もの)はパウロの言(い)うことを受(う)けいれ、ある者(もの)は信(しん)じようともしなかった。 25互(たがい)に意見(いけん)が合(あ)わなくて、みんなの者(もの)が帰(かえ)ろうとしていた時(とき)、パウロはひとこと述(の)べて言(い)った、「聖霊(せいれい)はよくも預言者(よげんしゃ)イザヤによって、あなたがたの先祖(せんぞ)に語(かた)ったものである。
26『この民(たみ)に行(い)って言(い)え、
あなたがたは聞(き)くには聞(き)くが、決(けっ)して悟(さと)らない。
見(み)るには見(み)るが、決(けっ)して認(みと)めない。
27この民(たみ)の心(こころ)は鈍(にぶ)くなり、
その耳(みみ)は聞(きこ)えにくく、
その目(め)は閉(と)じている。
それは、彼(かれ)らが目(め)で見(み)ず、
耳(みみ)で聞(き)かず、
心(こころ)で悟(さと)らず、悔(く)い改(あらた)めて
いやされることがないためである』。
28そこで、あなたがたは知(し)っておくがよい。神(かみ)のこの救(すくい)の言葉(ことば)は、異邦人(いほうじん)に送(おく)られたのだ。彼(かれ)らは、これに聞(き)きしたがうであろう」。〔 29パウロがこれらのことを述(の)べ終(おわ)ると、ユダヤ人(じん)らは、互(たがい)に論(ろん)じ合(あ)いながら帰(かえ)って行(い)った。〕

30パウロは、自分(じぶん)の借(か)りた家(いえ)に満(まん)二年(ねん)のあいだ住(す)んで、たずねて来(く)る人々(ひとびと)をみな迎(むか)え入(い)れ、 31はばからず、また妨(さまた)げられることもなく、神(かみ)の国(くに)を宣(の)べ伝(つた)え、主(しゅ)イエス・キリストのことを教(おし)えつづけた。