伝道の書

第一章

1ダビデの子(こ)、エルサレムの王(おう)である伝道者(でんどうしゃ)の言葉(ことば)。


2伝道者(でんどうしゃ)は言(い)う、
空(くう)の空(くう)、空(くう)の空(くう)、いっさいは空(くう)である。
3日(ひ)の下(した)で人(ひと)が労(ろう)するすべての労苦(ろうく)は、
その身(み)になんの益(えき)があるか。
4世(よ)は去(さ)り、世(よ)はきたる。
しかし地(ち)は永遠(えいえん)に変(かわ)らない。
5日(ひ)はいで、日(ひ)は没(ぼっ)し、
その出(で)た所(ところ)に急(いそ)ぎ行(い)く。
6風(かぜ)は南(みなみ)に吹(ふ)き、また転(てん)じて、北(きた)に向(む)かい、
めぐりにめぐって、またそのめぐる所(ところ)に帰(かえ)る。
7川(かわ)はみな、海(うみ)に流(なが)れ入(い)る、
しかし海(うみ)は満(み)ちることがない。
川(かわ)はその出(で)てきた所(ところ)にまた帰(かえ)って行(い)く。
8すべての事(こと)は人(ひと)をうみ疲(つか)れさせる、
人(ひと)はこれを言(い)いつくすことができない。
目(め)は見(み)ることに飽(あ)きることがなく、
耳(みみ)は聞(き)くことに満足(まんぞく)することがない。
9先(さき)にあったことは、また後(のち)にもある、
先(さき)になされた事(こと)は、また後(のち)にもなされる。
日(ひ)の下(した)には新(あたら)しいものはない。
10「見(み)よ、これは新(あたら)しいものだ」と
言(い)われるものがあるか、
それはわれわれの前(まえ)にあった世々(よよ)に、
すでにあったものである。
11前(まえ)の者(もの)のことは覚(おぼ)えられることがない、
また、きたるべき後(のち)の者(もの)のことも、
後(のち)に起(おこ)る者(もの)はこれを覚(おぼ)えることがない。

12伝道者(でんどうしゃ)であるわたしはエルサレムで、イスラエルの王(おう)であった。 13わたしは心(こころ)をつくし、知恵(ちえ)を用(もち)いて、天(あめ)が下(した)に行(おこな)われるすべてのことを尋(たず)ね、また調(しら)べた。これは神(かみ)が、人(ひと)の子(こ)らに与(あた)えて、ほねおらせられる苦(くる)しい仕事(しごと)である。 14わたしは日(ひ)の下(した)で人(ひと)が行(おこな)うすべてのわざを見(み)たが、みな空(くう)であって風(かぜ)を捕(とら)えるようである。
15曲(まが)ったものは、まっすぐにすることができない、
欠(か)けたものは数(かぞ)えることができない。

16わたしは心(こころ)の中(なか)に語(かた)って言(い)った、「わたしは、わたしより先(さき)にエルサレムを治(おさ)めたすべての者(もの)にまさって、多(おお)くの知恵(ちえ)を得(え)た。わたしの心(こころ)は知恵(ちえ)と知識(ちしき)を多(おお)く得(え)た」。 17わたしは心(こころ)をつくして知恵(ちえ)を知(し)り、また狂気(きょうき)と愚痴(ぐち)とを知(し)ろうとしたが、これもまた風(かぜ)を捕(とら)えるようなものであると悟(さと)った。
18それは知恵(ちえ)が多(おお)ければ悩(なや)みが多(おお)く、
知識(ちしき)を増(ま)す者(もの)は憂(うれ)いを増(ま)すからである。

第二章

1わたしは自分(じぶん)の心(こころ)に言(い)った、「さあ、快楽(かいらく)をもって、おまえを試(こころ)みよう。おまえは愉快(ゆかい)に過(す)ごすがよい」と。しかし、これもまた空(くう)であった。 2わたしは笑(わら)いについて言(い)った、「これは狂気(きょうき)である」と。また快楽(かいらく)について言(い)った、「これは何(なに)をするのか」と。 3わたしの心(こころ)は知恵(ちえ)をもってわたしを導(みちび)いているが、わたしは酒(さけ)をもって自分(じぶん)の肉体(にくたい)を元気(げんき)づけようと試(こころ)みた。また、人(ひと)の子(こ)は天(あめ)が下(した)でその短(みじか)い一生(いっしょう)の間(あいだ)、どんな事(こと)をしたら良(よ)いかを、見(み)きわめるまでは、愚(おろ)かな事(こと)をしようと試(こころ)みた。 4わたしは大(おお)きな事業(じぎょう)をした。わたしは自分(じぶん)のために家(いえ)を建(た)て、ぶどう畑(ばたけ)を設(もう)け、 5園(その)と庭(にわ)をつくり、またすべて実(み)のなる木(き)をそこに植(う)え、 6池(いけ)をつくって、木(き)のおい茂(しげ)る林(はやし)に、そこから水(みず)を注(そそ)がせた。 7わたしは男女(だんじょ)の奴隷(どれい)を買(か)った。またわたしの家(いえ)で生(うま)れた奴隷(どれい)を持(も)っていた。わたしはまた、わたしより先(さき)にエルサレムにいただれよりも多(おお)くの牛(うし)や羊(ひつじ)の財産(ざいさん)を持(も)っていた。 8わたしはまた銀(ぎん)と金(きん)を集(あつ)め、王(おう)たちと国々(くにぐに)の財宝(ざいほう)を集(あつ)めた。またわたしは歌(うた)うたう男(おとこ)、歌(うた)うたう女(おんな)を得(え)た。また人(ひと)の子(こ)の楽(たの)しみとするそばめを多(おお)く得(え)た。

9こうして、わたしは大(おお)いなる者(もの)となり、わたしより先(さき)にエルサレムにいたすべての者(もの)よりも、大(おお)いなる者(もの)となった。わたしの知恵(ちえ)もまた、わたしを離(はな)れなかった。 10なんでもわたしの目(め)の好(この)むものは遠慮(えんりょ)せず、わたしの心(こころ)の喜(よろこ)ぶものは拒(こば)まなかった。わたしの心(こころ)がわたしのすべての労苦(ろうく)によって、快楽(かいらく)を得(え)たからである。そしてこれはわたしのすべての労苦(ろうく)によって得(え)た報(むく)いであった。 11そこで、わたしはわが手(て)のなしたすべての事(こと)、およびそれをなすに要(よう)した労苦(ろうく)を顧(かえり)みたとき、見(み)よ、皆(みな)、空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようなものであった。日(ひ)の下(した)には益(えき)となるものはないのである。

12わたしはまた、身(み)をめぐらして、知恵(ちえ)と、狂気(きょうき)と、愚痴(ぐち)とを見(み)た。そもそも、王(おう)の後(のち)に来(く)る人(ひと)は何(なに)をなし得(え)ようか。すでに彼(かれ)がなした事(こと)にすぎないのだ。 13光(ひかり)が暗(くら)きにまさるように、知恵(ちえ)が愚痴(ぐち)にまさるのを、わたしは見(み)た。 14知者(ちしゃ)の目(め)は、その頭(あたま)にある。しかし愚者(ぐしゃ)は暗(くら)やみを歩(あゆ)む。けれどもわたしはなお同一(どういつ)の運命(うんめい)が彼(かれ)らのすべてに臨(のぞ)むことを知(し)っている。 15わたしは心(こころ)に言(い)った、「愚者(ぐしゃ)に臨(のぞ)む事(こと)はわたしにも臨(のぞ)むのだ。それでどうしてわたしは賢(かしこ)いことがあろう」。わたしはまた心(こころ)に言(い)った、「これもまた空(くう)である」と。 16そもそも、知者(ちしゃ)も愚者(ぐしゃ)も同様(どうよう)に長(なが)く覚(おぼ)えられるものではない。きたるべき日(ひ)には皆(みな)忘(わす)れられてしまうのである。知者(ちしゃ)が愚者(ぐしゃ)と同(おな)じように死(し)ぬのは、どうしたことであろう。 17そこで、わたしは生(い)きることをいとった。日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるわざは、わたしに悪(あ)しく見(み)えたからである。皆(みな)空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようである。

18わたしは日(ひ)の下(した)で労(ろう)したすべての労苦(ろうく)を憎(にく)んだ。わたしの後(のち)に来(く)る人(ひと)にこれを残(のこ)さなければならないからである。 19そして、その人(ひと)が知者(ちしゃ)であるか、または愚者(ぐしゃ)であるかは、だれが知(し)り得(え)よう。そうであるのに、その人(ひと)が、日(ひ)の下(した)でわたしが労(ろう)し、かつ知恵(ちえ)を働(はたら)かしてなしたすべての労苦(ろうく)をつかさどることになるのだ。これもまた空(くう)である。 20それでわたしはふり返(かえ)ってみて、日(ひ)の下(した)でわたしが労(ろう)したすべての労苦(ろうく)について、望(のぞ)みを失(うしな)った。 21今(いま)ここに人(ひと)があって、知恵(ちえ)と知識(ちしき)と才能(さいのう)をもって労(ろう)しても、これがために労(ろう)しない人(ひと)に、すべてを残(のこ)して、その所有(しょゆう)とさせなければならないのだ。これもまた空(くう)であって、大(おお)いに悪(わる)い。 22そもそも、人(ひと)は日(ひ)の下(した)で労(ろう)するすべての労苦(ろうく)と、その心(こころ)づかいによってなんの得(え)るところがあるか。 23そのすべての日(ひ)はただ憂(うれ)いのみであって、そのわざは苦(くる)しく、その心(こころ)は夜(よ)の間(ま)も休(やす)まることがない。これもまた空(くう)である。

24人(ひと)は食(く)い飲(の)みし、その労苦(ろうく)によって得(え)たもので心(こころ)を楽(たの)しませるより良(よ)い事(こと)はない。これもまた神(かみ)の手(て)から出(で)ることを、わたしは見(み)た。 25だれが神(かみ)を離(はな)れて、食(く)い、かつ楽(たの)しむことのできる者(もの)があろう。 26神(かみ)は、その心(こころ)にかなう人(ひと)に、知恵(ちえ)と知識(ちしき)と喜(よろこ)びとをくださる。しかし罪(つみ)びとには仕事(しごと)を与(あた)えて集(あつ)めることと、積(つ)むことをさせられる。これは神(かみ)の心(こころ)にかなう者(もの)にそれを賜(たま)わるためである。これもまた空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようである。

第三章


1天(あめ)が下(した)のすべての事(こと)には季節(きせつ)があり、
すべてのわざには時(とき)がある。
2生(うま)るるに時(とき)があり、死(し)ぬるに時(とき)があり、
植(う)えるに時(とき)があり、植(う)えたものを抜(ぬ)くに時(とき)があり、
3殺(ころ)すに時(とき)があり、いやすに時(とき)があり、
こわすに時(とき)があり、建(た)てるに時(とき)があり、
4泣(な)くに時(とき)があり、笑(わら)うに時(とき)があり、
悲(かな)しむに時(とき)があり、踊(おど)るに時(とき)があり、
5石(いし)を投(な)げるに時(とき)があり、石(いし)を集(あつ)めるに時(とき)があり、
抱(だ)くに時(とき)があり、抱(だ)くことをやめるに時(とき)があり、
6捜(さが)すに時(とき)があり、失(うしな)うに時(とき)があり、
保(たも)つに時(とき)があり、捨(す)てるに時(とき)があり、
7裂(さ)くに時(とき)があり、縫(ぬ)うに時(とき)があり、
黙(だま)るに時(とき)があり、語(かた)るに時(とき)があり、
8愛(あい)するに時(とき)があり、憎(にく)むに時(とき)があり、
戦(たたか)うに時(とき)があり、和(やわ)らぐに時(とき)がある。
9働(はたら)く者(もの)はその労(ろう)することにより、なんの益(えき)を得(え)るか。

10わたしは神(かみ)が人(ひと)の子(こ)らに与(あた)えて、ほねおらせられる仕事(しごと)を見(み)た。 11神(かみ)のなされることは皆(みな)その時(とき)にかなって美(うつく)しい。神(かみ)はまた人(ひと)の心(こころ)に永遠(えいえん)を思(おも)う思(おも)いを授(さづ)けられた。それでもなお、人(ひと)は神(かみ)のなされるわざを初(はじ)めから終(おわ)りまで見(み)きわめることはできない。 12わたしは知(し)っている。人(ひと)にはその生(い)きながらえている間(あいだ)、楽(たの)しく愉快(ゆかい)に過(す)ごすよりほかに良(よ)い事(こと)はない。 13またすべての人(ひと)が食(く)い飲(の)みし、そのすべての労苦(ろうく)によって楽(たの)しみを得(え)ることは神(かみ)の賜物(たまもの)である。 14わたしは知(し)っている。すべて神(かみ)がなさる事(こと)は永遠(えいえん)に変(かわ)ることがなく、これに加(くわ)えることも、これから取(と)ることもできない。神(かみ)がこのようにされるのは、人々(ひとびと)が神(かみ)の前(まえ)に恐(おそ)れをもつようになるためである。 15今(いま)あるものは、すでにあったものである。後(のち)にあるものも、すでにあったものである。神(かみ)は追(お)いやられたものを尋(たず)ね求(もと)められる。

16わたしはまた、日(ひ)の下(した)を見(み)たが、さばきを行(おこな)う所(ところ)にも不正(ふせい)があり、公義(こうぎ)を行(おこな)う所(ところ)にも不正(ふせい)がある。 17わたしは心(こころ)に言(い)った、「神(かみ)は正(ただ)しい者(もの)と悪(わる)い者(もの)とをさばかれる。神(かみ)はすべての事(こと)と、すべてのわざに、時(とき)を定(さだ)められたからである」と。 18わたしはまた、人(ひと)の子(こ)らについて心(こころ)に言(い)った、「神(かみ)は彼(かれ)らをためして、彼(かれ)らに自分(じぶん)たちが獣(けもの)にすぎないことを悟(さと)らせられるのである」と。 19人(ひと)の子(こ)らに臨(のぞ)むところは獣(けもの)にも臨(のぞ)むからである。すなわち一様(いちよう)に彼(かれ)らに臨(のぞ)み、これの死(し)ぬように、彼(かれ)も死(し)ぬのである。彼(かれ)らはみな同様(どうよう)の息(いき)をもっている。人(ひと)は獣(けもの)にまさるところがない。すべてのものは空(くう)だからである。 20みな一(ひと)つ所(ところ)に行(い)く。皆(みな)ちりから出(で)て、皆(みな)ちりに帰(かえ)る。 21だれが知(し)るか、人(ひと)の子(こ)らの霊(れい)は上(うえ)にのぼり、獣(けもの)の霊(れい)は地(ち)にくだるかを。 22それで、わたしは見(み)た、人(ひと)はその働(はたら)きによって楽(たの)しむにこした事(こと)はない。これが彼(かれ)の分(ぶん)だからである。だれが彼(かれ)をつれていって、その後(のち)の、どうなるかを見(み)させることができようか。

第四章

1わたしはまた、日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるすべてのしえたげを見(み)た。見(み)よ、しえたげられる者(もの)の涙(なみだ)を。彼(かれ)らを慰(なぐさ)める者(もの)はない。しえたげる者(もの)の手(て)には権力(けんりょく)がある。しかし彼(かれ)らを慰(なぐさ)める者(もの)はいない。 2それで、わたしはなお生(い)きている生存者(せいぞんしゃ)よりも、すでに死(し)んだ死者(ししゃ)を、さいわいな者(もの)と思(おも)った。 3しかし、この両者(りょうしゃ)よりもさいわいなのは、まだ生(うま)れない者(もの)で、日(ひ)の下(した)に行(おこな)われる悪(あ)しきわざを見(み)ない者(もの)である。

4また、わたしはすべての労苦(ろうく)と、すべての巧(たく)みなわざを見(み)たが、これは人(ひと)が互(たがい)にねたみあってなすものである。これもまた空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようである。

5愚(おろ)かなる者(もの)は手(て)をつかねて、自分(じぶん)の肉(にく)を食(く)う。

6片手(かたて)に物(もの)を満(み)たして平穏(へいおん)であるのは、両手(りょうて)に物(もの)を満(み)たして労苦(ろうく)し、風(かぜ)を捕(とら)えるのにまさる。

7わたしはまた、日(ひ)の下(した)に空(くう)なる事(こと)のあるのを見(み)た。 8ここに人(ひと)がある。ひとりであって、仲(なか)間(ま)もなく、子(こ)もなく、兄弟(きょうだい)もない。それでも彼(かれ)の労苦(ろうく)は窮(きわ)まりなく、その目(め)は富(とみ)に飽(あ)くことがない。また彼(かれ)は言(い)わない、「わたしはだれのために労(ろう)するのか、どうして自分(じぶん)を楽(たの)しませないのか」と。これもまた空(くう)であって、苦(くる)しいわざである。

9ふたりはひとりにまさる。彼(かれ)らはその労苦(ろうく)によって良(よ)い報(むく)いを得(え)るからである。 10すなわち彼(かれ)らが倒(たお)れる時(とき)には、そのひとりがその友(とも)を助(たす)け起(おこ)す。しかしひとりであって、その倒(たお)れる時(とき)、これを助(たす)け起(おこ)す者(もの)のない者(もの)はわざわいである。 11またふたりが一緒(いっしょ)に寝(ね)れば暖(あたた)かである。ひとりだけで、どうして暖(あたた)かになり得(え)ようか。 12人(ひと)がもし、そのひとりを攻(せ)め撃(う)ったなら、ふたりで、それに当(あた)るであろう。三つよりの綱(つな)はたやすくは切(き)れない。

13貧(まず)しくて賢(かしこ)いわらべは、老(お)いて愚(おろ)かで、もはや、いさめをいれることを知(し)らない王(おう)にまさる。 14たとい、その王(おう)が獄屋(ごくや)から出(で)て、王位(おうい)についた者(もの)であっても、また自分(じぶん)の国(くに)に貧(まず)しく生(うま)れて王位(おうい)についた者(もの)であっても、そうである。 15わたしは日(ひ)の下(した)に歩(あゆ)むすべての民(たみ)が、かのわらべのように王(おう)に代(かわ)って立(た)つのを見(み)た。 16すべての民(たみ)は果(は)てしがない。彼(かれ)はそのすべての民(たみ)を導(みちび)いた。しかし後(のち)に来(く)る者(もの)は彼(かれ)を喜(よろこ)ばない。たしかに、これもまた空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようである。

第五章

1神(かみ)の宮(みや)に行(ゆ)く時(とき)には、その足(あし)を慎(つつし)むがよい。近(ちか)よって聞(き)くのは愚(おろ)かな者(もの)の犠牲(ぎせい)をささげるのにまさる。彼(かれ)らは悪(あく)を行(おこな)っていることを知(し)らないからである。 2神(かみ)の前(まえ)で軽々(かるがる)しく口(くち)をひらき、また言葉(ことば)を出(だ)そうと、心(こころ)にあせってはならない。神(かみ)は天(てん)にいまし、あなたは地(ち)におるからである。それゆえ、あなたは言葉(ことば)を少(すく)なくせよ。

3夢(ゆめ)は仕事(しごと)の多(おお)いことによってきたり、愚(おろ)かなる者(もの)の声(こえ)は言葉(ことば)の多(おお)いことによって知(し)られる。

4あなたは神(かみ)に誓(ちか)いをなすとき、それを果(はた)すことを延(の)ばしてはならない。神(かみ)は愚(おろ)かな者(もの)を喜(よろこ)ばれないからである。あなたの誓(ちか)ったことを必(かなら)ず果(はた)せ。 5あなたが誓(ちか)いをして、それを果(はた)さないよりは、むしろ誓(ちか)いをしないほうがよい。 6あなたの口(くち)が、あなたに罪(つみ)を犯(おか)させないようにせよ。また使者(ししゃ)の前(まえ)にそれは誤(あやま)りであったと言(い)ってはならない。どうして、神(かみ)があなたの言葉(ことば)を怒(いか)り、あなたの手(て)のわざを滅(ほろ)ぼしてよかろうか。

7夢(ゆめ)が多(おお)ければ空(くう)なる言葉(ことば)も多(おお)い。しかし、あなたは神(かみ)を恐(おそ)れよ。

8あなたは国(くに)のうちに貧(まず)しい者(もの)をしえたげ、公道(こうどう)と正義(せいぎ)を曲(ま)げることのあるのを見(み)ても、その事(こと)を怪(あや)しんではならない。それは位(くらい)の高(たか)い人(ひと)よりも、さらに高(たか)い者(もの)があって、その人(ひと)をうかがうからである。そしてそれらよりもなお高(たか)い者(もの)がある。 9しかし、要(よう)するに耕作(こうさく)した田畑(たはた)をもつ国(くに)には王(おう)は利益(りえき)である。

10金銭(きんせん)を好(この)む者(もの)は金銭(きんせん)をもって満足(まんぞく)しない。富(とみ)を好(この)む者(もの)は富(とみ)を得(え)て満足(まんぞく)しない。これもまた空(くう)である。

11財産(ざいさん)が増(ま)せば、これを食(く)う者(もの)も増(ま)す。その持(も)ち主(ぬし)は目(め)にそれを見(み)るだけで、なんの益(えき)があるか。

12働(はたら)く者(もの)は食(た)べることが少(すく)なくても多(おお)くても、快(こころよ)く眠(ねむ)る。しかし飽(あ)き足(た)りるほどの富(とみ)は、彼(かれ)に眠(ねむ)ることをゆるさない。

13わたしは日(ひ)の下(した)に悲(かな)しむべき悪(あく)のあるのを見(み)た。すなわち、富(とみ)はこれをたくわえるその持(も)ち主(ぬし)に害(がい)を及(およ)ぼすことである。 14またその富(とみ)は不幸(ふこう)な出来事(できごと)によってうせ行(い)くことである。それで、その人(ひと)が子(こ)をもうけても、彼(かれ)の手(て)には何(なに)も残(のこ)らない。 15彼(かれ)は母(はは)の胎(たい)から出(で)てきたように、すなわち裸(はだか)で出(で)てきたように帰(かえ)って行(い)く。彼(かれ)はその労苦(ろうく)によって得(え)た何(なに)物(もの)をもその手(て)に携(たずさ)え行(い)くことができない。 16人(ひと)は全(まった)くその来(き)たように、また去(さ)って行(い)かなければならない。これもまた悲(かな)しむべき悪(あく)である。風(かぜ)のために労(ろう)する者(もの)になんの益(えき)があるか。 17人(ひと)は一生(いっしょう)、暗(くら)やみと、悲(かな)しみと、多(おお)くの悩(なや)みと、病(やまい)と、憤(いきどお)りの中(なか)にある。

18見(み)よ、わたしが見(み)たところの善(ぜん)かつ美(び)なる事(こと)は、神(かみ)から賜(たま)わった短(みじか)い一生(いっしょう)の間(あいだ)、食(く)い、飲(の)み、かつ日(ひ)の下(した)で労(ろう)するすべての労苦(ろうく)によって、楽(たの)しみを得(え)る事(こと)である。これがその分(ぶん)だからである。 19また神(かみ)はすべての人(ひと)に富(とみ)と宝(たから)と、それを楽(たの)しむ力(ちから)を与(あた)え、またその分(ぶん)を取(と)らせ、その労苦(ろうく)によって楽(たの)しみを得(え)させられる。これが神(かみ)の賜物(たまもの)である。 20このような人(ひと)は自分(じぶん)の生(い)きる日(ひ)のことを多(おお)く思(おも)わない。神(かみ)は喜(よろこ)びをもって彼(かれ)の心(こころ)を満(み)たされるからである。

第六章

1わたしは日(ひ)の下(した)に一つの悪(あく)のあるのを見(み)た。これは人々(ひとびと)の上(うえ)に重(おも)い。 2すなわち神(かみ)は富(とみ)と、財産(ざいさん)と、誉(ほまれ)とを人(ひと)に与(あた)えて、その心(こころ)に慕(した)うものを、一つも欠(か)けることのないようにされる。しかし神(かみ)は、その人(ひと)にこれを持(も)つことを許(ゆる)されないで、他人(たにん)がこれを持(も)つようになる。これは空(くう)である。悪(あ)しき病(やまい)である。 3たとい人(ひと)は百人(にん)の子(こ)をもうけ、また命(いのち)長(なが)く、そのよわいの日(ひ)が多(おお)くても、その心(こころ)が幸福(こうふく)に満足(まんぞく)せず、また葬(ほうむ)られることがなければ、わたしは言(い)う、流産(りゅうざん)の子(こ)はその人(ひと)にまさると。 4これはむなしく来(き)て、暗(くら)やみの中(なか)に去(さ)って行(い)き、その名(な)は暗(くら)やみにおおわれる。 5またこれは日(ひ)を見(み)ず、物(もの)を知(し)らない。けれどもこれは彼(かれ)よりも安(やす)らかである。 6たとい彼(かれ)は千年(ねん)に倍(ばい)するほど生(い)きても幸福(こうふく)を見(み)ない。みな一(ひと)つ所(ところ)に行(い)くのではないか。

7人(ひと)の労苦(ろうく)は皆(みな)、その口(くち)のためである。しかしその食欲(しょくよく)は満(み)たされない。 8賢(かしこ)い者(もの)は愚(おろ)かな者(もの)になんのまさるところがあるか。また生(い)ける者(もの)の前(まえ)に歩(あゆ)むことを知(し)る貧(まず)しい者(もの)もなんのまさるところがあるか。 9目(め)に見(み)る事(こと)は欲望(よくぼう)のさまよい歩(ある)くにまさる。これもまた空(くう)であって、風(かぜ)を捕(とら)えるようなものである。

10今(いま)あるものは、すでにその名(な)がつけられた。そして人(ひと)はいかなる者(もの)であるかは知(し)られた。それで人(ひと)は自分(じぶん)よりも力強(ちからづよ)い者(もの)と争(あらそ)うことはできない。 11言葉(ことば)が多(おお)ければむなしい事(こと)も多(おお)い。人(ひと)になんの益(えき)があるか。 12人(ひと)はその短(みじか)く、むなしい命(いのち)の日(ひ)を影(かげ)のように送(おく)るのに、何(なに)が人(ひと)のために善(ぜん)であるかを知(し)ることができよう。だれがその身(み)の後(のち)に、日(ひ)の下(した)に何(なに)があるであろうかを人(ひと)に告(つ)げることができるか。

第七章


1良(よ)き名(な)は良(よ)き油(あぶら)にまさり、
死(し)ぬる日(ひ)は生(うま)るる日(ひ)にまさる。
2悲(かな)しみの家(いえ)にはいるのは、
宴会(えんかい)の家(いえ)にはいるのにまさる。
死(し)はすべての人(ひと)の終(おわ)りだからである。
生(い)きている者(もの)は、これを心(こころ)にとめる。
3悲(かな)しみは笑(わら)いにまさる。
顔(かお)に憂(うれ)いをもつことによって、
心(こころ)は良(よ)くなるからである。
4賢(かしこ)い者(もの)の心(こころ)は悲(かな)しみの家(いえ)にあり、
愚(おろ)かな者(もの)の心(こころ)は楽(たの)しみの家(いえ)にある。
5賢(かしこ)い者(もの)の戒(いまし)めを聞(き)くのは、
愚(おろ)かな者(もの)の歌(うた)を聞(き)くのにまさる。
6愚(おろ)かな者(もの)の笑(わら)いは
かまの下(した)に燃(も)えるいばらの音(おと)のようである。
これもまた空(くう)である。
7たしかに、しえたげは賢(かしこ)い人(ひと)を愚(おろ)かにし、
まいないは人(ひと)の心(こころ)をそこなう。
8事(こと)の終(おわ)りはその初(はじ)めよりも良(よ)い。
耐(た)え忍(しの)ぶ心(こころ)は、おごり高(たか)ぶる心(こころ)にまさる。
9気(き)をせきたてて怒(いか)るな。
怒(いか)りは愚(おろ)かな者(もの)の胸(むね)に宿(やど)るからである。
10「昔(むかし)が今(いま)よりもよかったのはなぜか」と言(い)うな。
あなたがこれを問(と)うのは知恵(ちえ)から出(で)るのではない。
11知恵(ちえ)に財産(ざいさん)が伴(ともな)うのは良(よ)い。
それは日(ひ)を見(み)る者(もの)どもに益(えき)がある。
12知恵(ちえ)が身(み)を守(まも)るのは、金銭(きんせん)が身(み)を守(まも)るようである。
しかし、知恵(ちえ)はこれを持(も)つ者(もの)に生命(せいめい)を保(たも)たせる。
これが知識(ちしき)のすぐれた所(ところ)である。
13神(かみ)のみわざを考(かんが)えみよ。
神(かみ)の曲(ま)げられたものを、
だれがまっすぐにすることができるか。

14順境(じゅんきょう)の日(ひ)には楽(たの)しめ、逆境(ぎゃっきょう)の日(ひ)には考(かんが)えよ。神(かみ)は人(ひと)に将来(しょうらい)どういう事(こと)があるかを、知(し)らせないために、彼(かれ)とこれとを等(ひと)しく造(つく)られたのである。

15わたしはこのむなしい人生(じんせい)において、もろもろの事(こと)を見(み)た。そこには義人(ぎじん)がその義(ぎ)によって滅(ほろ)びることがあり、悪人(あくにん)がその悪(あく)によって長生(ながい)きすることがある。 16あなたは義(ぎ)に過(す)ぎてはならない。また賢(かしこ)きに過(す)ぎてはならない。あなたはどうして自分(じぶん)を滅(ほろ)ぼしてよかろうか。 17悪(あく)に過(す)ぎてはならない。また愚(おろ)かであってはならない。あなたはどうして、自分(じぶん)の時(とき)のこないのに、死(し)んでよかろうか。 18あなたがこれを執(と)るのはよい、また彼(かれ)から手(て)を引(ひ)いてはならない。神(かみ)をかしこむ者(もの)は、このすべてからのがれ出(で)るのである。

19知恵(ちえ)が知者(ちしゃ)を強(つよ)くするのは、十人(にん)のつかさが町(まち)におるのにまさる。

20善(ぜん)を行(おこな)い、罪(つみ)を犯(おか)さない正(ただ)しい人(ひと)は世(よ)にいない。

21人(ひと)の語(かた)るすべての事(こと)に心(こころ)をとめてはならない。これはあなたが、自分(じぶん)のしもべのあなたをのろう言葉(ことば)を聞(き)かないためである。 22あなたもまた、しばしば他人(たにん)をのろったのを自分(じぶん)の心(こころ)に知(し)っているからである。

23わたしは知恵(ちえ)をもってこのすべての事(こと)を試(こころ)みて、「わたしは知者(ちしゃ)となろう」と言(い)ったが、遠(とお)く及(およ)ばなかった。 24物事(ものごと)の理(り)は遠(とお)く、また、はなはだ深(ふか)い。だれがこれを見(み)いだすことができよう。 25わたしは、心(こころ)を転(てん)じて、物(もの)を知(し)り、事(こと)を探(さぐ)り、知恵(ちえ)と道理(どうり)を求(もと)めようとし、また悪(あく)の愚(おろ)かなこと、愚痴(ぐち)の狂気(きょうき)であることを知(し)ろうとした。 26わたしは、その心(こころ)が、わなと網(あみ)のような女(おんな)、その手(て)が、かせのような女(おんな)は、死(し)よりも苦(にが)い者(もの)であることを見(み)いだした。神(かみ)を喜(よろこ)ばす者(もの)は彼女(かのじょ)からのがれる。しかし罪(つみ)びとは彼女(かのじょ)に捕(とら)えられる。 27伝道者(でんどうしゃ)は言(い)う、見(み)よ、その数(かず)を知(し)ろうとして、いちいち数(かぞ)えて、わたしが得(え)たものはこれである。 28わたしはなおこれを求(もと)めたけれども、得(え)なかった。わたしは千人(にん)のうちにひとりの男子(だんし)を得(え)たけれども、そのすべてのうちに、ひとりの女子(じょし)をも得(え)なかった。 29見(み)よ、わたしが得(え)た事(こと)は、ただこれだけである。すなわち、神(かみ)は人(ひと)を正(ただ)しい者(もの)に造(つく)られたけれども、人(ひと)は多(おお)くの計略(けいりゃく)を考(かんが)え出(だ)した事(こと)である。

第八章


1だれが知者(ちしゃ)のようになり得(え)よう。
だれが事(こと)の意義(いぎ)を知(し)り得(え)よう。
人(ひと)の知恵(ちえ)はその人(ひと)の顔(かお)を輝(かがや)かせ、
またその粗暴(そぼう)な顔(かお)を変(か)える。

2王(おう)の命(めい)を守(まも)れ。すでに神(かみ)をさして誓(ちか)ったことゆえ、驚(おどろ)くな。 3事(こと)が悪(わる)い時(とき)は、王(おう)の前(まえ)を去(さ)れ、ためらうな。彼(かれ)はすべてその好(この)むところをなすからである。 4王(おう)の言葉(ことば)は決定的(けっていてき)である。だれが彼(かれ)に「あなたは何(なに)をするのか」と言(い)うことができようか。 5命令(めいれい)を守(まも)る者(もの)は災(わざわい)にあわない。知者(ちしゃ)の心(こころ)は時(とき)と方法(ほうほう)をわきまえている。 6人(ひと)の悪(あく)が彼(かれ)の上(うえ)に重(おも)くても、すべてのわざには時(とき)と方法(ほうほう)がある。 7後(のち)に起(おこ)る事(こと)を知(し)る者(もの)はない。どんな事(こと)が起(おこ)るかをだれが彼(かれ)に告(つ)げ得(え)よう。 8風(かぜ)をとどめる力(ちから)をもつ人(ひと)はない。また死(し)の日(ひ)をつかさどるものはない。戦(たたか)いには免除(めんじょ)はない。また悪(あく)はこれを行(おこな)う者(もの)を救(すく)うことができない。 9わたしはこのすべての事(こと)を見(み)た。また日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるもろもろのわざに心(こころ)を用(もち)いた。時(とき)としてはこの人(ひと)が、かの人(ひと)を治(おさ)めて、これに害(がい)をこうむらせることがある。

10またわたしは悪人(あくにん)の葬(ほうむ)られるのを見(み)た。彼(かれ)らはいつも聖所(せいじょ)に出入(でい)りし、それを行(おこな)ったその町(まち)でほめられた。これもまた空(くう)である。 11悪(あ)しきわざに対(たい)する判決(はんけつ)がすみやかに行(おこな)われないために、人(ひと)の子(こ)らの心(こころ)はもっぱら悪(あく)を行(おこな)うことに傾(かたむ)いている。 12罪(つみ)びとで百度(ど)悪(あく)をなして、なお長生(ながい)きするものがあるけれども、神(かみ)をかしこみ、み前(まえ)に恐(おそ)れをいだく者(もの)には幸福(こうふく)があることを、わたしは知(し)っている。 13しかし悪人(あくにん)には幸福(こうふく)がない。またその命(いのち)は影(かげ)のようであって長(なが)くは続(つづ)かない。彼(かれ)は神(かみ)の前(まえ)に恐(おそ)れをいだかないからである。

14地(ち)の上(うえ)に空(くう)な事(こと)が行(おこな)われている。すなわち、義人(ぎじん)であって、悪人(あくにん)に臨(のぞ)むべき事(こと)が、その身(み)に臨(のぞ)む者(もの)がある。また、悪人(あくにん)であって、義人(ぎじん)に臨(のぞ)むべき事(こと)が、その身(み)に臨(のぞ)む者(もの)がある。わたしは言(い)った、これもまた空(くう)であると。 15そこで、わたしは歓楽(かんらく)をたたえる。それは日(ひ)の下(した)では、人(ひと)にとって、食(く)い、飲(の)み、楽(たの)しむよりほかに良(よ)い事(こと)はないからである。これこそは日(ひ)の下(した)で、神(かみ)が賜(たま)わった命(いのち)の日(ひ)の間(あいだ)、その勤労(きんろう)によってその身(み)に伴(ともな)うものである。

16わたしは心(こころ)をつくして知恵(ちえ)を知(し)ろうとし、また地上(ちじょう)に行(おこな)われるわざを昼(ひる)も夜(よる)も眠(ねむ)らずに窮(きわ)めようとしたとき、 17わたしは神(かみ)のもろもろのわざを見(み)たが、人(ひと)は日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるわざを窮(きわ)めることはできない。人(ひと)はこれを尋(たず)ねようと労(ろう)しても、これを窮(きわ)めることはできない。また、たとい知者(ちしゃ)があって、これを知(し)ろうと思(おも)っても、これを窮(きわ)めることはできないのである。

第九章

1わたしはこのすべての事(こと)に心(こころ)を用(もち)いて、このすべての事(こと)を明(あき)らかにしようとした。すなわち正(ただ)しい者(もの)と賢(かしこ)い者(もの)、および彼(かれ)らのわざが、神(かみ)の手(て)にあることを明(あき)らかにしようとした。愛(あい)するか憎(にく)むかは人(ひと)にはわからない。彼(かれ)らの前(まえ)にあるすべてのことは空(くう)である。 2すべての人(ひと)に臨(のぞ)むところは、みな同様(どうよう)である。正(ただ)しい者(もの)にも正(ただ)しくない者(もの)にも、善良(ぜんりょう)な者(もの)にも悪(わる)い者(もの)にも、清(きよ)い者(もの)にも汚(けが)れた者(もの)にも、犠牲(ぎせい)をささげる者(もの)にも、犠牲(ぎせい)をささげない者(もの)にも、その臨(のぞ)むところは同様(どうよう)である。善良(ぜんりょう)な人(ひと)も罪(つみ)びとも異(こと)なることはない。誓(ちか)いをなす者(もの)も、誓(ちか)いをなすことを恐(おそ)れる者(もの)も異(こと)なることはない。 3すべての人(ひと)に同一(どういつ)に臨(のぞ)むのは、日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるすべての事(こと)のうちの悪事(あくじ)である。また人(ひと)の心(こころ)は悪(あく)に満(み)ち、その生(い)きている間(あいだ)は、狂気(きょうき)がその心(こころ)のうちにあり、その後(のち)は死者(ししゃ)のもとに行(い)くのである。 4すべて生(い)ける者(もの)に連(つら)なる者(もの)には望(のぞ)みがある。生(い)ける犬(いぬ)は、死(し)せるししにまさるからである。 5生(い)きている者(もの)は死(し)ぬべき事(こと)を知(し)っている。しかし死者(ししゃ)は何事(なにごと)をも知(し)らない、また、もはや報(むく)いを受(う)けることもない。その記憶(きおく)に残(のこ)る事(こと)がらさえも、ついに忘(わす)れられる。 6その愛(あい)も、憎(にく)しみも、ねたみも、すでに消(き)えうせて、彼(かれ)らはもはや日(ひ)の下(した)に行(おこな)われるすべての事(こと)に、永久(えいきゅう)にかかわることがない。

7あなたは行(い)って、喜(よろこ)びをもってあなたのパンを食(た)べ、楽(たの)しい心(こころ)をもってあなたの酒(さけ)を飲(の)むがよい。神(かみ)はすでに、あなたのわざをよみせられたからである。

8あなたの衣(ころも)を常(つね)に白(しろ)くせよ。あなたの頭(あたま)に油(あぶら)を絶(た)やすな。

9日(ひ)の下(した)で神(かみ)から賜(たま)わったあなたの空(くう)なる命(いのち)の日(ひ)の間(あいだ)、あなたはその愛(あい)する妻(つま)と共(とも)に楽(たの)しく暮(くら)すがよい。これはあなたが世(よ)にあってうける分(ぶん)、あなたが日(ひ)の下(した)で労(ろう)する労苦(ろうく)によって得(え)るものだからである。 10すべてあなたの手(て)のなしうる事(こと)は、力(ちから)をつくしてなせ。あなたの行(い)く陰府(よみ)には、わざも、計略(けいりゃく)も、知識(ちしき)も、知恵(ちえ)もないからである。

11わたしはまた日(ひ)の下(した)を見(み)たが、必(かなら)ずしも速(はや)い者(もの)が競走(きょうそう)に勝(か)つのではなく、強(つよ)い者(もの)が戦(たたか)いに勝(か)つのでもない。また賢(かしこ)い者(もの)がパンを得(え)るのでもなく、さとき者(もの)が富(とみ)を得(え)るのでもない。また知識(ちしき)ある者(もの)が恵(めぐ)みを得(え)るのでもない。しかし時(とき)と災難(さいなん)はすべての人(ひと)に臨(のぞ)む。 12人(ひと)はその時(とき)を知(し)らない。魚(うお)がわざわいの網(あみ)にかかり、鳥(とり)がわなにかかるように、人(ひと)の子(こ)らもわざわいの時(とき)が突然(とつぜん)彼(かれ)らに臨(のぞ)む時(とき)、それにかかるのである。

13またわたしは日(ひ)の下(した)にこのような知恵(ちえ)の例(れい)を見(み)た。これはわたしにとって大(おお)きな事(こと)である。 14ここに一つの小(ちい)さい町(まち)があって、そこに住(す)む人(ひと)は少(すく)なかったが、大(おお)いなる王(おう)が攻(せ)めて来(き)て、これを囲(かこ)み、これに向(む)かって大(おお)きな雲梯(うんてい)を建(た)てた。 15しかし、町(まち)のうちにひとりの貧(まず)しい知恵(ちえ)のある人(ひと)がいて、その知恵(ちえ)をもって町(まち)を救(すく)った。ところがだれひとり、その貧(まず)しい人(ひと)を記憶(きおく)する者(もの)がなかった。 16そこでわたしは言(い)う、「知恵(ちえ)は力(ちから)にまさる。しかしかの貧(まず)しい人(ひと)の知恵(ちえ)は軽(かろ)んぜられ、その言葉(ことば)は聞(き)かれなかった」。

17静(しず)かに聞(き)かれる知者(ちしゃ)の言葉(ことば)は、愚(おろ)かな者(もの)の中(なか)のつかさたる者(もの)の叫(さけ)びにまさる。 18知恵(ちえ)は戦(たたか)いの武器(ぶき)にまさる。しかし、ひとりの罪(つみ)びとは多(おお)くの良(よ)きわざを滅(ほろ)ぼす。

第一〇章


1死(し)んだはえは、香料(こうりょう)を造(つく)る者(もの)の
あぶらを臭(くさ)くし、
少(すこ)しの愚痴(ぐち)は知恵(ちえ)と誉(ほまれ)よりも重(おも)い。
2知者(ちしゃ)の心(こころ)は彼(かれ)を右(みぎ)に向(む)けさせ、
愚者(ぐしゃ)の心(こころ)は左(ひだり)に向(む)けさせる。
3愚者(ぐしゃ)は道(みち)を行(い)く時(とき)、思慮(しりょ)が足(た)りない、
自分(じぶん)の愚(おろ)かなことをすべての人(ひと)に告(つ)げる。
4つかさたる者(もの)があなたに向(む)かって立腹(りっぷく)しても、
あなたの所(ところ)を離(はな)れてはならない。
温順(おんじゅん)は大(おお)いなるとがを和(やわ)らげるからである。

5わたしは日(ひ)の下(した)に一つの悪(あく)のあるのを見(み)た。それはつかさたる者(もの)から出(で)るあやまちに似(に)ている。 6すなわち愚(おろ)かなる者(もの)が高(たか)い地位(ちい)に置(お)かれ、富(と)める者(もの)が卑(いや)しい所(ところ)に座(ざ)している。 7わたしはしもべたる者(もの)が馬(うま)に乗(の)り、君(くん)たる者(もの)が奴隷(どれい)のように徒歩(とほ)であるくのを見(み)た。
8穴(あな)を掘(ほ)る者(もの)はみずからこれに陥(おちい)り、
石(いし)がきをこわす者(もの)は、へびにかまれる。
9石(いし)を切(き)り出(だ)す者(もの)はそれがために傷(きず)をうけ、
木(き)を割(わ)る者(もの)はそれがために危険(きけん)にさらされる。
10鉄(てつ)が鈍(にぶ)くなったとき、人(ひと)がその刃(は)をみがかなければ、
力(ちから)を多(おお)くこれに用(もち)いねばならない。
しかし、知恵(ちえ)は人(ひと)を助(たす)けてなし遂(と)げさせる。
11へびがもし呪文(じゅもん)をかけられる前(まえ)に、かみつけば、
へび使(つかい)は益(えき)がない。

12知者(ちしゃ)の口(くち)の言葉(ことば)は恵(めぐ)みがある、
しかし愚者(ぐしゃ)のくちびるはその身(み)を滅(ほろ)ぼす。
13愚者(ぐしゃ)の口(くち)の言葉(ことば)の初(はじ)めは愚痴(ぐち)である、
またその言葉(ことば)の終(おわ)りは悪(わる)い狂気(きょうき)である。
14愚者(ぐしゃ)は言葉(ことば)を多(おお)くする、
しかし人(ひと)はだれも後(のち)に起(おこ)ることを知(し)らない。
だれがその身(み)の後(のち)に起(おこ)る事(こと)を
告(つ)げることができようか。
15愚者(ぐしゃ)の労苦(ろうく)はその身(み)を疲(つか)れさせる、
彼(かれ)は町(まち)にはいる道(みち)をさえ知(し)らない。

16あなたの王(おう)はわらべであって、
その君(きみ)たちが朝(あさ)から、ごちそうを食(た)べる国(くに)よ、
あなたはわざわいだ。
17あなたの王(おう)は自主(じしゅ)の子(こ)であって、
その君(きみ)たちが酔(よ)うためでなく、力(ちから)を得(え)るために、
適当(てきとう)な時(とき)にごちそうを食(た)べる国(くに)よ、
あなたはさいわいだ。
18怠惰(たいだ)によって屋根(やね)は落(お)ち、
無精(ぶしょう)によって家(いえ)は漏(も)る。
19食事(しょくじ)は笑(わら)いのためになされ、
酒(さけ)は命(いのち)を楽(たの)しませる。
金銭(きんせん)はすべての事(こと)に応(おう)じる。
20あなたは心(こころ)のうちでも王(おう)をのろってはならない、
また寝室(しんしつ)でも富(と)める者(もの)をのろってはならない。
空(そら)の鳥(とり)はあなたの声(こえ)を伝(つた)え、
翼(つばさ)のあるものは事(こと)を告(つ)げるからである。

第一一章


1あなたのパンを水(みず)の上(うえ)に投(な)げよ、
多(おお)くの日(ひ)の後(のち)、あなたはそれを得(え)るからである。
2あなたは一つの分(ぶん)を七つまた八つに分(わ)けよ、
あなたは、どんな災(わざわい)が地(ち)に起(おこ)るかを知(し)らないからだ。
3雲(くも)がもし雨(あめ)で満(み)ちるならば、地(ち)にそれを注(そそ)ぐ、
また木(き)がもし南(みなみ)か北(きた)に倒(たお)れるならば、
その木(き)は倒(たお)れた所(ところ)に横(よこ)たわる。
4風(かぜ)を警戒(けいかい)する者(もの)は種(たね)をまかない、
雲(くも)を観測(かんそく)する者(もの)は刈(か)ることをしない。

5あなたは、身(み)ごもった女(おんな)の胎(たい)の中(なか)で、どうして霊(れい)が骨(ほね)にはいるかを知(し)らない。そのようにあなたは、すべての事(こと)をなされる神(かみ)のわざを知(し)らない。

6朝(あさ)のうちに種(たね)をまけ、夕(ゆう)まで手(て)を休(やす)めてはならない。実(みの)るのは、これであるか、あれであるか、あるいは二つともに良(よ)いのであるか、あなたは知(し)らないからである。

7光(ひかり)は快(こころよ)いものである。目(め)に太陽(たいよう)を見(み)るのは楽(たの)しいことである。

8人(ひと)が多(おお)くの年(ねん)、生(い)きながらえ、そのすべてにおいて自分(じぶん)を楽(たの)しませても、暗(くら)い日(ひ)の多(おお)くあるべきことを忘(わす)れてはならない。すべて、きたらんとする事(こと)は皆(みな)空(くう)である。

9若(わか)い者(もの)よ、あなたの若(わか)い時(とき)に楽(たの)しめ。あなたの若(わか)い日(ひ)にあなたの心(こころ)を喜(よろこ)ばせよ。あなたの心(こころ)の道(みち)に歩(あゆ)み、あなたの目(め)の見(み)るところに歩(あゆ)め。ただし、そのすべての事(こと)のために、神(かみ)はあなたをさばかれることを知(し)れ。

10あなたの心(こころ)から悩(なや)みを去(さ)り、あなたのからだから痛(いた)みを除(のぞ)け。若(わか)い時(とき)と盛(さか)んな時(とき)はともに空(くう)だからである。

第一二章

1あなたの若(わか)い日(ひ)に、あなたの造(つく)り主(ぬし)を覚(おぼ)えよ。悪(あ)しき日(ひ)がきたり、年(とし)が寄(よ)って、「わたしにはなんの楽(たの)しみもない」と言(い)うようにならない前(まえ)に、 2また日(ひ)や光(ひかり)や、月(つき)や星(ほし)の暗(くら)くならない前(まえ)に、雨(あめ)の後(のち)にまた雲(くも)が帰(かえ)らないうちに、そのようにせよ。 3その日(ひ)になると、家(いえ)を守(まも)る者(もの)は震(ふる)え、力(ちから)ある人(ひと)はかがみ、ひきこなす女(おんな)は少(すく)ないために休(やす)み、窓(まど)からのぞく者(もの)の目(め)はかすみ、 4町(まち)の門(もん)は閉(と)ざされる。その時(とき)ひきこなす音(おと)は低(ひく)くなり、人(ひと)は鳥(とり)の声(こえ)によって起(お)きあがり、歌(うた)の娘(むすめ)たちは皆(みな)、低(ひく)くされる。 5彼(かれ)らはまた高(たか)いものを恐(おそ)れる。恐(おそ)ろしいものが道(みち)にあり、あめんどうは花(はな)咲(さ)き、いなごはその身(み)をひきずり歩(ある)き、その欲望(よくぼう)は衰(おとろ)え、人(ひと)が永遠(えいえん)の家(いえ)に行(い)こうとするので、泣(な)く人(ひと)が、ちまたを歩(ある)きまわる。 6その後(のち)、銀(ぎん)のひもは切(き)れ、金(きん)の皿(さら)は砕(くだ)け、水(みず)がめは泉(いずみ)のかたわらで破(やぶ)れ、車(くるま)は井戸(いど)のかたわらで砕(くだ)ける。 7ちりは、もとのように土(つち)に帰(かえ)り、霊(れい)はこれを授(さづ)けた神(かみ)に帰(かえ)る。 8伝道者(でんどうしゃ)は言(い)う、「空(くう)の空(くう)、いっさいは空(くう)である」と。

9さらに伝道者(でんどうしゃ)は知恵(ちえ)があるゆえに、知識(ちしき)を民(たみ)に教(おし)えた。彼(かれ)はよく考(かんが)え、尋(たず)ねきわめ、あまたの箴言(しんげん)をまとめた。 10伝道者(でんどうしゃ)は麗(うるわ)しい言葉(ことば)を得(え)ようとつとめた。また彼(かれ)は真実(しんじつ)の言葉(ことば)を正(ただ)しく書(か)きしるした。

11知者(ちしゃ)の言葉(ことば)は突(つ)き棒(ぼう)のようであり、またよく打(う)った釘(くぎ)のようなものであって、ひとりの牧者(ぼくしゃ)から出(で)た言葉(ことば)が集(あつ)められたものである。 12わが子(こ)よ、これら以外(いがい)の事(こと)にも心(こころ)を用(もち)いよ。多(おお)くの書(しょ)を作(つく)れば際限(さいげん)がない。多(おお)く学(まな)べばからだが疲(つか)れる。

13事(こと)の帰(き)する所(ところ)は、すべて言(い)われた。すなわち、神(かみ)を恐(おそ)れ、その命令(めいれい)を守(まも)れ。これはすべての人(ひと)の本分(ほんぶん)である。 14神(かみ)はすべてのわざ、ならびにすべての隠(かく)れた事(こと)を善悪(ぜんあく)ともにさばかれるからである。