ヨブ記

第一章

1ウヅの地(ち)にヨブという名(な)の人(ひと)があった。そのひととなりは全(まった)く、かつ正(ただ)しく、神(かみ)を恐(おそ)れ、悪(あく)に遠(とお)ざかった。 2彼(かれ)に男(おとこ)の子(こ)七人(にん)と女(おんな)の子(こ)三人(にん)があり、 3その家畜(かちく)は羊(ひつじ)七千頭(とう)、らくだ三千頭(とう)、牛(うし)五百くびき、雌(め)ろば五百頭(とう)で、しもべも非常(ひじょう)に多(おお)く、この人(ひと)は東(ひがし)の人々(ひとびと)のうちで最(もっと)も大(おお)いなる者(もの)であった。 4そのむすこたちは、めいめい自分(じぶん)の日(ひ)に、自分(じぶん)の家(いえ)でふるまいを設(もう)け、その三人(にん)の姉妹(しまい)をも招(まね)いて一緒(いっしょ)に食(く)い飲(の)みするのを常(つね)とした。 5そのふるまいの日(ひ)がひとめぐり終(おわ)るごとに、ヨブは彼(かれ)らを呼(よ)び寄(よ)せて聖別(せいべつ)し、朝(あさ)早(はや)く起(お)きて、彼(かれ)らすべての数(かず)にしたがって燔祭(はんさい)をささげた。これはヨブが「わたしのむすこたちは、ことによったら罪(つみ)を犯(おか)し、その心(こころ)に神(かみ)をのろったかもしれない」と思(おも)ったからである。ヨブはいつも、このように行(い)った。

6ある日(ひ)、神(かみ)の子(こ)たちが来(き)て、主(しゅ)の前(まえ)に立(た)った。サタンも来(き)てその中(なか)にいた。 7主(しゅ)は言(い)われた、「あなたはどこから来(き)たか」。サタンは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、「地(ち)を行(い)きめぐり、あちらこちら歩(ある)いてきました」。 8主(しゅ)はサタンに言(い)われた、「あなたはわたしのしもべヨブのように全(まった)く、かつ正(ただ)しく、神(かみ)を恐(おそ)れ、悪(あく)に遠(とお)ざかる者(もの)の世(よ)にないことを気(き)づいたか」。 9サタンは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、「ヨブはいたずらに神(かみ)を恐(おそ)れましょうか。 10あなたは彼(かれ)とその家(いえ)およびすべての所有物(しょゆうぶつ)のまわりにくまなく、まがきを設(もう)けられたではありませんか。あなたは彼(かれ)の勤労(きんろう)を祝福(しゅくふく)されたので、その家畜(かちく)は地(ち)にふえたのです。 11しかし今(いま)あなたの手(て)を伸(の)べて、彼(かれ)のすべての所有物(しょゆうぶつ)を撃(う)ってごらんなさい。彼(かれ)は必(かなら)ずあなたの顔(かお)に向(む)かって、あなたをのろうでしょう」。 12主(しゅ)はサタンに言(い)われた、「見(み)よ、彼(かれ)のすべての所有物(しょゆうぶつ)をあなたの手(て)にまかせる。ただ彼(かれ)の身(み)に手(て)をつけてはならない」。サタンは主(しゅ)の前(まえ)から出(で)て行(い)った。

13ある日(ひ)ヨブのむすこ、娘(むすめ)たちが第(だい)一の兄(あに)の家(いえ)で食事(しょくじ)をし、酒(さけ)を飲(の)んでいたとき、 14使者(ししゃ)がヨブのもとに来(き)て言(い)った、「牛(うし)が耕(たがや)し、ろばがそのかたわらで草(くさ)を食(く)っていると、 15シバびとが襲(おそ)ってきて、これを奪(うば)い、つるぎをもってしもべたちを打(う)ち殺(ころ)しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告(つ)げるために来(き)ました」。 16彼(かれ)がなお語(かた)っているうちに、またひとりが来(き)て言(い)った、「神(かみ)の火(ひ)が天(てん)から下(くだ)って、羊(ひつじ)およびしもべたちを焼(や)き滅(ほろ)ぼしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告(つ)げるために来(き)ました」。 17彼(かれ)がなお語(かた)っているうちに、またひとりが来(き)て言(い)った、「カルデヤびとが三組(くみ)に分(わか)れて来(き)て、らくだを襲(おそ)ってこれを奪(うば)い、つるぎをもってしもべたちを打(う)ち殺(ころ)しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告(つ)げるために来(き)ました」。 18彼(かれ)がなお語(かた)っているうちに、またひとりが来(き)て言(い)った、「あなたのむすこ、娘(むすめ)たちが第(だい)一の兄(あに)の家(いえ)で食事(しょくじ)をし、酒(さけ)を飲(の)んでいると、 19荒野(あらの)の方(ほう)から大風(おおかぜ)が吹(ふ)いてきて、家(いえ)の四(よ)すみを撃(う)ったので、あの若(わか)い人(ひと)たちの上(うえ)につぶれ落(お)ちて、皆(みな)死(し)にました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告(つ)げるために来(き)ました」。

20このときヨブは起(お)き上(あ)がり、上着(うわぎ)を裂(さ)き、頭(あたま)をそり、地(ち)に伏(ふ)して拝(はい)し、 21そして言(い)った、
「わたしは裸(はだか)で母(はは)の胎(たい)を出(で)た。
また裸(はだか)でかしこに帰(かえ)ろう。
主(しゅ)が与(あた)え、主(しゅ)が取(と)られたのだ。
主(しゅ)のみ名(な)はほむべきかな」。

22すべてこの事(こと)においてヨブは罪(つみ)を犯(おか)さず、また神(かみ)に向(む)かって愚(おろ)かなことを言(い)わなかった。

第二章

1ある日(ひ)、また神(かみ)の子(こ)たちが来(き)て、主(しゅ)の前(まえ)に立(た)った。サタンもまたその中(なか)に来(き)て、主(しゅ)の前(まえ)に立(た)った。 2主(しゅ)はサタンに言(い)われた、「あなたはどこから来(き)たか」。サタンは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、「地(ち)を行(ゆ)きめぐり、あちらこちら歩(ある)いてきました」。 3主(しゅ)はサタンに言(い)われた、「あなたは、わたしのしもべヨブのように全(まった)く、かつ正(ただ)しく、神(かみ)を恐(おそ)れ、悪(あく)に遠(とお)ざかる者(もの)の世(よ)にないことを気(き)づいたか。あなたは、わたしを勧(すす)めて、ゆえなく彼(かれ)を滅(ほろ)ぼそうとしたが、彼(かれ)はなお堅(かた)く保(たも)って、おのれを全(まっと)うした」。 4サタンは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、「皮(かわ)には皮(かわ)をもってします。人(ひと)は自分(じぶん)の命(いのち)のために、その持(も)っているすべての物(もの)をも与(あた)えます。 5しかしいま、あなたの手(て)を伸(の)べて、彼(かれ)の骨(ほね)と肉(にく)とを撃(う)ってごらんなさい。彼(かれ)は必(かなら)ずあなたの顔(かお)に向(む)かって、あなたをのろうでしょう」。 6主(しゅ)はサタンに言(い)われた、「見(み)よ、彼(かれ)はあなたの手(て)にある。ただ彼(かれ)の命(いのち)を助(たす)けよ」。

7サタンは主(しゅ)の前(まえ)から出(で)て行(い)って、ヨブを撃(う)ち、その足(あし)の裏(うら)から頭(あたま)の頂(いただき)まで、いやな腫物(はれもの)をもって彼(かれ)を悩(なや)ました。 8ヨブは陶器(とうき)の破片(はへん)を取(と)り、それで自分(じぶん)の身(み)をかき、灰(はい)の中(なか)にすわった。 9時(とき)にその妻(つま)は彼(かれ)に言(い)った、「あなたはなおも堅(かた)く保(たも)って、自分(じぶん)を全(まっと)うするのですか。神(かみ)をのろって死(し)になさい」。 10しかしヨブは彼女(かのじょ)に言(い)った、「あなたの語(かた)ることは愚(おろ)かな女(おんな)の語(かた)るのと同(おな)じだ。われわれは神(かみ)から幸(さいわい)をうけるのだから、災(わざわい)をも、うけるべきではないか」。すべてこの事(こと)においてヨブはそのくちびるをもって罪(つみ)を犯(おか)さなかった。

11時(とき)に、ヨブの三人(にん)の友(とも)がこのすべての災(わざわい)のヨブに臨(のぞ)んだのを聞(き)いて、めいめい自分(じぶん)の所(ところ)から尋(たず)ねて来(き)た。すなわちテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルである。彼(かれ)らはヨブをいたわり、慰(なぐさ)めようとして、たがいに約束(やくそく)してきたのである。 12彼(かれ)らは目(め)をあげて遠方(えんぽう)から見(み)たが、彼(かれ)のヨブであることを認(みと)めがたいほどであったので、声(こえ)をあげて泣(な)き、めいめい自分(じぶん)の上着(うわぎ)を裂(さ)き、天(てん)に向(む)かって、ちりをうちあげ、自分(じぶん)たちの頭(あたま)の上(うえ)にまき散(ち)らした。 13こうして七日(なぬか)七夜(ななよ)、彼(かれ)と共(とも)に地(ち)に座(ざ)していて、ひと言(こと)も彼(かれ)に話(はな)しかける者(もの)がなかった。彼(かれ)の苦(くる)しみの非常(ひじょう)に大(おお)きいのを見(み)たからである。

第三章

1この後(のち)、ヨブは口(くち)を開(ひら)いて、自分(じぶん)の生(うま)れた日(ひ)をのろった。 2すなわちヨブは言(い)った、
3「わたしの生(うま)れた日(ひ)は滅(ほろ)びうせよ。
『男(おとこ)の子(こ)が、胎(たい)にやどった』と言(い)った夜(よ)も
そのようになれ。
4その日(ひ)は暗(くら)くなるように。
神(かみ)が上(うえ)からこれを顧(かえり)みられないように。
光(ひかり)がこれを照(てら)さないように。
5やみと暗黒(あんこく)がこれを取(と)りもどすように。
雲(くも)が、その上(うえ)にとどまるように。
日(ひ)を暗(くら)くする者(もの)が、これを脅(おびや)かすように。
6その夜(よ)は、暗(くら)やみが、これを捕(とら)えるように。
年(とし)の日(ひ)のうちに加(くわ)わらないように。
月(つき)の数(かず)にもはいらないように。
7また、その夜(よ)は、はらむことのないように。
喜(よろこ)びの声(こえ)がそのうちに聞(き)かれないように。
8日(ひ)をのろう者(もの)が、これをのろうように。
レビヤタンを奮(ふる)い起(おこ)すに巧(たく)みな者(もの)が、
これをのろうように。
9その明(あ)けの星(ほし)は暗(くら)くなるように。
光(ひかり)を望(のぞ)んでも、得(え)られないように。
また、あけぼののまぶたを見(み)ることのないように。
10これは、わたしの母(はは)の胎(たい)の戸(と)を閉(と)じず、
また悩(なや)みをわたしの目(め)に隠(かく)さなかったからである。

11なにゆえ、わたしは胎(たい)から出(で)て、死(し)ななかったのか。
腹(はら)から出(で)たとき息(いき)が絶(た)えなかったのか。
12なにゆえ、ひざが、わたしを受(う)けたのか。
なにゆえ、乳(ち)ぶさがあって、
わたしはそれを吸(す)ったのか。
13そうしなかったならば、
わたしは伏(ふ)して休(やす)み、眠(ねむ)ったであろう。
そうすればわたしは安(やす)んじており、
14自分(じぶん)のために荒(あ)れ跡(あと)を築(きず)き直(なお)した
地(ち)の王(おう)たち、参議(さんぎ)たち、
15あるいは、こがねを持(も)ち、
しろがねを家(いえ)に満(み)たした
君(きみ)たちと一緒(いっしょ)にいたであろう。
16なにゆえ、わたしは人知(ひとし)れずおりる胎児(たいじ)のごとく、
光(ひかり)を見(み)ないみどりごのようでなかったのか。
17かしこでは悪人(あくにん)も、あばれることをやめ、
うみ疲(つか)れた者(もの)も、休(やす)みを得(え)、
18捕(とら)われ人(びと)も共(とも)に安(やす)らかにおり、
追(お)い使(つか)う者(もの)の声(こえ)を聞(き)かない。
19小(ちい)さい者(もの)も大(おお)きい者(もの)もそこにおり、
奴隷(どれい)も、その主人(しゅじん)から解(と)き放(はな)される。

20なにゆえ、悩(なや)む者(もの)に光(ひかり)を賜(たま)い、
心(こころ)の苦(くる)しむ者(もの)に命(いのち)を賜(たま)わったのか。
21このような人(ひと)は死(し)を望(のぞ)んでも来(こ)ない、
これを求(もと)めることは隠(かく)れた宝(たから)を
掘(ほ)るよりも、はなはだしい。
22彼(かれ)らは墓(はか)を見(み)いだすとき、非常(ひじょう)に喜(よろこ)び楽(たの)しむのだ。
23なにゆえ、その道(みち)の隠(かく)された人(ひと)に、
神(かみ)が、まがきをめぐらされた人(ひと)に、光(ひかり)を賜(たま)わるのか。
24わたしの嘆(なげ)きはわが食物(しょくもつ)に代(かわ)って来(きた)り、
わたしのうめきは水(みず)のように流(なが)れ出(で)る。
25わたしの恐(おそ)れるものが、わたしに臨(のぞ)み、
わたしの恐(おそ)れおののくものが、わが身(み)に及(およ)ぶ。
26わたしは安(やす)らかでなく、またおだやかでない。
わたしは休(やす)みを得(え)ない、ただ悩(なや)みのみが来(く)る」。

第四章

1その時(とき)、テマンびとエリパズが答(こた)えて言(い)った、
2「もし人(ひと)があなたにむかって意見(いけん)を述(の)べるならば、
あなたは腹(はら)を立(た)てるでしょうか。
しかしだれが黙(だま)っておれましょう。
3見(み)よ、あなたは多(おお)くの人(ひと)を教(おし)えさとし、
衰(おとろ)えた手(て)を強(つよ)くした。
4あなたの言葉(ことば)はつまずく者(もの)をたすけ起(おこ)し、
かよわいひざを強(つよ)くした。
5ところが今(いま)、この事(こと)があなたに臨(のぞ)むと、
あなたは耐(た)え得(え)ない。
この事(こと)があなたに触(ふ)れると、あなたはおじ惑(まど)う。
6あなたが神(かみ)を恐(おそ)れていることは、
あなたのよりどころではないか。
あなたの道(みち)の全(まった)きことは、あなたの望(のぞ)みではないか。
7考(かんが)えてみよ、だれが罪(つみ)のないのに、
滅(ほろ)ぼされた者(もの)があるか。
どこに正(ただ)しい者(もの)で、断(た)ち滅(ほろ)ぼされた者(もの)があるか。
8わたしの見(み)た所(ところ)によれば、不義(ふぎ)を耕(たがや)し、
害悪(がいあく)をまく者(もの)は、それを刈(か)り取(と)っている。
9彼(かれ)らは神(かみ)のいぶきによって滅(ほろ)び、
その怒(いか)りの息(いき)によって消(き)えうせる。
10ししのほえる声(こえ)、たけきししの声(こえ)はともにやみ、
若(わか)きししのきばは折(お)られ、
11雄(お)じしは獲物(えもの)を得(え)ずに滅(ほろ)び、
雌(め)じしの子(こ)は散(ち)らされる。

12さて、わたしに、言葉(ことば)がひそかに臨(のぞ)んだ、
わたしの耳(みみ)はそのささやきを聞(き)いた。
13すなわち人(ひと)の熟睡(じゅくすい)するころ、
夜(よる)の幻(まぼろし)によって思(おも)い乱(みだ)れている時(とき)、
14恐(おそ)れがわたしに臨(のぞ)んだので、おののき、
わたしの骨(ほね)はことごとく震(ふる)えた。
15時(とき)に、霊(れい)があって、わたしの顔(かお)の前(まえ)を過(す)ぎたので、
わたしの身(み)の毛(け)はよだった。
16そのものは立(た)ちどまったが、
わたしはその姿(すがた)を見(み)わけることができなかった。
一つのかたちが、わたしの目(め)の前(まえ)にあった。
わたしは静(しず)かな声(こえ)を聞(き)いた、
17『人(ひと)は神(かみ)の前(まえ)に正(ただ)しくありえようか。
人(ひと)はその造(つく)り主(ぬし)の前(まえ)に清(きよ)くありえようか。
18見(み)よ、彼(かれ)はそのしもべをさえ頼(たの)みとせず、
その天使(てんし)をも誤(あやま)れる者(もの)とみなされる。
19まして、泥(どろ)の家(いえ)に住(す)む者(もの)、
ちりをその基(もとい)とする者(もの)、
しみのようにつぶされる者(もの)。
20彼(かれ)らは朝(あさ)から夕(ゆう)までの間(あいだ)に打(う)ち砕(くだ)かれ、
顧(かえり)みる者(もの)もなく、永遠(えいえん)に滅(ほろ)びる。
21もしその天幕(てんまく)の綱(つな)が
彼(かれ)らのうちに取(と)り去(さ)られるなら、
ついに悟(さと)ることもなく、死(し)にうせるではないか』。

第五章


1試(こころ)みに呼(よ)んでみよ、
だれかあなたに答(こた)える者(もの)があるか。
どの聖者(せいじゃ)にあなたは頼(たの)もうとするのか。
2確(たし)かに、憤(いきどお)りは愚(おろ)かな者(もの)を殺(ころ)し、
ねたみはあさはかな者(もの)を死(し)なせる。
3わたしは愚(おろ)かな者(もの)の根(ね)を張(は)るのを見(み)た、
しかしわたしは、にわかにそのすみかをのろった。
4その子(こ)らは安(やす)きを得(え)ず、
町(まち)の門(もん)でしえたげられても、これを救(すく)う者(もの)がない。
5その収穫(しゅうかく)は飢(う)えた人(ひと)が食(た)べ、
いばらの中(なか)からさえ、これを奪(うば)う。
また、かわいた者(もの)はその財産(ざいさん)をあえぎ求(もと)める。
6苦(くる)しみは、ちりから起(おこ)るものでなく、
悩(なや)みは土(つち)から生(しょう)じるものでない。
7人(ひと)が生(うま)れて悩(なや)みを受(う)けるのは、
火(ひ)の子(こ)が上(うえ)に飛(と)ぶにひとしい。

8しかし、わたしであるならば、神(かみ)に求(もと)め、
神(かみ)に、わたしの事(こと)をまかせる。
9彼(かれ)は大(おお)いなる事(こと)をされるかたで、測(はか)り知(し)れない、
その不思議(ふしぎ)なみわざは数(かぞ)えがたい。
10彼(かれ)は地(ち)に雨(あめ)を降(ふ)らせ、野(の)に水(みず)を送(おく)られる。
11彼(かれ)は低(ひく)い者(もの)を高(たか)くあげ、
悲(かな)しむ者(もの)を引(ひ)き上(あ)げて、安全(あんぜん)にされる。
12彼(かれ)は悪賢(わるがしこ)い者(もの)の計(はか)りごとを敗(やぶ)られる。
それで何事(なにごと)もその手(て)になし遂(と)げることはできない。
13彼(かれ)は賢(かしこ)い者(もの)を、彼(かれ)ら自身(じしん)の悪巧(わるだく)みによって捕(とら)え、
曲(まが)った者(もの)の計(はか)りごとをくつがえされる。
14彼(かれ)らは昼(ひる)も、やみに会(あ)い、
真昼(まひる)にも、夜(よる)のように手探(てさぐ)りする。
15彼(かれ)は貧(まず)しい者(もの)を彼(かれ)らの口(くち)のつるぎから救(すく)い、
また強(つよ)い者(もの)の手(て)から救(すく)われる。
16それゆえ乏(とぼ)しい者(もの)に望(のぞ)みがあり、
不義(ふぎ)はその口(くち)を閉(と)じる。

17見(み)よ、神(かみ)に戒(いまし)められる人(ひと)はさいわいだ。
それゆえ全能者(ぜんのうしゃ)の懲(こら)しめを軽(かろ)んじてはならない。
18彼(かれ)は傷(きず)つけ、また包(つつ)み、
撃(う)ち、またその手(て)をもっていやされる。
19彼(かれ)はあなたを六つの悩(なや)みから救(すく)い、
七つのうちでも、災(わざわい)はあなたに触(ふ)れることがない。
20ききんの時(とき)には、あなたをあがなって、
死(し)を免(まぬか)れさせ、
いくさの時(とき)には、つるぎの力(ちから)を免(まぬか)れさせられる。
21あなたは舌(した)をもってむち打(う)たれる時(とき)にも、
おおい隠(かく)され、
滅(ほろ)びが来(く)る時(とき)でも、恐(おそ)れることはない。
22あなたは滅(ほろ)びと、ききんとを笑(わら)い、
地(ち)の獣(けもの)をも恐(おそ)れることはない。
23あなたは野(の)の石(いし)と契約(けいやく)を結(むす)び、
野(の)の獣(けもの)はあなたと和(やわ)らぐからである。
24あなたは自分(じぶん)の天幕(てんまく)の安全(あんぜん)なことを知(し)り、
自分(じぶん)の家畜(かちく)のおりを見回(みまわ)っても、欠(か)けた物(もの)がなく、
25また、あなたの子孫(しそん)の多(おお)くなり、
そのすえが地(ち)の草(くさ)のようになるのを知(し)るであろう。
26あなたは高齢(こうれい)に達(たっ)して墓(はか)に入(はい)る、
あたかも麦(むぎ)束(たば)をその季節(きせつ)になって
打(う)ち場(ば)に運(はこ)びあげるようになるであろう。
27見(み)よ、われわれの尋(たず)ねきわめた所(ところ)はこのとおりだ。
あなたはこれを聞(き)いて、みずから知(し)るがよい」。

第六章

1ヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「どうかわたしの憤(いきどお)りが正(ただ)しく量(はか)られ、
同時(どうじ)にわたしの災(わざわい)も、はかりにかけられるように。
3そうすれば、これは海(うみ)の砂(すな)よりも重(おも)いに相違(そうい)ない。
それゆえ、わたしの言葉(ことば)が軽率(けいそつ)であったのだ。
4全能者(ぜんのうしゃ)の矢(や)が、わたしのうちにあり、
わたしの霊(れい)はその毒(どく)を飲(の)み、
神(かみ)の恐(おそ)るべき軍勢(ぐんぜい)が、わたしを襲(おそ)い攻(せ)めている。
5野(の)ろばは、青草(あおくさ)のあるのに鳴(な)くであろうか。
牛(うし)は飼葉(かいば)の上(うえ)でうなるであろうか。
6味(あじ)のない物(もの)は塩(しお)がなくて食(た)べられようか。
すべりひゆのしるは味(あじ)があろうか。
7わたしの食欲(しょくよく)はこれに触(ふ)れることを拒(こば)む。
これは、わたしのきらう食物(しょくもつ)のようだ。

8どうかわたしの求(もと)めるものが獲(え)られるように。
どうか神(かみ)がわたしの望(のぞ)むものをくださるように。
9どうか神(かみ)がわたしを打(う)ち滅(ほろ)ぼすことをよしとし、
み手(て)を伸(の)べてわたしを断(た)たれるように。
10そうすれば、わたしはなお慰(なぐさ)めを得(え)、
激(はげ)しい苦(くる)しみの中(なか)にあっても喜(よろこ)ぶであろう。
わたしは聖(せい)なる者(もの)の言葉(ことば)を
否(いな)んだことがないからだ。
11わたしにどんな力(ちから)があって、
なお待(ま)たねばならないのか。
わたしにどんな終(おわ)りがあるので、
なお耐(た)え忍(しの)ばねばならないのか。
12わたしの力(ちから)は石(いし)の力(ちから)のようであるのか。
わたしの肉(にく)は青銅(せいどう)のようであるのか。
13まことに、わたしのうちに助(たす)けはなく、
救(すく)われる望(のぞ)みは、わたしから追(お)いやられた。

14その友(とも)に対(たい)するいつくしみをさし控(ひか)える者(もの)は、
全能者(ぜんのうしゃ)を恐(おそ)れることをすてる。
15わが兄弟(きょうだい)たちは谷川(たにがわ)のように、
過(す)ぎ去(さ)る出水(でみず)のように欺(あざむ)く。
16これは氷(こおり)のために黒(くろ)くなり、
そのうちに雪(ゆき)が隠(かく)れる。
17これは暖(あたた)かになると消(き)え去(さ)り、
暑(あつ)くなるとその所(ところ)からなくなる。
18隊商(たいしょう)はその道(みち)を転(てん)じ、
むなしい所(ところ)へ行(い)って滅(ほろ)びる。
19テマの隊商(たいしょう)はこれを望(のぞ)み、
シバの旅(たび)びとはこれを慕(した)う。
20彼(かれ)らはこれにたよったために失望(しつぼう)し、
そこに来(き)てみて、あわてる。
21あなたがたは今(いま)わたしにはこのような者(もの)となった。
あなたがたはわたしの災難(さいなん)を見(み)て恐(おそ)れた。
22わたしは言(い)ったことがあるか、『わたしに与(あた)えよ』と、
あるいは『あなたがたの財産(ざいさん)のうちから
わたしのために、まいないを贈(おく)れ』と、
23あるいは『あだの手(て)からわたしを救(すく)い出(だ)せ』と、
あるいは『しえたげる者(もの)の手(て)から
わたしをあがなえ』と。

24わたしに教(おし)えよ、そうすればわたしは黙(だま)るであろう。
わたしの誤(あやま)っている所(ところ)をわたしに悟(さと)らせよ。
25正(ただ)しい言葉(ことば)はいかに力(ちから)のあるものか。
しかしあなたがたの戒(いまし)めは何(なに)を戒(いまし)めるのか。
26あなたがたは言葉(ことば)を戒(いまし)めうると思(おも)うのか。
望(のぞ)みの絶(た)えた者(もの)の語(かた)ることは風(かぜ)のようなものだ。
27あなたがたは、みなしごのためにくじをひき、
あなたがたの友(とも)をさえ売(う)り買(か)いするであろう。

28今(いま)、どうぞわたしを見(み)られよ、
わたしはあなたがたの顔(かお)に向(む)かって偽(いつわ)らない。
29どうぞ、思(おも)いなおせ、まちがってはならない。
さらに思(おも)いなおせ、
わたしの義(ぎ)は、なおわたしのうちにある。
30わたしの舌(した)に不義(ふぎ)があるか。
わたしの口(くち)は災(わざわい)を
わきまえることができぬであろうか。

第七章


1地上(ちじょう)の人(ひと)には、
激(はげ)しい労務(ろうむ)があるではないか。
またその日(ひ)は雇人(やといにん)の日(ひ)のようではないか。
2奴隷(どれい)が夕暮(ゆうぐれ)を慕(した)うように、
雇人(やといにん)がその賃銀(ちんぎん)を望(のぞ)むように、
3わたしは、むなしい月(つき)を持(も)たせられ、
悩(なや)みの夜(よる)を与(あた)えられる。
4わたしは寝(ね)るときに言(い)う、『いつ起(お)きるだろうか』と。
しかし夜(よる)は長(なが)く、暁(あかつき)までころびまわる。
5わたしの肉(にく)はうじと土(つち)くれとをまとい、
わたしの皮(かわ)は固(かた)まっては、またくずれる。
6わたしの日(ひ)は機(はた)のひよりも速(はや)く、
望(のぞ)みをもたずに消(き)え去(さ)る。

7記憶(きおく)せよ、わたしの命(いのち)は息(いき)にすぎないことを。
わたしの目(め)は再(ふたた)び幸(さいわい)を見(み)ることがない。
8わたしを見(み)る者(もの)の目(め)は、
かさねてわたしを見(み)ることがなく、
あなたがわたしに目(め)を向(む)けられても、
わたしはいない。
9雲(くも)が消(き)えて、なくなるように、
陰府(よみ)に下(くだ)る者(もの)は上(あ)がって来(く)ることがない。
10彼(かれ)は再(ふたた)びその家(いえ)に帰(かえ)らず、
彼(かれ)の所(ところ)も、もはや彼(かれ)を認(みと)めない。

11それゆえ、わたしはわが口(くち)をおさえず、
わたしの霊(れい)のもだえによって語(かた)り、
わたしの魂(たましい)の苦(くる)しさによって嘆(なげ)く。
12わたしは海(うみ)であるのか、龍(りゅう)であるのか、
あなたはわたしの上(うえ)に見張(みは)りを置(お)かれる。
13『わたしの床(とこ)はわたしを慰(なぐさ)め、
わたしの寝床(ねどこ)はわが嘆(なげ)きを軽(かる)くする』と
わたしが言(い)うとき、
14あなたは夢(ゆめ)をもってわたしを驚(おどろ)かし、
幻(まぼろし)をもってわたしを恐(おそ)れさせられる。
15それゆえ、わたしは息(いき)の止(と)まることを願(ねが)い、
わが骨(ほね)よりもむしろ死(し)を選(えら)ぶ。
16わたしは命(いのち)をいとう。
わたしは長(なが)く生(い)きることを望(のぞ)まない。
わたしに構(かま)わないでください。
わたしの日(ひ)は息(いき)にすぎないのだから。
17人(ひと)は何者(なにもの)なので、あなたはこれを大(おお)きなものとし、
これにみ心(こころ)をとめ、
18朝(あさ)ごとに、これを尋(たず)ね、
絶(た)え間(ま)なく、これを試(こころ)みられるのか。
19いつまで、あなたはわたしに目(め)を離(はな)さず、
つばをのむまも、わたしを捨(す)てておかれないのか。
20人(ひと)を監視(かんし)される者(もの)よ、わたしが罪(つみ)を犯(おか)したとて、
あなたに何(なに)をなしえようか。
なにゆえ、わたしをあなたの的(まと)とし、
わたしをあなたの重荷(おもに)とされるのか。
21なにゆえ、わたしのとがをゆるさず、
わたしの不義(ふぎ)を除(のぞ)かれないのか。
わたしはいま土(つち)の中(なか)に横(よこ)たわる。
あなたがわたしを尋(たず)ねられても、
わたしはいないでしょう」。

第八章

1時(とき)にシュヒびとビルダデが答(こた)えて言(い)った、
2「いつまであなたは、そのような事(こと)を言(い)うのか。
あなたの口(くち)の言葉(ことば)は荒(あら)い風(かぜ)ではないか。
3神(かみ)は公義(こうぎ)を曲(ま)げられるであろうか。
全能者(ぜんのうしゃ)は正義(せいぎ)を曲(ま)げられるであろうか。
4あなたの子(こ)たちが彼(かれ)に罪(つみ)を犯(おか)したので、
彼(かれ)らをそのとがの手(て)に渡(わた)されたのだ。
5あなたがもし神(かみ)に求(もと)め、全能者(ぜんのうしゃ)に祈(いの)るならば、
6あなたがもし清(きよ)く、正(ただ)しくあるならば、
彼(かれ)は必(かなら)ずあなたのために立(た)って、
あなたの正(ただ)しいすみかを栄(さか)えさせられる。
7あなたの初(はじ)めは小(ちい)さくあっても、
あなたの終(おわ)りは非常(ひじょう)に大(おお)きくなるであろう。

8先(さき)の代(よ)の人(ひと)に問(と)うてみよ、
先祖(せんぞ)たちの尋(たず)ねきわめた事(こと)を学(まな)べ。
9われわれはただ、きのうからあった者(もの)で、
何(なに)も知(し)らない、
われわれの世(よ)にある日(ひ)は、影(かげ)のようなものである。
10彼(かれ)らはあなたに教(おし)え、あなたに語(かた)り、
その悟(さと)りから言葉(ことば)を出(だ)さないであろうか。

11紙(かみ)草(ぐさ)は泥(どろ)のない所(ところ)に生長(せいちょう)することができようか。
葦(あし)は水(みず)のない所(ところ)におい茂(しげ)ることができようか。
12これはなお青(あお)くて、まだ刈(か)られないのに、
すべての草(くさ)に先(さき)だって枯(か)れる。
13すべて神(かみ)を忘(わす)れる者(もの)の道(みち)はこのとおりだ。
神(かみ)を信(しん)じない者(もの)の望(のぞ)みは滅(ほろ)びる。
14その頼(たの)むところは断(た)たれ、
その寄(よ)るところは、くもの巣(す)のようだ。
15その家(いえ)によりかかろうとすれば、家(いえ)は立(た)たず、
それにすがろうとしても、それは耐(た)えない。
16彼(かれ)は日(ひ)の前(まえ)に青々(あおあお)と茂(しげ)り、
その若(わか)枝(えだ)を園(その)にはびこらせ、
17その根(ね)を石塚(いしづか)にからませ、
岩(いわ)の間(あいだ)に生(い)きていても、
18もしその所(ところ)から取(と)り除(のぞ)かれれば、
その所(ところ)は彼(かれ)を拒(こば)んで言(い)うであろう、
『わたしはあなたを見(み)たことがない』と。
19見(み)よ、これこそ彼(かれ)の道(みち)の喜(よろこ)びである、
そしてほかの者(もの)が地(ち)から生(しょう)じるであろう。

20見(み)よ、神(かみ)は全(まった)き人(ひと)を捨(す)てられない。
また悪(あく)を行(おこな)う者(もの)の手(て)を支持(しじ)されない。
21彼(かれ)は笑(わら)いをもってあなたの口(くち)を満(み)たし、
喜(よろこ)びの声(こえ)をもってあなたのくちびるを満(み)たされる。
22あなたを憎(にく)む者(もの)は恥(はじ)を着(き)せられ、
悪(あ)しき者(もの)の天幕(てんまく)はなくなる」。

第九章

1ヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「まことにわたしは、その事(こと)の
そのとおりであることを知(し)っている。
しかし人(ひと)はどうして神(かみ)の前(まえ)に正(ただ)しくありえようか。
3よし彼(かれ)と争(あらそ)おうとしても、
千に一つも答(こた)えることができない。
4彼(かれ)は心(こころ)賢(かしこ)く、力強(ちからづよ)くあられる。
だれが彼(かれ)にむかい、おのれをかたくなにして、
栄(さか)えた者(もの)があるか。
5彼(かれ)は、山(やま)を移(うつ)されるが、山(やま)は知(し)らない。
彼(かれ)は怒(いか)りをもって、これらをくつがえされる。
6彼(かれ)が、地(ち)を震(ふる)い動(うご)かしてその所(ところ)を離(はな)れさせられると、
その柱(はしら)はゆらぐ。
7彼(かれ)が日(ひ)に命(めい)じられると、日(ひ)は出(で)ない。
彼(かれ)はまた星(ほし)を閉(と)じこめられる。
8彼(かれ)はただひとり天(てん)を張(は)り、
海(うみ)の波(なみ)を踏(ふ)まれた。
9彼(かれ)は北斗(ほくと)、オリオン、
プレアデスおよび南(みなみ)の密室(みっしつ)を造(つく)られた。
10彼(かれ)が大(おお)いなる事(こと)をされることは測(はか)りがたく、
不思議(ふしぎ)な事(こと)をされることは数(かず)知(し)れない。
11見(み)よ、彼(かれ)がわたしのかたわらを通(とお)られても、
わたしは彼(かれ)を見(み)ない。
彼(かれ)は進(すす)み行(い)かれるが、わたしは彼(かれ)を認(みと)めない。
12見(み)よ、彼(かれ)が奪(うば)い去(さ)られるのに、
だれが彼(かれ)をはばむことができるか。
だれが彼(かれ)にむかって『あなたは何(なに)をするのか』と
言(い)うことができるか。

13神(かみ)はその怒(いか)りをやめられない。
ラハブを助(たす)ける者(もの)どもは彼(かれ)のもとにかがんだ。
14どうしてわたしは彼(かれ)に答(こた)え、
言葉(ことば)を選(えら)んで、彼(かれ)と議論(ぎろん)することができよう。
15たといわたしは正(ただ)しくても答(こた)えることができない。
わたしを責(せ)められる者(もの)に
あわれみを請(こ)わなければならない。
16たといわたしが呼(よ)ばわり、
彼(かれ)がわたしに答(こた)えられても、
わたしの声(こえ)に耳(みみ)を傾(かたむ)けられたとは信(しん)じない。
17彼(かれ)は大風(おおかぜ)をもってわたしを撃(う)ち砕(くだ)き、
ゆえなく、わたしに多(おお)くの傷(きず)を負(お)わせ、
18わたしに息(いき)をつかせず、
苦(にが)い物(もの)をもってわたしを満(み)たされる。
19力(ちから)の争(あらそ)いであるならば、彼(かれ)を見(み)よ、
さばきの事(こと)であるならば、
だれが彼(かれ)を呼(よ)び出(だ)すことができよう。
20たといわたしは正(ただ)しくても、
わたしの口(くち)はわたしを罪(つみ)ある者(もの)とする。
たといわたしは罪(つみ)がなくても、
彼(かれ)はわたしを曲(まが)った者(もの)とする。
21わたしは罪(つみ)がない、しかしわたしは自分(じぶん)を知(し)らない。
わたしは自分(じぶん)の命(いのち)をいとう。
22皆(みな)同一(どういつ)である。それゆえ、わたしは言(い)う、
『彼(かれ)は罪(つみ)のない者(もの)と、悪(あ)しき者(もの)とを
共(とも)に滅(ほろ)ぼされるのだ』と。
23災(わざわい)がにわかに人(ひと)を殺(ころ)すような事(こと)があると、
彼(かれ)は罪(つみ)のない者(もの)の苦難(くなん)をあざ笑(わら)われる。
24世(よ)は悪人(あくにん)の手(て)に渡(わた)されてある。
彼(かれ)はその裁判人(さいばんにん)の顔(かお)をおおわれる。
もし彼(かれ)でなければ、これはだれのしわざか。

25わたしの日(ひ)は飛脚(ひきゃく)よりも速(はや)く、
飛(と)び去(さ)って幸(さいわい)を見(み)ない。
26これは走(はし)ること葦(あし)舟(ぶね)のごとく、
えじきに襲(おそ)いかかる、わしのようだ。
27たといわたしは『わが嘆(なげ)きを忘(わす)れ、
憂(うれ)い顔(がお)をかえて元気(げんき)よくなろう』と言(い)っても、
28わたしはわがもろもろの苦(くる)しみを恐(おそ)れる。
あなたがわたしを罪(つみ)なき者(もの)とされないことを
わたしは知(し)っているからだ。
29わたしは罪(つみ)ある者(もの)とされている。
どうして、いたずらに労(ろう)する必要(ひつよう)があるか。
30たといわたしは雪(ゆき)で身(み)を洗(あら)い、
灰汁(あく)で手(て)を清(きよ)めても、
31あなたはわたしを、みぞの中(なか)に投(な)げ込(こ)まれるので、
わたしの着物(きもの)も、わたしをいとうようになる。
32神(かみ)はわたしのように人(ひと)ではないゆえ、
わたしは彼(かれ)に答(こた)えることができない。
われわれは共(とも)にさばきに臨(のぞ)むことができない。
33われわれの間(あいだ)には、
われわれふたりの上(うえ)に手(て)を置(お)くべき仲裁者(ちゅうさいしゃ)がない。
34どうか彼(かれ)がそのつえをわたしから取(と)り離(はな)し、
その怒(いか)りをもって、
わたしを恐(おそ)れさせられないように。
35そうすれば、わたしは語(かた)って、
彼(かれ)を恐(おそ)れることはない。
わたしはみずからそのような者(もの)ではないからだ。

第一〇章


1わたしは自分(じぶん)の命(いのち)をいとう。
わたしは自分(じぶん)の嘆(なげ)きを包(つつ)まず言(い)いあらわし、
わが魂(たましい)の苦(くる)しみによって語(かた)ろう。
2わたしは神(かみ)に申(もう)そう、
わたしを罪(つみ)ある者(もの)とされないように。
なぜわたしと争(あらそ)われるかを知(し)らせてほしい。
3あなたはしえたげをなし、み手(て)のわざを捨(す)て、
悪人(あくにん)の計画(けいかく)を照(てら)すことを良(よ)しとされるのか。
4あなたの持(も)っておられるのは肉(にく)の目(め)か、
あなたは人(ひと)が見(み)るように見(み)られるのか。
5あなたの日(ひ)は人(ひと)の日(ひ)のごとく、
あなたの年(とし)は人(ひと)の年(ねん)のようであるのか。
6あなたはなにゆえわたしのとがを尋(たず)ね、
わたしの罪(つみ)を調(しら)べられるのか。
7あなたはわたしの罪(つみ)のないことを知(し)っておられる。
またあなたの手(て)から救(すく)い出(だ)しうる者(もの)はない。
8あなたの手(て)はわたしをかたどり、わたしを作(つく)った。
ところが今(いま)あなたはかえって、わたしを滅(ほろ)ぼされる。
9どうぞ覚(おぼ)えてください、
あなたは土(つち)くれをもってわたしを作(つく)られた事(こと)を。
ところが、わたしをちりに返(かえ)そうとされるのか。
10あなたはわたしを乳(ちち)のように注(そそ)ぎ、
乾酪(かんらく)のように凝(こ)り固(かた)まらせたではないか。
11あなたは肉(にく)と皮(かわ)とをわたしに着(き)せ、
骨(ほね)と筋(すじ)とをもってわたしを編(あ)み、
12命(いのち)といつくしみとをわたしに授(さづ)け、
わたしを顧(かえり)みてわが霊(れい)を守(まも)られた。
13しかしあなたはこれらの事(こと)をみ心(こころ)に秘(ひ)めおかれた。
この事(こと)があなたの心(こころ)のうちにあった事(こと)を
わたしは知(し)っている。
14わたしがもし罪(つみ)を犯(おか)せば、
あなたはわたしに目(め)をつけて、
わたしを罪(つみ)から解(と)き放(はな)されない。
15わたしがもし悪(わる)ければわたしはわざわいだ。
たといわたしが正(ただ)しくても、
わたしは頭(あたま)を上(あ)げることができない。
わたしは恥(はじ)に満(み)ち、悩(なや)みを見(み)ているからだ。
16もし頭(あたま)をあげれば、
あなたは、ししのようにわたしを追(お)い、
わたしにむかって再(ふたた)びくすしき力(ちから)をあらわされる。
17あなたは証人(しょうにん)を入(い)れ替(か)えてわたしを攻(せ)め、
わたしにむかってあなたの怒(いか)りを増(ま)し、
新(あら)たに軍勢(ぐんぜい)を出(だ)してわたしを攻(せ)められる。

18なにゆえあなたはわたしを胎(たい)から出(だ)されたか、
わたしは息(いき)絶(た)えて目(め)に見(み)られることなく、
19胎(たい)から墓(はか)に運(はこ)ばれて、
初(はじ)めからなかった者(もの)のようであったなら、
よかったのに。
20わたしの命(いのち)の日(ひ)はいくばくもないではないか。
どうぞ、しばしわたしを離(はな)れて、
少(すこ)しく慰(なぐさ)めを得(え)させられるように。
21わたしが行(い)って、帰(かえ)ることのないその前(まえ)に、
これを得(え)させられるように。
わたしは暗(くら)き地(ち)、暗黒(あんこく)の地(ち)へ行(い)く。
22これは暗(くら)き地(ち)で、やみにひとしく、
暗黒(あんこく)で秩序(ちつじょ)なく、光(ひかり)もやみのようだ」。

第一一章

1そこでナアマびとゾパルは答(こた)えて言(い)った、
2「言葉(ことば)が多(おお)ければ、答(こたえ)なしにすまされるだろうか。
口(くち)の達者(たっしゃ)な人(ひと)は義(ぎ)とされるだろうか。
3あなたのむなしい言葉(ことば)は人(ひと)を沈黙(ちんもく)させるだろうか。
あなたがあざけるとき、
人(ひと)はあなたを恥(は)じさせないだろうか。
4あなたは言(い)う、『わたしの教(おしえ)は正(ただ)しい、
わたしは神(かみ)の目(め)に潔(いさぎよ)い』と。
5どうぞ神(かみ)が言葉(ことば)を出(だ)し、
あなたにむかってくちびるを開(ひら)き、
6知恵(ちえ)の秘密(ひみつ)をあなたに示(しめ)されるように。
神(かみ)はさまざまの知識(ちしき)をもたれるからである。
それであなたは知(し)るがよい、神(かみ)はあなたの罪(つみ)よりも
軽(かる)くあなたを罰(ばっ)せられることを。

7あなたは神(かみ)の深(ふか)い事(こと)を窮(きわ)めることができるか。
全能者(ぜんのうしゃ)の限界(げんかい)を窮(きわ)めることができるか。
8それは天(てん)よりも高(たか)い、あなたは何(なに)をなしうるか。
それは陰府(よみ)よりも深(ふか)い、あなたは何(なに)を知(し)りうるか。
9その量(りょう)は地(ち)よりも長(なが)く、海(うみ)よりも広(ひろ)い。
10彼(かれ)がもし行(ゆ)きめぐって人(ひと)を捕(とら)え、
さばきに召(め)し集(あつ)められるとき、
だれが彼(かれ)をはばむことができよう。
11彼(かれ)は卑(いや)しい人間(にんげん)を知(し)っておられるからだ。
彼(かれ)は不義(ふぎ)を見(み)る時(とき)、
これに心(こころ)をとめられぬであろうか。
12しかし野(の)ろばの子(こ)が人(ひと)として生(うま)れるとき、
愚(おろ)かな者(もの)も悟(さと)りを得(え)るであろう。

13もしあなたが心(こころ)を正(ただ)しくするならば、
神(かみ)に向(む)かって手(て)を伸(の)べるであろう。
14もしあなたの手(て)に不義(ふぎ)があるなら、それを遠(とお)く去(さ)れ、
あなたの天幕(てんまく)に悪(あく)を住(す)まわせてはならない。
15そうすれば、あなたは恥(は)じることなく
顔(かお)をあげることができ、
堅(かた)く立(た)って、恐(おそ)れることはない。
16あなたは苦(くる)しみを忘(わす)れ、
あなたのこれを覚(おぼ)えることは、
流(なが)れ去(さ)った水(みず)のようになる。
17そしてあなたの命(いのち)は真昼(まひる)よりも光(ひか)り輝(かがや)き、
たとい暗(くら)くても朝(あさ)のようになる。
18あなたは望(のぞ)みがあるゆえに安(やす)んじ、
保護(ほご)されて安(やす)らかにいこうことができる。
19あなたは伏(ふ)してやすみ、
あなたを恐(おそ)れさせるものはない。
多(おお)くの者(もの)はあなたの好意(こうい)を求(もと)めるであろう。
20しかし悪(あ)しき者(もの)の目(め)は衰(おとろ)える。
彼(かれ)らは逃(に)げ場(ば)を失(うしな)い、
その望(のぞ)みは息(いき)の絶(た)えるにひとしい」。

第一二章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「まことに、あなたがたのみ、人(ひと)である、
知恵(ちえ)はあなたがたと共(とも)に死(し)ぬであろう。
3しかしわたしも、あなたがたと同様(どうよう)に悟(さと)りをもつ。
わたしはあなたがたに劣(おと)らない。
だれがこのような事(こと)を知(し)らないだろうか。
4わたしは神(かみ)に呼(よ)ばわって、聞(き)かれた者(もの)であるのに、
その友(とも)の物笑(ものわら)いとなっている。
正(ただ)しく全(まった)き人(ひと)は物笑(ものわら)いとなる。
5安(やす)らかな者(もの)の思(おも)いには、
不幸(ふこう)な者(もの)に対(たい)する侮(あなど)りがあって、
足(あし)のすべる者(もの)を待(ま)っている。
6かすめ奪(うば)う者(もの)の天幕(てんまく)は栄(さか)え、
神(かみ)を怒(いか)らす者(もの)は安(やす)らかである。
自分(じぶん)の手(て)に神(かみ)を携(たずさ)えている者(もの)も同様(どうよう)だ。

7しかし獣(けもの)に問(と)うてみよ、
それはあなたに教(おし)える。
空(そら)の鳥(とり)に問(と)うてみよ、
それはあなたに告(つ)げる。
8あるいは地(ち)の草(くさ)や木(き)に問(と)うてみよ、
彼(かれ)らはあなたに教(おし)える。
海(うみ)の魚(うお)もまたあなたに示(しめ)す。
9これらすべてのもののうち、いずれか
主(しゅ)の手(て)がこれをなしたことを知(し)らぬ者(もの)があろうか。
10すべての生(い)き物(もの)の命(いのち)、
およびすべての人(ひと)の息(いき)は彼(かれ)の手(て)のうちにある。
11口(くち)が食物(しょくもつ)を味(あじ)わうように、
耳(みみ)は言葉(ことば)をわきまえないであろうか。
12老(お)いた者(もの)には知恵(ちえ)があり、
命(いのち)の長(なが)い者(もの)には悟(さと)りがある。
13知恵(ちえ)と力(ちから)は神(かみ)と共(とも)にあり、
深慮(しんりょ)と悟(さと)りも彼(かれ)のものである。
14彼(かれ)が破壊(はかい)すれば、再(ふたた)び建(た)てることができない。
彼(かれ)が人(ひと)を閉(と)じ込(こ)めれば、開(ひら)き出(だ)すことができない。
15彼(かれ)が水(みず)を止(と)めれば、それはかれ、
彼(かれ)が水(みず)を出(だ)せば、地(ち)をくつがえす。
16力(ちから)と深(ふか)き知恵(ちえ)は彼(かれ)と共(とも)にあり、
惑(まど)わされる者(もの)も惑(まど)わす者(もの)も彼(かれ)のものである。
17彼(かれ)は議(ぎ)士(し)たちを裸(はだか)にして連(つ)れ行(い)き、
さばきびとらを愚(おろ)かにし、
18王(おう)たちのきずなを解(と)き、
彼(かれ)らの腰(こし)に腰帯(こしおび)を巻(ま)き、
19祭司(さいし)たちを裸(はだか)にして連(つ)れ行(い)き、
力(ちから)ある者(もの)を滅(ほろ)ぼし、
20みずから頼(たの)む者(もの)たちの言葉(ことば)を奪(うば)い、
長老(ちょうろう)たちの分別(ふんべつ)を取(と)り去(さ)り、
21君(きみ)たちの上(うえ)に侮(あなど)りを注(そそ)ぎ、
強(つよ)い者(もの)たちの帯(おび)を解(と)き、
22暗(くら)やみの中(なか)から隠(かく)れた事(こと)どもをあらわし、
暗黒(あんこく)を光(ひかり)に引(ひ)き出(だ)し、
23国々(くにぐに)を大(おお)きくし、またこれを滅(ほろ)ぼし、
国々(くにぐに)を広(ひろ)くし、また捕(とら)え行(い)き、
24地(ち)の民(たみ)の長(ちょう)たちの悟(さと)りを奪(うば)い、
彼(かれ)らを道(みち)なき荒野(あらの)にさまよわせ、
25光(ひかり)なき暗(くら)やみに手探(てさぐ)りさせ、
酔(よ)うた者(もの)のようによろめかせる。

第一三章


1見(み)よ、わたしの目(め)は、
これをことごとく見(み)た。
わたしの耳(みみ)はこれを聞(き)いて悟(さと)った。
2あなたがたの知(し)っている事(こと)は、わたしも知(し)っている。
わたしはあなたがたに劣(おと)らない。
3しかしわたしは全能者(ぜんのうしゃ)に物(もの)を言(い)おう、
わたしは神(かみ)と論(ろん)ずることを望(のぞ)む。
4あなたがたは偽(いつわ)りをもってうわべを繕(つくろ)う者(もの)、
皆(みな)、無用(むよう)の医師(いし)だ。
5どうか、あなたがたは全(まった)く沈黙(ちんもく)するように。
これがあなたがたの知恵(ちえ)であろう。
6今(いま)、わたしの論(ろん)ずることを聞(き)くがよい。
わたしの口(くち)で言(い)い争(あらそ)うことに耳(みみ)を傾(かたむ)けるがよい。
7あなたがたは神(かみ)のために不義(ふぎ)を言(い)おうとするのか。
また彼(かれ)のために偽(いつわ)りを述(の)べるのか。
8あなたがたは彼(かれ)にひいきしようとするのか。
神(かみ)のために争(あらそ)おうとするのか。
9神(かみ)があなたがたを調(しら)べられるとき、
あなたがたは無事(ぶじ)だろうか。
あなたがたは人(ひと)を欺(あざむ)くように
彼(かれ)を欺(あざむ)くことができるか。
10あなたがたがもし、ひそかにひいきするならば、
彼(かれ)は必(かなら)ずあなたがたを責(せ)められる。
11その威厳(いげん)はあなたがたを恐(おそ)れさせないであろうか。
彼(かれ)をおそれる恐(おそ)れが
あなたがたに臨(のぞ)まないであろうか。
12あなたがたの格言(かくげん)は灰(はい)のことわざだ。
あなたがたの盾(たて)は土(つち)の盾(たて)だ。
13黙(もく)して、わたしにかかわるな、わたしは話(はな)そう。
何事(なにごと)でもわたしに来(く)るなら、来(く)るがよい。
14わたしはわが肉(にく)をわが歯(は)に取(と)り、
わが命(いのち)をわが手(て)のうちに置(お)く。
15見(み)よ、彼(かれ)はわたしを殺(ころ)すであろう。
わたしは絶望(ぜつぼう)だ。
しかしなおわたしはわたしの道(みち)を
彼(かれ)の前(まえ)に守(まも)り抜(ぬ)こう。
16これこそわたしの救(すくい)となる。神(かみ)を信(しん)じない者(もの)は、
神(かみ)の前(まえ)に出(で)ることができないからだ。
17あなたがたはよくわたしの言葉(ことば)を聞(き)き、
わたしの述(の)べる所(ところ)を耳(みみ)に入(い)れよ。
18見(み)よ、わたしはすでにわたしの立(た)ち場(ば)を言(い)い並(なら)べた。
わたしは義(ぎ)とされることをみずから知(し)っている。
19だれかわたしと言(い)い争(あらそ)う事(こと)のできる者(もの)があろうか。
もしあるならば、わたしは黙(もく)して死(し)ぬであろう。
20ただわたしに二つの事(こと)を許(ゆる)してください。
そうすれば、わたしはあなたの顔(かお)をさけて
隠(かく)れることはないでしょう。
21あなたの手(て)をわたしから離(はな)してください。
あなたの恐(おそ)るべき事(こと)をもって
わたしを恐(おそ)れさせないでください。
22そしてお呼(およ)びください、わたしは答(こた)えます。
わたしに物(もの)を言(い)わせて、
あなたご自身(じしん)、わたしにお答(こた)えください。
23わたしのよこしまと、わたしの罪(つみ)がどれほどあるか。
わたしのとがと罪(つみ)とをわたしに知(し)らせてください。
24なにゆえ、あなたはみ顔(かお)をかくし、
わたしをあなたの敵(てき)とされるのか。
25あなたは吹(ふ)き回(まわ)される木(こ)の葉(は)をおどし、
干(ひ)あがったもみがらを追(お)われるのか。
26あなたはわたしについて苦(にが)き事(こと)どもを書(か)きしるし、
わたしに若(わか)い時(とき)の罪(つみ)を継(つ)がせ、
27わたしの足(あし)を足(あし)かせにはめ、
わたしのすべての道(みち)をうかがい、
わたしの足(あし)の周囲(しゅうい)に限(かぎ)りをつけられる。
28このような人(ひと)は腐(くさ)れた物(もの)のように朽(く)ち果(は)て、
虫(むし)に食(く)われた衣服(いふく)のようにすたれる。

第一四章


1女(おんな)から生(うま)れる人(ひと)は
日(ひ)が短(みじか)く、悩(なや)みに満(み)ちている。
2彼(かれ)は花(はな)のように咲(さ)き出(で)て枯(か)れ、
影(かげ)のように飛(と)び去(さ)って、とどまらない。
3あなたはこのような者(もの)にさえ目(め)を開(ひら)き、
あなたの前(まえ)に引(ひ)き出(だ)して、さばかれるであろうか。
4だれが汚(けが)れたもののうちから清(きよ)いものを
出(だ)すことができようか、ひとりもない。
5その日(ひ)は定(さだ)められ、
その月(つき)の数(かず)もあなたと共(とも)にあり、
あなたがその限(かぎ)りを定(さだ)めて、
越(こ)えることのできないようにされたのだから、
6彼(かれ)から目(め)をはなし、手(て)をひいてください。
そうすれば彼(かれ)は雇人(やといにん)のように、
その日(ひ)を楽(たの)しむことができるでしょう。

7木(き)には望(のぞ)みがある。
たとい切(き)られてもまた芽(め)をだし、
その若(わか)枝(えだ)は絶(た)えることがない。
8たといその根(ね)が地(ち)の中(なか)に老(お)い、
その幹(みき)が土(つち)の中(なか)に枯(か)れても、
9なお水(みず)の潤(うるお)いにあえば芽(め)をふき、
若木(わかぎ)のように枝(えだ)を出(だ)す。
10しかし人(ひと)は死(し)ねば消(き)えうせる。
息(いき)が絶(た)えれば、どこにおるか。
11水(みず)が湖(みずうみ)から消(き)え、
川(かわ)がかれて、かわくように、
12人(ひと)は伏(ふ)して寝(ね)、また起(お)きず、
天(てん)のつきるまで、目(め)ざめず、
その眠(ねむ)りからさまされない。
13どうぞ、わたしを陰府(よみ)にかくし、
あなたの怒(いか)りのやむまで、潜(ひそ)ませ、
わたしのために時(とき)を定(さだ)めて、
わたしを覚(おぼ)えてください。
14人(ひと)がもし死(し)ねば、また生(い)きるでしょうか。
わたしはわが服役(ふくえき)の諸(しょ)日(にち)の間(あいだ)、
わが解放(かいほう)の来(く)るまで待(ま)つでしょう。
15あなたがお呼(およ)びになるとき、
わたしは答(こた)えるでしょう。
あなたはみ手(て)のわざを顧(かえり)みられるでしょう。
16その時(とき)あなたはわたしの歩(あゆ)みを数(かぞ)え、
わたしの罪(つみ)を見(み)のがされるでしょう。
17わたしのとがは袋(ふくろ)の中(なか)に封(ふう)じられ、
あなたはわたしの罪(つみ)を塗(ぬ)りかくされるでしょう。

18しかし山(やま)は倒(たお)れてくずれ、
岩(いわ)もその所(ところ)から移(うつ)される。
19水(みず)は石(いし)をうがち、
大水(おおみず)は地(ち)のちりを洗(あら)い去(さ)る。
このようにあなたは人(ひと)の望(のぞ)みを断(た)たれる。
20あなたはながく彼(かれ)に勝(か)って、彼(かれ)を去(さ)り行(い)かせ、
彼(かれ)の顔(かお)かたちを変(かわ)らせて追(お)いやられる。
21彼(かれ)の子(こ)らは尊(たっと)くなっても、彼(かれ)はそれを知(し)らない、
卑(いや)しくなっても、それを悟(さと)らない。
22ただおのが身(み)に痛(いた)みを覚(おぼ)え、
おのれのために嘆(なげ)くのみである」。

第一五章

1そこでテマンびとエリパズは答(こた)えて言(い)った、
2「知者(ちしゃ)はむなしき知識(ちしき)をもって答(こた)えるであろうか。
東風(ひがしかぜ)をもってその腹(はら)を満(み)たすであろうか。
3役(やく)に立(た)たない談話(だんわ)をもって論(ろん)じるであろうか。
無益(むえき)な言葉(ことば)をもって争(あらそ)うであろうか。
4ところがあなたは神(かみ)を恐(おそ)れることを捨(す)て、
神(かみ)の前(まえ)に祈(いの)る事(こと)をやめている。
5あなたの罪(つみ)はあなたの口(くち)を教(おし)え、
あなたは悪賢(わるがしこ)い人(ひと)の舌(した)を選(えら)び用(もち)いる。
6あなたの口(くち)みずからあなたの罪(つみ)を定(さだ)める、
わたしではない。
あなたのくちびるがあなたに逆(さか)らって証明(しょうめい)する。

7あなたは最初(さいしょ)に生(うま)れた人(ひと)であるのか。
山(やま)よりも先(さき)に生(うま)れたのか。
8あなたは神(かみ)の会議(かいぎ)にあずかったのか。
あなたは知恵(ちえ)を独占(どくせん)しているのか。
9あなたが知(し)るものは
われわれも知(し)るではないか。
あなたが悟(さと)るものは
われわれも悟(さと)るではないか。
10われわれの中(なか)にはしらがの人(ひと)も、
年老(としお)いた人(ひと)もあって、
あなたの父(ちち)よりも年上(としうえ)だ。
11神(かみ)の慰(なぐさ)めおよびあなたに対(たい)するやさしい言葉(ことば)も、
あなたにとって、あまりに小(ちい)さいというのか。
12どうしてあなたの心(こころ)は狂(くる)うのか。
どうしてあなたの目(め)はしばたたくのか。
13あなたが神(かみ)にむかって気(き)をいらだて、
このような言葉(ことば)をあなたの口(くち)から出(だ)すのはなぜか。
14人(ひと)はいかなる者(もの)か、どうしてこれは清(きよ)くありえよう。
女(おんな)から生(うま)れた者(もの)は、どうして正(ただ)しくありえよう。
15見(み)よ、神(かみ)はその聖(せい)なる者(もの)にすら信(しん)を置(お)かれない、
もろもろの天(てん)も彼(かれ)の目(め)には清(きよ)くない。
16まして憎(にく)むべき汚(けが)れた者(もの)、
また不義(ふぎ)を水(みず)のように飲(の)む人(ひと)においては。

17わたしはあなたに語(かた)ろう、聞(き)くがよい。
わたしは自分(じぶん)の見(み)た事(こと)を述(の)べよう。
18これは知者(ちしゃ)たちがその先祖(せんぞ)からうけて、
隠(かく)す所(ところ)なく語(かた)り伝(つた)えたものである。
19彼(かれ)らにのみこの地(ち)は授(さづ)けられて、
他国(たこく)人(じん)はその中(なか)に行(い)き来(き)したことがなかった。
20悪(あ)しき人(ひと)は一生(いっしょう)の間(あいだ)、もだえ苦(くる)しむ。
残酷(ざんこく)な人(ひと)には年(とし)の数(かず)が定(さだ)められている。
21その耳(みみ)には恐(おそ)ろしい音(おと)が聞(きこ)え、
繁栄(はんえい)の時(とき)にも滅(ほろ)ぼす者(もの)が彼(かれ)に臨(のぞ)む。
22彼(かれ)は、暗(くら)やみから帰(かえ)りうるとは信(しん)ぜず、
つるぎにねらわれる。
23彼(かれ)は食物(しょくもつ)はどこにあるかと言(い)いつつさまよい、
暗(くら)き日(ひ)が手近(てぢか)に備(そな)えられてあるのを知(し)る。
24悩(なや)みと苦(くる)しみとが彼(かれ)を恐(おそ)れさせ、
戦(たたか)いの備(そな)えをした王(おう)のように彼(かれ)に打(う)ち勝(か)つ。
25これは彼(かれ)が神(かみ)に逆(さか)らってその手(て)を伸(の)べ、
全能者(ぜんのうしゃ)に逆(さか)らって高慢(こうまん)にふるまい、
26盾(たて)の厚(あつ)い面(めん)をもって強情(ごうじょう)に、
彼(かれ)にはせ向(む)かうからだ。
27また彼(かれ)は脂肪(しぼう)をもってその顔(かお)をおおい、
その腰(こし)には脂肪(しぼう)の肉(にく)を集(あつ)め、
28滅(ほろ)ぼされた町々(まちまち)に住(す)み、
人(ひと)の住(す)まない家(いえ)、荒塚(あらつか)となる所(ところ)におるからだ。
29彼(かれ)は富(と)める者(もの)とならず、その富(とみ)はながく続(つづ)かない、
また地(ち)に根(ね)を張(は)ることはない。
30彼(かれ)は暗(くら)やみからのがれることができない。
炎(ほのお)はその若(わか)枝(えだ)を枯(か)らし、
その花(はな)は風(かぜ)に吹(ふ)き去(さ)られる。
31彼(かれ)をしてみずから欺(あざむ)いて、
むなしい事(こと)にたよらせてはならない。
その報(むく)いはむなしいからだ。
32彼(かれ)の時(とき)のこない前(まえ)にその事(こと)がなし遂(と)げられ、
彼(かれ)の枝(えだ)は緑(みどり)とならないであろう。
33彼(かれ)はぶどうの木(き)のように、
その熟(じゅく)さない実(み)をふり落(おと)すであろう。
またオリブの木(き)のように、その花(はな)を落(おと)すであろう。
34神(かみ)を信(しん)じない者(もの)のやからは子(こ)なく、
まいないによる天幕(てんまく)は火(ひ)で焼(や)き滅(ほろ)ぼされるからだ。
35彼(かれ)らは害悪(がいあく)をはらみ、不義(ふぎ)を生(う)み、
その腹(はら)は偽(いつわ)りをつくる」。

第一六章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「わたしはこのような事(こと)を数多(かずおお)く聞(き)いた。
あなたがたは皆(みな)人(ひと)を慰(なぐさ)めようとして、
かえって人(ひと)を煩(わずら)わす者(もの)だ。
3むなしき言葉(ことば)に、はてしがあろうか。
あなたは何(なに)に激(げき)して答(こたえ)をするのか。
4わたしもあなたがたのように語(かた)ることができる。
もしあなたがたがわたしと代(かわ)ったならば、
わたしは言葉(ことば)を練(ね)って、あなたがたを攻(せ)め、
あなたがたに向(む)かって頭(あたま)を振(ふ)ることができる。
5また口(くち)をもって、あなたがたを強(つよ)くし、
くちびるの慰(なぐさ)めをもって、あなたがたの苦(くる)しみを和(やわ)らげることができる。

6たといわたしは語(かた)っても、
わたしの苦(くる)しみは和(やわ)らげられない。
たといわたしは忍(しの)んでも、
どれほどそれがわたしを去(さ)るであろうか。
7まことに神(かみ)は今(いま)わたしを疲(つか)れさせた。
彼(かれ)はわたしのやからをことごとく荒(あら)した。
8彼(かれ)はわたしを、しわ寄(よ)らせた。
これがわたしに対(たい)する証拠(しょうこ)である。
またわたしのやせ衰(おとろ)えた姿(すがた)が立(た)って、わたしを攻(せ)め、
わたしの顔(かお)にむかって証明(しょうめい)する。
9彼(かれ)は怒(いか)ってわたしをかき裂(さ)き、わたしを憎(にく)み、
わたしに向(む)かって歯(は)をかみ鳴(な)らした。
わたしの敵(てき)は目(め)を鋭(するど)くして、わたしを攻(せ)める。
10人々(ひとびと)はわたしに向(む)かって口(くち)を張(は)り、
侮(あなど)ってわたしのほおを打(う)ち、
ともに集(あつ)まってわたしを攻(せ)める。
11神(かみ)はわたしをよこしまな者(もの)に渡(わた)し、
悪人(あくにん)の手(て)に投(な)げいれられる。
12わたしは安(やす)らかであったのに、
彼(かれ)はわたしを切(き)り裂(さ)き、
首(くび)を捕(とら)えて、わたしを打(う)ち砕(くだ)き、
わたしを立(た)てて的(まと)とされた。
13その射手(しゃしゅ)はわたしを囲(かこ)む。
彼(かれ)は無慈悲(むじひ)にもわたしの腰(こし)を射通(いとお)し、
わたしの肝(きも)を地(ち)に流(なが)れ出(だ)させられる。
14彼(かれ)はわたしを打(う)ち破(やぶ)って、破(やぶ)れに破(やぶ)れを加(くわ)え、
勇士(ゆうし)のようにわたしに、はせかかられる。
15わたしは荒布(あらぬの)を膚(はだ)に縫(ぬ)いつけ、
わたしの角(つの)をちりに伏(ふ)せた。
16わたしの顔(かお)は泣(な)いて赤(あか)くなり、
わたしのまぶたには深(ふか)いやみがある。
17しかし、わたしの手(て)には暴虐(ぼうぎゃく)がなく、
わたしの祈(いのり)は清(きよ)い。

18地(ち)よ、わたしの血(ち)をおおってくれるな。
わたしの叫(さけ)びに、休(やす)む所(ところ)を得(え)させるな。
19見(み)よ、今(いま)でもわたしの証人(しょうにん)は天(てん)にある。
わたしのために保証(ほしょう)してくれる者(もの)は高(たか)い所(ところ)にある。
20わたしの友(とも)はわたしをあざける、
しかしわたしの目(め)は神(かみ)に向(む)かって涙(なみだ)を注(そそ)ぐ。
21どうか彼(かれ)が人(ひと)のために神(かみ)と弁論(べんろん)し、
人(ひと)とその友(とも)との間(あいだ)をさばいてくれるように。
22数年(すうねん)過(す)ぎ去(さ)れば、
わたしは帰(かえ)らぬ旅路(たびじ)に行(い)くであろう。

第一七章


1わが霊(れい)は破(やぶ)れ、わが日(ひ)は尽(つ)き、
墓(はか)はわたしを待(ま)っている。
2まことにあざける者(もの)どもはわたしのまわりにあり、
わが目(め)は常(つね)に彼(かれ)らの侮(あなど)りを見(み)る。
3どうか、あなた自(みずか)ら保証(ほしょう)となられるように。
ほかにだれがわたしのために
保証(ほしょう)となってくれる者(もの)があろうか。
4あなたは彼(かれ)らの心(こころ)を閉(と)じて、
悟(さと)ることのないようにされた。
それゆえ、彼(かれ)らに勝利(しょうり)を得(え)させられるはずはない。
5分(わ)け前(まえ)を得(え)るために友(とも)を訴(うった)えるものは、
その子(こ)らの目(め)がつぶれるであろう。
6彼(かれ)はわたしを民(たみ)の笑(わら)い草(ぐさ)とされた。
わたしは顔(かお)につばきされる者(もの)となる。
7わが目(め)は憂(うれ)いによってかすみ、
わがからだはすべて影(かげ)のようだ。
8正(ただ)しい者(もの)はこれに驚(おどろ)き、
罪(つみ)なき者(もの)は神(かみ)を信(しん)ぜぬ者(もの)に対(たい)して憤(いきどお)る。
9それでもなお正(ただ)しい者(もの)はその道(みち)を堅(かた)く保(たも)ち、
潔(いさぎよ)い手(て)をもつ者(もの)はますます力(ちから)を得(え)る。
10しかし、あなたがたは皆(みな)再(ふたた)び来(く)るがよい、
わたしはあなたがたのうちに賢(かしこ)い者(もの)を見(み)ないのだ。
11わが日(ひ)は過(す)ぎ去(さ)り、わが計(はか)りごとは敗(やぶ)れ、
わが心(こころ)の願(ねが)いも敗(やぶ)れた。
12彼(かれ)らは夜(よる)を昼(ひる)に変(か)える。
彼(かれ)らは言(い)う、『光(ひかり)が暗(くら)やみに近(ちか)づいている』と。
13わたしがもし陰府(よみ)をわたしの家(いえ)として望(のぞ)み、
暗(くら)やみに寝床(ねどこ)をのべ、
14穴(あな)に向(む)かって『あなたはわたしの父(ちち)である』と言(い)い、
うじに向(む)かって『あなたはわたしの母(はは)、
わたしの姉妹(しまい)である』と言(い)うならば、
15わたしの望(のぞ)みはどこにあるか、
だれがわたしの望(のぞ)みを見(み)ることができようか。
16これは下(くだ)って陰府(よみ)の関門(かんもん)にいたり、
われわれは共(とも)にちりに下(くだ)るであろうか」。

第一八章

1そこでシュヒびとビルダデは答(こた)えて言(い)った、
2「あなたはいつまで言葉(ことば)にわなを設(もう)けるのか。
あなたはまず悟(さと)るがよい、
それからわれわれは論(ろん)じよう。
3なぜ、われわれは獣(けもの)のように思(おも)われるのか。
なぜ、あなたの目(め)に愚(おろ)かな者(もの)と見(み)えるのか。
4怒(いか)っておのが身(み)を裂(さ)く者(もの)よ、
あなたのために地(ち)は捨(す)てられるだろうか。
岩(いわ)はその所(ところ)から移(うつ)されるだろうか。

5悪(あ)しき者(もの)の光(ひかり)は消(き)え、
その火(ひ)の炎(ほのお)は光(ひかり)を放(はな)たず、
6その天幕(てんまく)のうちの光(ひかり)は暗(くら)く、
彼(かれ)の上(うえ)のともしびは消(き)える。
7その力(ちから)ある歩(あゆ)みはせばめられ、
その計(はか)りごとは彼(かれ)を倒(たお)す。
8彼(かれ)は自分(じぶん)の足(あし)で網(あみ)にかかり、
また落(おと)し穴(あな)の上(うえ)を歩(あゆ)む。
9わなは彼(かれ)のかかとを捕(とら)え、
網(あみ)わなは彼(かれ)を捕(とら)える。
10輪(わ)なわは彼(かれ)を捕(とら)えるために地(ち)に隠(かく)され、
張(は)り網(あみ)は彼(かれ)を捕(とら)えるために道(みち)に設(もう)けられる。
11恐(おそ)ろしい事(こと)が四方(しほう)にあって彼(かれ)を恐(おそ)れさせ、
その歩(あゆ)みにしたがって彼(かれ)を追(お)う。
12その力(ちから)は飢(う)え、
災(わざわい)は彼(かれ)をつまずかすために備(そな)わっている。
13その皮膚(ひふ)は病(やまい)によって食(く)いつくされ、
死(し)のういごは彼(かれ)の手足(てあし)を食(く)いつくす。
14彼(かれ)はその頼(たの)む所(ところ)の天幕(てんまく)から引(ひ)き離(はな)されて、
恐(おそ)れの王(おう)のもとに追(お)いやられる。
15彼(かれ)に属(ぞく)さない者(もの)が彼(かれ)の天幕(てんまく)に住(す)み、
硫黄(いおう)が彼(かれ)のすまいの上(うえ)にまき散(ち)らされる。
16下(した)ではその根(ね)が枯(か)れ、
上(うえ)ではその枝(えだ)が切(き)られる。
17彼(かれ)の形見(かたみ)は地(ち)から滅(ほろ)び、
彼(かれ)の名(な)はちまたに消(き)える。
18彼(かれ)は光(ひかり)からやみに追(お)いやられ、
世(よ)の中(なか)から追(お)い出(だ)される。
19彼(かれ)はその民(たみ)の中(なか)に子(こ)もなく、孫(まご)もなく、
彼(かれ)のすみかには、ひとりも生(い)き残(のこ)る者(もの)はない。
20西(にし)の者(もの)は彼(かれ)の日(ひ)について驚(おどろ)き、
東(ひがし)の者(もの)はおじ恐(おそ)れる。
21まことに、悪(あ)しき者(もの)のすまいはこのようであり、
神(かみ)を知(し)らない者(もの)の所(ところ)はこのようである」。

第一九章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「あなたがたはいつまでわたしを悩(なや)まし、
言葉(ことば)をもってわたしを打(う)ち砕(くだ)くのか。
3あなたがたはすでに十度(とたび)もわたしをはずかしめ、
わたしを悪(わる)くあしらってもなお恥(は)じないのか。
4たといわたしが、まことにあやまったとしても、
そのあやまちは、わたし自身(じしん)にとどまる。
5もしあなたがたが、
まことにわたしに向(む)かって高(たか)ぶり、
わたしの恥(はじ)を論(ろん)じるならば、
6『神(かみ)がわたしをしえたげ、
その網(あみ)でわたしを囲(かこ)まれたのだ』と知(し)るべきだ。
7見(み)よ、わたしが『暴虐(ぼうぎゃく)』と叫(さけ)んでも答(こた)えられず、
助(たす)けを呼(よ)び求(もと)めても、さばきはない。
8彼(かれ)はわたしの道(みち)にかきをめぐらして、
越(こ)えることのできないようにし、
わたしの行(い)く道(みち)に暗(くら)やみを置(お)かれた。
9彼(かれ)はわたしの栄(さか)えをわたしからはぎ取(と)り、
わたしのこうべから冠(かんむり)を奪(うば)い、
10四方(しほう)からわたしを取(と)りこわして、うせさせ、
わたしの望(のぞ)みを木(き)のように抜(ぬ)き去(さ)り、
11わたしに向(む)かって怒(いか)りを燃(も)やし、
わたしを敵(てき)のひとりのように思(おも)われた。
12その軍勢(ぐんぜい)がいっせいに来(き)て、
塁(るい)を築(きず)いて攻(せ)め寄(よ)せ、
わたしの天幕(てんまく)のまわりに陣(じん)を張(は)った。
13彼(かれ)はわたしの兄弟(きょうだい)たちを
わたしから遠(とお)く離(はな)れさせられた。
わたしを知(し)る人々(ひとびと)は全(まった)くわたしに疎遠(そえん)になった。
14わたしの親類(しんるい)および親(した)しい友(とも)はわたしを見捨(みす)て、
15わたしの家(いえ)に宿(やど)る者(もの)はわたしを忘(わす)れ、
わたしのはしためらはわたしを他人(たにん)のように思(おも)い、
わたしは彼(かれ)らの目(め)に他国(たこく)人(じん)となった。
16わたしがしもべを呼(よ)んでも、彼(かれ)は答(こた)えず、
わたしは口(くち)をもって彼(かれ)に請(こ)わなければならない。
17わたしの息(いき)はわが妻(つま)にいとわれ、
わたしは同(おな)じ腹(はら)の子(こ)たちにきらわれる。
18わらべたちさえもわたしを侮(あなど)り、
わたしが起(お)き上(あ)がれば、わたしをあざける。
19親(した)しい人々(ひとびと)は皆(みな)わたしをいみきらい、
わたしの愛(あい)した人々(ひとびと)はわたしにそむいた。
20わたしの骨(ほね)は皮(かわ)と肉(にく)につき、
わたしはわずかに歯(は)の皮(かわ)をもってのがれた。
21わが友(とも)よ、わたしをあわれめ、わたしをあわれめ、
神(かみ)のみ手(て)がわたしを打(う)ったからである。
22あなたがたは、なにゆえ神(かみ)のようにわたしを責(せ)め、
わたしの肉(にく)をもって満足(まんぞく)しないのか。
23どうか、わたしの言葉(ことば)が、書(か)きとめられるように。
どうか、わたしの言葉(ことば)が、書物(しょもつ)にしるされるように。
24鉄(てつ)の筆(ふで)と鉛(なまり)とをもって、
ながく岩(いわ)に刻(きざ)みつけられるように。
25わたしは知(し)る、
わたしをあがなう者(もの)は生(い)きておられる、
後(のち)の日(ひ)に彼(かれ)は必(かなら)ず地(ち)の上(うえ)に立(た)たれる。
26わたしの皮(かわ)がこのように滅(ほろ)ぼされたのち、
わたしは肉(にく)を離(はな)れて神(かみ)を見(み)るであろう。
27しかもわたしの味方(みかた)として見(み)るであろう。
わたしの見(み)る者(もの)はこれ以外(いがい)のものではない。
わたしの心(こころ)はこれを望(のぞ)んでこがれる。
28あなたがたがもし『われわれはどうして
彼(かれ)を責(せ)めようか』と言(い)い、
また『事(こと)の根源(こんげん)は彼(かれ)のうちに見(み)いだされる』
と言(い)うならば、
29つるぎを恐(おそ)れよ、
怒(いか)りはつるぎの罰(ばつ)をきたらすからだ。
これによって、あなたがたは、
さばきのあることを知(し)るであろう」。

第二〇章

1そこでナアマびとゾパルは答(こた)えて言(い)った、
2「これによって、わたしは答(こた)えようとの思(おも)いを起(おこ)し、
これがために心中(しんじゅう)しきりに騒(さわ)ぎ立(た)つ。
3わたしはわたしをはずかしめる非難(ひなん)を聞(き)く、
しかし、わたしの悟(さと)りの霊(れい)がわたしに答(こた)えさせる。
4あなたはこの事(こと)を知(し)らないのか、
昔(むかし)から地(ち)の上(うえ)に人(ひと)の置(お)かれてよりこのかた、
5悪(あ)しき人(ひと)の勝(か)ち誇(ほこ)はしばらくであって、
神(かみ)を信(しん)じない者(もの)の楽(たの)しみは
ただつかのまであることを。
6たといその高(たか)さが天(てん)に達(たっ)し、
その頭(あたま)が雲(くも)におよんでも、
7彼(かれ)はおのれの糞(ふん)のように、とこしえに滅(ほろ)び、
彼(かれ)を見(み)た者(もの)は言(い)うであろう、『彼(かれ)はどこにおるか』と。
8彼(かれ)は夢(ゆめ)のように飛(と)び去(さ)って、再(ふたた)び見(み)ることはない。
彼(かれ)は夜(よる)の幻(まぼろし)のように追(お)い払(はら)われるであろう。
9彼(かれ)を見(み)た目(め)はかさねて彼(かれ)を見(み)ることがなく、
彼(かれ)のいた所(ところ)も再(ふたた)び彼(かれ)を見(み)ることがなかろう。
10その子(こ)らは貧(まず)しい者(もの)に恵(めぐ)みを求(もと)め、
その手(て)は彼(かれ)の貨(か)財(ざい)を償(つぐな)うであろう。
11その骨(ほね)には若(わか)い力(ちから)が満(み)ちている、
しかしそれは彼(かれ)と共(とも)にちりに伏(ふ)すであろう。
12たとい悪(あく)は彼(かれ)の口(くち)に甘(あま)く、
これを舌(した)の裏(うら)にかくし、
13これを惜(お)しんで捨(す)てることなく、
口(くち)の中(なか)に含(ふく)んでいても、
14その食物(しょくもつ)は彼(かれ)の腹(はら)の中(うち)で変(かわ)り、
彼(かれ)の内(うち)で毒蛇(どくへび)の毒(どく)となる。
15彼(かれ)は貨(か)財(ざい)をのんでも、またそれを吐(は)き出(だ)す、
神(かみ)がそれを彼(かれ)の腹(はら)から押(お)し出(だ)されるからだ。
16彼(かれ)は毒蛇(どくへび)の毒(どく)を吸(す)い、
まむしの舌(した)は彼(かれ)を殺(ころ)すであろう。
17彼(かれ)は蜜(みつ)と凝乳(ぎょうにゅう)の流(なが)れる川々(かわがわ)を見(み)ることができない。
18彼(かれ)はほねおって獲(え)たものを返(かえ)して、
それを食(く)うことができない。
その商(あきな)いによって得(え)た利益(りえき)をもって
楽(たの)しむことができない。
19彼(かれ)が貧(まず)しい者(もの)をしえたげ、これを捨(す)てたからだ。
彼(かれ)は家(いえ)を奪(うば)い取(と)っても、
それを建(た)てることができない。
20彼(かれ)の欲張(よくば)りは足(た)ることを知(し)らぬゆえ、
その楽(たの)しむ何(なに)物(もの)をも救(すく)うことができないであろう。
21彼(かれ)が残(のこ)して食(た)べなかった物(もの)とては一つもない。
それゆえ、その繁栄(はんえい)はながく続(つづ)かないであろう。
22その力(ちから)の満(み)ちている時(とき)、彼(かれ)は窮境(きゅうきょう)に陥(おちい)り、
悩(なや)みの手(て)がことごとく彼(かれ)の上(うえ)に臨(のぞ)むであろう。
23彼(かれ)がその腹(はら)を満(み)たそうとすれば、
神(かみ)はその激(はげ)しい怒(いか)りを送(おく)って、
それを彼(かれ)の上(うえ)に降(ふ)り注ぎ(そそぎ)、彼(かれ)の食物(しょくもつ)とされる。
24彼(かれ)は鉄(てつ)の武器(ぶき)を免(まぬか)れても、
青銅(せいどう)の矢(や)は彼(かれ)を射通(いとお)すであろう。
25彼(かれ)がこれをその身(み)から引(ひ)き抜(ぬ)けば、
きらめく矢(や)じりがその肝(きも)から出(で)てきて、
恐(おそ)れが彼(かれ)の上(うえ)に臨(のぞ)む。
26もろもろの暗黒(あんこく)が彼(かれ)の宝物(ほうもつ)のためにたくわえられ、
人(ひと)が吹(ふ)き起(おこ)したものでない火(ひ)が彼(かれ)を焼(や)きつくし、
その天幕(てんまく)に残(のこ)っている者(もの)を滅(ほろ)ぼすであろう。
27天(てん)は彼(かれ)の罪(つみ)をあらわし、
地(ち)は起(おこ)って彼(かれ)を攻(せ)めるであろう。
28その家(いえ)の財産(ざいさん)は奪(うば)い去(さ)られ、
神(かみ)の怒(いか)りの日(ひ)に消(き)えうせるであろう。
29これが悪(あ)しき人(ひと)の神(かみ)から受(う)ける分(ぶん)、
神(かみ)によって定(さだ)められた嗣(し)業(ぎょう)である」。

第二一章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「あなたがたはとくと、わたしの言葉(ことば)を聞(き)き、
これをもって、あなたがたの慰(なぐさ)めとするがよい。
3まずわたしをゆるして語(かた)らせなさい。
わたしが語(かた)ったのち、あざけるのもよかろう。
4わたしのつぶやきは人(ひと)に対(たい)してであろうか。
わたしはどうして、いらだたないでいられようか。
5あなたがたはわたしを見(み)て、驚(おどろ)き、
手(て)を口(くち)にあてるがよい。
6わたしはこれを思(おも)うと恐(おそ)ろしくなって、
からだがしきりに震(ふる)えわななく。
7なにゆえ悪(あ)しき人(ひと)が生(い)きながらえ、
老齢(ろうれい)に達(たっ)し、かつ力強(ちからづよ)くなるのか。
8その子(こ)らは彼(かれ)らの前(まえ)に堅(かた)く立(た)ち、
その子孫(しそん)もその目(め)の前(まえ)に堅(かた)く立(た)つ。
9その家(いえ)は安(やす)らかで、恐(おそ)れがなく、
神(かみ)のつえは彼(かれ)らの上(うえ)に臨(のぞ)むことがない。
10その雄牛(おうし)は種(たね)を与(あた)えて、誤(あやま)ることなく、
その雌牛(めうし)は子(こ)を産(う)んで、そこなうことがない。
11彼(かれ)らはその小(ちい)さい者(もの)どもを群(む)れのように連(つ)れ出(だ)し、
その子(こ)らは舞(ま)い踊(おど)る。
12彼(かれ)らは手(て)鼓(つづみ)と琴(こと)に合(あ)わせて歌(うた)い、
笛(ふえ)の音(ね)によって楽(たの)しみ、
13その日(ひ)をさいわいに過(す)ごし、
安(やす)らかに陰府(よみ)にくだる。
14彼(かれ)らは神(かみ)に言(い)う、『われわれを離(はな)れよ、
われわれはあなたの道(みち)を知(し)ることを好(この)まない。
15全能者(ぜんのうしゃ)は何者(なにもの)なので、
われわれはこれに仕(つか)えねばならないのか。
われわれはこれに祈(いの)っても、なんの益(えき)があるか』と。
16見(み)よ、彼(かれ)らの繁栄(はんえい)は彼(かれ)らの手(て)にあるではないか。
悪人(あくにん)の計(はか)りごとは、わたしの遠(とお)く及(およ)ぶ所(ところ)でない。
17悪人(あくにん)のともしびの消(け)されること、
幾(いく)たびあるか。
その災(わざわい)の彼(かれ)らの上(うえ)に臨(のぞ)むこと、
神(かみ)がその怒(いか)りをもって苦(くる)しみを与(あた)えられること、
幾(いく)たびあるか。
18彼(かれ)らが風(かぜ)の前(まえ)のわらのようになること、
あらしに吹(ふ)き去(さ)られるもみがらのようになること、
幾(いく)たびあるか。
19あなたがたは言(い)う、
『神(かみ)は彼(かれ)らの罪(つみ)を積(つ)みたくわえて、
その子(こ)らに報(むく)いられるのだ』と。
どうかそれを彼(かれ)ら自身(じしん)に報(むく)いて、
彼(かれ)らにその罪(つみ)を知(し)らせられるように。
20すなわち彼(かれ)ら自身(じしん)の目(め)にその滅(ほろ)びを見(み)させ、
全能者(ぜんのうしゃ)の怒(いか)りを彼(かれ)らに飲(の)ませられるように。
21その月(つき)の数(かず)のつきるとき、
彼(かれ)らはその後(のち)の家(いえ)になんのかかわる所(ところ)があろうか。
22神(かみ)は天(てん)にある者(もの)たちをさえ、さばかれるのに、
だれが神(かみ)に知識(ちしき)を教(おし)えることができようか。
23ある者(もの)は繁栄(はんえい)をきわめ、
全(まった)く安(やす)らかに、かつおだやかに死(し)に、
24そのからだには脂肪(しぼう)が満(み)ち、
その骨(ほね)の髄(ずい)は潤(うるお)っている。
25ある者(もの)は心(こころ)を苦(くる)しめて死(し)に、
なんの幸(さいわい)をも味(あじ)わうことがない。
26彼(かれ)らはひとしくちりに伏(ふ)し、
うじにおおわれる。

27見(み)よ、わたしはあなたがたの思(おも)いを知(し)り、
わたしを害(がい)しようとするたくらみを知(し)る。
28あなたがたは言(い)う、『王侯(おうこう)の家(いえ)はどこにあるか、
悪人(あくにん)の住(す)む天幕(てんまく)はどこにあるか』と。
29あなたがたは道行(みちゆ)く人々(ひとびと)に問(と)わなかったか、
彼(かれ)らの証言(しょうげん)を受(う)け入(い)れないのか。
30すなわち、災(わざわい)の日(ひ)に悪人(あくにん)は免(まぬか)れ、
激(はげ)しい怒(いか)りの日(ひ)に彼(かれ)は救(すく)い出(だ)される。
31だれが彼(かれ)に向(む)かって、
その道(みち)を告(つ)げ知(し)らせる者(もの)があるか、
だれが彼(かれ)のした事(こと)を彼(かれ)に報(むく)いる者(もの)があるか。
32彼(かれ)はかかれて墓(はか)に行(い)き、
塚(つか)の上(うえ)で見張(みは)りされ、
33谷(たに)の土(つち)くれも彼(かれ)には快(こころよ)く、
すべての人(ひと)はそのあとに従(したが)う。
彼(かれ)の前(まえ)に行(い)った者(もの)も数(かぞ)えきれない。
34それで、あなたがたはどうしてむなしい事(こと)をもって、
わたしを慰(なぐさ)めようとするのか。
あなたがたの答(こたえ)は偽(いつわ)り以外(いがい)の何(なに)ものでもない」。

第二二章

1そこでテマンびとエリパズは答(こた)えて言(い)った、
2「人(ひと)は神(かみ)を益(えき)することができるであろうか。
賢(かしこ)い人(ひと)も、ただ自身(じしん)を益(えき)するのみである。
3あなたが正(ただ)しくても、全能者(ぜんのうしゃ)になんの喜(よろこ)びがあろう。
あなたが自分(じぶん)の道(みち)を全(まっと)うしても、
彼(かれ)になんの利益(りえき)があろう。
4神(かみ)はあなたが神(かみ)を恐(おそ)れることのゆえに、
あなたを責(せ)め、あなたをさばかれるであろうか。
5あなたの悪(あく)は大(おお)きいではないか。
あなたの罪(つみ)は、はてしがない。
6あなたはゆえなく兄弟(きょうだい)のものを質(しち)にとり、
裸(はだか)な者(もの)の着物(きもの)をはぎ取(と)り、
7疲(つか)れた者(もの)に水(みず)を飲(の)ませず、
飢(う)えた者(もの)に食物(しょくもつ)を与(あた)えなかった。
8力(ちから)ある人(ひと)は土地(とち)を得(え)、
名(な)ある人(ひと)はそのうちに住(す)んだ。
9あなたは、やもめをむなしく去(さ)らせた。
みなしごの腕(うで)は折(お)られた。
10それゆえ、わなはあなたをめぐり、
恐怖(きょうふ)は、にわかにあなたを驚(おどろ)かす。
11あなたの光(ひかり)は暗(くら)くされ、
あなたは見(み)ることができない。
大水(おおみず)はあなたをおおうであろう。
12神(かみ)は天(てん)に高(たか)くおられるではないか。
見(み)よ、いと高(たか)き星(ほし)を。いかに高(たか)いことよ。
13それであなたは言(い)う、『神(かみ)は何(なに)を知(し)っておられるか。
彼(かれ)は黒雲(くろくも)を通(とお)して、さばくことができるのか。
14濃(こ)い雲(くも)が彼(かれ)をおおい隠(かく)すと、
彼(かれ)は見(み)ることができない。
彼(かれ)は天(てん)の大空(おおぞら)を歩(あゆ)まれるのだ』と。
15あなたは悪(あ)しき人々(ひとびと)が踏(ふ)んだ
いにしえの道(みち)を守(まも)ろうとするのか。
16彼(かれ)らは時(とき)がこないうちに取(と)り去(さ)られ、
その基(もとい)は川(かわ)のように押(お)し流(なが)された。
17彼(かれ)らは神(かみ)に言(い)った、『われわれを離(はな)れてください』と、
また『全能者(ぜんのうしゃ)はわれわれに何(なに)をなしえようか』と。
18しかし神(かみ)は彼(かれ)らの家(いえ)を良(よ)い物(もの)で満(み)たされた。
ただし悪人(あくにん)の計(はか)りごとは
わたしのくみする所(ところ)ではない。
19正(ただ)しい者(もの)はこれを見(み)て喜(よろこ)び、
罪(つみ)なき者(もの)は彼(かれ)らをあざ笑(わら)って言(い)う、
20『まことにわれわれのあだは滅(ほろ)ぼされ、
その残(のこ)した物(もの)は火(ひ)で焼(や)き滅(ほろ)ぼされた』と。

21あなたは神(かみ)と和(やわ)らいで、平安(へいあん)を得(え)るがよい。
そうすれば幸福(こうふく)があなたに来(く)るでしょう。
22どうか、彼(かれ)の口(くち)から教(おしえ)を受(う)け、
その言葉(ことば)をあなたの心(こころ)におさめるように。
23あなたがもし全能者(ぜんのうしゃ)に立(た)ち返(かえ)って、おのれを低(ひく)くし、
あなたの天幕(てんまく)から不義(ふぎ)を除(のぞ)き去(さ)り、
24こがねをちりの中(なか)に置(お)き、
オフルのこがねを谷川(たにがわ)の石(いし)の中(なか)に置(お)き、
25全能者(ぜんのうしゃ)があなたのこがねとなり、
あなたの貴重(きちょう)なしろがねとなるならば、
26その時(とき)、あなたは全能者(ぜんのうしゃ)を喜(よろこ)び、
神(かみ)に向(む)かって顔(かお)をあげることができる。
27あなたが彼(かれ)に祈(いの)るならば、彼(かれ)はあなたに聞(き)かれる。
そしてあなたは自分(じぶん)の誓(ちか)いを果(はた)す。
28あなたが事(こと)をなそうと定(さだ)めるならば、
あなたはその事(こと)を成就(じょうじゅ)し、
あなたの道(みち)には光(ひかり)が輝(かがや)く。
29彼(かれ)は高(たか)ぶる者(もの)を低(ひく)くされるが、
へりくだる者(もの)を救(すく)われるからだ。
30彼(かれ)は罪(つみ)のない者(もの)を救(すく)われる。
あなたはその手(て)の潔(いさぎよ)いことによって、
救(すく)われるであろう」。

第二三章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「きょうもまた、わたしのつぶやきは激(はげ)しく、
彼(かれ)の手(て)はわたしの嘆(なげ)きにかかわらず、重(おも)い。
3どうか、彼(かれ)を尋(たず)ねてどこで会(あ)えるかを知(し)り、
そのみ座(ざ)に至(いた)ることができるように。
4わたしは彼(かれ)の前(まえ)にわたしの訴(うった)えをならべ、
口(くち)をきわめて論議(ぎ)するであろう。
5わたしは、わたしに答(こた)えられるみ言葉(ことば)を知(し)り、
わたしに言(い)われる所(ところ)を悟(さと)ろう。
6彼(かれ)は大(おお)いなる力(ちから)をもって、
わたしと争(あらそ)われるであろうか、
いな、かえってわたしを顧(かえり)みられるであろう。
7かしこでは正(ただ)しい人(ひと)は彼(かれ)と言(い)い争(あらそ)うことができる。
そうすれば、わたしはわたしをさばく者(もの)から
永久(えいきゅう)に救(すく)われるであろう。

8見(み)よ、わたしが進(すす)んでも、彼(かれ)を見(み)ない。
退(しりぞ)いても、彼(かれ)を認(みと)めることができない。
9左(ひだり)の方(ほう)に尋(たず)ねても、会(あ)うことができない。
右(みぎ)の方(ほう)に向(む)かっても、見(み)ることができない。
10しかし彼(かれ)はわたしの歩(あゆ)む道(みち)を知(し)っておられる。
彼(かれ)がわたしを試(こころ)みられるとき、
わたしは金(きん)のように出(で)て来(く)るであろう。
11わたしの足(あし)は彼(かれ)の歩(あゆ)みに堅(かた)く従(したが)った。
わたしは彼(かれ)の道(みち)を守(まも)って離(はな)れなかった。
12わたしは彼(かれ)のくちびるの命令(めいれい)にそむかず、
その口(くち)の言葉(ことば)をわたしの胸(むね)にたくわえた。
13しかし彼(かれ)は変(かわ)ることはない。
だれが彼(かれ)をひるがえすことができようか。
彼(かれ)はその心(こころ)の欲(ほっ)するところを行(おこな)われるのだ。
14彼(かれ)はわたしのために定(さだ)めた事(こと)をなし遂(と)げられる。
そしてこのような事(こと)が多(おお)く彼(かれ)の心(こころ)にある。
15それゆえ、わたしは彼(かれ)の前(まえ)におののく。
わたしは考(かんが)えるとき、彼(かれ)を恐(おそ)れる。
16神(かみ)はわたしの心(こころ)を弱(よわ)くされた。
全能者(ぜんのうしゃ)はわたしを恐(おそ)れさせられた。
17わたしは、やみによって閉(と)じこめられ、
暗黒(あんこく)がわたしの顔(かお)をおおっている。

第二四章


1なにゆえ、全能者(ぜんのうしゃ)はさばきの時(とき)を
定(さだ)めておかれないのか。
なにゆえ、彼(かれ)を知(し)る者(もの)がその日(ひ)を見(み)ないのか。
2世(よ)には地境(じざかい)を移(うつ)す者(もの)、
群(む)れを奪(うば)ってそれを飼(か)う者(もの)、
3みなしごのろばを追(お)いやる者(もの)、
やもめの牛(うし)を質(しち)に取(と)る者(もの)、
4貧(まず)しい者(もの)を道(みち)から押(お)しのける者(もの)がある。
世(よ)の弱(よわ)い者(もの)は皆(みな)彼(かれ)らをさけて身(み)をかくす。
5見(み)よ、彼(かれ)らは荒野(あらの)におる野(の)ろばのように出(で)て働(はたら)き、
野(の)で獲物(えもの)を求(もと)めて、その子(こ)らの食物(しょくもつ)とする。
6彼(かれ)らは畑(はたけ)でそのまぐさを刈(か)り、
また悪人(あくにん)のぶどう畑(はたけ)で拾(ひろ)い集(あつ)める。
7彼(かれ)らは着(き)る物(もの)がなく、裸(はだか)で夜(よる)を過(す)ごし、
寒(さむ)さに身(み)をおおうべき物(もの)もない。
8彼(かれ)らは山(やま)の雨(あめ)にぬれ、しのぎ場(ば)もなく岩(いわ)にすがる。
9(みなしごをその母(はは)のふところから奪(うば)い、
貧(まず)しい者(もの)の幼(おさ)な子(ご)を質(しち)にとる者(もの)がある。)
10彼(かれ)らは着(き)る物(もの)がなく、裸(はだか)で歩(ある)き、
飢(う)えつつ麦(むぎ)束(たば)を運(はこ)び、
11悪人(あくにん)のオリブ並み木(き)の中(なか)で油(あぶら)をしぼり、
酒(さか)ぶねを踏(ふ)んでも、かわきを覚(おぼ)える。
12町(まち)の中(なか)から死(し)のうめきが起(おこ)り、
傷(きず)ついた者(もの)の魂(たましい)が助(たす)けを呼(よ)び求(もと)める。
しかし神(かみ)は彼(かれ)らの祈(いのり)を顧(かえり)みられない。
13光(ひかり)にそむく者(もの)たちがある。
彼(かれ)らは光(ひかり)の道(みち)を知(し)らず、光(ひかり)の道(みち)にとどまらない。
14人(ひと)を殺(ころ)す者(もの)は暗(くら)いうちに起(お)き出(で)て
弱(よわ)い者(もの)と貧(まず)しい者(もの)を殺(ころ)し、
夜(よる)は盗(ぬす)びととなる。
15姦淫(かんいん)する者(もの)の目(め)はたそがれを待(ま)って、
『だれもわたしを見(み)ていないだろう』と言(い)い、
顔(かお)におおう物(もの)を当(あ)てる。
16彼(かれ)らは暗(くら)やみで家(いえ)をうがち、
昼(ひる)は閉(と)じこもって光(ひかり)を知(し)らない。
17彼(かれ)らには暗黒(あんこく)は朝(あさ)である。
彼(かれ)らは暗黒(あんこく)の恐(おそ)れを友(とも)とするからだ。

18あなたがたは言(い)う、
『彼(かれ)らは水(みず)のおもてにすみやかに流(なが)れ去(さ)り、
その受(う)ける分(ぶん)は地(ち)でのろわれ、
酒(さか)ぶねを踏(ふ)む者(もの)はだれも
彼(かれ)らのぶどう畑(はたけ)の道(みち)に行(い)かない。
19ひでりと熱(あつ)さは雪(ゆき)水(みず)を奪(うば)い去(さ)る、
陰府(よみ)が罪(つみ)を犯(おか)した者(もの)に対(たい)するも、これと同様(どうよう)だ。
20町(まち)の広場(ひろば)は彼(かれ)らを忘(わす)れ、
彼(かれ)らの名(な)は覚(おぼ)えられることなく、
不義(ふぎ)は木(き)の折(お)られるように折(お)られる』と。

21彼(かれ)らは子(こ)を産(う)まぬうまずめをくらい、
やもめをあわれむことをしない。
22しかし神(かみ)はその力(ちから)をもって、
強(つよ)い人々(ひとびと)を生(い)きながらえさせられる。
彼(かれ)らは生(い)きる望(のぞ)みのない時(とき)にも起(お)きあがる。
23神(かみ)が彼(かれ)らに安全(あんぜん)を与(あた)えられるので、
彼(かれ)らは安(やす)らかである。
神(かみ)の目(め)は彼(かれ)らの道(みち)の上(うえ)にある。
24彼(かれ)らはしばし高(たか)められて、いなくなり、
ぜにあおいのように枯(か)れて消(き)えうせ、
麦(むぎ)の穂先(ほさき)のように切(き)り取(と)られる。
25もし、そうでないなら、
だれがわたしにその偽(いつわ)りを証明(しょうめい)し、
わが言葉(ことば)のむなしいことを示(しめ)しうるだろうか」。

第二五章

1そこでシュヒびとビルダデは答(こた)えて言(い)った、
2「大権(たいけん)と恐(おそ)れとは神(かみ)と共(とも)にある。
彼(かれ)は高(たか)き所(ところ)で平和(へいわ)を施(ほどこ)される。
3その軍勢(ぐんぜい)は数(かぞ)えることができるか。
何(なに)物(もの)かその光(ひかり)に浴(よく)さないものがあるか。
4それで人(ひと)はどうして神(かみ)の前(まえ)に正(ただ)しくありえようか。
女(おんな)から生(うま)れた者(もの)がどうして清(きよ)くありえようか。
5見(み)よ、月(つき)さえも輝(かがや)かず、
星(ほし)も彼(かれ)の目(め)には清(きよ)くない。
6うじのような人(ひと)、
虫(むし)のような人(ひと)の子(こ)はなおさらである」。

第二六章

1そこでヨブは答(こた)えて言(い)った、
2「あなたは力(ちから)のない者(もの)をどれほど助(たす)けたかしれない。
気力(きりょく)のない腕(うで)をどれほど救(すく)ったかしれない。
3知恵(ちえ)のない者(もの)をどれほど教(おし)えたかしれない。
悟(さと)りをどれほど多(おお)く示(しめ)したかしれない。
4あなたはだれの助(たす)けによって言葉(ことば)をだしたのか。
あなたから出(で)たのはだれの霊(れい)なのか。
5亡霊(ぼうれい)は水(みず)およびその中(なか)に住(す)むものの下(した)に震(ふる)う。
6神(かみ)の前(まえ)では陰府(よみ)も裸(はだか)である。
滅(ほろ)びの穴(あな)もおおい隠(かく)すものはない。
7彼(かれ)は北(きた)の天(てん)を空間(くうかん)に張(は)り、
地(ち)を何(なに)もない所(ところ)に掛(か)けられる。
8彼(かれ)は水(みず)を濃(こ)い雲(くも)の中(なか)に包(つつ)まれるが、
その下(した)の雲(くも)は裂(さ)けない。
9彼(かれ)は月(つき)のおもてをおおい隠(かく)して、
雲(くも)をその上(うえ)にのべ、
10水(みず)のおもてに円(えん)を描(えが)いて、
光(ひかり)とやみとの境(さかい)とされた。
11彼(かれ)が戒(いまし)めると、天(てん)の柱(はしら)は震(ふる)い、かつ驚(おどろ)く。
12彼(かれ)はその力(ちから)をもって海(うみ)を静(しず)め、
その知恵(ちえ)をもってラハブを打(う)ち砕(くだ)き、
13その息(いき)をもって天(てん)を晴(は)れわたらせ、
その手(て)をもって逃(に)げるへびを突(つ)き通(とお)される。
14見(み)よ、これらはただ彼(かれ)の道(みち)の端(はし)にすぎない。
われわれが彼(かれ)について聞(き)く所(ところ)は
いかにかすかなささやきであろう。
しかし、その力(ちから)のとどろきに至(いた)っては、
だれが悟(さと)ることができるか」。

第二七章

1ヨブはまた言葉(ことば)をついで言(い)った、
2「神(かみ)は生(い)きておられる。
彼(かれ)はわたしの義(ぎ)を奪(うば)い去(さ)られた。
全能者(ぜんのうしゃ)はわたしの魂(たましい)を悩(なや)まされた。
3わたしの息(いき)がわたしのうちにあり、
神(かみ)の息(いき)がわたしの鼻(はな)にある間(あいだ)、
4わたしのくちびるは不義(ふぎ)を言(い)わない、
わたしの舌(した)は偽(いつわ)りを語(かた)らない。
5わたしは断(だん)じて、あなたがたを正(ただ)しいとは認(みと)めない。
わたしは死(し)ぬまで、潔白(けっぱく)を主張(しゅちょう)してやめない。
6わたしは堅(かた)くわが義(ぎ)を保(たも)って捨(す)てない。
わたしは今(いま)まで一日(にち)も心(こころ)に責(せ)められた事(こと)がない。

7どうか、わたしの敵(てき)は悪人(あくにん)のようになり、
わたしに逆(さか)らう者(もの)は
不義(ふぎ)なる者(もの)のようになるように。
8神(かみ)が彼(かれ)を断(た)ち、その魂(たましい)を抜(ぬ)きとられるとき、
神(かみ)を信(しん)じない者(もの)になんの望(のぞ)みがあろう。
9災(わざわい)が彼(かれ)に臨(のぞ)むとき、
神(かみ)はその叫(さけ)びを聞(き)かれるであろうか。
10彼(かれ)は全能者(ぜんのうしゃ)を喜(よろこ)ぶであろうか、
常(つね)に神(かみ)を呼(よ)ぶであろうか。

11わたしは神(かみ)のみ手(て)についてあなたがたに教(おし)え、
全能者(ぜんのうしゃ)と共(とも)にあるものを隠(かく)すことをしない。
12見(み)よ、あなたがたは皆(みな)みずからこれを見(み)た、
それなのに、どうしてむなしい者(もの)となったのか。

13これは悪人(あくにん)の神(かみ)から受(う)ける分(ぶん)、
圧制者(あっせいしゃ)の全能者(ぜんのうしゃ)から受(う)ける嗣(し)業(ぎょう)である。
14その子(こ)らがふえればつるぎに渡(わた)され、
その子孫(しそん)は食物(しょくもつ)に飽(あ)きることがない。
15その生(い)き残(のこ)った者(もの)は疫病(えきびょう)で死(し)んで埋(う)められ、
そのやもめらは泣(な)き悲(かな)しむことをしない。
16たとい彼(かれ)は銀(ぎん)をちりのように積(つ)み、
衣服(いふく)を土(つち)のように備(そな)えても、
17その備(そな)えるものは正(ただ)しい人(ひと)がこれを着(き)、
その銀(ぎん)は罪(つみ)なき者(もの)が分(わ)かち取(と)るであろう。
18彼(かれ)の建(た)てる家(いえ)は、くもの巣(す)のようであり、
番人(ばんにん)の造(つく)る小屋(こや)のようである。
19彼(かれ)は富(と)める身(み)で寝(ね)ても、再(ふたた)び富(と)むことがなく、
目(め)を開(ひら)けばその富(とみ)はない。
20恐(おそ)ろしい事(こと)が大水(おおみず)のように彼(かれ)を襲(おそ)い、
夜(よる)はつむじ風(かぜ)が彼(かれ)を奪(うば)い去(さ)る。
21東風(ひがしかぜ)が彼(かれ)を揚(あ)げると、彼(かれ)は去(さ)り、
彼(かれ)をその所(ところ)から吹(ふ)き払(はら)う。
22それは彼(かれ)を投(な)げつけて、あわれむことなく、
彼(かれ)はその力(ちから)からのがれようと、もがく。
23それは彼(かれ)に向(む)かって手(て)を鳴(な)らし、
あざけり笑(わら)って、その所(ところ)から出(で)て行(い)かせる。

第二八章


1しろがねには掘(ほ)り出(だ)す穴(あな)があり、
精錬(せいれん)するこがねには出(で)どころがある。
2くろがねは土(つち)から取(と)り、
あかがねは石(いし)から溶(と)かして取(と)る。
3人(ひと)は暗(くら)やみを破(やぶ)り、
いやはてまでも尋(たず)ねきわめて、
暗(くら)やみおよび暗黒(あんこく)の中(なか)から鉱石(こうせき)を取(と)る。
4彼(かれ)らは人(ひと)の住(す)む所(ところ)を離(はな)れて縦穴(たてあな)をうがち、
道行(みちゆ)く人(ひと)に忘(わす)れられ、
人(ひと)を離(はな)れて身(み)をつりさげ、揺(ゆ)れ動(うご)く。
5地(ち)はそこから食物(しょくもつ)を出(だ)す。
その下(した)は火(ひ)でくつがえされるようにくつがえる。
6その石(いし)はサファイヤのある所(ところ)、
そこにはまた金塊(きんかい)がある。
7その道(みち)は猛禽(もうきん)も知(し)らず、たかの目(め)もこれを見(み)ず、
8猛獣(もうじゅう)もこれを踏(ふ)まず、ししもこれを通(とお)らなかった。
9人(ひと)は堅(かた)い岩(いわ)に手(て)をくだして、
山(やま)を根元(ねもと)からくつがえす。
10彼(かれ)は岩(いわ)に坑道(こうどう)を掘(ほ)り、
その目(め)はもろもろの尊(たっと)い物(もの)を見(み)る。
11彼(かれ)は水路(すいろ)をふさいで、漏(も)れないようにし、
隠(かく)れた物(もの)を光(ひかり)に取(と)り出(だ)す。

12しかし知恵(ちえ)はどこに見(み)いだされるか。
悟(さと)りのある所(ところ)はどこか。
13人(ひと)はそこに至(いた)る道(みち)を知(し)らない、
また生(い)ける者(もの)の地(ち)でそれを獲(え)ることができない。
14淵(ふち)は言(い)う、『それはわたしのうちにない』と。
また海(うみ)は言(い)う、『わたしのもとにない』と。
15精(せい)金(きん)もこれと換(か)えることはできない。
銀(ぎん)も量(はか)ってその価(あたい)とすることはできない。
16オフルの金(きん)をもってしても、
その価(あたい)を量(はか)ることはできない。
尊(たっと)い縞(しま)めのうも、サファイヤも同様(どうよう)である。
17こがねも、玻璃(はり)もこれに並(なら)ぶことができない。
また精(せい)金(きん)の器物(うつわもの)もこれと換(か)えることができない。
18さんごも水晶(すいしょう)も言(い)うに足(た)りない。
知恵(ちえ)を得(え)るのは真珠(しんじゅ)を得(え)るのにまさる。
19エチオピヤのトパズもこれに並(なら)ぶことができない。
純金(じゅんきん)をもってしても、その価(あたい)を量(はか)ることはできない。
20それでは知恵(ちえ)はどこから来(く)るか。
悟(さと)りのある所(ところ)はどこか。
21これはすべての生(い)き物(もの)の目(め)に隠(かく)され、
空(そら)の鳥(とり)にも隠(かく)されている。
22滅(ほろ)びも死(し)も言(い)う、
『われわれはそのうわさを耳(みみ)に聞(き)いただけだ』。
23神(かみ)はこれに至(いた)る道(みち)を悟(さと)っておられる、
彼(かれ)はそのある所(ところ)を知(し)っておられる。
24彼(かれ)は地(ち)の果(はて)までもみそなわし、
天(あめ)が下(した)を見(み)きわめられるからだ。
25彼(かれ)が風(かぜ)に重(おも)さを与(あた)え、
水(みず)をますで量(はか)られたとき、
26彼(かれ)が雨(あめ)のために規定(きてい)を設(もう)け、
雷(かみなり)のひらめきのために道(みち)を設(もう)けられたとき、
27彼(かれ)は知恵(ちえ)を見(み)て、これをあらわし、
これを確(たし)かめ、これをきわめられた。
28そして人(ひと)に言(い)われた、
『見(み)よ、主(しゅ)を恐(おそ)れることは知恵(ちえ)である、
悪(あく)を離(はな)れることは悟(さと)りである』と」。

第二九章

1ヨブはまた言葉(ことば)をついで言(い)った、
2「ああ過(す)ぎた年月(としつき)のようであったらよいのだが、
神(かみ)がわたしを守(まも)ってくださった日(ひ)のようで
あったらよいのだが。
3あの時(とき)には、彼(かれ)のともしびがわたしの頭(あたま)の上(うえ)に輝(かがや)き、
彼(かれ)の光(ひかり)によってわたしは暗(くら)やみを歩(あゆ)んだ。
4わたしの盛(さか)んな時(とき)のようであったならよいのだが。
あの時(とき)には、神(かみ)の親(した)しみが
わたしの天幕(てんまく)の上(うえ)にあった。
5あの時(とき)には、全能者(ぜんのうしゃ)がなおわたしと共(とも)にいまし、
わたしの子供(こども)たちもわたしの周囲(しゅうい)にいた。
6あの時(とき)、わたしの足跡(あしあと)は乳(ちち)で洗(あら)われ、
岩(いわ)もわたしのために油(あぶら)の流(なが)れを注(そそ)ぎだした。
7あの時(とき)には、わたしは町(まち)の門(もん)に出(で)て行(い)き、
わたしの座(ざ)を広場(ひろば)に設(もう)けた。
8若(わか)い者(もの)はわたしを見(み)てしりぞき、
老(お)いた者(もの)は身(み)をおこして立(た)ち、
9君(きみ)たる者(もの)も物言(ものい)うことをやめて、
その口(くち)に手(て)を当(あ)て、
10尊(たっと)い者(もの)も声(こえ)をおさめて、
その舌(した)を上(うえ)あごにつけた。
11耳(みみ)に聞(き)いた者(もの)はわたしを祝福(しゅくふく)された者(もの)となし、
目(め)に見(み)た者(もの)はこれをあかしした。
12これは助(たす)けを求(もと)める貧(まず)しい者(もの)を救(すく)い、
また、みなしごおよび助(たす)ける人(ひと)のない者(もの)を
救(すく)ったからである。
13今(いま)にも滅(ほろ)びようとした者(もの)の祝福(しゅくふく)がわたしに来(き)た。
わたしはまたやもめの心(こころ)をして喜(よろこ)び歌(うた)わせた。
14わたしは正義(せいぎ)を着(き)、正義(せいぎ)はわたしをおおった。
わたしの公義(こうぎ)は上着(うわぎ)のごとく、
また冠(かんむり)のようであった。
15わたしは目(め)しいの目(め)となり、
足(あし)なえの足(あし)となり、
16貧(まず)しい者(もの)の父(ちち)となり、
知(し)らない人(ひと)の訴(うった)えの理由(りゆう)を調(しら)べてやった。
17わたしはまた悪(あ)しき者(もの)のきばを折(お)り、
その歯(は)の間(あいだ)から獲物(えもの)を引(ひ)き出(だ)した。
18その時(とき)、わたしは言(い)った、
『わたしは自分(じぶん)の巣(す)の中(なか)で死(し)に、
わたしの日(ひ)は砂(すな)のように多(おお)くなるであろう。
19わたしの根(ね)は水(みず)のほとりにはびこり、
露(つゆ)は夜(よ)もすがらわたしの枝(えだ)におくであろう。
20わたしの栄(さか)えはわたしと共(とも)に新(あたら)しく、
わたしの弓(ゆみ)はわたしの手(て)にいつも強(つよ)い』と。

21人々(ひとびと)はわたしに聞(き)いて待(ま)ち、
黙(もく)して、わたしの教(おしえ)に従(したが)った。
22わたしが言(い)った後(のち)は彼(かれ)らは再(ふたた)び言(い)わなかった。
わたしの言葉(ことば)は彼(かれ)らの上(うえ)に
雨(あめ)のように降(ふ)りそそいだ。
23彼(かれ)らは雨(あめ)を待(ま)つように、わたしを待(ま)ち望(のぞ)み、
春(はる)の雨(あめ)を仰(あお)ぐように口(くち)を開(ひら)いて仰(あお)いだ。
24彼(かれ)らが希望(きぼう)を失(うしな)った時(とき)にも、
わたしは彼(かれ)らにむかってほほえんだ。
彼(かれ)らはわたしの顔(かお)の光(ひかり)を除(のぞ)くことができなかった。
25わたしは彼(かれ)らのために道(みち)を選(えら)び、
そのかしらとして座(ざ)し、
軍中(ぐんちゅう)の王(おう)のようにしており、
嘆(なげ)く者(もの)を慰(なぐさ)める人(ひと)のようであった。

第三〇章


1しかし今(いま)はわたしよりも年(とし)若(わか)い者(もの)が、
かえってわたしをあざ笑(わら)う。
彼(かれ)らの父(ちち)はわたしが卑(いや)しめて、
群(む)れの犬(いぬ)と一緒(いっしょ)にさえしなかった者(もの)だ。
2彼(かれ)らの手(て)の力(ちから)からわたしは何(なに)を得(え)るであろうか、
彼(かれ)らはその気力(きりょく)がすでに衰(おとろ)えた人々(ひとびと)だ。
3彼(かれ)らは乏(とぼ)しさと激(はげ)しい飢(う)えとによって、
かわいた荒(あ)れ地(ち)をかむ。
4彼(かれ)らは、ぜにあおいおよび灌木(かんぼく)の葉(は)を摘(つ)み、
れだまの根(ね)をもって身(み)を暖(あたた)める。
5彼(かれ)らは人々(ひとびと)の中(なか)から追(お)いだされ、
盗(ぬす)びとを追(お)うように、人々(ひとびと)は彼(かれ)らを追(お)い呼(よ)ばわる。
6彼(かれ)らは急流(きゅうりゅう)の谷間(たにま)に住(す)み、
土(つち)の穴(あな)または岩(いわ)の穴(あな)におり、
7灌木(かんぼく)の中(なか)にいななき、いらくさの下(した)に押(お)し合(あ)う。
8彼(かれ)らは愚(おろ)かな者(もの)の子(こ)、また卑(いや)しい者(もの)の子(こ)であって、
国(くに)から追(お)いだされた者(もの)だ。

9それなのに、わたしは今(いま)彼(かれ)らの歌(うた)となり、
彼(かれ)らの笑(わら)い草(ぐさ)となった。
10彼(かれ)らはわたしをいとい、遠(とお)くわたしをはなれ、
わたしの顔(かお)につばきすることも、ためらわない。
11神(かみ)がわたしの綱(つな)を解(と)いて、
わたしを卑(いや)しめられたので、
彼(かれ)らもわたしの前(まえ)に慎(つつし)みを捨(す)てた。
12このともがらはわたしの右(みぎ)に立(た)ち上(あ)がり、
わたしを追(お)いのけ、
わたしにむかって滅(ほろ)びの道(みち)を築(きず)く。
13彼(かれ)らはわたしの道(みち)をこわし、わたしの災(わざわい)を促(うなが)す。
これをさし止(と)める者(もの)はない。
14彼(かれ)らは広(ひろ)い破(やぶ)れ口(くち)からはいるように進(すす)みきたり、
破壊(はかい)の中(なか)をおし寄(よ)せる。
15恐(おそ)ろしい事(こと)はわたしに臨(のぞ)み、
わたしの誉(ほまれ)は風(かぜ)のように吹(ふ)き払(はら)われ、
わたしの繁栄(はんえい)は雲(くも)のように消(き)えうせた。

16今(いま)は、わたしの魂(たましい)はわたしの内(うち)にとけて流(なが)れ、
悩(なや)みの日(ひ)はわたしを捕(とら)えた。
17夜(よる)はわたしの骨(ほね)を激(はげ)しく悩(なや)まし、
わたしをかむ苦(くる)しみは、やむことがない。
18それは暴力(ぼうりょく)をもって、わたしの着物(きもの)を捕(とら)え、
はだ着(ぎ)のえりのように、わたしをしめつける。
19神(かみ)がわたしを泥(どろ)の中(なか)に投(な)げ入(い)れられたので、
わたしはちり灰(はい)のようになった。
20わたしがあなたにむかって呼(よ)ばわっても、
あなたは答(こた)えられない。
わたしが立(た)っていても、あなたは顧(かえり)みられない。
21あなたは変(かわ)って、わたしに無情(むじょう)な者(もの)となり、
み手(て)の力(ちから)をもってわたしを攻(せ)め悩(なや)まされる。
22あなたはわたしを揚(あ)げて風(かぜ)の上(うえ)に乗(の)せ、
大風(おおかぜ)のうなり声(こえ)の中(なか)に、もませられる。
23わたしは知(し)っている、あなたはわたしを死(し)に帰(かえ)らせ、
すべての生(い)き物(もの)の集(あつ)まる家(いえ)に帰(かえ)らせられることを。

24さりながら荒塚(あらつか)の中(なか)にある者(もの)は、
手(て)を伸(の)べないであろうか、
災(わざわい)の中(なか)にある者(もの)は助(たす)けを呼(よ)び求(もと)めないであろうか。
25わたしは苦(くる)しい日(ひ)を送(おく)る者(もの)のために
泣(な)かなかったか。
わたしの魂(たましい)は貧(まず)しい人(ひと)のために
悲(かな)しまなかったか。
26しかしわたしが幸(さいわい)を望(のぞ)んだのに災(わざわい)が来(き)た。
光(ひかり)を待(ま)ち望(のぞ)んだのにやみが来(き)た。
27わたしのはらわたは沸(わ)きかえって、静(しず)まらない。
悩(なや)みの日(ひ)がわたしに近(ちか)づいた。
28わたしは日(ひ)の光(ひかり)によらずに黒(くろ)くなって歩(ある)き、
公会(こうかい)の中(なか)に立(た)って助(たす)けを呼(よ)び求(もと)める。
29わたしは山犬(やまいぬ)の兄弟(きょうだい)となり、
だちょうの友(とも)となった。
30わたしの皮膚(ひふ)は黒(くろ)くなって、はげ落(お)ち、
わたしの骨(ほね)は熱(あつ)さによって燃(も)え、
31わたしの琴(こと)は悲(かな)しみの音(ね)となり、
わたしの笛(ふえ)は泣(な)く者(もの)の声(こえ)となった。

第三一章


1わたしは、わたしの目(め)と
契約(けいやく)を結(むす)んだ、
どうして、おとめを慕(した)うことができようか。
2もしそうすれば上(うえ)から神(かみ)の下(くだ)される分(ぶん)は
どんなであろうか。
高(たか)き所(ところ)から全能者(ぜんのうしゃ)の与(あた)えられる嗣(し)業(ぎょう)は
どんなであろうか。
3不義(ふぎ)なる者(もの)には災(わざわい)が下(くだ)らないであろうか。
悪(あく)をなす者(もの)には災難(さいなん)が臨(のぞ)まないであろうか。
4彼(かれ)はわたしの道(みち)をみそなわし、
わたしの歩(あゆ)みをことごとく数(かぞ)えられぬであろうか。
5もし、わたしがうそと共(とも)に歩(あゆ)み、
わたしの足(あし)が偽(いつわ)りにむかって
急(いそ)いだことがあるなら、
6(正(ただ)しいはかりをもってわたしを量(はか)れ、
そうすれば神(かみ)はわたしの潔白(けっぱく)を知(し)られるであろう。)
7もしわたしの歩(あゆ)みが、道(みち)をはなれ、
わたしの心(こころ)がわたしの目(め)にしたがって歩(あゆ)み、
わたしの手(て)に汚(けが)れがついていたなら、
8わたしのまいたのを他(た)の人(ひと)が食(た)べ、
わたしのために成長(せいちょう)するものが、
抜(ぬ)き取(と)られてもかまわない。
9もし、わたしの心(こころ)が、女(おんな)に迷(まよ)ったことがあるか、
またわたしが隣(とな)り人(びと)の門(もん)で
待(ま)ち伏(ぶ)せしたことがあるなら、
10わたしの妻(つま)が他(た)の人(ひと)のためにうすをひき、
他(た)の人(ひと)が彼女(かのじょ)の上(うえ)に寝(ね)てもかまわない。
11これは重(おも)い罪(つみ)であって、
さばきびとに罰(ばっ)せられるべき悪事(あくじ)だからである。
12これは滅(ほろ)びに至(いた)るまでも焼(や)きつくす火(ひ)であって、
わたしのすべての産業(さんぎょう)を根(ね)こそぎ焼(や)くであろう。
13わたしのしもべ、また、はしためが
わたしと言(い)い争(あらそ)ったときに、
わたしがもしその言(い)い分(ぶん)を退(しりぞ)けたことがあるなら、
14神(かみ)が立(た)ち上(あ)がられるとき、わたしはどうしようか、
神(かみ)が尋(たず)ねられるとき、なんとお答(こた)えしようか。
15わたしを胎内(たいない)に造(つく)られた者(もの)は、
彼(かれ)をも造(つく)られたのではないか。
われわれを腹(はら)の内(うち)に形(かたち)造(つく)られた者(もの)は、
ただひとりではないか。
16わたしがもし貧(まず)しい者(もの)の願(ねが)いを退(しりぞ)け、
やもめの目(め)を衰(おとろ)えさせ、
17あるいはわたしひとりで食物(しょくもつ)を食(た)べて、
みなしごに食(た)べさせなかったことがあるなら、
18(わたしは彼(かれ)の幼(おさな)い時(とき)から父(ちち)のように彼(かれ)を育(そだ)て、
またその母(はは)の胎(たい)を出(で)たときから彼(かれ)を導(みちび)いた。)
19もし着物(きもの)がないために死(し)のうとする者(もの)や、
身(み)をおおう物(もの)のない貧(まず)しい人(ひと)をわたしが見(み)た時(とき)に、
20その腰(こし)がわたしを祝福(しゅくふく)せず、
また彼(かれ)がわたしの羊(ひつじ)の毛(け)で
暖(あたた)まらなかったことがあるなら、
21もしわたしを助(たす)ける者(もの)が門(もん)におるのを見(み)て、
みなしごにむかってわたしの手(て)を
振(ふ)り上(あ)げたことがあるなら、
22わたしの肩(かた)骨(ほね)が、肩(かた)から落(お)ち、
わたしの腕(うで)が、つけ根(ね)から折(お)れてもかまわない。
23わたしは神(かみ)から出(で)る災(わざわい)を恐(おそ)れる、
その威光(いこう)の前(まえ)には何事(なにごと)もなすことはできない。
24わたしがもし金(きん)をわが望(のぞ)みとし、
精(せい)金(きん)をわが頼(たの)みと言(い)ったことがあるなら、
25わたしがもしわが富(とみ)の大(おお)いなる事(こと)と、
わたしの手(て)に多(おお)くの物(もの)を獲(え)た事(こと)とを
喜(よろこ)んだことがあるなら、
26わたしがもし日(ひ)の輝(かがや)くのを見(み)、
または月(つき)の照(て)りわたって動(うご)くのを見(み)た時(とき)、
27心(こころ)ひそかに迷(まよ)って、手(て)に口(くち)づけしたことがあるなら、
28これもまたさばきびとに罰(ばっ)せらるべき悪事(あくじ)だ。
わたしは上(うえ)なる神(かみ)を欺(あざむ)いたからである。
29わたしがもしわたしを憎(にく)む者(もの)の滅(ほろ)びるのを喜(よろこ)び、
または災(わざわい)が彼(かれ)に臨(のぞ)んだとき、
勝(か)ち誇(ほこ)ったことがあるなら、
30(わたしはわが口(くち)に罪(つみ)を犯(おか)させず、
のろいをもって彼(かれ)の命(いのち)を求(もと)めたことはなかった。)
31もし、わたしの天幕(てんまく)の人々(ひとびと)で、
『だれか彼(かれ)の肉(にく)に飽(あ)きなかった者(もの)があるか』と、
言(い)わなかったことがあるなら、
32(他国(たこく)人(じん)はちまたに宿(やど)らず、
わたしはわが門(もん)を旅(たび)びとに開(ひら)いた。)
33わたしがもし人々(ひとびと)の前(まえ)にわたしのとがをおおい、
わたしの悪事(あくじ)を胸(むね)の中(なか)に隠(かく)したことがあるなら、
34わたしが大衆(たいしゅう)を恐(おそ)れ、宗族(そうぞく)の侮(あなど)りにおぢて、
口(くち)を閉(と)じ、門(もん)を出(で)なかったことがあるなら、
35ああ、わたしに聞(き)いてくれる者(もの)があればよいのだが、
(わたしのかきはんがここにある。
どうか、全能者(ぜんのうしゃ)がわたしに答(こた)えられるように。)
ああ、わたしの敵(てき)の書(か)いた
告訴(こくそ)状(じょう)があればよいのだが。
36わたしは必(かなら)ずこれを肩(かた)に負(お)い、
冠(かんむり)のようにこれをわが身(み)に結(むす)び、
37わが歩(あゆ)みの数(かず)を彼(かれ)に述(の)べ、
君(きみ)たる者(もの)のようにして、彼(かれ)に近(ちか)づくであろう。
38もしわが田畑(たはた)がわたしに向(む)かって呼(よ)ばわり、
そのうねみぞが共(とも)に泣(な)き叫(さけ)んだことがあるなら、
39もしわたしが金(きん)を払(はら)わないでその産物(さんぶつ)を食(た)べ、
その持(も)ち主(ぬし)を死(し)なせたことがあるなら、
40小麦(こむぎ)の代(かわ)りに、いばらがはえ、
大麦(おおむぎ)の代(かわ)りに雑草(ざっそう)がはえてもかまわない」。
ヨブの言葉(ことば)は終(おわ)った。

第三二章

1このようにヨブが自分(じぶん)の正(ただ)しいことを主張(しゅちょう)したので、これら三人(にん)の者(もの)はヨブに答(こた)えるのをやめた。 2その時(とき)ラム族(ぞく)のブズびとバラケルの子(こ)エリフは怒(いか)りを起(おこ)した。すなわちヨブが神(かみ)よりも自分(じぶん)の正(ただ)しいことを主張(しゅちょう)するので、彼(かれ)はヨブに向(む)かって怒(いか)りを起(おこ)した。 3またヨブの三人(にん)の友(とも)がヨブを罪(つみ)ありとしながら、答(こた)える言葉(ことば)がなかったので、エリフは彼(かれ)らにむかっても怒(いか)りを起(おこ)した。 4エリフは彼(かれ)らが皆(みな)、自分(じぶん)よりも年長者(ねんちょうしゃ)であったので、ヨブに物言(ものい)うことをひかえて待(ま)っていたが、 5ここにエリフは三人(にん)の口(くち)に答(こた)える言葉(ことば)のないのを見(み)て怒(いか)りを起(おこ)した。

6ブズびとバラケルの子(こ)エリフは答(こた)えて言(い)った、
「わたしは年(とし)若(わか)く、あなたがたは年老(としお)いている。
それゆえ、わたしははばかって、
わたしの意見(いけん)を述(の)べることをあえてしなかった。
7わたしは思(おも)った、『日(ひ)を重(かさ)ねた者(もの)が語(かた)るべきだ、
年(とし)を積(つ)んだ者(もの)が知恵(ちえ)を教(おし)えるべきだ』と。
8しかし人(ひと)のうちには霊(れい)があり、
全能者(ぜんのうしゃ)の息(いき)が人(ひと)に悟(さと)りを与(あた)える。
9老(お)いた者(もの)、必(かなら)ずしも知恵(ちえ)があるのではなく、
年(とし)とった者(もの)、必(かなら)ずしも道理(どうり)をわきまえるのではない。
10ゆえにわたしは言(い)う、『わたしに聞(き)け、
わたしもまたわが意見(いけん)を述(の)べよう』。
11見(み)よ、わたしはあなたがたの言葉(ことば)に期待(きたい)し、
その知恵(ちえ)ある言葉(ことば)に耳(みみ)を傾(かたむ)け、
あなたがたが言(い)うべき言葉(ことば)を捜(さが)し出(だ)すのを
待(ま)っていた。
12わたしはあなたがたに心(こころ)をとめたが、
あなたがたのうちにヨブを言(い)いふせる者(もの)は
ひとりもなく、
また彼(かれ)の言葉(ことば)に答(こた)える者(もの)はひとりもなかった。
13おそらくあなたがたは言(い)うだろう、
『われわれは知恵(ちえ)を見(み)いだした、
彼(かれ)に勝(か)つことのできるのは神(かみ)だけで、
人(ひと)にはできない』と。
14彼(かれ)はその言葉(ことば)をわたしに向(む)けて言(い)わなかった。
わたしはあなたがたの言葉(ことば)をもって
彼(かれ)に答(こた)えることはしない。

15彼(かれ)らは驚(おどろ)いて、もはや答(こた)えることをせず、
彼(かれ)らには、もはや言(い)うべき言葉(ことば)がない。
16彼(かれ)らは物言(ものい)わず、
立(た)ちとどまって、もはや答(こた)えるところがないので、
わたしはこれ以上(いじょう)待(ま)つ必要(ひつよう)があろうか。
17わたしもまたわたしの分(ぶん)を答(こた)え、
わたしの意見(いけん)を述(の)べよう。
18わたしには言葉(ことば)が満(み)ち、
わたしのうちの霊(れい)がわたしに迫(せま)るからだ。
19見(み)よ、わたしの心(こころ)は口(くち)を開(ひら)かないぶどう酒(しゅ)のように、
新(あたら)しいぶどう酒(しゅ)の皮(かわ)袋(ぶくろ)のように、
今(いま)にも張(は)りさけようとしている。
20わたしは語(かた)って、気(き)を晴(は)らし、
くちびるを開(ひら)いて答(こた)えよう。
21わたしはだれをもかたより見(み)ることなく、
また何人(なにび)とにもへつらうことをしない。
22わたしはへつらうことを知(し)らないからだ。
もしへつらうならば、わたしの造(つく)り主(ぬし)は直(ただ)ちに
わたしを滅(ほろ)ぼされるであろう。

第三三章


1だから、ヨブよ、今(いま)わたしの言(い)うことを聞(き)け、
わたしのすべての言葉(ことば)に耳(みみ)を傾(かたむ)けよ。
2見(み)よ、わたしは口(くち)を開(ひら)き、口(くち)の中(なか)の舌(した)は物言(ものい)う。
3わたしの言葉(ことば)はわが心(こころ)の正(ただ)しきを語(かた)り、
わたしのくちびるは真実(しんじつ)をもってその知識(ちしき)を語(かた)る。
4神(かみ)の霊(れい)はわたしを造(つく)り、
全能者(ぜんのうしゃ)の息(いき)はわたしを生(い)かす。
5あなたがもしできるなら、わたしに答(こた)えよ、
わたしの前(まえ)に言葉(ことば)を整(ととの)えて、立(た)て。
6見(み)よ、神(かみ)に対(たい)しては、わたしもあなたと同様(どうよう)であり、
わたしもまた土(つち)から取(と)って造(つく)られた者(もの)だ。
7見(み)よ、わたしの威厳(いげん)はあなたを恐(おそ)れさせない、
わたしの勢(いきお)いはあなたを圧(あっ)しない。
8確(たし)かに、あなたはわたしの聞(き)くところで言(い)った、
わたしはあなたの言葉(ことば)の声(こえ)を聞(き)いた。
9あなたは言(い)う、『わたしはいさぎよく、とがはない。
わたしは清(きよ)く、不義(ふぎ)はない。
10見(み)よ、彼(かれ)はわたしを攻(せ)める口実(こうじつ)を見(み)つけ、
わたしを自分(じぶん)の敵(てき)とみなし、
11わたしの足(あし)をかせにはめ、
わたしのすべての行(おこな)いに目(め)をとめられる』と。

12見(み)よ、わたしはあなたに答(こた)える、
あなたはこの事(こと)において正(ただ)しくない。
神(かみ)は人(ひと)よりも大(おお)いなる者(もの)だ。
13あなたが『彼(かれ)はわたしの言葉(ことば)に
少(すこ)しも答(こた)えられない』といって、
彼(かれ)に向(む)かって言(い)い争(あらそ)うのは、どういうわけであるか。
14神(かみ)は一つの方法(ほうほう)によって語(かた)られ、
また二つの方法(ほうほう)によって語(かた)られるのだが、
人(ひと)はそれを悟(さと)らないのだ。
15人々(ひとびと)が熟睡(じゅくすい)するとき、または床(とこ)にまどろむとき、
夢(ゆめ)あるいは夜(よる)の幻(まぼろし)のうちで、
16彼(かれ)は人々(ひとびと)の耳(みみ)を開(ひら)き、
警告(けいこく)をもって彼(かれ)らを恐(おそ)れさせ、
17こうして人(ひと)にその悪(あ)しきわざを離(はな)れさせ、
高(たか)ぶりを人(ひと)から除(のぞ)き、
18その魂(たましい)を守(まも)って、墓(はか)に至(いた)らせず、
その命(いのち)を守(まも)って、つるぎに滅(ほろ)びないようにされる。

19人(ひと)はまたその床(とこ)の上(うえ)で痛(いた)みによって懲(こ)らされ、
その骨(ほね)に戦(たたか)いが絶(た)えることなく、
20その命(いのち)は、食物(しょくもつ)をいとい、
その食欲(しょくよく)は、おいしい食物(しょくもつ)をきらう。
21その肉(にく)はやせ落(お)ちて見(み)えず、
その骨(ほね)は見(み)えなかったものまでもあらわになり、
22その魂(たましい)は墓(はか)に近(ちか)づき、その命(いのち)は滅(ほろ)ぼす者(もの)に近(ちか)づく。
23もしそこに彼(かれ)のためにひとりの天使(てんし)があり、
千のうちのひとりであって、仲保(ちゅうほ)となり、
人(ひと)にその正(ただ)しい道(みち)を示(しめ)すならば、
24神(かみ)は彼(かれ)をあわれんで言(い)われる、
『彼(かれ)を救(すく)って、墓(はか)に下(くだ)ることを免(まぬか)れさせよ、
わたしはすでにあがないしろを得(え)た。
25彼(かれ)の肉(にく)を幼(おさ)な子(ご)の肉(にく)よりもみずみずしくならせ、
彼(かれ)を若(わか)い時(とき)の元気(げんき)に帰(かえ)らせよ』と。
26その時(とき)、彼(かれ)が神(かみ)に祈(いの)るならば、神(かみ)は彼(かれ)を顧(かえり)み、
喜(よろこ)びをもって、み前(まえ)にいたらせ、
その救(すくい)を人(ひと)に告(つ)げ知(し)らせられる。
27彼(かれ)は人々(ひとびと)の前(まえ)に歌(うた)って言(い)う、
『わたしは罪(つみ)を犯(おか)し、正(ただ)しい事(こと)を曲(ま)げた。
しかしわたしに報復(ほうふく)がなかった。
28彼(かれ)はわたしの魂(たましい)をあがなって、
墓(はか)に下(くだ)らせられなかった。
わたしの命(いのち)は光(ひかり)を見(み)ることができる』と。

29見(み)よ、神(かみ)はこれらすべての事(こと)を
ふたたび、みたび人(ひと)に行(おこな)い、
30その魂(たましい)を墓(はか)から引(ひ)き返(かえ)し、
彼(かれ)に命(いのち)の光(ひかり)を見(み)させられる。
31ヨブよ、耳(みみ)を傾(かたむ)けてわたしに聞(き)け、
黙(もく)せよ、わたしは語(かた)ろう。
32あなたがもし言(い)うべきことがあるなら、
わたしに答(こた)えよ、
語(かた)れ、わたしはあなたを正(ただ)しい者(もの)にしようと
望(のぞ)むからだ。
33もし語(かた)ることがないなら、わたしに聞(き)け、
黙(もく)せよ、わたしはあなたに知恵(ちえ)を教(おし)えよう」。

第三四章

1エリフはまた答(こた)えて言(い)った、
2「あなたがた知恵(ちえ)ある人々(ひとびと)よ、わたしの言葉(ことば)を聞(き)け、
あなたがた知識(ちしき)ある人々(ひとびと)よ、わたしに耳(みみ)を傾(かたむ)けよ。
3口(くち)が食物(しょくもつ)を味(あじ)わうように、
耳(みみ)は言葉(ことば)をわきまえるからだ。
4われわれは正(ただ)しい事(こと)を選(えら)び、
われわれの間(あいだ)に良(よ)い事(こと)の
何(なに)であるかを明(あき)らかにしよう。
5ヨブは言(い)った、『わたしは正(ただ)しい、
神(かみ)はわたしの公義(こうぎ)を奪(うば)われた。
6わたしは正(ただ)しいにもかかわらず、偽(いつわ)る者(もの)とされた。
わたしにはとががないけれども、
わたしの矢(や)傷(きず)はいえない』と。
7だれかヨブのような人(ひと)があろう。
彼(かれ)はあざけりを水(みず)のように飲(の)み、
8悪(あく)をなす者(もの)どもと交(まじ)わり、悪人(あくにん)と共(とも)に歩(あゆ)む。
9彼(かれ)は言(い)った、『人(ひと)は神(かみ)と親(した)しんでも、
なんの益(えき)もない』と。

10それであなたがた理解(りかい)ある人々(ひとびと)よ、わたしに聞(き)け、
神(かみ)は断(だん)じて悪(あく)を行(おこな)うことなく、
全能者(ぜんのうしゃ)は断(だん)じて不義(ふぎ)を行(おこな)うことはない。
11神(かみ)は人(ひと)のわざにしたがってその身(み)に報(むく)い、
おのおのの道(みち)にしたがって、
その身(み)に振(ふ)りかからせられる。
12まことに神(かみ)は悪(あ)しき事(こと)を行(おこな)われない。
全能者(ぜんのうしゃ)はさばきをまげられない。
13だれかこの地(ち)を彼(かれ)にゆだねた者(もの)があるか。
だれか全(ぜん)世界(せかい)を彼(かれ)に負(お)わせた者(もの)があるか。
14神(かみ)がもしその霊(れい)をご自分(じぶん)に取(と)りもどし、
その息(いき)をご自分(じぶん)に取(と)りあつめられるならば、
15すべての肉(にく)は共(とも)に滅(ほろ)び、
人(ひと)はちりに帰(かえ)るであろう。

16もし、あなたに悟(さと)りがあるならば、これを聞(き)け、
わたしの言(い)うところに耳(みみ)を傾(かたむ)けよ。
17公義(こうぎ)を憎(にく)む者(もの)は世(よ)を治(おさ)めることができようか。
正(ただ)しく力(ちから)ある者(もの)を、あなたは非難(ひなん)するであろうか。
18王(おう)たる者(もの)に向(む)かって『よこしまな者(もの)』と言(い)い、
つかさたる者(もの)に向(む)かって、『悪(あ)しき者(もの)』と
言(い)うことができるであろうか。
19神(かみ)は君(くん)たる者(もの)をもかたより見(み)られることなく、
富(と)める者(もの)を貧(まず)しき者(もの)にまさって
顧(かえり)みられることはない。
彼(かれ)らは皆(みな)み手(て)のわざだからである。
20彼(かれ)らはまたたく間(ま)に死(し)に、
民(たみ)は夜(よる)の間(あいだ)に振(ふ)われて、消(き)えうせ、
力(ちから)ある者(もの)も人手(ひとで)によらずに除(のぞ)かれる。
21神(かみ)の目(め)が人(ひと)の道(みち)の上(うえ)にあって、
そのすべての歩(あゆ)みを見(み)られるからだ。
22悪(あく)を行(おこな)う者(もの)には身(み)を隠(かく)すべき暗(くら)やみもなく、
暗黒(あんこく)もない。
23人(ひと)がさばきのために神(かみ)の前(まえ)に出(で)るとき、
神(かみ)は人(ひと)のために時(とき)を定(さだ)めておかれない。
24彼(かれ)は力(ちから)ある者(もの)をも調(しら)べることなく打(う)ち滅(ほろ)ぼし、
他(た)の人々(ひとびと)を立(た)てて、これに替(か)えられる。
25このように、神(かみ)は彼(かれ)らのわざを知(し)り、
夜(よ)の間(ま)に彼(かれ)らをくつがえされるので、
彼(かれ)らはやがて滅(ほろ)びる。
26彼(かれ)は人々(ひとびと)の見(み)る所(ところ)で、
彼(かれ)らをその悪(あく)のために撃(う)たれる。
27これは彼(かれ)らがそむいて彼(かれ)に従(したが)わず、
その道(みち)を全(まった)く顧(かえり)みないからだ。
28こうして彼(かれ)らは貧(まず)しき者(もの)の叫(さけ)びを
彼(かれ)のもとにいたらせ、
悩(なや)める者(もの)の叫(さけ)びを彼(かれ)に聞(き)かせる。
29彼(かれ)が黙(だま)っておられるとき、
だれが非難(ひなん)することができようか。
彼(かれ)が顔(かお)を隠(かく)されるとき、
だれが彼(かれ)を見(み)ることができようか。
一国(こく)の上(うえ)にも、一人(にん)の上(うえ)にも同様(どうよう)だ。
30これは神(かみ)を信(しん)じない者(もの)が世(よ)を治(おさ)めることがなく、
民(たみ)をわなにかける事(こと)のないようにするためである。

31だれが神(かみ)に向(む)かって言(い)ったか、
『わたしは罪(つみ)を犯(おか)さないのに、懲(こら)しめられた。
32わたしの見(み)ないものをわたしに教(おし)えられたい。
もしわたしが悪(わる)い事(こと)をしたなら、
重(かさ)ねてこれをしない』と。
33あなたが拒(こば)むゆえに、
彼(かれ)はあなたの好(この)むように報(むく)いをされるであろうか。
あなたみずから選(えら)ぶがよい、わたしはしない。
あなたの知(し)るところを言(い)いなさい。
34悟(さと)りある人々(ひとびと)はわたしに言(い)うだろう、
わたしに聞(き)くところの知恵(ちえ)ある人(ひと)は言(い)うだろう、
35『ヨブの言(い)うところは知識(ちしき)がなく、
その言葉(ことば)は悟(さと)りがない』と。
36どうかヨブが終(おわ)りまで試(こころ)みられるように、
彼(かれ)は悪人(あくにん)のように答(こた)えるからである。
37彼(かれ)は自分(じぶん)の罪(つみ)に、とがを加(くわ)え、
われわれの中(なか)にあって手(て)をうち、
神(かみ)に逆(さか)らって、その言葉(ことば)をしげくする」。

第三五章

1エリフはまた答(こた)えて言(い)った、
2「あなたはこれを正(ただ)しいと思(おも)うのか、
あなたは『神(かみ)の前(まえ)に自分(じぶん)は正(ただ)しい』と言(い)うのか。
3あなたは言(い)う、『これはわたしになんの益(えき)があるか、
罪(つみ)を犯(おか)したのとくらべて
なんのまさるところがあるか』と。
4わたしはあなたおよび、
あなたと共(とも)にいるあなたの友人(ゆうじん)たちに答(こた)えよう。
5天(てん)を仰(あお)ぎ見(み)よ、
あなたの上(うえ)なる高(たか)き空(そら)を望(のぞ)み見(み)よ。
6あなたが罪(つみ)を犯(おか)しても、
彼(かれ)になんのさしさわりがあるか。
あなたのとがが多(おお)くても、彼(かれ)に何(なに)をなし得(え)ようか。
7またあなたは正(ただ)しくても、彼(かれ)に何(なに)を与(あた)え得(え)ようか。
彼(かれ)はあなたの手(て)から何(なに)を受(う)けられるであろうか。
8あなたの悪(あく)はただあなたのような人(ひと)にかかわり、
あなたの義(ぎ)はただ人(ひと)の子(こ)にかかわるのみだ。
9しえたげの多(おお)いために叫(さけ)び、
力(ちから)ある者(もの)の腕(うで)のゆえに呼(よ)ばわる人々(ひとびと)がある。
10しかし、ひとりとして言(い)う者(もの)はない、
『わが造(つく)り主(ぬし)なる神(かみ)はどこにおられるか、
彼(かれ)は夜(よ)の間(ま)に歌(うた)を与(あた)え、
11地(ち)の獣(けもの)よりも多(おお)く、われわれを教(おし)え、
空(そら)の鳥(とり)よりも、われわれを賢(かしこ)くされる方(かた)である』と。
12彼(かれ)らが叫(さけ)んでも答(こた)えられないのは、
悪(あ)しき者(もの)の高(たか)ぶりによる。
13まことに神(かみ)はむなしい叫(さけ)びを聞(き)かれない。
また全能者(ぜんのうしゃ)はこれを顧(かえり)みられない。
14あなたが彼(かれ)を見(み)ないと言(い)う時(とき)はなおさらだ。
さばきは神(かみ)の前(まえ)にある。
あなたは彼(かれ)を待(ま)つべきである。
15今(いま)彼(かれ)が怒(いか)りをもって罰(ばっ)せず、
罪(つみ)とがを深(ふか)く心(こころ)にとめられないゆえに
16ヨブは口(くち)を開(ひら)いてむなしい事(こと)を述(の)べ、
無知(むち)の言葉(ことば)をしげくする」。

第三六章

1エリフは重(かさ)ねて言(い)った、
2「しばらく待(ま)て、わたしはあなたに示(しめ)すことがある。
なお神(かみ)のために言(い)うべき事(こと)がある。
3わたしは遠(とお)くからわが知識(ちしき)を取(と)り、
わが造(つく)り主(ぬし)に正義(せいぎ)を帰(き)する。
4まことにわたしの言葉(ことば)は偽(いつわ)らない。
知識(ちしき)の全(まった)き者(もの)があなたと共(とも)にいる。

5見(み)よ、神(かみ)は力(ちから)ある者(もの)であるが、
何(なに)をも卑(いや)しめられない、
その悟(さと)りの力(ちから)は大(おお)きい。
6彼(かれ)は悪(あ)しき者(もの)を生(い)かしておかれない、
苦(くる)しむ者(もの)のためにさばきを行(おこな)われる。
7彼(かれ)は正(ただ)しい者(もの)から目(め)を離(はな)さず、
位(くらい)にある王(おう)たちと共(とも)に、とこしえに、
彼(かれ)らをすわらせて、尊(たっと)くされる。
8もし彼(かれ)らが足(あし)かせにつながれ、
悩(なや)みのなわに捕(とら)えられる時(とき)は、
9彼(かれ)らの行(おこな)いと、とがと、
その高(たか)ぶったふるまいを彼(かれ)らに示(しめ)し、
10彼(かれ)らの耳(みみ)を開(ひら)いて、教(おしえ)を聞(き)かせ、
悪(あく)を離(はな)れて帰(かえ)ることを命(めい)じられる。
11もし彼(かれ)らが聞(き)いて彼(かれ)に仕(つか)えるならば、
彼(かれ)らはその日(ひ)を幸福(こうふく)に過(す)ごし、
その年(とし)を楽(たの)しく送(おく)るであろう。
12しかし彼(かれ)らが聞(き)かないならば、つるぎによって滅(ほろ)び、
知識(ちしき)を得(え)ないで死(し)ぬであろう。

13心(こころ)に神(かみ)を信(しん)じない者(もの)どもは怒(いか)りをたくわえ、
神(かみ)に縛(しば)られる時(とき)も、助(たす)けを呼(よ)び求(もと)めることをしない。
14彼(かれ)らは年(とし)若(わか)くして死(し)に、
その命(いのち)は恥(はじ)のうちに終(おわ)る。

15神(かみ)は苦(くる)しむ者(もの)をその苦(くる)しみによって救(すく)い、
彼(かれ)らの耳(みみ)を逆境(ぎゃっきょう)によって開(ひら)かれる。
16神(かみ)はまたあなたを悩(なや)みから、
束縛(そくばく)のない広(ひろ)い所(ところ)に誘(さそ)い出(だ)された。
そしてあなたの食卓(しょくたく)に置(お)かれた物(もの)は
すべて肥(こ)えた物(もの)であった。
17しかしあなたは悪人(あくにん)のうくべき
さばきをおのれに満(み)たし、
さばきと公義(こうぎ)はあなたを捕(とら)えている。
18あなたは怒(いか)りに誘(さそ)われて、
あざけりに陥(おちい)らぬように心(こころ)せよ。
あがないしろの大(おお)いなるがために、おのれを誤(あやま)るな。
19あなたの叫(さけ)びはあなたを守(まも)って、
悩(なや)みを免(まぬか)れさせるであろうか、
いかに力(ちから)をつくしても役(やく)に立(た)たない。
20人々(ひとびと)がその所(ところ)から断(た)たれる
その夜(よ)を慕(した)ってはならない。
21慎(つつし)んで悪(あく)に傾(かたむ)いてはならない。
あなたは悩(なや)みよりもむしろこれを選(えら)んだからだ。
22見(み)よ、神(かみ)はその力(ちから)をもってあがめられる。
だれか彼(かれ)のように教(おし)える者(もの)があるか。
23だれか彼(かれ)のためにその道(みち)を定(さだ)めた者(もの)があるか。
だれか『あなたは悪(わる)い事(こと)をした』と
言(い)いうる者(もの)があるか。
24神(かみ)のみわざをほめたたえる事(こと)を忘(わす)れてはならない。
これは人々(ひとびと)の歌(うた)いあがめるところである。
25すべての人(ひと)はこれを仰(あお)ぎ見(み)る。
人(ひと)は遠(とお)くからこれを見(み)るにすぎない。
26見(み)よ、神(かみ)は大(おお)いなる者(もの)にいまして、
われわれは彼(かれ)を知(し)らない。
その年(とし)の数(かず)も計(はか)り知(し)ることができない。
27彼(かれ)は水(みず)のしたたりを引(ひ)きあげ、
その霧(きり)をしたたらせて雨(あめ)とされる。
28空(そら)はこれを降(ふ)らせて、人(ひと)の上(うえ)に豊(ゆた)かに注(そそ)ぐ。
29だれか雲(くも)の広(ひろ)がるわけと、
その幕屋(まくや)のとどろくわけとを
悟(さと)ることができようか。
30見(み)よ、彼(かれ)はその光(ひかり)をおのれのまわりにひろげ、
また海(うみ)の底(そこ)をおおわれる。
31彼(かれ)はこれらをもって民(たみ)をさばき、
食物(しょくもつ)を豊(ゆた)かに賜(たま)い、
32いなずまをもってもろ手(て)を包(つつ)み、
これに命(めい)じて敵(てき)を打(う)たせられる。
33そのとどろきは、
悪(あく)にむかって怒(いか)りに燃(も)える彼(かれ)を現(あらわ)す。

第三七章


1これがためにわが心(こころ)もまたわななき、
その所(ところ)からとび離(はな)れる。
2聞(き)け、神(かみ)の声(こえ)のとどろきを、
またその口(くち)から出(で)るささやきを。
3彼(かれ)はこれを天(あめ)が下(した)に放(はな)ち、
その光(ひかり)を地(ち)のすみずみまで至(いた)らせられる。
4その後(のち)、声(こえ)とどろき、
彼(かれ)はそのいかめしい声(こえ)をもって鳴(な)り渡(わた)られる。
その声(こえ)の聞(きこ)える時(とき)、
彼(かれ)はいなずまを引(ひ)きとめられない。
5神(かみ)はその驚(おどろ)くべき声(こえ)をもって鳴(な)り渡(わた)り、
われわれの悟(さと)りえない大(おお)いなる事(こと)を行(おこな)われる。
6彼(かれ)は雪(ゆき)に向(む)かって『地(ち)に降(ふ)れ』と命(めい)じ、
夕立(ゆうだち)および雨(あめ)に向(む)かって『強(つよ)く降(ふ)れ』と命(めい)じられる。
7彼(かれ)はすべての人(ひと)の手(て)を封(ふう)じられる。
これはすべての人(ひと)にみわざを知(し)らせるためである。
8その時(とき)、獣(けもの)は穴(あな)に入(はい)り、そのほらにとどまる。
9つむじ風(かぜ)はそのへやから、
寒(さむ)さは北風(きたかぜ)から来(く)る。
10神(かみ)のいぶきによって氷(こおり)が張(は)り、
広々(ひろびろ)とした水(みず)は凍(こお)る。
11彼(かれ)は濃(こ)い雲(くも)に水気(すいき)を負(お)わせ、
雲(くも)はそのいなずまを散(ち)らす。
12これは彼(かれ)の導(みちび)きによってめぐる。
彼(かれ)の命(めい)じるところをことごとく
世界(せかい)のおもてに行(おこな)うためである。
13神(かみ)がこれらをこさせるのは、懲(こら)しめのため、
あるいはその地(ち)のため、
あるいはいつくしみのためである。

14ヨブよ、これを聞(き)け、
立(た)って神(かみ)のくすしきみわざを考(かんが)えよ。
15あなたは知(し)っているか、
神(かみ)がいかにこれらに命(めい)じて、
その雲(くも)の光(ひかり)を輝(かがや)かされるかを。
16あなたは知(し)っているか、雲(くも)のつりあいと、
知識(ちしき)の全(まった)き者(もの)のくすしきみわざを。
17南風(みなみかぜ)によって地(ち)が穏(おだ)やかになる時(とき)、
あなたの着物(きもの)が熱(あつ)くなることを。
18あなたは鋳(い)た鏡(かがみ)のように堅(かた)い大空(おおぞら)を、
彼(かれ)のように張(は)ることができるか。
19われわれが彼(かれ)に言(い)うべき事(こと)をわれわれに教(おし)えよ、
われわれは暗(くら)くて、言葉(ことば)をつらねることはできない。
20わたしは語(かた)ることがあると
彼(かれ)に告(つ)げることができようか、
人(ひと)は滅(ほろ)ぼされることを望(のぞ)むであろうか。

21光(ひかり)が空(そら)に輝(かがや)いているとき、風(かぜ)過(す)ぎて空(そら)を清(きよ)めると、
人々(ひとびと)はその光(ひかり)を見(み)ることができない。
22北(きた)から黄金(おうごん)のような輝(かがや)きがでてくる。
神(かみ)には恐(おそ)るべき威光(いこう)がある。
23全能者(ぜんのうしゃ)は――
われわれはこれを見(み)いだすことができない。
彼(かれ)は力(ちから)と公義(こうぎ)とにすぐれ、
正義(せいぎ)に満(み)ちて、これを曲(ま)げることはない。
24それゆえ、人々(ひとびと)は彼(かれ)を恐(おそ)れる。
彼(かれ)はみずから賢(かしこ)いと思(おも)う者(もの)を顧(かえり)みられない」。

第三八章

1この時(とき)、主(しゅ)はつむじ風(かぜ)の中(なか)からヨブに答(こた)えられた、
2「無知(むち)の言葉(ことば)をもって、
神(かみ)の計(はか)りごとを暗(くら)くするこの者(もの)はだれか。
3あなたは腰(こし)に帯(おび)して、男(おとこ)らしくせよ。
わたしはあなたに尋(たず)ねる、わたしに答(こた)えよ。

4わたしが地(ち)の基(もとい)をすえた時(とき)、どこにいたか。
もしあなたが知(し)っているなら言(い)え。
5あなたがもし知(し)っているなら、
だれがその度量(どりょう)を定(さだ)めたか。
だれが測(はか)りなわを地(ち)の上(うえ)に張(は)ったか。
6その土台(どだい)は何(なに)の上(うえ)に置(お)かれたか。
その隅(すみ)の石(いし)はだれがすえたか。
7かの時(とき)には明(あ)けの星(ほし)は相(あい)共(とも)に歌(うた)い、
神(かみ)の子(こ)たちはみな喜(よろこ)び呼(よ)ばわった。

8海(うみ)の水(みず)が流(なが)れいで、胎内(たいない)からわき出(で)たとき、
だれが戸(と)をもって、これを閉(と)じこめたか。
9あの時(とき)、わたしは雲(くも)をもって衣(ころも)とし、
黒雲(くろくも)をもってむつきとし、
10これがために境(さかい)を定(さだ)め、
関(かん)および戸(と)を設(もう)けて、
11言(い)った、『ここまで来(き)てもよい、越(こ)えてはならぬ、
おまえの高波(たかなみ)はここにとどまるのだ』と。
12あなたは生(うま)れた日(ひ)からこのかた朝(あさ)に命(めい)じ、
夜明(よあ)けにその所(ところ)を知(し)らせ、
13これに地(ち)の縁(ふち)をとらえさせ、
悪人(あくにん)をその上(うえ)から振(ふ)り落(おと)させたことがあるか。
14地(ち)は印(いん)せられた土(つち)のように変(かわ)り、
衣(ころも)のようにいろどられる。
15悪人(あくにん)はその光(ひかり)を奪(うば)われ、
その高(たか)くあげた腕(うで)は折(お)られる。

16あなたは海(うみ)の源(みなもと)に行(い)ったことがあるか。
淵(ふち)の底(そこ)を歩(ある)いたことがあるか。
17死(し)の門(もん)はあなたのために開(ひら)かれたか。
あなたは暗黒(あんこく)の門(もん)を見(み)たことがあるか。
18あなたは地(ち)の広(ひろ)さを見(み)きわめたか。
もしこれをことごとく知(し)っているならば言(い)え。

19光(ひかり)のある所(ところ)に至(いた)る道(みち)はいずれか。
暗(くら)やみのある所(ところ)はどこか。
20あなたはこれをその境(さかい)に導(みちび)くことができるか。
その家路(いえじ)を知(し)っているか。
21あなたは知(し)っているだろう、
あなたはかの時(とき)すでに生(うま)れており、
またあなたの日(ひ)数(かず)も多(おお)いのだから。

22あなたは雪(ゆき)の倉(くら)にはいったことがあるか。
ひょうの倉(くら)を見(み)たことがあるか。
23これらは悩(なや)みの時(とき)のため、いくさと戦(たたか)いの日(ひ)のため、
わたしがたくわえて置(お)いたものだ。
24光(ひかり)の広(ひろ)がる道(みち)はどこか。
東風(ひがしかぜ)の地(ち)に吹(ふ)き渡(わた)る道(みち)はどこか。
25だれが大雨(おおあめ)のために水路(すいろ)を切(き)り開(ひら)き、
いかずちの光(ひかり)のために道(みち)を開(ひら)き、
26人(ひと)なき地(ち)にも、人(ひと)なき荒野(あらの)にも雨(あめ)を降(ふ)らせ、
27荒(あ)れすたれた地(ち)をあき足(た)らせ、
これに若草(わかくさ)をはえさせるか。
28雨(あめ)に父(ちち)があるか。
露(つゆ)の玉(たま)はだれが生(う)んだか。
29氷(こおり)はだれの胎(たい)から出(で)たか。
空(そら)の霜(しも)はだれが生(う)んだか。
30水(みず)は固(かた)まって石(いし)のようになり、淵(ふち)のおもては凍(こお)る。

31あなたはプレアデスの鎖(くさり)を結(むす)ぶことができるか。
オリオンの綱(つな)を解(と)くことができるか。
32あなたは十二宮(きゅう)をその時(とき)にしたがって
引(ひ)き出(だ)すことができるか。
北斗(ほくと)とその子(こ)星(ぼし)を導(みちび)くことができるか。
33あなたは天(てん)の法則(ほうそく)を知(し)っているか、
そのおきてを地(ち)に施(ほどこ)すことができるか。

34あなたは声(こえ)を雲(くも)にあげ、
多(おお)くの水(みず)にあなたをおおわせることができるか。
35あなたはいなずまをつかわして行(い)かせ、
『われわれはここにいる』と、
あなたに言(い)わせることができるか。
36雲(くも)に知恵(ちえ)を置(お)き、
霧(きり)に悟(さと)りを与(あた)えたのはだれか。
37だれが知恵(ちえ)をもって雲(くも)を数(かぞ)えることができるか。
だれが天(てん)の皮(かわ)袋(ぶくろ)を傾(かたむ)けて、
38ちりを一つに流(なが)れ合(あ)わさせ、
土(つち)くれを固(かた)まらせることができるか。

39あなたはししのために食物(しょくもつ)を狩(か)り、
子(こ)じしの食欲(しょくよく)を満(み)たすことができるか。
40彼(かれ)らがほら穴(あな)に伏(ふ)し、
林(はやし)のなかに待(ま)ち伏(ぶ)せする時(とき)、
あなたはこの事(こと)をなすことができるか。
41からすの子(こ)が神(かみ)に向(む)かって呼(よ)ばわり、
食物(しょくもつ)がなくて、さまようとき、
からすにえさを与(あた)える者(もの)はだれか。

第三九章


1あなたは岩間(いわま)のやぎが
子(こ)を産(う)むときを知(し)っているか。
あなたは雌(め)じかが子(こ)を産(う)むのを見(み)たことがあるか。
2これらの妊娠(にんしん)の月(つき)を数(かぞ)えることができるか。
これらが産(う)む時(とき)を知(し)っているか。
3これらは身(み)をかがめて子(こ)を産(う)み、
そのはらみ子(こ)を産(う)みいだす。
4その子(こ)は強(つよ)くなって、野(の)に育(そだ)ち、
出(で)て行(い)って、その親(おや)のもとに帰(かえ)らない。

5だれが野(の)ろばを放(はな)って、自由(じゆう)にしたか。
だれが野(の)ろばのつなぎを解(と)いたか。
6わたしは荒野(あらの)をその家(いえ)として与(あた)え、
荒(あ)れ地(ち)をそのすみかとして与(あた)えた。
7これは町(まち)の騒(さわ)ぎをいやしめ、
御者(ぎょしゃ)の呼(よ)ぶ声(こえ)を聞(き)きいれず、
8山(やま)を牧場(まきば)としてはせまわり、
もろもろの青物(あおもの)を尋(たず)ね求(もと)める。

9野牛(やぎゅう)は快(こころよ)くあなたに仕(つか)え、
あなたの飼葉(かいば)おけのかたわらにとどまるだろうか。
10あなたは野牛(やぎゅう)に手綱(たづな)をつけて
うねを歩(ある)かせることができるか、
これはあなたに従(したが)って谷(たに)を耕(たがや)すであろうか。
11その力(ちから)が強(つよ)いからとて、
あなたはこれに頼(たの)むであろうか。
またあなたの仕事(しごと)をこれに任(まか)せるであろうか。
12あなたはこれにたよって、あなたの穀物(こくもつ)を
打(う)ち場(ば)に運(はこ)び帰(かえ)らせるであろうか。

13だちょうは威勢(いせい)よくその翼(つばさ)をふるう。
しかしこれにはきれいな羽(はね)と羽毛(うもう)があるか。
14これはその卵(たまご)を土(つち)の中(なか)に捨(す)て置(お)き、
これを砂(すな)のなかで暖(あたた)め、
15足(あし)でつぶされることも、
野(の)の獣(けもの)に踏(ふ)まれることも忘(わす)れている。
16これはその子(こ)に無情(むじょう)であって、
あたかも自分(じぶん)の子(こ)でないようにし、
その苦労(くろう)のむなしくなるをも恐(おそ)れない。
17これは神(かみ)がこれに知恵(ちえ)を授(さづ)けず、
悟(さと)りを与(あた)えなかったゆえである。
18これがその身(み)を起(おこ)して走(はし)る時(とき)には、
馬(うま)をも、その乗(の)り手(て)をもあざける。

19あなたは馬(うま)にその力(ちから)を与(あた)えることができるか。
力(ちから)をもってその首(くび)を装(よそお)うことができるか。
20あなたはこれをいなごのように、
とばせることができるか。
その鼻(はな)あらしの威力(いりょく)は恐(おそ)ろしい。
21これは谷(たに)であがき、その力(ちから)に誇(ほこ)り、
みずから出(で)ていって武器(ぶき)に向(む)かう。
22これは恐(おそ)れをあざ笑(わら)って、驚(おどろ)くことなく、
つるぎをさけて退(しりぞ)くことがない。
23矢筒(やづつ)はその上(うえ)に鳴(な)り、
やりと投(な)げやりと、あいきらめく。
24これはたけりつ、狂(くる)いつ、地(ち)をひとのみにし、
ラッパの音(おと)が鳴(な)り渡(わた)っても、立(た)ちどまることがない。
25これはラッパの鳴(な)るごとにハアハアと言(い)い、
遠(とお)くから戦(たたか)いをかぎつけ、
隊長(たいちょう)の大声(おおごえ)およびときの声(こえ)を聞(き)き知(し)る。

26たかが舞(ま)いあがり、その翼(つばさ)をのべて南(みなみ)に向(む)かうのは、
あなたの知恵(ちえ)によるのか、
27わしがかけのぼり、その巣(す)を高(たか)い所(ところ)につくるのは、
あなたの命令(めいれい)によるのか。
28これは岩(いわ)の上(うえ)にすみかを構(かま)え、
岩(いわ)のとがり、または険(けわ)しい所(ところ)におり、
29そこから獲物(えもの)をうかがう。
その目(め)の及(およ)ぶところは遠(とお)い。
30そのひなもまた血(ち)を吸(す)う。
おおよそ殺(ころ)された者(もの)のある所(ところ)には、これもそこにいる」。

第四〇章

1主(しゅ)はまたヨブに答(こた)えて言(い)われた、
2「非難(ひなん)する者(もの)が全能者(ぜんのうしゃ)と争(あらそ)おうとするのか、
神(かみ)と論(ろん)ずる者(もの)はこれに答(こた)えよ」。

3そこで、ヨブは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、
4「見(み)よ、わたしはまことに卑(いや)しい者(もの)です、
なんとあなたに答(こた)えましょうか。
ただ手(て)を口(くち)に当(あ)てるのみです。
5わたしはすでに一度(ど)言(い)いました、また言(い)いません、
すでに二度(ど)言(い)いました、重(かさ)ねて申(もう)しません」。

6主(しゅ)はまたつむじ風(かぜ)の中(なか)からヨブに答(こた)えられた、
7「あなたは腰(こし)に帯(おび)して、男(おとこ)らしくせよ。
わたしはあなたに尋(たず)ねる、わたしに答(こた)えよ。
8あなたはなお、わたしに責任(せきにん)を負(お)わそうとするのか。
あなたはわたしを非(ひ)とし、
自分(じぶん)を是(ぜ)としようとするのか。
9あなたは神(かみ)のような腕(うで)を持(も)っているのか、
神(かみ)のような声(こえ)でとどろきわたることができるか。
10あなたは威光(いこう)と尊厳(そんげん)とをもってその身(み)を飾(かざ)り、
栄光(えいこう)と華麗(かれい)とをもってその身(み)を装(よそお)ってみよ。
11あなたのあふるる怒(いか)りを漏(も)らし、
すべての高(たか)ぶる者(もの)を見(み)て、これを低(ひく)くせよ。
12すべての高(たか)ぶる者(もの)を見(み)て、これをかがませ、
また悪人(あくにん)をその所(ところ)で踏(ふ)みつけ、
13彼(かれ)らをともにちりの中(なか)にうずめ、
その顔(かお)を隠(かく)れた所(ところ)に閉(と)じこめよ。
14そうすれば、わたしもまた、あなたをほめて、
あなたの右(みぎ)の手(て)は
あなたを救(すく)うことができるとしよう。

15河馬(かば)を見(み)よ、
これはあなたと同様(どうよう)にわたしが造(つく)ったもので、
牛(うし)のように草(くさ)を食(く)う。
16見(み)よ、その力(ちから)は腰(こし)にあり、
その勢(いきお)いは腹(はら)の筋(すじ)にある。
17これはその尾(お)を香柏(こうはく)のように動(うご)かし、
そのももの筋(すじ)は互(たがい)にからみ合(あ)う。
18その骨(ほね)は青銅(せいどう)の管(くだ)のようで、
その肋骨(ろっこつ)は鉄(てつ)の棒(ぼう)のようだ。
19これは神(かみ)のわざの第(だい)一のものであって、
これを造(つく)った者(もの)がこれにつるぎを授(さづ)けた。
20山(やま)もこれがために食物(しょくもつ)をいだし、
もろもろの野(の)の獣(けもの)もそこに遊(あそ)ぶ。
21これは酸棗(さんそう)の木(き)の下(した)に伏(ふ)し、
葦(あし)の茂(しげ)み、または沼(ぬま)に隠(かく)れている。
22酸棗(さんそう)の木(き)はその陰(かげ)でこれをおおい、
川(かわ)の柳(やなぎ)はこれをめぐり囲(かこ)む。
23見(み)よ、たとい川(かわ)が荒(あ)れても、これは驚(おどろ)かない。
ヨルダンがその口(くち)に注(そそ)ぎかかっても、
これはあわてない。
24だれが、かぎでこれを捕(とら)えることができるか。
だれが、わなでその鼻(はな)を貫(つらぬ)くことができるか。

第四一章


1あなたはつり針(ばり)で
わにをつり出(だ)すことができるか。
糸(いと)でその舌(した)を押(おさ)えることができるか。
2あなたは葦(あし)のなわをその鼻(はな)に通(とお)すことができるか。
つり針(ばり)でそのあごを突(つ)き通(とお)すことができるか。
3これはしきりに、あなたに願(ねが)い求(もと)めるであろうか。
柔(やわ)らかな言葉(ことば)をあなたに語(かた)るであろうか。
4これはあなたと契約(けいやく)を結(むす)ぶであろうか。
あなたはこれを取(と)って、ながくあなたのしもべと
することができるであろうか。
5あなたは鳥(とり)と戯(たわむ)れるようにこれと戯(たわむ)れ、
またあなたのおとめたちのために、
これをつないでおくことができるであろうか。
6商人(しょうにん)の仲間(なかま)はこれを商品(しょうひん)として、
小売(こうり)商人(しょうにん)の間(あいだ)に分(わ)けるであろうか。
7あなたは、もりでその皮(かわ)を満(み)たし、
やすでその頭(あたま)を突(つ)き通(とお)すことができるか。
8あなたの手(て)をこれの上(うえ)に置(お)け、
あなたは戦(たたか)いを思(おも)い出(だ)して、
再(ふたた)びこれをしないであろう。
9見(み)よ、その望(のぞ)みはむなしくなり、
これを見(み)てすら倒(たお)れる。
10あえてこれを激(げき)する勇気(ゆうき)のある者(もの)はひとりもない。
それで、だれがわたしの前(まえ)に立(た)つことができるか。
11だれが先(さき)にわたしに与(あた)えたので、
わたしはこれに報(むく)いるのか。
天(あめ)が下(した)にあるものは、ことごとくわたしのものだ。

12わたしはこれが全身(ぜんしん)と、その著(いちじる)しい力(ちから)と、
その美(うつく)しい構造(こうぞう)について
黙(だま)っていることはできない。
13だれがその上着(うわぎ)をはぐことができるか。
だれがその二重(ふたえ)のよろいの間(あいだ)に
はいることができるか。
14だれがその顔(かお)の戸(と)を開(ひら)くことができるか。
そのまわりの歯(は)は恐(おそ)ろしい。
15その背(せ)は盾(たて)の列(れつ)でできていて、
その堅(かた)く閉(と)じたさまは密封(みっぷう)したように、
16相互(そうご)に密接(みっせつ)して、
風(かぜ)もその間(あいだ)に、はいることができず、
17互(たがい)に相連(あいつら)なり、
固(かた)く着(つ)いて離(はな)すことができない。
18これが、くしゃみすれば光(ひかり)を発(はっ)し、
その目(め)はあけぼののまぶたに似(に)ている。
19その口(くち)からは、たいまつが燃(も)えいで、
火花(ひばな)をいだす。
20その鼻(はな)の穴(あな)からは煙(けむり)が出(で)てきて、
さながら煮(に)え立(た)つなべの水煙(みずけむり)のごとく、
燃(も)える葦(あし)の煙(けむり)のようだ。
21その息(いき)は炭火(すみび)をおこし、
その口(くち)からは炎(ほのお)が出(で)る。
22その首(くび)には力(ちから)が宿(やど)っていて、
恐(おそ)ろしさが、その前(まえ)に踊(おど)っている。
23その肉片(にくへん)は密接(みっせつ)に相連(あいつら)なり、
固(かた)く身(み)に着(つ)いて動(うご)かすことができない。
24その心臓(しんぞう)は石(いし)のように堅(かた)く、
うすの下(した)石(いし)のように堅(かた)い。
25その身(み)を起(おこ)すときは勇士(ゆうし)も恐(おそ)れ、
その衝撃(しょうげき)によってあわて惑(まど)う。
26つるぎがこれを撃(う)っても、きかない、
やりも、矢(や)も、もりも用(よう)をなさない。
27これは鉄(てつ)を見(み)ること、わらのように、
青銅(せいどう)を見(み)ること朽(く)ち木(き)のようである。
28弓矢(ゆみや)もこれを逃が(にが)すことができない。
石(いし)投(な)げの石(いし)もこれには、わらくずとなる。
29こん棒(ぼう)もわらくずのようにみなされ、
投(な)げやりの響(ひび)きを、これはあざ笑(わら)う。
30その下腹(かふく)は鋭(するど)いかわらのかけらのようで、
麦(むぎ)こき板(いた)のようにその身(み)を泥(どろ)の上(うえ)に伸(の)ばす。
31これは淵(ふち)をかなえのように沸(わ)きかえらせ、
海(うみ)を香油(こうゆ)のなべのようにする。
32これは自分(じぶん)のあとに光(ひか)る道(みち)を残(のこ)し、
淵(ふち)をしらがのように思(おも)わせる。
33地(ち)の上(うえ)にはこれと並(なら)ぶものなく、
これは恐(おそ)れのない者(もの)に造(つく)られた。
34これはすべての高(たか)き者(もの)をさげすみ、
すべての誇(ほこ)り高(たか)ぶる者(もの)の王(おう)である」。

第四二章

1そこでヨブは主(しゅ)に答(こた)えて言(い)った、
2「わたしは知(し)ります、
あなたはすべての事(こと)をなすことができ、
またいかなるおぼしめしでも、
あなたにできないことはないことを。
3『無知(むち)をもって神(かみ)の計(はか)りごとをおおう
この者(もの)はだれか』。
それゆえ、わたしはみずから悟(さと)らない事(こと)を言(い)い、
みずから知(し)らない、測(はか)り難(がた)い事(こと)を述(の)べました。
4『聞(き)け、わたしは語(かた)ろう、
わたしはあなたに尋(たず)ねる、わたしに答(こた)えよ』。
5わたしはあなたの事(こと)を耳(みみ)で聞(き)いていましたが、
今(いま)はわたしの目(め)であなたを拝見(はいけん)いたします。
6それでわたしはみずから恨(うら)み、
ちり灰(はい)の中(なか)で悔(く)います」。
7主(しゅ)はこれらの言葉(ことば)をヨブに語(かた)られて後(のち)、テマンびとエリパズに言(い)われた、

「わたしの怒(いか)りはあなたとあなたのふたりの友(とも)に向(む)かって燃(も)える。あなたがたが、わたしのしもべヨブのように正(ただ)しい事(こと)をわたしについて述(の)べなかったからである。 8それで今(いま)、あなたがたは雄牛(おうし)七頭(とう)、雄羊(おひつじ)七頭(とう)を取(と)って、わたしのしもべヨブの所(ところ)へ行(い)き、あなたがたのために燔祭(はんさい)をささげよ。わたしのしもべヨブはあなたがたのために祈(いの)るであろう。わたしは彼(かれ)の祈(いのり)を受(う)けいれるによって、あなたがたの愚(おろ)かを罰(ばっ)することをしない。あなたがたはわたしのしもべヨブのように正(ただ)しい事(こと)をわたしについて述(の)べなかったからである」。

9そこでテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルは行(い)って、主(しゅ)が彼(かれ)らに命(めい)じられたようにしたので、主(しゅ)はヨブの祈(いのり)を受(う)けいれられた。

10ヨブがその友人(ゆうじん)たちのために祈(いの)ったとき、主(しゅ)はヨブの繁栄(はんえい)をもとにかえし、そして主(しゅ)はヨブのすべての財産(ざいさん)を二倍(ばい)に増(ま)された。 11そこで彼(かれ)のすべての兄弟(きょうだい)、すべての姉妹(しまい)、および彼(かれ)の旧知(きゅうち)の者(もの)どもことごとく彼(かれ)のもとに来(き)て、彼(かれ)と共(とも)にその家(いえ)で飲(の)み食(く)いし、かつ主(しゅ)が彼(かれ)にくだされたすべての災(わざわい)について彼(かれ)をいたわり、慰(なぐさ)め、おのおの銀(ぎん)一ケシタと金(きん)の輪(わ)一つを彼(かれ)に贈(おく)った。 12主(しゅ)はヨブの終(おわ)りを初(はじ)めよりも多(おお)く恵(めぐ)まれた。彼(かれ)は羊(ひつじ)一万四千頭(とう)、らくだ六千頭(とう)、牛(うし)一千くびき、雌(め)ろば一千頭(とう)をもった。 13また彼(かれ)は男(おとこ)の子(こ)七人(にん)、女(おんな)の子(こ)三人(にん)をもった。 14彼(かれ)はその第(だい)一の娘(むすめ)をエミマと名(な)づけ、第(だい)二をケジアと名(な)づけ、第(だい)三をケレン・ハップクと名(な)づけた。 15全国(ぜんこく)のうちでヨブの娘(むすめ)たちほど美(うつく)しい女(おんな)はなかった。父(ちち)はその兄弟(きょうだい)たちと同様(どうよう)に嗣(し)業(ぎょう)を彼(かれ)らにも与(あた)えた。 16この後(のち)、ヨブは百四十年(ねん)生(い)きながらえて、その子(こ)とその孫(まご)と四代(だい)までを見(み)た。 17ヨブは年老(としお)い、日(ひ)満(み)ちて死(し)んだ。