ルカによる福音書

第一章

1わたしたちの間(あいだ)に成就(じょうじゅ)された出来事(できごと)を、最初(さいしょ)から親(した)しく見(み)た人々(ひとびと)であって、 2御言(みことば)に仕(つか)えた人々(ひとびと)が伝(つた)えたとおり物語(ものがたり)に書(か)き連(つら)ねようと、多(おお)くの人(ひと)が手(て)を着(つ)けましたが、 3テオピロ閣下(かっか)よ、わたしもすべての事(こと)を初(はじ)めから詳(くわ)しく調(しら)べていますので、ここに、それを順序(じゅんじょ)正(ただ)しく書(か)きつづって、閣下(かっか)に献(けん)じることにしました。 4すでにお聞(き)きになっている事(こと)が確実(かくじつ)であることを、これによって十分(じゅうぶん)に知(し)っていただきたいためであります。

5ユダヤの王(おう)ヘロデの世(よ)に、アビヤの組(くみ)の祭司(さいし)で名(な)をザカリヤという者(もの)がいた。その妻(つま)はアロン家(いえ)の娘(むすめ)のひとりで、名(な)をエリサベツといった。 6ふたりとも神(かみ)のみまえに正(ただ)しい人(ひと)であって、主(しゅ)の戒(いまし)めと定(さだ)めとを、みな落度(おちど)なく行(おこな)っていた。 7ところが、エリサベツは不妊(ふにん)の女(おんな)であったため、彼(かれ)らには子(こ)がなく、そしてふたりともすでに年老(としお)いていた。

8さてザカリヤは、その組(くみ)が当番(とうばん)になり神(かみ)のみまえに祭司(さいし)の務(つとめ)をしていたとき、 9祭司(さいし)職(しょく)の慣例(かんれい)に従(したが)ってくじを引(ひ)いたところ、主(しゅ)の聖所(せいじょ)にはいって香(こう)をたくことになった。 10香(こう)をたいている間(あいだ)、多(おお)くの民衆(みんしゅう)はみな外(そと)で祈(いの)っていた。 11すると主(しゅ)の御使(みつかい)が現(あらわ)れて、香(こう)壇(だん)の右(みぎ)に立(た)った。 12ザカリヤはこれを見(み)て、おじ惑(まど)い、恐怖(きょうふ)の念(ねん)に襲(おそ)われた。 13そこで御使(みつかい)が彼(かれ)に言(い)った、「恐(おそ)れるな、ザカリヤよ、あなたの祈(いのり)が聞(き)きいれられたのだ。あなたの妻(つま)エリサベツは男(おとこ)の子(こ)を産(う)むであろう。その子(こ)をヨハネと名(な)づけなさい。 14彼(かれ)はあなたに喜(よろこ)びと楽(たの)しみとをもたらし、多(おお)くの人々(ひとびと)もその誕生(たんじょう)を喜(よろこ)ぶであろう。 15彼(かれ)は主(しゅ)のみまえに大(おお)いなる者(もの)となり、ぶどう酒(しゅ)や強(つよ)い酒(さけ)をいっさい飲(の)まず、母(はは)の胎内(たいない)にいる時(とき)からすでに聖霊(せいれい)に満(み)たされており、 16そして、イスラエルの多(おお)くの子(こ)らを、主(しゅ)なる彼(かれ)らの神(かみ)に立(た)ち帰(かえ)らせるであろう。 17彼(かれ)はエリヤの霊(れい)と力(ちから)とをもって、みまえに先立(さきだ)って行(い)き、父(ちち)の心(こころ)を子(こ)に向(む)けさせ、逆(さか)らう者(もの)に義人(ぎじん)の思(おも)いを持(も)たせて、整(ととの)えられた民(たみ)を主(しゅ)に備(そな)えるであろう」。 18するとザカリヤは御使(みつかい)に言(い)った、「どうしてそんな事(こと)が、わたしにわかるでしょうか。わたしは老人(ろうじん)ですし、妻(つま)も年(とし)をとっています」。 19御使(みつかい)が答(こた)えて言(い)った、「わたしは神(かみ)のみまえに立(た)つガブリエルであって、この喜(よろこ)ばしい知(し)らせをあなたに語(かた)り伝(つた)えるために、つかわされたものである。 20時(とき)が来(く)れば成就(じょうじゅ)するわたしの言葉(ことば)を信(しん)じなかったから、あなたはおしになり、この事(こと)の起(おこ)る日(ひ)まで、ものが言(い)えなくなる」。 21民衆(みんしゅう)はザカリヤを待(ま)っていたので、彼(かれ)が聖所(せいじょ)内(うち)で暇(ひま)どっているのを不思議(ふしぎ)に思(おも)っていた。 22ついに彼(かれ)は出(で)てきたが、物(もの)が言(い)えなかったので、人々(ひとびと)は彼(かれ)が聖所(せいじょ)内(うち)でまぼろしを見(み)たのだと悟(さと)った。彼(かれ)は彼(かれ)らに合図(あいず)をするだけで、引(ひ)きつづき、おしのままでいた。 23それから務(つとめ)の期日(きじつ)が終(おわ)ったので、家(いえ)に帰(かえ)った。

24そののち、妻(つま)エリサベツはみごもり、五か月(げつ)のあいだ引(ひ)きこもっていたが、 25「主(しゅ)は、今(いま)わたしを心(こころ)にかけてくださって、人々(ひとびと)の間(あいだ)からわたしの恥(はじ)を取(と)り除(のぞ)くために、こうしてくださいました」と言(い)った。

26六か月(げつ)目(め)に、御使(みつかい)ガブリエルが、神(かみ)からつかわされて、ナザレというガリラヤの町(まち)の一(いち)処女(しょじょ)のもとにきた。 27この処女(しょじょ)はダビデ家(いえ)の出(で)であるヨセフという人(ひと)のいいなづけになっていて、名(な)をマリヤといった。 28御使(みつかい)がマリヤのところにきて言(い)った、「恵(めぐ)まれた女(おんな)よ、おめでとう、主(しゅ)があなたと共(とも)におられます」。 29この言葉(ことば)にマリヤはひどく胸騒(むなさわ)ぎがして、このあいさつはなんの事(こと)であろうかと、思(おも)いめぐらしていた。 30すると御使(みつかい)が言(い)った、「恐(おそ)れるな、マリヤよ、あなたは神(かみ)から恵(めぐ)みをいただいているのです。 31見(み)よ、あなたはみごもって男(おとこ)の子(こ)を産(う)むでしょう。その子(こ)をイエスと名(な)づけなさい。 32彼(かれ)は大(おお)いなる者(もの)となり、いと高(たか)き者(もの)の子(こ)と、となえられるでしょう。そして、主(しゅ)なる神(かみ)は彼(かれ)に父(ちち)ダビデの王座(おうざ)をお与(あた)えになり、 33彼(かれ)はとこしえにヤコブの家(いえ)を支配(しはい)し、その支配(しはい)は限(かぎ)りなく続(つづ)くでしょう」。 34そこでマリヤは御使(みつかい)に言(い)った、「どうして、そんな事(こと)があり得(え)ましょうか。わたしにはまだ夫(おっと)がありませんのに」。 35御使(みつかい)が答(こた)えて言(い)った、「聖霊(せいれい)があなたに臨(のぞ)み、いと高(たか)き者(もの)の力(ちから)があなたをおおうでしょう。それゆえに、生(うま)れ出(で)る子(こ)は聖(せい)なるものであり、神(かみ)の子(こ)と、となえられるでしょう。 36あなたの親族(しんぞく)エリサベツも老年(ろうねん)ながら子(こ)を宿(やど)しています。不妊(ふにん)の女(おんな)といわれていたのに、はや六か月(げつ)になっています。 37神(かみ)には、なんでもできないことはありません」。 38そこでマリヤが言(い)った、「わたしは主(しゅ)のはしためです。お言葉(ことば)どおりこの身(み)に成(な)りますように」。そして御使(みつかい)は彼女(かのじょ)から離(はな)れて行(い)った。

39そのころ、マリヤは立(た)って、大急(おおいそ)ぎで山里(やまざと)へむかいユダの町(まち)に行(い)き、 40ザカリヤの家(いえ)にはいってエリサベツにあいさつした。 41エリサベツがマリヤのあいさつを聞(き)いたとき、その子(こ)が胎内(たいない)でおどった。エリサベツは聖霊(せいれい)に満(み)たされ、 42声(こえ)高(たか)く叫(さけ)んで言(い)った、「あなたは女(おんな)の中(なか)で祝福(しゅくふく)されたかた、あなたの胎(たい)の実(み)も祝福(しゅくふく)されています。 43主(しゅ)の母上(ははうえ)がわたしのところにきてくださるとは、なんという光栄(こうえい)でしょう。 44ごらんなさい。あなたのあいさつの声(こえ)がわたしの耳(みみ)にはいったとき、子供(こども)が胎内(たいない)で喜(よろこ)びおどりました。 45主(しゅ)のお語(かた)りになったことが必(かなら)ず成就(じょうじゅ)すると信(しん)じた女(おんな)は、なんとさいわいなことでしょう」。 46するとマリヤは言(い)った、
「わたしの魂(たましい)は主(しゅ)をあがめ、
47わたしの霊(れい)は救主(すくいぬし)なる神(かみ)をたたえます。
48この卑(いや)しい女(おんな)をさえ、心(こころ)にかけてくださいました。
今(いま)からのち代々(よよ)の人々(ひとびと)は、わたしをさいわいな女(おんな)と言(い)うでしょう、
49力(ちから)あるかたが、わたしに大(おお)きな事(こと)をしてくださったからです。
そのみ名(な)はきよく、
50そのあわれみは、代々(よよ)限(かぎ)りなく
主(しゅ)をかしこみ恐(おそ)れる者(もの)に及(およ)びます。
51主(しゅ)はみ腕(うで)をもって力(ちから)をふるい、
心(こころ)の思(おも)いのおごり高(たか)ぶる者(もの)を追(お)い散(ち)らし、
52権力(けんりょく)ある者(もの)を王座(おうざ)から引(ひ)きおろし、
卑(いや)しい者(もの)を引(ひ)き上(あ)げ、
53飢(う)えている者(もの)を良(よ)いもので飽(あ)かせ、
富(と)んでいる者(もの)を空腹(くうふく)のまま帰(かえ)らせなさいます。
54主(しゅ)は、あわれみをお忘(わす)れにならず、
その僕(しもべ)イスラエルを助(たす)けてくださいました、
55わたしたちの父祖(ふそ)アブラハムとその子孫(しそん)とを
とこしえにあわれむと約束(やくそく)なさったとおりに」。
56マリヤは、エリサベツのところに三か月(げつ)ほど滞在(たいざい)してから、家(いえ)に帰(かえ)った。

57さてエリサベツは月(つき)が満(み)ちて、男(おとこ)の子(こ)を産(う)んだ。 58近所(きんじょ)の人々(ひとびと)や親族(しんぞく)は、主(しゅ)が大(おお)きなあわれみを彼女(かのじょ)におかけになったことを聞(き)いて、共(とも)どもに喜(よろこ)んだ。 59八日目(かめ)になったので、幼(おさ)な子(ご)に割礼(かつれい)をするために人々(ひとびと)がきて、父(ちち)の名(な)にちなんでザカリヤという名(な)にしようとした。 60ところが、母親(ははおや)は、「いいえ、ヨハネという名(な)にしなくてはいけません」と言(い)った。 61人々(ひとびと)は、「あなたの親族(しんぞく)の中(なか)には、そういう名(な)のついた者(もの)は、ひとりもいません」と彼女(かのじょ)に言(い)った。 62そして父親(ちちおや)に、どんな名(な)にしたいのですかと、合図(あいず)で尋(たず)ねた。 63ザカリヤは書(かき)板(いた)を持(も)ってこさせて、それに「その名(な)はヨハネ」と書(か)いたので、みんなの者(もの)は不思議(ふしぎ)に思(おも)った。 64すると、立(た)ちどころにザカリヤの口(くち)が開(ひら)けて舌(した)がゆるみ、語(かた)り出(だ)して神(かみ)をほめたたえた。 65近所(きんじょ)の人々(ひとびと)はみな恐(おそ)れをいだき、またユダヤの山里(やまざと)の至(いた)るところに、これらの事(こと)がことごとく語(かた)り伝(つた)えられたので、 66聞(き)く者(もの)たちは皆(みな)それを心(こころ)に留(と)めて、「この子(こ)は、いったい、どんな者(もの)になるだろう」と語(かた)り合(あ)った。主(しゅ)のみ手(て)が彼(かれ)と共(とも)にあった。
67父(ちち)ザカリヤは聖霊(せいれい)に満(み)たされ、預言(よげん)して言(い)った、
68「主(しゅ)なるイスラエルの神(かみ)は、ほむべきかな。
神(かみ)はその民(たみ)を顧(かえり)みてこれをあがない、
69わたしたちのために救(すくい)の角(つの)を
僕(しもべ)ダビデの家(いえ)にお立(た)てになった。
70古(ふる)くから、聖(せい)なる預言者(よげんしゃ)たちの口(くち)によってお語(かた)りになったように、
71わたしたちを敵(てき)から、またすべてわたしたちを憎(にく)む者(もの)の手(て)から、救(すく)い出(だ)すためである。
72こうして、神(かみ)はわたしたちの父祖(ふそ)たちにあわれみをかけ、その聖(せい)なる契約(けいやく)、
73すなわち、父祖(ふそ)アブラハムにお立(た)てになった誓(ちか)いをおぼえて、
74わたしたちを敵(てき)の手(て)から救(すく)い出(だ)し、
75生(い)きている限(かぎ)り、きよく正(ただ)しく、
みまえに恐(おそ)れなく仕(つか)えさせてくださるのである。
76幼(おさ)な子(ご)よ、あなたは、いと高(たか)き者(もの)の預言者(よげんしゃ)と呼(よ)ばれるであろう。
主(しゅ)のみまえに先立(さきだ)って行(い)き、その道(みち)を備(そな)え、
77罪(つみ)のゆるしによる救(すくい)を
その民(たみ)に知(し)らせるのであるから。
78これはわたしたちの神(かみ)のあわれみ深(ふか)いみこころによる。
また、そのあわれみによって、日(ひ)の光(ひかり)が上(うえ)からわたしたちに臨(のぞ)み、
79暗黒(あんこく)と死(し)の陰(かげ)とに住(す)む者(もの)を照(てら)し、
わたしたちの足(あし)を平和(へいわ)の道(みち)へ導(みちび)くであろう」。
80幼(おさ)な子(ご)は成長(せいちょう)し、その霊(れい)も強(つよ)くなり、そしてイスラエルに現(あらわ)れる日(ひ)まで、荒野(あらの)にいた。

第二章

1そのころ、全(ぜん)世界(せかい)の人口(じんこう)調査(ちょうさ)をせよとの勅令(ちょくれい)が、皇帝(こうてい)アウグストから出(で)た。 2これは、クレニオがシリヤの総督(そうとく)であった時(とき)に行(おこな)われた最初(さいしょ)の人口(じんこう)調査(ちょうさ)であった。 3人々(ひとびと)はみな登録(とうろく)をするために、それぞれ自分(じぶん)の町(まち)へ帰(かえ)って行(い)った。 4ヨセフもダビデの家系(かけい)であり、またその血統(けっとう)であったので、ガリラヤの町(まち)ナザレを出(で)て、ユダヤのベツレヘムというダビデの町(まち)へ上(のぼ)って行(い)った。 5それは、すでに身重(みおも)になっていたいいなづけの妻(つま)マリヤと共(とも)に、登録(とうろく)をするためであった。 6ところが、彼(かれ)らがベツレヘムに滞在(たいざい)している間(あいだ)に、マリヤは月(つき)が満(み)ちて、 7初子(ういご)を産(う)み、布(ぬの)にくるんで、飼葉(かいば)おけの中(なか)に寝(ね)かせた。客間(きゃくま)には彼(かれ)らのいる余地(よち)がなかったからである。

8さて、この地方(ちほう)で羊飼(ひつじかい)たちが夜(よる)、野宿(のじゅく)しながら羊(ひつじ)の群(む)れの番(ばん)をしていた。 9すると主(しゅ)の御使(みつかい)が現(あらわ)れ、主(しゅ)の栄光(えいこう)が彼(かれ)らをめぐり照(てら)したので、彼(かれ)らは非常(ひじょう)に恐(おそ)れた。 10御使(みつかい)は言(い)った、「恐(おそ)れるな。見(み)よ、すべての民(たみ)に与(あた)えられる大(おお)きな喜(よろこ)びを、あなたがたに伝(つた)える。 11きょうダビデの町(まち)に、あなたがたのために救主(すくいぬし)がお生(うま)れになった。このかたこそ主(しゅ)なるキリストである。 12あなたがたは、幼(おさ)な子(ご)が布(ぬの)にくるまって飼葉(かいば)おけの中(なか)に寝(ね)かしてあるのを見(み)るであろう。それが、あなたがたに与(あた)えられるしるしである」。 13するとたちまち、おびただしい天(てん)の軍勢(ぐんぜい)が現(あらわ)れ、御使(みつかい)と一緒(いっしょ)になって神(かみ)をさんびして言(い)った、
14「いと高(たか)きところでは、神(かみ)に栄光(えいこう)があるように、
地(ち)の上(うえ)では、み心(こころ)にかなう人々(ひとびと)に平和(へいわ)があるように」。
15御使(みつかい)たちが彼(かれ)らを離(はな)れて天(てん)に帰(かえ)ったとき、羊飼(ひつじかい)たちは「さあ、ベツレヘムへ行(い)って、主(しゅ)がお知(し)らせ下(くだ)さったその出来事(できごと)を見(み)てこようではないか」と、互(たがい)に語(かた)り合(あ)った。 16そして急(いそ)いで行(い)って、マリヤとヨセフ、また飼葉(かいば)おけに寝(ね)かしてある幼(おさ)な子(ご)を捜(さが)しあてた。 17彼(かれ)らに会(あ)った上(うえ)で、この子(こ)について自分(じぶん)たちに告(つ)げ知(し)らされた事(こと)を、人々(ひとびと)に伝(つた)えた。 18人々(ひとびと)はみな、羊飼(ひつじかい)たちが話(はな)してくれたことを聞(き)いて、不思議(ふしぎ)に思(おも)った。 19しかし、マリヤはこれらの事(こと)をことごとく心(こころ)に留(と)めて、思(おも)いめぐらしていた。 20羊飼(ひつじかい)たちは、見聞(みき)きしたことが何(なに)もかも自分(じぶん)たちに語(かた)られたとおりであったので、神(かみ)をあがめ、またさんびしながら帰(かえ)って行(い)った。

21八日(か)が過(す)ぎ、割礼(かつれい)をほどこす時(とき)となったので、受胎(じゅたい)のまえに御使(みつかい)が告(つ)げたとおり、幼(おさ)な子(ご)をイエスと名(な)づけた。

22それから、モーセの律法(りっぽう)による彼(かれ)らのきよめの期間(きかん)が過(す)ぎたとき、両親(りょうしん)は幼(おさ)な子(ご)を連(つ)れてエルサレムへ上(のぼ)った。 23それは主(しゅ)の律法(りっぽう)に「母(はは)の胎(たい)を初(はじ)めて開(ひら)く男(おとこ)の子(こ)はみな、主(しゅ)に聖(せい)別(べつ)された者(もの)と、となえられねばならない」と書(か)いてあるとおり、幼(おさ)な子(ご)を主(しゅ)にささげるためであり、 24また同(おな)じ主(しゅ)の律法(りっぽう)に、「山(やま)ばと一つがい、または、家(いえ)ばとのひな二羽(わ)」と定(さだ)めてあるのに従(したが)って、犠牲(ぎせい)をささげるためであった。 25その時(とき)、エルサレムにシメオンという名(な)の人(ひと)がいた。この人(ひと)は正(ただ)しい信仰(しんこう)深(ふか)い人(ひと)で、イスラエルの慰(なぐさ)められるのを待(ま)ち望(のぞ)んでいた。また聖霊(せいれい)が彼(かれ)に宿(やど)っていた。 26そして主(しゅ)のつかわす救主(すくいぬし)に会(あ)うまでは死(し)ぬことはないと、聖霊(せいれい)の示(しめ)しを受(う)けていた。 27この人(ひと)が御霊(みたま)に感(かん)じて宮(みや)にはいった。すると律法(りっぽう)に定(さだ)めてあることを行(おこな)うため、両親(りょうしん)もその子(こ)イエスを連(つ)れてはいってきたので、 28シメオンは幼(おさ)な子(ご)を腕(うで)に抱(いだ)き、神(かみ)をほめたたえて言(い)った、
29「主(しゅ)よ、今(いま)こそ、あなたはみ言葉(ことば)のとおりに
この僕(しもべ)を安(やす)らかに去(さ)らせてくださいます、
30わたしの目(め)が今(いま)あなたの救(すくい)を見(み)たのですから。
31この救(すくい)はあなたが万民(ばんみん)のまえにお備(そな)えになったもので、
32異邦人(いほうじん)を照(てら)す啓示(けいじ)の光(ひかり)、
み民(たみ)イスラエルの栄光(えいこう)であります」。
33父(ちち)と母(はは)とは幼(おさ)な子(ご)についてこのように語(かた)られたことを、不思議(ふしぎ)に思(おも)った。 34するとシメオンは彼(かれ)らを祝(しゅく)し、そして母(はは)マリヤに言(い)った、「ごらんなさい、この幼(おさ)な子(ご)は、イスラエルの多(おお)くの人(ひと)を倒(たお)れさせたり立(た)ちあがらせたりするために、また反対(はんたい)を受(う)けるしるしとして、定(さだ)められています。―― 35そして、あなた自身(じしん)もつるぎで胸(むね)を刺(さ)し貫(つらぬ)かれるでしょう。――それは多(おお)くの人(ひと)の心(こころ)にある思(おも)いが、現(あらわ)れるようになるためです」。

36また、アセル族(ぞく)のパヌエルの娘(むすめ)で、アンナという女(おんな)預言者(よげんしゃ)がいた。彼女(かのじょ)は非常(ひじょう)に年(とし)をとっていた。むすめ時代(じだい)にとついで、七年間(ねんかん)だけ夫(おっと)と共(とも)に住(す)み、 37その後(のち)やもめぐらしをし、八十四歳(さい)になっていた。そして宮(みや)を離(はな)れずに夜(よる)も昼(ひる)も断食(だんじき)と祈(いのり)とをもって神(かみ)に仕(つか)えていた。 38この老女(ろうじょ)も、ちょうどそのとき近寄(ちかよ)ってきて、神(かみ)に感謝(かんしゃ)をささげ、そしてこの幼(おさ)な子(ご)のことを、エルサレムの救(すくい)を待(ま)ち望(のぞ)んでいるすべての人々(ひとびと)に語(かた)りきかせた。

39両親(りょうしん)は主(しゅ)の律法(りっぽう)どおりすべての事(こと)をすませたので、ガリラヤへむかい、自分(じぶん)の町(まち)ナザレに帰(かえ)った。

40幼(おさ)な子(ご)は、ますます成長(せいちょう)して強(つよ)くなり、知恵(ちえ)に満(み)ち、そして神(かみ)の恵(めぐ)みがその上(うえ)にあった。

41さて、イエスの両親(りょうしん)は、過越(すぎこし)の祭(まつり)には毎年(まいとし)エルサレムへ上(のぼ)っていた。 42イエスが十二歳(さい)になった時(とき)も、慣例(かんれい)に従(したが)って祭(まつり)のために上京(じょうきょう)した。 43ところが、祭(まつり)が終(おわ)って帰(かえ)るとき、少年(しょうねん)イエスはエルサレムに居残(いのこ)っておられたが、両親(りょうしん)はそれに気(き)づかなかった。 44そして道連(みちづ)れの中(なか)にいることと思(おも)いこんで、一日(にち)路(じ)を行(い)ってしまい、それから、親族(しんぞく)や知人(ちじん)の中(なか)を捜(さが)しはじめたが、 45見(み)つからないので、捜(さが)しまわりながらエルサレムへ引返(ひきかえ)した。 46そして三日(か)の後(のち)に、イエスが宮(みや)の中(なか)で教師(きょうし)たちのまん中(なか)にすわって、彼(かれ)らの話(はなし)を聞(き)いたり質問(しつもん)したりしておられるのを見(み)つけた。 47聞(き)く人々(ひとびと)はみな、イエスの賢(かしこ)さやその答(こたえ)に驚嘆(きょうたん)していた。 48両親(りょうしん)はこれを見(み)て驚(おどろ)き、そして母(はは)が彼(かれ)に言(い)った、「どうしてこんな事(こと)をしてくれたのです。ごらんなさい、おとう様(さま)もわたしも心配(しんぱい)して、あなたを捜(さが)していたのです」。 49するとイエスは言(い)われた、「どうしてお捜(さが)しになったのですか。わたしが自分(じぶん)の父(ちち)の家(いえ)にいるはずのことを、ご存(ぞん)じなかったのですか」。 50しかし、両親(りょうしん)はその語(かた)られた言葉(ことば)を悟(さと)ることができなかった。 51それからイエスは両親(りょうしん)と一緒(いっしょ)にナザレに下(くだ)って行(い)き、彼(かれ)らにお仕(つか)えになった。母(はは)はこれらの事(こと)をみな心(こころ)に留(と)めていた。

52イエスはますます知恵(ちえ)が加(くわ)わり、背(せ)たけも伸(の)び、そして神(かみ)と人(ひと)から愛(あい)された。

第三章

1皇帝(こうてい)テベリオ在位(ざいい)の第(だい)十五年(ねん)、ポンテオ・ピラトがユダヤの総督(そうとく)、ヘロデがガリラヤの領主(りょうしゅ)、その兄弟(きょうだい)ピリポがイツリヤ・テラコニテ地方(ちほう)の領主(りょうしゅ)、ルサニヤがアビレネの領主(りょうしゅ)、 2アンナスとカヤパとが大祭司(だいさいし)であったとき、神(かみ)の言(ことば)が荒野(あらの)でザカリヤの子(こ)ヨハネに臨(のぞ)んだ。 3彼(かれ)はヨルダンのほとりの全(ぜん)地方(ちほう)に行(い)って、罪(つみ)のゆるしを得(え)させる悔改(くいあらた)めのバプテスマを宣(の)べ伝(つた)えた。 4それは、預言者(よげんしゃ)イザヤの言葉(ことば)の書(しょ)に書(か)いてあるとおりである。すなわち
「荒野(あらの)で呼(よ)ばわる者(もの)の声(こえ)がする、
『主(しゅ)の道(みち)を備(そな)えよ、
その道(みち)筋(すじ)をまっすぐにせよ』。
5すべての谷(たに)は埋(う)められ、
すべての山(やま)と丘(おか)とは、平(たい)らにされ、
曲(まが)ったところはまっすぐに、
わるい道(みち)はならされ、
6人(ひと)はみな神(かみ)の救(すくい)を見(み)るであろう」。
7さて、ヨハネは、彼(かれ)からバプテスマを受(う)けようとして出(で)てきた群衆(ぐんしゅう)にむかって言(い)った、「まむしの子(こ)らよ、迫(せま)ってきている神(かみ)の怒(いか)りから、のがれられると、おまえたちにだれが教(おし)えたのか。 8だから、悔改(くいあらた)めにふさわしい実(み)を結(むす)べ。自分(じぶん)たちの父(ちち)にはアブラハムがあるなどと、心(こころ)の中(なか)で思(おも)ってもみるな。おまえたちに言(い)っておく。神(かみ)はこれらの石(いし)ころからでも、アブラハムの子(こ)を起(おこ)すことができるのだ。 9斧(おの)がすでに木(き)の根(ね)もとに置(お)かれている。だから、良(よ)い実(み)を結(むす)ばない木(き)はことごとく切(き)られて、火(ひ)の中(なか)に投(な)げ込(こ)まれるのだ」。 10そこで群衆(ぐんしゅう)が彼(かれ)に、「それでは、わたしたちは何(なに)をすればよいのですか」と尋(たず)ねた。 11彼(かれ)は答(こた)えて言(い)った、「下着(したぎ)を二枚(まい)もっている者(もの)は、持(も)たない者(もの)に分(わ)けてやりなさい。食物(しょくもつ)を持(も)っている者(もの)も同様(どうよう)にしなさい」。 12取税人(しゅぜいにん)もバプテスマを受(う)けにきて、彼(かれ)に言(い)った、「先生(せんせい)、わたしたちは何(なに)をすればよいのですか」。 13彼(かれ)らに言(い)った、「きまっているもの以上(いじょう)に取(と)り立(た)ててはいけない」。 14兵卒(へいそつ)たちもたずねて言(い)った、「では、わたしたちは何(なに)をすればよいのですか」。彼(かれ)は言(い)った、「人(ひと)をおどかしたり、だまし取(と)ったりしてはいけない。自分(じぶん)の給与(きゅうよ)で満足(まんぞく)していなさい」。

15民衆(みんしゅう)は救主(すくいぬし)を待(ま)ち望(のぞ)んでいたので、みな心(こころ)の中(なか)でヨハネのことを、もしかしたらこの人(ひと)がそれではなかろうかと考(かんが)えていた。 16そこでヨハネはみんなの者(もの)にむかって言(い)った、「わたしは水(みず)でおまえたちにバプテスマを授(さづ)けるが、わたしよりも力(ちから)のあるかたが、おいでになる。わたしには、そのくつのひもを解(と)く値(ね)うちもない。このかたは、聖霊(せいれい)と火(ひ)とによっておまえたちにバプテスマをお授(さづ)けになるであろう。 17また、箕(み)を手(て)に持(も)って、打(う)ち場(ば)の麦(むぎ)をふるい分(わ)け、麦(むぎ)は倉(くら)に納(おさ)め、からは消(き)えない火(ひ)で焼(や)き捨(す)てるであろう」。

18こうしてヨハネはほかにもなお、さまざまの勧(すす)めをして、民衆(みんしゅう)に教(おしえ)を説(と)いた。 19ところが領主(りょうしゅ)ヘロデは、兄弟(きょうだい)の妻(つま)ヘロデヤのことで、また自分(じぶん)がしたあらゆる悪事(あくじ)について、ヨハネから非難(ひなん)されていたので、 20彼(かれ)を獄(ごく)に閉(と)じ込(こ)めて、いろいろな悪事(あくじ)の上(うえ)に、もう一つこの悪事(あくじ)を重(かさ)ねた。

21さて、民衆(みんしゅう)がみなバプテスマを受(う)けたとき、イエスもバプテスマを受(う)けて祈(いの)っておられると、天(てん)が開(ひら)けて、 22聖霊(せいれい)がはとのような姿(すがた)をとってイエスの上(うえ)に下(くだ)り、そして天(てん)から声(こえ)がした、「あなたはわたしの愛(あい)する子(こ)、わたしの心(こころ)にかなう者(もの)である」。

23イエスが宣教(せんきょう)をはじめられたのは、年(とし)およそ三十歳(さい)の時(とき)であって、人々(ひとびと)の考(かんが)えによれば、ヨセフの子(こ)であった。ヨセフはヘリの子(こ)、 24それから、さかのぼって、マタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 25マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、 26マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 27ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 28メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、 29ヨシュア、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 30シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、 31メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 32エッサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 33アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、 34ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 35セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 36カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 37メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、 38エノス、セツ、アダム、そして神(かみ)にいたる。

第四章

1さて、イエスは聖霊(せいれい)に満(み)ちてヨルダン川(がわ)から帰(かえ)り、 2荒野(あらの)を四十日(にち)のあいだ御霊(みたま)にひきまわされて、悪魔(あくま)の試(こころ)みにあわれた。そのあいだ何(なに)も食(た)べず、その日数(ひかず)がつきると、空腹(くうふく)になられた。 3そこで悪魔(あくま)が言(い)った、「もしあなたが神(かみ)の子(こ)であるなら、この石(いし)に、パンになれと命(めい)じてごらんなさい」。 4イエスは答(こた)えて言(い)われた、「『人(ひと)はパンだけで生(い)きるものではない』と書(か)いてある」。 5それから、悪魔(あくま)はイエスを高(たか)い所(ところ)へ連(つ)れて行(い)き、またたくまに世界(せかい)のすべての国々(くにぐに)を見(み)せて 6言(い)った、「これらの国々(くにぐに)の権威(けんい)と栄華(えいが)とをみんな、あなたにあげましょう。それらはわたしに任(まか)せられていて、だれでも好(す)きな人(ひと)にあげてよいのですから。 7それで、もしあなたがわたしの前(まえ)にひざまずくなら、これを全部(ぜんぶ)あなたのものにしてあげましょう」。 8イエスは答(こた)えて言(い)われた、「『主(しゅ)なるあなたの神(かみ)を拝(はい)し、ただ神(かみ)にのみ仕(つか)えよ』と書(か)いてある」。 9それから悪魔(あくま)はイエスをエルサレムに連(つ)れて行(い)き、宮(みや)の頂上(ちょうじょう)に立(た)たせて言(い)った、「もしあなたが神(かみ)の子(こ)であるなら、ここから下(した)へ飛(と)びおりてごらんなさい。 10『神(かみ)はあなたのために、御使(みつかい)たちに命(めい)じてあなたを守(まも)らせるであろう』とあり、 11また、『あなたの足(あし)が石(いし)に打(う)ちつけられないように、彼(かれ)らはあなたを手(て)でささえるであろう』とも書(か)いてあります」。 12イエスは答(こた)えて言(い)われた、「『主(しゅ)なるあなたの神(かみ)を試(こころ)みてはならない』と言(い)われている」。 13悪魔(あくま)はあらゆる試(こころ)みをしつくして、一時(いちじ)イエスを離(はな)れた。

14それからイエスは御霊(みたま)の力(ちから)に満(み)ちあふれてガリラヤへ帰(かえ)られると、そのうわさがその地方(ちほう)全体(ぜんたい)にひろまった。 15イエスは諸(しょ)会堂(かいどう)で教(おし)え、みんなの者(もの)から尊敬(そんけい)をお受(う)けになった。

16それからお育(そだ)ちになったナザレに行(い)き、安息日(あんそくにち)にいつものように会堂(かいどう)にはいり、聖書(せいしょ)を朗読(ろうどく)しようとして立(た)たれた。 17すると預言者(よげんしゃ)イザヤの書(しょ)が手渡(てわた)されたので、その書(しょ)を開(ひら)いて、こう書(か)いてある所(ところ)を出(だ)された、
18「主(しゅ)の御霊(みたま)がわたしに宿(やど)っている。
貧(まず)しい人々(ひとびと)に福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)えさせるために、
わたしを聖(せい)別(べつ)してくださったからである。
主(しゅ)はわたしをつかわして、
囚人(しゅうじん)が解放(かいほう)され、盲人(もうじん)の目(め)が開(ひら)かれることを告(つ)げ知(し)らせ、
打(う)ちひしがれている者(もの)に自由(じゆう)を得(え)させ、
19主(しゅ)のめぐみの年(とし)を告(つ)げ知(し)らせるのである」。
20イエスは聖書(せいしょ)を巻(ま)いて係(かか)りの者(もの)に返(かえ)し、席(せき)に着(つ)かれると、会堂(かいどう)にいるみんなの者(もの)の目(め)がイエスに注(そそ)がれた。 21そこでイエスは、「この聖(せい)句(く)は、あなたがたが耳(みみ)にしたこの日(ひ)に成就(じょうじゅ)した」と説(と)きはじめられた。 22すると、彼(かれ)らはみなイエスをほめ、またその口(くち)から出(で)て来(く)るめぐみの言葉(ことば)に感嘆(かんたん)して言(い)った、「この人(ひと)はヨセフの子(こ)ではないか」。 23そこで彼(かれ)らに言(い)われた、「あなたがたは、きっと『医者(いしゃ)よ、自分(じぶん)自身(じしん)をいやせ』ということわざを引(ひ)いて、カペナウムで行(おこな)われたと聞(き)いていた事(こと)を、あなたの郷里(きょうり)のこの地(ち)でもしてくれ、と言(い)うであろう」。 24それから言(い)われた、「よく言(い)っておく。預言者(よげんしゃ)は、自分(じぶん)の郷里(きょうり)では歓迎(かんげい)されないものである。 25よく聞(き)いておきなさい。エリヤの時代(じだい)に、三年(ねん)六か月(げつ)にわたって天(てん)が閉(と)じ、イスラエル全土(ぜんど)に大(だい)ききんがあった際(さい)、そこには多(おお)くのやもめがいたのに、 26エリヤはそのうちのだれにもつかわされないで、ただシドンのサレプタにいるひとりのやもめにだけつかわされた。 27また預言者(よげんしゃ)エリシャの時代(じだい)に、イスラエルには多(おお)くのらい病人(びょうにん)がいたのに、そのうちのひとりもきよめられないで、ただシリヤのナアマンだけがきよめられた」。 28会堂(かいどう)にいた者(もの)たちはこれを聞(き)いて、みな憤(いきどお)りに満(み)ち、 29立(た)ち上(あ)がってイエスを町(まち)の外(そと)へ追(お)い出(だ)し、その町(まち)が建(た)っている丘(おか)のがけまでひっぱって行(い)って、突(つ)き落(おと)そうとした。 30しかし、イエスは彼(かれ)らのまん中(なか)を通(とお)り抜(ぬ)けて、去(さ)って行(い)かれた。

31それから、イエスはガリラヤの町(まち)カペナウムに下(くだ)って行(い)かれた。そして安息日(あんそくにち)になると、人々(ひとびと)をお教(おし)えになったが、 32その言葉(ことば)に権威(けんい)があったので、彼(かれ)らはその教(おしえ)に驚(おどろ)いた。 33すると、汚(けが)れた悪霊(あくれい)につかれた人(ひと)が会堂(かいどう)にいて、大声(おおごえ)で叫(さけ)び出(だ)した、 34「ああ、ナザレのイエスよ、あなたはわたしたちとなんの係(かか)わりがあるのです。わたしたちを滅(ほろ)ぼしにこられたのですか。あなたがどなたであるか、わかっています。神(かみ)の聖者(せいじゃ)です」。 35イエスはこれをしかって、「黙(だま)れ、この人(ひと)から出(で)て行(い)け」と言(い)われた。すると悪霊(あくれい)は彼(かれ)を人(ひと)なかに投(な)げ倒(たお)し、傷(きず)は負(お)わせずに、その人(ひと)から出(で)て行(い)った。 36みんなの者(もの)は驚(おどろ)いて、互(たがい)に語(かた)り合(あ)って言(い)った、「これは、いったい、なんという言葉(ことば)だろう。権威(けんい)と力(ちから)とをもって汚(けが)れた霊(れい)に命(めい)じられると、彼(かれ)らは出(で)て行(い)くのだ」。 37こうしてイエスの評判(ひょうばん)が、その地方(ちほう)のいたる所(ところ)にひろまっていった。

38イエスは会堂(かいどう)を出(で)てシモンの家(いえ)におはいりになった。ところがシモンのしゅうとめが高(たか)い熱(ねつ)を病(や)んでいたので、人々(ひとびと)は彼女(かのじょ)のためにイエスにお願(ねが)いした。 39そこで、イエスはそのまくらもとに立(た)って、熱(ねつ)が引(ひ)くように命(めい)じられると、熱(ねつ)は引(ひ)き、女(おんな)はすぐに起(お)き上(あ)がって、彼(かれ)らをもてなした。

40日(ひ)が暮(く)れると、いろいろな病気(びょうき)になやむ者(もの)をかかえている人々(ひとびと)が、皆(みな)それをイエスのところに連(つ)れてきたので、そのひとりびとりに手(て)を置(お)いて、おいやしになった。 41悪霊(あくれい)も「あなたこそ神(かみ)の子(こ)です」と叫(さけ)びながら多(おお)くの人々(ひとびと)から出(で)ていった。しかし、イエスは彼(かれ)らを戒(いまし)めて、物(もの)を言(い)うことをお許(ゆる)しにならなかった。彼(かれ)らがイエスはキリストだと知(し)っていたからである。

42夜(よ)が明(あ)けると、イエスは寂(さび)しい所(ところ)へ出(で)て行(い)かれたが、群衆(ぐんしゅう)が捜(さが)しまわって、みもとに集(あつ)まり、自分(じぶん)たちから離(はな)れて行(い)かれないようにと、引(ひ)き止(と)めた。 43しかしイエスは、「わたしは、ほかの町々(まちまち)にも神(かみ)の国(くに)の福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)えねばならない。自分(じぶん)はそのためにつかわされたのである」と言(い)われた。 44そして、ユダヤの諸(しょ)会堂(かいどう)で教(おしえ)を説(と)かれた。

第五章

1さて、群衆(ぐんしゅう)が神(かみ)の言(ことば)を聞(き)こうとして押(お)し寄(よ)せてきたとき、イエスはゲネサレ湖畔(こはん)に立(た)っておられたが、 2そこに二そうの小舟(こぶね)が寄(よ)せてあるのをごらんになった。漁師(りょうし)たちは、舟(ふね)からおりて網(あみ)を洗(あら)っていた。 3その一そうはシモンの舟(ふね)であったが、イエスはそれに乗(の)り込(こ)み、シモンに頼(たの)んで岸(きし)から少(すこ)しこぎ出(だ)させ、そしてすわって、舟(ふね)の中(なか)から群衆(ぐんしゅう)にお教(おし)えになった。 4話(はなし)がすむと、シモンに「沖(おき)へこぎ出(だ)し、網(あみ)をおろして漁(りょう)をしてみなさい」と言(い)われた。 5シモンは答(こた)えて言(い)った、「先生(せんせい)、わたしたちは夜通(よどお)し働(はたら)きましたが、何(なに)も取(と)れませんでした。しかし、お言葉(ことば)ですから、網(あみ)をおろしてみましょう」。 6そしてそのとおりにしたところ、おびただしい魚(うお)の群(む)れがはいって、網(あみ)が破(やぶ)れそうになった。 7そこで、もう一そうの舟(ふね)にいた仲間(なかま)に、加勢(かせい)に来(く)るよう合図(あいず)をしたので、彼(かれ)らがきて魚(うお)を両方(りょうほう)の舟(ふね)いっぱいに入(い)れた。そのために、舟(ふね)が沈(しず)みそうになった。 8これを見(み)てシモン・ペテロは、イエスのひざもとにひれ伏(ふ)して言(い)った、「主(しゅ)よ、わたしから離(はな)れてください。わたしは罪深(つみふか)い者(もの)です」。 9彼(かれ)も一緒(いっしょ)にいた者(もの)たちもみな、取(と)れた魚(うお)がおびただしいのに驚(おどろ)いたからである。 10シモンの仲間(なかま)であったゼベダイの子(こ)ヤコブとヨハネも、同様(どうよう)であった。すると、イエスがシモンに言(い)われた、「恐(おそ)れることはない。今(いま)からあなたは人間(にんげん)をとる漁師(りょうし)になるのだ」。 11そこで彼(かれ)らは舟(ふね)を陸(りく)に引(ひ)き上(あ)げ、いっさいを捨(す)ててイエスに従(したが)った。

12イエスがある町(まち)におられた時(とき)、全身(ぜんしん)らい病(びょう)になっている人(ひと)がそこにいた。イエスを見(み)ると、顔(かお)を地(ち)に伏(ふ)せて願(ねが)って言(い)った、「主(しゅ)よ、みこころでしたら、きよめていただけるのですが」。 13イエスは手(て)を伸(の)ばして彼(かれ)にさわり、「そうしてあげよう、きよくなれ」と言(い)われた。すると、らい病(びょう)がただちに去(さ)ってしまった。 14イエスは、だれにも話(はな)さないようにと彼(かれ)に言(い)い聞(き)かせ、「ただ行(い)って自分(じぶん)のからだを祭司(さいし)に見(み)せ、それからあなたのきよめのため、モーセが命(めい)じたとおりのささげ物(もの)をして、人々(ひとびと)に証明(しょうめい)しなさい」とお命(めい)じになった。 15しかし、イエスの評判(ひょうばん)はますますひろまって行(い)き、おびただしい群衆(ぐんしゅう)が、教(おしえ)を聞(き)いたり、病気(びょうき)をなおしてもらったりするために、集(あつ)まってきた。 16しかしイエスは、寂(さび)しい所(ところ)に退(しりぞ)いて祈(いの)っておられた。

17ある日(ひ)のこと、イエスが教(おし)えておられると、ガリラヤやユダヤの方々(ほうぼう)の村(むら)から、またエルサレムからきたパリサイ人(びと)や律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが、そこにすわっていた。主(しゅ)の力(ちから)が働(はたら)いて、イエスは人々(ひとびと)をいやされた。 18その時(とき)、ある人々(ひとびと)が、ひとりの中風(ちゅうぶ)をわずらっている人(ひと)を床(とこ)にのせたまま連(つ)れてきて、家(いえ)の中(なか)に運(はこ)び入(い)れ、イエスの前(まえ)に置(お)こうとした。 19ところが、群衆(ぐんしゅう)のためにどうしても運(はこ)び入(い)れる方法(ほうほう)がなかったので、屋根(やね)にのぼり、瓦(かわら)をはいで、病人(びょうにん)を床(とこ)ごと群衆(ぐんしゅう)のまん中(なか)につりおろして、イエスの前(まえ)においた。 20イエスは彼(かれ)らの信仰(しんこう)を見(み)て、「人(ひと)よ、あなたの罪(つみ)はゆるされた」と言(い)われた。 21すると律法(りっぽう)学者(がくしゃ)とパリサイ人(びと)たちとは、「神(かみ)を汚(けが)すことを言(い)うこの人(ひと)は、いったい、何者(なにもの)だ。神(かみ)おひとりのほかに、だれが罪(つみ)をゆるすことができるか」と言(い)って論(ろん)じはじめた。 22イエスは彼(かれ)らの論議(ろんぎ)を見(み)ぬいて、「あなたがたは心(こころ)の中(なか)で何(なに)を論(ろん)じているのか。 23あなたの罪(つみ)はゆるされたと言(い)うのと、起(お)きて歩(ある)けと言(い)うのと、どちらがたやすいか。 24しかし、人(ひと)の子(こ)は地上(ちじょう)で罪(つみ)をゆるす権威(けんい)を持(も)っていることが、あなたがたにわかるために」と彼(かれ)らに対(たい)して言(い)い、中風(ちゅうぶ)の者(もの)にむかって、「あなたに命(めい)じる。起(お)きよ、床(とこ)を取(と)り上(あ)げて家(いえ)に帰(かえ)れ」と言(い)われた。 25すると病人(びょうにん)は即座(そくざ)にみんなの前(まえ)で起(お)きあがり、寝(ね)ていた床(とこ)を取(と)りあげて、神(かみ)をあがめながら家(いえ)に帰(かえ)って行(い)った。 26みんなの者(もの)は驚嘆(きょうたん)してしまった。そして神(かみ)をあがめ、おそれに満(み)たされて、「きょうは驚(おどろ)くべきことを見(み)た」と言(い)った。

27そののち、イエスが出(で)て行(い)かれると、レビという名(な)の取税人(しゅぜいにん)が収税所(しゅうぜいしょ)にすわっているのを見(み)て、「わたしに従(したが)ってきなさい」と言(い)われた。 28すると、彼(かれ)はいっさいを捨(す)てて立(た)ちあがり、イエスに従(したが)ってきた。 29それから、レビは自分(じぶん)の家(いえ)で、イエスのために盛大(せいだい)な宴会(えんかい)を催(もよお)したが、取税人(しゅぜいにん)やそのほか大(おお)ぜいの人々(ひとびと)が、共(とも)に食卓(しょくたく)に着(つ)いていた。 30ところが、パリサイ人(びと)やその律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが、イエスの弟子(でし)たちに対(たい)してつぶやいて言(い)った、「どうしてあなたがたは、取税人(しゅぜいにん)や罪人(つみびと)などと飲食(いんしょく)を共(とも)にするのか」。 31イエスは答(こた)えて言(い)われた、「健康(けんこう)な人(ひと)には医者(いしゃ)はいらない。いるのは病人(びょうにん)である。 32わたしがきたのは、義人(ぎじん)を招(まね)くためではなく、罪人(つみびと)を招(まね)いて悔(く)い改(あらた)めさせるためである」。

33また彼(かれ)らはイエスに言(い)った、「ヨハネの弟子(でし)たちは、しばしば断食(だんじき)をし、また祈(いのり)をしており、パリサイ人(びと)の弟子(でし)たちもそうしているのに、あなたの弟子(でし)たちは食(た)べたり飲(の)んだりしています」。 34するとイエスは言(い)われた、「あなたがたは、花婿(はなむこ)が一緒(いっしょ)にいるのに、婚礼(こんれい)の客(きゃく)に断食(だんじき)をさせることができるであろうか。 35しかし、花婿(はなむこ)が奪(うば)い去(さ)られる日(ひ)が来(く)る。その日(ひ)には断食(だんじき)をするであろう」。 36それからイエスはまた一つの譬(たとえ)を語(かた)られた、「だれも、新(あたら)しい着物(きもの)から布(ぬの)ぎれを切(き)り取(と)って、古(ふる)い着物(きもの)につぎを当(あ)てるものはない。もしそんなことをしたら、新(あたら)しい着物(きもの)を裂(さ)くことになるし、新(あたら)しいのから取(と)った布(ぬの)ぎれも古(ふる)いのに合(あ)わないであろう。 37まただれも、新(あたら)しいぶどう酒(しゅ)を古(ふる)い皮(かわ)袋(ぶくろ)に入(い)れはしない。もしそんなことをしたら、新(あたら)しいぶどう酒(しゅ)は皮(かわ)袋(ぶくろ)をはり裂(さ)き、そしてぶどう酒(しゅ)は流(な)れ出(で)るし、皮(かわ)袋(ぶくろ)もむだになるであろう。 38新(あたら)しいぶどう酒(しゅ)は新(あたら)しい皮(かわ)袋(ぶくろ)に入(い)れるべきである。 39まただれも、古(ふる)い酒(さけ)を飲(の)んでから、新(あたら)しいのをほしがりはしない。『古(ふる)いのが良(よ)い』と考(かんが)えているからである」。

第六章

1ある安息日(あんそくにち)にイエスが麦畑(むぎばたけ)の中(なか)をとおって行(い)かれたとき、弟子(でし)たちが穂(ほ)をつみ、手(て)でもみながら食(た)べていた。 2すると、あるパリサイ人(びと)たちが言(い)った、「あなたがたはなぜ、安息日(あんそくにち)にしてはならぬことをするのか」。 3そこでイエスが答(こた)えて言(い)われた、「あなたがたは、ダビデとその供(とも)の者(もの)たちとが飢(う)えていたとき、ダビデのしたことについて、読(よ)んだことがないのか。 4すなわち、神(かみ)の家(いえ)にはいって、祭司(さいし)たちのほかだれも食(た)べてはならぬ供(そな)えのパンを取(と)って食(た)べ、また供(とも)の者(もの)たちにも与(あた)えたではないか」。 5また彼(かれ)らに言(い)われた、「人(ひと)の子(こ)は安息日(あんそくにち)の主(しゅ)である」。

6また、ほかの安息日(あんそくにち)に会堂(かいどう)にはいって教(おし)えておられたところ、そこに右手(みぎて)のなえた人(ひと)がいた。 7律法(りっぽう)学者(がくしゃ)やパリサイ人(びと)たちは、イエスを訴(うった)える口実(こうじつ)を見付(みつ)けようと思(おも)って、安息日(あんそくにち)にいやされるかどうかをうかがっていた。 8イエスは彼(かれ)らの思(おも)っていることを知(し)って、その手(て)のなえた人(ひと)に、「起(お)きて、まん中(なか)に立(た)ちなさい」と言(い)われると、起(お)き上(あ)がって立(た)った。 9そこでイエスは彼(かれ)らにむかって言(い)われた、「あなたがたに聞(き)くが、安息日(あんそくにち)に善(ぜん)を行(おこな)うのと悪(あく)を行(おこな)うのと、命(いのち)を救(すく)うのと殺(ころ)すのと、どちらがよいか」。 10そして彼(かれ)ら一同(いちどう)を見(み)まわして、その人(ひと)に「手(て)を伸(の)ばしなさい」と言(い)われた。そのとおりにすると、その手(て)は元(もと)どおりになった。 11そこで彼(かれ)らは激(はげ)しく怒(いか)って、イエスをどうかしてやろうと、互(たがい)に話合(はなしあ)いをはじめた。

12このころ、イエスは祈(いの)るために山(やま)へ行(い)き、夜(よ)を徹(てっ)して神(かみ)に祈(いの)られた。 13夜(よ)が明(あ)けると、弟子(でし)たちを呼(よ)び寄(よ)せ、その中(なか)から十二人(にん)を選(えら)び出(だ)し、これに使徒(しと)という名(な)をお与(あた)えになった。 14すなわち、ペテロとも呼(よ)ばれたシモンとその兄弟(きょうだい)アンデレ、ヤコブとヨハネ、ピリポとバルトロマイ、 15マタイとトマス、アルパヨの子(こ)ヤコブと、熱心(ねっしん)党(とう)と呼(よ)ばれたシモン、 16ヤコブの子(こ)ユダ、それからイスカリオテのユダ。このユダが裏切者(うらぎりもの)となったのである。 17そして、イエスは彼(かれ)らと一緒(いっしょ)に山(やま)を下(くだ)って平地(ひらち)に立(た)たれたが、大(おお)ぜいの弟子(でし)たちや、ユダヤ全土(ぜんど)、エルサレム、ツロとシドンの海岸(かいがん)地方(ちほう)などからの大(だい)群衆(ぐんしゅう)が、 18教(おしえ)を聞(き)こうとし、また病気(びょうき)をなおしてもらおうとして、そこにきていた。そして汚(けが)れた霊(れい)に悩(なや)まされている者(もの)たちも、いやされた。 19また群衆(ぐんしゅう)はイエスにさわろうと努(つと)めた。それは力(ちから)がイエスの内(うち)から出(で)て、みんなの者(もの)を次々(つぎつぎ)にいやしたからである。 20そのとき、イエスは目(め)をあげ、弟子(でし)たちを見(み)て言(い)われた、
「あなたがた貧(まず)しい人(ひと)たちは、さいわいだ。
神(かみ)の国(くに)はあなたがたのものである。
21あなたがたいま飢(う)えている人(ひと)たちは、さいわいだ。
飽(あ)き足(た)りるようになるからである。
あなたがたいま泣(な)いている人(ひと)たちは、さいわいだ。
笑(わら)うようになるからである。
22人々(ひとびと)があなたがたを憎(にく)むとき、また人(ひと)の子(こ)のためにあなたがたを排斥(はいせき)し、ののしり、汚名(おめい)を着(き)せるときは、あなたがたはさいわいだ。
23その日(ひ)には喜(よろこ)びおどれ。見(み)よ、天(てん)においてあなたがたの受(う)ける報(むく)いは大(おお)きいのだから。彼(かれ)らの祖先(そせん)も、預言者(よげんしゃ)たちに対(たい)して同(おな)じことをしたのである。
24しかしあなたがた富(と)んでいる人(ひと)たちは、わざわいだ。
慰(なぐさ)めを受(う)けてしまっているからである。
25あなたがた今(いま)満腹(まんぷく)している人(ひと)たちは、わざわいだ。
飢(う)えるようになるからである。
あなたがた今(いま)笑(わら)っている人(ひと)たちは、わざわいだ。悲(かな)しみ泣(な)くようになるからである。
26人(ひと)が皆(みな)あなたがたをほめるときは、あなたがたはわざわいだ。彼(かれ)らの祖先(そせん)も、にせ預言者(よげんしゃ)たちに対(たい)して同(おな)じことをしたのである。
27しかし、聞(き)いているあなたがたに言(い)う。敵(てき)を愛(あい)し、憎(にく)む者(もの)に親切(しんせつ)にせよ。 28のろう者(もの)を祝福(しゅくふく)し、はずかしめる者(もの)のために祈(いの)れ。 29あなたの頬(ほお)を打(う)つ者(もの)にはほかの頬(ほお)をも向(む)けてやり、あなたの上着(うわぎ)を奪(うば)い取(と)る者(もの)には下着(したぎ)をも拒(こば)むな。 30あなたに求(もと)める者(もの)には与(あた)えてやり、あなたの持(も)ち物(もの)を奪(うば)う者(もの)からは取(と)りもどそうとするな。 31人々(ひとびと)にしてほしいと、あなたがたの望(のぞ)むことを、人々(ひとびと)にもそのとおりにせよ。 32自分(じぶん)を愛(あい)してくれる者(もの)を愛(あい)したからとて、どれほどの手柄(てがら)になろうか。罪人(つみびと)でさえ、自分(じぶん)を愛(あい)してくれる者(もの)を愛(あい)している。 33自分(じぶん)によくしてくれる者(もの)によくしたとて、どれほどの手柄(てがら)になろうか。罪人(つみびと)でさえ、それくらいの事(こと)はしている。 34また返(かえ)してもらうつもりで貸(か)したとて、どれほどの手柄(てがら)になろうか。罪人(つみびと)でも、同(おな)じだけのものを返(かえ)してもらおうとして、仲間(なかま)に貸(か)すのである。 35しかし、あなたがたは、敵(てき)を愛(あい)し、人(ひと)によくしてやり、また何(なに)も当(あ)てにしないで貸(か)してやれ。そうすれば受(う)ける報(むく)いは大(おお)きく、あなたがたはいと高(たか)き者(もの)の子(こ)となるであろう。いと高(たか)き者(もの)は、恩(おん)を知(し)らぬ者(もの)にも悪人(あくにん)にも、なさけ深(ぶか)いからである。 36あなたがたの父(ちち)なる神(かみ)が慈悲(じひ)深(ぶか)いように、あなたがたも慈悲(じひ)深(ぶか)い者(もの)となれ。 37人(ひと)をさばくな。そうすれば、自分(じぶん)もさばかれることがないであろう。また人(ひと)を罪(つみ)に定(さだ)めるな。そうすれば、自分(じぶん)も罪(つみ)に定(さだ)められることがないであろう。ゆるしてやれ。そうすれば、自分(じぶん)もゆるされるであろう。 38与(あた)えよ。そうすれば、自分(じぶん)にも与(あた)えられるであろう。人々(ひとびと)はおし入(い)れ、ゆすり入(い)れ、あふれ出(で)るまでに量(りょう)をよくして、あなたがたのふところに入(い)れてくれるであろう。あなたがたの量(はか)るその量(はか)りで、自分(じぶん)にも量(はか)りかえされるであろうから」。

39イエスはまた一つの譬(たとえ)を語(かた)られた、「盲人(もうじん)は盲人(もうじん)の手引(てびき)ができようか。ふたりとも穴(あな)に落(お)ち込(こ)まないだろうか。 40弟子(でし)はその師(し)以上(いじょう)のものではないが、修業(しゅうぎょう)をつめば、みなその師(し)のようになろう。 41なぜ、兄弟(きょうだい)の目(め)にあるちりを見(み)ながら、自分(じぶん)の目(め)にある梁(はり)を認(みと)めないのか。 42自分(じぶん)の目(め)にある梁(はり)は見(み)ないでいて、どうして兄弟(きょうだい)にむかって、兄弟(きょうだい)よ、あなたの目(め)にあるちりを取(と)らせてください、と言(い)えようか。偽善者(ぎぜんしゃ)よ、まず自分(じぶん)の目(め)から梁(はり)を取(と)りのけるがよい、そうすれば、はっきり見(み)えるようになって、兄弟(きょうだい)の目(め)にあるちりを取(と)りのけることができるだろう。 43悪(わる)い実(み)のなる良(よ)い木(き)はないし、また良(よ)い実(み)のなる悪(わる)い木(き)もない。 44木(き)はそれぞれ、その実(み)でわかる。いばらからいちじくを取(と)ることはないし、野(の)ばらからぶどうを摘(つ)むこともない。 45善人(ぜんにん)は良(よ)い心(こころ)の倉(くら)から良(よ)い物(もの)を取(と)り出(だ)し、悪人(あくにん)は悪(わる)い倉(くら)から悪(わる)い物(もの)を取(と)り出(だ)す。心(こころ)からあふれ出(で)ることを、口(くち)が語(かた)るものである。

46わたしを主(しゅ)よ、主(しゅ)よ、と呼(よ)びながら、なぜわたしの言(い)うことを行(おこな)わないのか。 47わたしのもとにきて、わたしの言葉(ことば)を聞(き)いて行(おこな)う者(もの)が、何(なに)に似(に)ているか、あなたがたに教(おし)えよう。 48それは、地(ち)を深(ふか)く掘(ほ)り、岩(いわ)の上(うえ)に土台(どだい)をすえて家(いえ)を建(た)てる人(ひと)に似(に)ている。洪水(こうずい)が出(で)て激流(げきりゅう)がその家(いえ)に押(お)し寄(よ)せてきても、それを揺(ゆ)り動(うご)かすことはできない。よく建(た)ててあるからである。 49しかし聞(き)いても行(おこな)わない人(ひと)は、土台(どだい)なしで、土(つち)の上(うえ)に家(いえ)を建(た)てた人(ひと)に似(に)ている。激流(げきりゅう)がその家(いえ)に押(お)し寄(よ)せてきたら、たちまち倒(たお)れてしまい、その被害(ひがい)は大(おお)きいのである」。

第七章

1イエスはこれらの言葉(ことば)をことごとく人々(ひとびと)に聞(き)かせてしまったのち、カペナウムに帰(かえ)ってこられた。 2ところが、ある百卒長(ひゃくそつちょう)の頼(たの)みにしていた僕(しもべ)が、病気(びょうき)になって死(し)にかかっていた。 3この百卒長(ひゃくそつちょう)はイエスのことを聞(き)いて、ユダヤ人(じん)の長老(ちょうろう)たちをイエスのところにつかわし、自分(じぶん)の僕(しもべ)を助(たす)けにきてくださるようにと、お願(ねが)いした。 4彼(かれ)らはイエスのところにきて、熱心(ねっしん)に願(ねが)って言(い)った、「あの人(ひと)はそうしていただくねうちがございます。 5わたしたちの国民(こくみん)を愛(あい)し、わたしたちのために会堂(かいどう)を建(た)ててくれたのです」。 6そこで、イエスは彼(かれ)らと連(つ)れだってお出(で)かけになった。ところが、その家(いえ)からほど遠(とお)くないあたりまでこられたとき、百卒長(ひゃくそつちょう)は友(とも)だちを送(おく)ってイエスに言(い)わせた、「主(しゅ)よ、どうぞ、ご足労(そくろう)くださいませんように。わたしの屋根(やね)の下(した)にあなたをお入(い)れする資格(しかく)は、わたしにはございません。 7それですから、自分(じぶん)でお迎(むか)えにあがるねうちさえないと思(おも)っていたのです。ただ、お言葉(ことば)を下(くだ)さい。そして、わたしの僕(しもべ)をなおしてください。 8わたしも権威(けんい)の下(した)に服(ふく)している者(もの)ですが、わたしの下(した)にも兵卒(へいそつ)がいまして、ひとりの者(もの)に『行(い)け』と言(い)えば行(い)き、ほかの者(もの)に『こい』と言(い)えばきますし、また、僕(しもべ)に『これをせよ』と言(い)えば、してくれるのです」。 9イエスはこれを聞(き)いて非常(ひじょう)に感心(かんしん)され、ついてきた群衆(ぐんしゅう)の方(ほう)に振(ふ)り向(む)いて言(い)われた、「あなたがたに言(い)っておくが、これほどの信仰(しんこう)は、イスラエルの中(なか)でも見(み)たことがない」。 10使(つかい)にきた者(もの)たちが家(いえ)に帰(かえ)ってみると、僕(しもべ)は元気(げんき)になっていた。

11そののち、間(ま)もなく、ナインという町(まち)へおいでになったが、弟子(でし)たちや大(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)も一緒(いっしょ)に行(い)った。 12町(まち)の門(もん)に近(ちか)づかれると、ちょうど、あるやもめにとってひとりむすこであった者(もの)が死(し)んだので、葬(ほうむ)りに出(だ)すところであった。大(おお)ぜいの町(まち)の人(ひと)たちが、その母(はは)につきそっていた。 13主(しゅ)はこの婦人(ふじん)を見(み)て深(ふか)い同情(どうじょう)を寄(よ)せられ、「泣(な)かないでいなさい」と言(い)われた。 14そして近寄(ちかよ)って棺(かん)に手(て)をかけられると、かついでいる者(もの)たちが立(た)ち止(ど)まったので、「若者(わかもの)よ、さあ、起(お)きなさい」と言(い)われた。 15すると、死人(しにん)が起(お)き上(あ)がって物(もの)を言(い)い出(だ)した。イエスは彼(かれ)をその母(はは)にお渡(わた)しになった。 16人々(ひとびと)はみな恐(おそ)れをいだき、「大(だい)預言者(よげんしゃ)がわたしたちの間(あいだ)に現(あらわ)れた」、また、「神(かみ)はその民(たみ)を顧(かえり)みてくださった」と言(い)って、神(かみ)をほめたたえた。 17イエスについてのこの話(はなし)は、ユダヤ全土(ぜんど)およびその附近(ふきん)のいたる所(ところ)にひろまった。

18ヨハネの弟子(でし)たちは、これらのことを全部(ぜんぶ)彼(かれ)に報告(ほうこく)した。するとヨハネは弟子(でし)の中(なか)からふたりの者(もの)を呼(よ)んで、 19主(しゅ)のもとに送(おく)り、「『きたるべきかた』はあなたなのですか。それとも、ほかにだれかを待(ま)つべきでしょうか」と尋(たず)ねさせた。 20そこで、この人(ひと)たちがイエスのもとにきて言(い)った、「わたしたちはバプテスマのヨハネからの使(つかい)ですが、『きたるべきかた』はあなたなのですか、それとも、ほかにだれかを待(ま)つべきでしょうか、とヨハネが尋(たず)ねています」。 21そのとき、イエスはさまざまの病苦(びょうく)と悪霊(あくれい)とに悩(なや)む人々(ひとびと)をいやし、また多(おお)くの盲人(もうじん)を見(み)えるようにしておられたが、 22答(こた)えて言(い)われた、「行(い)って、あなたがたが見聞(みき)きしたことを、ヨハネに報告(ほうこく)しなさい。盲人(もうじん)は見(み)え、足(あし)なえは歩(ある)き、らい病人(びょうにん)はきよまり、耳(みみ)しいは聞(きこ)え、死人(しにん)は生(い)きかえり、貧(まず)しい人々(ひとびと)は福音(ふくいん)を聞(き)かされている。 23わたしにつまずかない者(もの)は、さいわいである」。

24ヨハネの使(つかい)が行(い)ってしまうと、イエスはヨハネのことを群衆(ぐんしゅう)に語(かた)りはじめられた、「あなたがたは、何(なに)を見(み)に荒野(あらの)に出(で)てきたのか。風(かぜ)に揺(ゆ)らぐ葦(あし)であるか。 25では、何(なに)を見(み)に出(で)てきたのか。柔(やわ)らかい着物(きもの)をまとった人(ひと)か。きらびやかに着(つ)かざって、ぜいたくに暮(くら)している人々(ひとびと)なら、宮殿(きゅうでん)にいる。 26では、何(なに)を見(み)に出(で)てきたのか。預言者(よげんしゃ)か。そうだ、あなたがたに言(い)うが、預言者(よげんしゃ)以上(いじょう)の者(もの)である。
27『見(み)よ、わたしは使(つかい)をあなたの先(さき)につかわし、
あなたの前(まえ)に、道(みち)を整(ととの)えさせるであろう』
と書(か)いてあるのは、この人(ひと)のことである。 28あなたがたに言(い)っておく。女(おんな)の産(う)んだ者(もの)の中(なか)で、ヨハネより大(おお)きい人物(じんぶつ)はいない。しかし、神(かみ)の国(くに)で最(もっと)も小(ちい)さい者(もの)も、彼(かれ)よりは大(おお)きい。 29(これを聞(き)いた民衆(みんしゅう)は皆(みな)、また取税人(しゅぜいにん)たちも、ヨハネのバプテスマを受(う)けて神(かみ)の正(ただ)しいことを認(みと)めた。 30しかし、パリサイ人(びと)と律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとは彼(かれ)からバプテスマを受(う)けないで、自分(じぶん)たちに対(たい)する神(かみ)のみこころを無(む)にした。) 31だから今(いま)の時代(じだい)の人々(ひとびと)を何(なに)に比(くら)べようか。彼(かれ)らは何(なに)に似(に)ているか。 32それは子供(こども)たちが広場(ひろば)にすわって、互(たがい)に呼(よ)びかけ、
『わたしたちが笛(ふえ)を吹(ふ)いたのに、
あなたたちは踊(おど)ってくれなかった。
弔(とむら)いの歌(うた)を歌(うた)ったのに、
泣(な)いてくれなかった』
と言(い)うのに似(に)ている。 33なぜなら、バプテスマのヨハネがきて、パンを食(た)べることも、ぶどう酒(しゅ)を飲(の)むこともしないと、あなたがたは、あれは悪霊(あくれい)につかれているのだ、と言(い)い、 34また人(ひと)の子(こ)がきて食(た)べたり飲(の)んだりしていると、見(み)よ、あれは食(しょく)をむさぼる者(もの)、大酒(おおざけ)を飲(の)む者(もの)、また取税人(しゅぜいにん)、罪人(つみびと)の仲間(なかま)だ、と言(い)う。 35しかし、知恵(ちえ)の正(ただ)しいことは、そのすべての子(こ)が証明(しょうめい)する」。

36あるパリサイ人(びと)がイエスに、食事(しょくじ)を共(とも)にしたいと申(もう)し出(で)たので、そのパリサイ人(びと)の家(いえ)にはいって食卓(しょくたく)に着(つ)かれた。 37するとそのとき、その町(まち)で罪(つみ)の女(おんな)であったものが、パリサイ人(びと)の家(いえ)で食卓(しょくたく)に着(つ)いておられることを聞(き)いて、香油(こうゆ)が入(い)れてある石膏(せっこう)のつぼを持(も)ってきて、 38泣(な)きながら、イエスのうしろでその足(あし)もとに寄(よ)り、まず涙(なみだ)でイエスの足(あし)をぬらし、自分(じぶん)の髪(かみ)の毛(け)でぬぐい、そして、その足(あし)に接吻(せっぷん)して、香油(こうゆ)を塗(ぬ)った。 39イエスを招(まね)いたパリサイ人(びと)がそれを見(み)て、心(こころ)の中(なか)で言(い)った、「もしこの人(ひと)が預言者(よげんしゃ)であるなら、自分(じぶん)にさわっている女(おんな)がだれだか、どんな女(おんな)かわかるはずだ。それは罪(つみ)の女(おんな)なのだから」。 40そこでイエスは彼(かれ)にむかって言(い)われた、「シモン、あなたに言(い)うことがある」。彼(かれ)は「先生(せんせい)、おっしゃってください」と言(い)った。 41イエスが言(い)われた、「ある金貸(かねか)しに金(かね)をかりた人(ひと)がふたりいたが、ひとりは五百デナリ、もうひとりは五十デナリを借(か)りていた。 42ところが、返(かえ)すことができなかったので、彼(かれ)はふたり共(とも)ゆるしてやった。このふたりのうちで、どちらが彼(かれ)を多(おお)く愛(あい)するだろうか」。 43シモンが答(こた)えて言(い)った、「多(おお)くゆるしてもらったほうだと思(おも)います」。イエスが言(い)われた、「あなたの判断(はんだん)は正(ただ)しい」。 44それから女(おんな)の方(ほう)に振(ふ)り向(む)いて、シモンに言(い)われた、「この女(おんな)を見(み)ないか。わたしがあなたの家(いえ)にはいってきた時(とき)に、あなたは足(あし)を洗(あら)う水(みず)をくれなかった。ところが、この女(おんな)は涙(なみだ)でわたしの足(あし)をぬらし、髪(かみ)の毛(け)でふいてくれた。 45あなたはわたしに接吻(せっぷん)をしてくれなかったが、彼女(かのじょ)はわたしが家(いえ)にはいった時(とき)から、わたしの足(あし)に接吻(せっぷん)をしてやまなかった。 46あなたはわたしの頭(あたま)に油(あぶら)を塗(ぬ)ってくれなかったが、彼女(かのじょ)はわたしの足(あし)に香油(こうゆ)を塗(ぬ)ってくれた。 47それであなたに言(い)うが、この女(おんな)は多(おお)く愛(あい)したから、その多(おお)くの罪(つみ)はゆるされているのである。少(すこ)しだけゆるされた者(もの)は、少(すこ)しだけしか愛(あい)さない」。 48そして女(おんな)に、「あなたの罪(つみ)はゆるされた」と言(い)われた。 49すると同席(どうせき)の者(もの)たちが心(こころ)の中(なか)で言(い)いはじめた、「罪(つみ)をゆるすことさえするこの人(ひと)は、いったい、何者(なにもの)だろう」。 50しかし、イエスは女(おんな)にむかって言(い)われた、「あなたの信仰(しんこう)があなたを救(すく)ったのです。安心(あんしん)して行(い)きなさい」。

第八章

1そののちイエスは、神(かみ)の国(くに)の福音(ふくいん)を説(と)きまた伝(つた)えながら、町々(まちまち)村々(むらむら)を巡回(じゅんかい)し続(つづ)けられたが、十二弟子(でし)もお供(とも)をした。 2また悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)され病気(びょうき)をいやされた数名(すうめい)の婦人(ふじん)たち、すなわち、七つの悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)してもらったマグダラと呼(よ)ばれるマリヤ、 3ヘロデの家令(かれい)クーザの妻(つま)ヨハンナ、スザンナ、そのほか多(おお)くの婦人(ふじん)たちも一緒(いっしょ)にいて、自分(じぶん)たちの持(も)ち物(もの)をもって一行(いっこう)に奉仕(ほうし)した。

4さて、大(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)が集(あつ)まり、その上(うえ)、町々(まちまち)からの人(ひと)たちがイエスのところに、ぞくぞくと押(お)し寄(よ)せてきたので、一つの譬(たとえ)で話(はなし)をされた、 5「種(たね)まきが種(たね)をまきに出(で)て行(い)った。まいているうちに、ある種(たね)は道(みち)ばたに落(お)ち、踏(ふ)みつけられ、そして空(そら)の鳥(とり)に食(た)べられてしまった。 6ほかの種(たね)は岩(いわ)の上(うえ)に落(お)ち、はえはしたが水気(みずけ)がないので枯(か)れてしまった。 7ほかの種(たね)は、いばらの間(あいだ)に落(お)ちたので、いばらも一緒(いっしょ)に茂(しげ)ってきて、それをふさいでしまった。 8ところが、ほかの種(たね)は良(よ)い地(ち)に落(お)ちたので、はえ育(そだ)って百倍(ばい)もの実(み)を結(むす)んだ」。こう語(かた)られたのち、声(こえ)をあげて「聞(き)く耳(みみ)のある者(もの)は聞(き)くがよい」と言(い)われた。

9弟子(でし)たちは、この譬(たとえ)はどういう意味(いみ)でしょうか、とイエスに質問(しつもん)した。 10そこで言(い)われた、「あなたがたには、神(かみ)の国(くに)の奥義(おくぎ)を知(し)ることが許(ゆる)されているが、ほかの人(ひと)たちには、見(み)ても見(み)えず、聞(き)いても悟(さと)られないために、譬(たとえ)で話(はな)すのである。 11この譬(たとえ)はこういう意味(いみ)である。種(たね)は神(かみ)の言(ことば)である。 12道(みち)ばたに落(お)ちたのは、聞(き)いたのち、信(しん)じることも救(すく)われることもないように、悪魔(あくま)によってその心(こころ)から御言(みことば)が奪(うば)い取(と)られる人(ひと)たちのことである。 13岩(いわ)の上(うえ)に落(お)ちたのは、御言(みことば)を聞(き)いた時(とき)には喜(よろこ)んで受(う)けいれるが、根(ね)が無(な)いので、しばらくは信(しん)じていても、試錬(しれん)の時(とき)が来(く)ると、信仰(しんこう)を捨(す)てる人(ひと)たちのことである。 14いばらの中(なか)に落(お)ちたのは、聞(き)いてから日(ひ)を過(す)ごすうちに、生活(せいかつ)の心(こころ)づかいや富(とみ)や快楽(かいらく)にふさがれて、実(み)の熟(じゅく)するまでにならない人(ひと)たちのことである。 15良(よ)い地(ち)に落(お)ちたのは、御言(みことば)を聞(き)いたのち、これを正(ただ)しい良(よ)い心(こころ)でしっかりと守(まも)り、耐(た)え忍(しの)んで実(み)を結(むす)ぶに至(いた)る人(ひと)たちのことである。

16だれもあかりをともして、それを何(なに)かの器(うつわ)でおおいかぶせたり、寝台(しんだい)の下(した)に置(お)いたりはしない。燭台(しょくだい)の上(うえ)に置(お)いて、はいって来(く)る人(ひと)たちに光(ひかり)が見(み)えるようにするのである。 17隠(かく)されているもので、あらわにならないものはなく、秘密(ひみつ)にされているもので、ついには知(し)られ、明(あか)るみに出(だ)されないものはない。 18だから、どう聞(き)くかに注意(ちゅうい)するがよい。持(も)っている人(ひと)は更(さら)に与(あた)えられ、持(も)っていない人(ひと)は、持(も)っていると思(おも)っているものまでも、取(と)り上(あ)げられるであろう」。

19さて、イエスの母(はは)と兄弟(きょうだい)たちとがイエスのところにきたが、群衆(ぐんしゅう)のためそば近(ちか)くに行(い)くことができなかった。 20それで、だれかが「あなたの母上(ははうえ)と兄弟(きょうだい)がたが、お目(め)にかかろうと思(おも)って、外(そと)に立(た)っておられます」と取次(とりつ)いだ。 21するとイエスは人々(ひとびと)にむかって言(い)われた、「神(かみ)の御言(みことば)を聞(き)いて行(おこな)う者(もの)こそ、わたしの母(はは)、わたしの兄弟(きょうだい)なのである」。

22ある日(ひ)のこと、イエスは弟子(でし)たちと舟(ふね)に乗(の)り込(こ)み、「湖(みずうみ)の向(む)こう岸(ぎし)へ渡(わた)ろう」と言(い)われたので、一同(いちどう)が船出(ふなで)した。 23渡(わた)って行(い)く間(あいだ)に、イエスは眠(ねむ)ってしまわれた。すると突風(とっぷう)が湖(みずうみ)に吹(ふ)きおろしてきたので、彼(かれ)らは水(みず)をかぶって危険(きけん)になった。 24そこで、みそばに寄(よ)ってきてイエスを起(おこ)し、「先生(せんせい)、先生(せんせい)、わたしたちは死(し)にそうです」と言(い)った。イエスは起(お)き上(あ)がって、風(かぜ)と荒浪(あらなみ)とをおしかりになると、止(や)んでなぎになった。 25イエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「あなたがたの信仰(しんこう)は、どこにあるのか」。彼(かれ)らは恐(おそ)れ驚(おどろ)いて互(たがい)に言(い)い合(あ)った、「いったい、このかたはだれだろう。お命(めい)じになると、風(かぜ)も水(みず)も従(したが)うとは」。

26それから、彼(かれ)らはガリラヤの対岸(たいがん)、ゲラサ人(びと)の地(ち)に渡(わた)った。 27陸(りく)にあがられると、その町(まち)の人(ひと)で、悪霊(あくれい)につかれて長(なが)いあいだ着物(きもの)も着(き)ず、家(いえ)に居(い)つかないで墓場(はかば)にばかりいた人(ひと)に、出会(であ)われた。 28この人(ひと)がイエスを見(み)て叫(さけ)び出(だ)し、みまえにひれ伏(ふ)して大声(おおごえ)で言(い)った、「いと高(たか)き神(かみ)の子(こ)イエスよ、あなたはわたしとなんの係(かか)わりがあるのです。お願(ねが)いです、わたしを苦(くる)しめないでください」。 29それは、イエスが汚(けが)れた霊(れい)に、その人(ひと)から出(で)て行(い)け、とお命(めい)じになったからである。というのは、悪霊(あくれい)が何(なん)度(ど)も彼(かれ)をひき捕(とら)えたので、彼(かれ)は鎖(くさり)と足(あし)かせとでつながれて看(み)視(し)されていたが、それを断(た)ち切(き)っては悪霊(あくれい)によって荒野(あらの)へ追(お)いやられていたのである。 30イエスは彼(かれ)に「なんという名前(なまえ)か」とお尋(たず)ねになると、「レギオンと言(い)います」と答(こた)えた。彼(かれ)の中(なか)にたくさんの悪霊(あくれい)がはいり込(こ)んでいたからである。 31悪霊(あくれい)どもは、底(そこ)知(し)れぬ所(ところ)に落(お)ちて行(い)くことを自分(じぶん)たちにお命(めい)じにならぬようにと、イエスに願(ねが)いつづけた。 32ところが、そこの山(やま)べにおびただしい豚(ぶた)の群(む)れが飼(か)ってあったので、その豚(ぶた)の中(なか)へはいることを許(ゆる)していただきたいと、悪霊(あくれい)どもが願(ねが)い出(で)た。イエスはそれをお許(ゆる)しになった。 33そこで悪霊(あくれい)どもは、その人(ひと)から出(で)て豚(ぶた)の中(なか)へはいり込(こ)んだ。するとその群(む)れは、がけから湖(みずうみ)へなだれを打(う)って駆(か)け下(くだ)り、おぼれ死(し)んでしまった。 34飼(か)う者(もの)たちは、この出来事(できごと)を見(み)て逃(に)げ出(だ)して、町(まち)や村里(むらざと)にふれまわった。 35人々(ひとびと)はこの出来事(できごと)を見(み)に出(で)てきた。そして、イエスのところにきて、悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)してもらった人(ひと)が着物(きもの)を着(き)て、正気(しょうき)になってイエスの足(あし)もとにすわっているのを見(み)て、恐(おそ)れた。 36それを見(み)た人(ひと)たちは、この悪霊(あくれい)につかれていた者(もの)が救(すく)われた次第(しだい)を、彼(かれ)らに語(かた)り聞(き)かせた。 37それから、ゲラサの地方(ちほう)の民衆(みんしゅう)はこぞって、自分(じぶん)たちの所(ところ)から立(た)ち去(さ)ってくださるようにとイエスに頼(たの)んだ。彼(かれ)らが非常(ひじょう)な恐怖(きょうふ)に襲(おそ)われていたからである。そこで、イエスは舟(ふね)に乗(の)って帰(かえ)りかけられた。 38悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)してもらった人(ひと)は、お供(とも)をしたいと、しきりに願(ねが)ったが、イエスはこう言(い)って彼(かれ)をお帰(かえ)しになった。 39「家(いえ)へ帰(かえ)って、神(かみ)があなたにどんなに大(おお)きなことをしてくださったか、語(かた)り聞(き)かせなさい」。そこで彼(かれ)は立(た)ち去(さ)って、自分(じぶん)にイエスがして下(くだ)さったことを、ことごとく町中(まちじゅう)に言(い)いひろめた。

40イエスが帰(かえ)ってこられると、群衆(ぐんしゅう)は喜(よろこ)び迎(むか)えた。みんながイエスを待(ま)ちうけていたのである。 41するとそこに、ヤイロという名(な)の人(ひと)がきた。この人(ひと)は会堂司(かいどうづかさ)であった。イエスの足(あし)もとにひれ伏(ふ)して、自分(じぶん)の家(いえ)においでくださるようにと、しきりに願(ねが)った。 42彼(かれ)に十二歳(さい)ばかりになるひとり娘(むすめ)があったが、死(し)にかけていた。ところが、イエスが出(で)て行(い)かれる途中(とちゅう)、群衆(ぐんしゅう)が押(お)し迫(せま)ってきた。

43ここに、十二年間(ねんかん)も長(なが)血(ち)をわずらっていて、医者(いしゃ)のために自分(じぶん)の身代(しんだい)をみな使(つか)い果(はた)してしまったが、だれにもなおしてもらえなかった女(おんな)がいた。 44この女(おんな)がうしろから近寄(ちかよ)ってみ衣(ころも)のふさにさわったところ、その長(なが)血(ち)がたちまち止(と)まってしまった。 45イエスは言(い)われた、「わたしにさわったのは、だれか」。人々(ひとびと)はみな自分(じぶん)ではないと言(い)ったので、ペテロが「先生(せんせい)、群衆(ぐんしゅう)があなたを取(と)り囲(かこ)んで、ひしめき合(あ)っているのです」と答(こた)えた。 46しかしイエスは言(い)われた、「だれかがわたしにさわった。力(ちから)がわたしから出(で)て行(い)ったのを感(かん)じたのだ」。 47女(おんな)は隠(かく)しきれないのを知(し)って、震(ふる)えながら進(すす)み出(で)て、みまえにひれ伏(ふ)し、イエスにさわった訳(わけ)と、さわるとたちまちなおったこととを、みんなの前(まえ)で話(はな)した。 48そこでイエスが女(おんな)に言(い)われた、「娘(むすめ)よ、あなたの信仰(しんこう)があなたを救(すく)ったのです。安心(あんしん)して行(い)きなさい」。

49イエスがまだ話(はな)しておられるうちに、会堂司(かいどうづかさ)の家(いえ)から人(ひと)がきて、「お嬢(じょう)さんはなくなられました。この上(うえ)、先生(せんせい)を煩(わずら)わすには及(およ)びません」と言(い)った。 50しかしイエスはこれを聞(き)いて会堂司(かいどうづかさ)にむかって言(い)われた、「恐(おそ)れることはない。ただ信(しん)じなさい。娘(むすめ)は助(たす)かるのだ」。 51それから家(いえ)にはいられるとき、ペテロ、ヨハネ、ヤコブおよびその子(こ)の父母(ふぼ)のほかは、だれも一緒(いっしょ)にはいって来(く)ることをお許(ゆる)しにならなかった。 52人々(ひとびと)はみな、娘(むすめ)のために泣(な)き悲(かな)しんでいた。イエスは言(い)われた、「泣(な)くな、娘(むすめ)は死(し)んだのではない。眠(ねむ)っているだけである」。 53人々(ひとびと)は娘(むすめ)が死(し)んだことを知(し)っていたので、イエスをあざ笑(わら)った。 54イエスは娘(むすめ)の手(て)を取(と)って、呼(よ)びかけて言(い)われた、「娘(むすめ)よ、起(お)きなさい」。 55するとその霊(れい)がもどってきて、娘(むすめ)は即座(そくざ)に立(た)ち上(あ)がった。イエスは何(なに)か食(た)べ物(もの)を与(あた)えるように、さしずをされた。 56両親(りょうしん)は驚(おどろ)いてしまった。イエスはこの出来事(できごと)をだれにも話(はな)さないようにと、彼(かれ)らに命(めい)じられた。

第九章

1それからイエスは十二弟子(でし)を呼(よ)び集(あつ)めて、彼(かれ)らにすべての悪霊(あくれい)を制(せい)し、病気(びょうき)をいやす力(ちから)と権威(けんい)とをお授(さづ)けになった。 2また神(かみ)の国(くに)を宣(の)べ伝(つた)え、かつ病気(びょうき)をなおすためにつかわして 3言(い)われた、「旅(たび)のために何(なに)も携(たずさ)えるな。つえも袋(ふくろ)もパンも銭(ぜに)も持(も)たず、また下着(したぎ)も二枚(まい)は持(も)つな。 4また、どこかの家(いえ)にはいったら、そこに留(とど)まっておれ。そしてそこから出(で)かけることにしなさい。 5だれもあなたがたを迎(むか)えるものがいなかったら、その町(まち)を出(で)て行(い)くとき、彼(かれ)らに対(たい)する抗議(こうぎ)のしるしに、足(あし)からちりを払(はら)い落(おと)しなさい」。 6弟子(でし)たちは出(で)て行(い)って、村々(むらむら)を巡(めぐ)り歩(ある)き、いたる所(ところ)で福音(ふくいん)を宣(の)べ伝(つた)え、また病気(びょうき)をいやした。

7さて、領主(りょうしゅ)ヘロデはいろいろな出来事(できごと)を耳(みみ)にして、あわて惑(まど)っていた。それは、ある人(ひと)たちは、ヨハネが死人(しにん)の中(なか)からよみがえったと言(い)い、 8またある人(ひと)たちは、エリヤが現(あらわ)れたと言(い)い、またほかの人(ひと)たちは、昔(むかし)の預言者(よげんしゃ)のひとりが復活(ふっかつ)したのだと言(い)っていたからである。 9そこでヘロデが言(い)った、「ヨハネはわたしがすでに首(くび)を切(き)ったのだが、こうしてうわさされているこの人(ひと)は、いったい、だれなのだろう」。そしてイエスに会(あ)ってみようと思(おも)っていた。

10使徒(しと)たちは帰(かえ)ってきて、自分(じぶん)たちのしたことをすべてイエスに話(はな)した。それからイエスは彼(かれ)らを連(つ)れて、ベツサイダという町(まち)へひそかに退(しりぞ)かれた。 11ところが群衆(ぐんしゅう)がそれと知(し)って、ついてきたので、これを迎(むか)えて神(かみ)の国(くに)のことを語(かた)り聞(き)かせ、また治療(ちりょう)を要(よう)する人(ひと)たちをいやされた。 12それから日(ひ)が傾(かたむ)きかけたので、十二弟子(でし)がイエスのもとにきて言(い)った、「群衆(ぐんしゅう)を解散(かいさん)して、まわりの村々(むらむら)や部落(ぶらく)へ行(い)って宿(やど)を取(と)り、食物(しょくもつ)を手(て)にいれるようにさせてください。わたしたちはこんな寂(さび)しい所(ところ)にきているのですから」。 13しかしイエスは言(い)われた、「あなたがたの手(て)で食物(しょくもつ)をやりなさい」。彼(かれ)らは言(い)った、「わたしたちにはパン五つと魚(うお)二ひきしかありません、この大(おお)ぜいの人(ひと)のために食物(しょくもつ)を買(か)いに行(い)くかしなければ」。 14というのは、男(おとこ)が五千人(にん)ばかりもいたからである。しかしイエスは弟子(でし)たちに言(い)われた、「人々(ひとびと)をおおよそ五十人(にん)ずつの組(くみ)にして、すわらせなさい」。 15彼(かれ)らはそのとおりにして、みんなをすわらせた。 16イエスは五つのパンと二ひきの魚(うお)とを手(て)に取(と)り、天(てん)を仰(あお)いでそれを祝福(しゅくふく)してさき、弟子(でし)たちにわたして群衆(ぐんしゅう)に配(くば)らせた。 17みんなの者(もの)は食(た)べて満腹(まんぷく)した。そして、その余(あま)りくずを集(あつ)めたら、十二かごあった。

18イエスがひとりで祈(いの)っておられたとき、弟子(でし)たちが近(ちか)くにいたので、彼(かれ)らに尋(たず)ねて言(い)われた、「群衆(ぐんしゅう)はわたしをだれと言(い)っているか」。 19彼(かれ)らは答(こた)えて言(い)った、「バプテスマのヨハネだと、言(い)っています。しかしほかの人(ひと)たちは、エリヤだと言(い)い、また昔(むかし)の預言者(よげんしゃ)のひとりが復活(ふっかつ)したのだと、言(い)っている者(もの)もあります」。 20彼(かれ)らに言(い)われた、「それでは、あなたがたはわたしをだれと言(い)うか」。ペテロが答(こた)えて言(い)った、「神(かみ)のキリストです」。 21イエスは彼(かれ)らを戒(いまし)め、この事(こと)をだれにも言(い)うなと命(めい)じ、そして言(い)われた、 22「人(ひと)の子(こ)は必(かなら)ず多(おお)くの苦(くる)しみを受(う)け、長老(ちょうろう)、祭司長(さいしちょう)、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちに捨(す)てられ、また殺(ころ)され、そして三日(か)目(め)によみがえる」。 23それから、みんなの者(もの)に言(い)われた、「だれでもわたしについてきたいと思(おも)うなら、自分(じぶん)を捨(す)て、日々(ひび)自分(じぶん)の十字架(じゅうじか)を負(お)うて、わたしに従(したが)ってきなさい。 24自分(じぶん)の命(いのち)を救(すく)おうと思(おも)う者(もの)はそれを失(うしな)い、わたしのために自分(じぶん)の命(いのち)を失(うしな)う者(もの)は、それを救(すく)うであろう。 25人(ひと)が全(ぜん)世界(せかい)をもうけても、自分(じぶん)自身(じしん)を失(うしな)いまたは損(そん)したら、なんの得(え)になろうか。 26わたしとわたしの言葉(ことば)とを恥(は)じる者(もの)に対(たい)しては、人(ひと)の子(こ)もまた、自分(じぶん)の栄光(えいこう)と、父(ちち)と聖(せい)なる御使(みつかい)との栄光(えいこう)のうちに現(あらわ)れて来(く)るとき、その者(もの)を恥(は)じるであろう。 27よく聞(き)いておくがよい、神(かみ)の国(くに)を見(み)るまでは、死(し)を味(あじ)わわない者(もの)が、ここに立(た)っている者(もの)の中(なか)にいる」。

28これらのことを話(はな)された後(のち)、八日(か)ほどたってから、イエスはペテロ、ヨハネ、ヤコブを連(つ)れて、祈(いの)るために山(やま)に登(のぼ)られた。 29祈(いの)っておられる間(あいだ)に、み顔(かお)の様(さま)が変(かわ)り、み衣(ころも)がまばゆいほどに白(しろ)く輝(かがや)いた。 30すると見(み)よ、ふたりの人(ひと)がイエスと語(かた)り合(あ)っていた。それはモーセとエリヤであったが、 31栄光(えいこう)の中(なか)に現(あらわ)れて、イエスがエルサレムで遂(と)げようとする最後(さいご)のことについて話(はな)していたのである。 32ペテロとその仲間(なかま)の者(もの)たちとは熟睡(じゅくすい)していたが、目(め)をさますと、イエスの栄光(えいこう)の姿(すがた)と、共(とも)に立(た)っているふたりの人(ひと)とを見(み)た。 33このふたりがイエスを離(はな)れ去(さ)ろうとしたとき、ペテロは自分(じぶん)が何(なに)を言(い)っているのかわからないで、イエスに言(い)った、「先生(せんせい)、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋(こや)を三つ建(た)てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために」。 34彼(かれ)がこう言(い)っている間(あいだ)に、雲(くも)がわき起(おこ)って彼(かれ)らをおおいはじめた。そしてその雲(くも)に囲(かこ)まれたとき、彼(かれ)らは恐(おそ)れた。 35すると雲(くも)の中(なか)から声(こえ)があった、「これはわたしの子(こ)、わたしの選(えら)んだ者(もの)である。これに聞(き)け」。 36そして声(こえ)が止(や)んだとき、イエスがひとりだけになっておられた。弟子(でし)たちは沈黙(ちんもく)を守(まも)って、自分(じぶん)たちが見(み)たことについては、そのころだれにも話(はな)さなかった。

37翌日(よくじつ)、一同(いちどう)が山(やま)を降(お)りて来(く)ると、大(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がイエスを出迎(でむか)えた。 38すると突然(とつぜん)、ある人(ひと)が群衆(ぐんしゅう)の中(なか)から大声(おおごえ)をあげて言(い)った、「先生(せんせい)、お願(ねが)いです。わたしのむすこを見(み)てやってください。この子(こ)はわたしのひとりむすこですが、 39霊(れい)が取(と)りつきますと、彼(かれ)は急(きゅう)に叫(さけ)び出(だ)すのです。それから、霊(れい)は彼(かれ)をひきつけさせて、あわを吹(ふ)かせ、彼(かれ)を弱(よわ)り果(は)てさせて、なかなか出(で)て行(い)かないのです。 40それで、お弟子(でし)たちに、この霊(れい)を追(お)い出(だ)してくださるように願(ねが)いましたが、できませんでした」。 41イエスは答(こた)えて言(い)われた、「ああ、なんという不(ふ)信仰(しんこう)な、曲(まが)った時代(じだい)であろう。いつまで、わたしはあなたがたと一緒(いっしょ)におられようか、またあなたがたに我慢(がまん)ができようか。あなたの子(こ)をここに連(つ)れてきなさい」。 42ところが、その子(こ)がイエスのところに来(く)る時(とき)にも、悪霊(あくれい)が彼(かれ)を引(ひ)き倒(たお)して、引(ひ)きつけさせた。イエスはこの汚(けが)れた霊(れい)をしかりつけ、その子供(こども)をいやして、父親(ちちおや)にお渡(わた)しになった。 43人々(ひとびと)はみな、神(かみ)の偉大(いだい)な力(ちから)に非常(ひじょう)に驚(おどろ)いた。

みんなの者(もの)がイエスのしておられた数々(かずかず)の事(こと)を不思議(ふしぎ)に思(おも)っていると、弟子(でし)たちに言(い)われた、 44「あなたがたはこの言葉(ことば)を耳(みみ)におさめて置(お)きなさい。人(ひと)の子(こ)は人々(ひとびと)の手(て)に渡(わた)されようとしている」。 45しかし、彼(かれ)らはなんのことかわからなかった。それが彼(かれ)らに隠(かく)されていて、悟(さと)ることができなかったのである。また彼(かれ)らはそのことについて尋(たず)ねるのを恐(おそ)れていた。

46弟子(でし)たちの間(あいだ)に、彼(かれ)らのうちでだれがいちばん偉(えら)いだろうかということで、議論(ぎろん)がはじまった。 47イエスは彼(かれ)らの心(こころ)の思(おも)いを見抜(みぬ)き、ひとりの幼(おさ)な子(ご)を取(と)りあげて自分(じぶん)のそばに立(た)たせ、彼(かれ)らに言(い)われた、 48「だれでもこの幼(おさ)な子(ご)をわたしの名(な)のゆえに受(う)けいれる者(もの)は、わたしを受(う)けいれるのである。そしてわたしを受(う)けいれる者(もの)は、わたしをおつかわしになったかたを受(う)けいれるのである。あなたがたみんなの中(なか)でいちばん小(ちい)さい者(もの)こそ、大(おお)きいのである」。

49するとヨハネが答(こた)えて言(い)った、「先生(せんせい)、わたしたちはある人(ひと)があなたの名(な)を使(つか)って悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)しているのを見(み)ましたが、その人(ひと)はわたしたちの仲間(なかま)でないので、やめさせました」。 50イエスは彼(かれ)に言(い)われた、「やめさせないがよい。あなたがたに反対(はんたい)しない者(もの)は、あなたがたの味方(みかた)なのである」。

51さて、イエスが天(てん)に上(あ)げられる日(ひ)が近(ちか)づいたので、エルサレムへ行(い)こうと決意(けつい)して、その方(ほう)へ顔(かお)をむけられ、 52自分(じぶん)に先立(さきだ)って使者(ししゃ)たちをおつかわしになった。そして彼(かれ)らがサマリヤ人(びと)の村(むら)へはいって行(い)き、イエスのために準備(じゅんび)をしようとしたところ、 53村人(むらびと)は、エルサレムへむかって進(すす)んで行(い)かれるというので、イエスを歓迎(かんげい)しようとはしなかった。 54弟子(でし)のヤコブとヨハネとはそれを見(み)て言(い)った、「主(しゅ)よ、いかがでしょう。彼(かれ)らを焼(や)き払(はら)ってしまうように、天(てん)から火(ひ)をよび求(もと)めましょうか」。 55イエスは振(ふ)りかえって、彼(かれ)らをおしかりになった。 56そして一同(いちどう)はほかの村(むら)へ行(い)った。

57道(みち)を進(すす)んで行(い)くと、ある人(ひと)がイエスに言(い)った、「あなたがおいでになる所(ところ)ならどこへでも従(したが)ってまいります」。 58イエスはその人(ひと)に言(い)われた、「きつねには穴(あな)があり、空(そら)の鳥(とり)には巣(す)がある。しかし、人(ひと)の子(こ)にはまくらする所(ところ)がない」。 59またほかの人(ひと)に、「わたしに従(したが)ってきなさい」と言(い)われた。するとその人(ひと)が言(い)った、「まず、父(ちち)を葬(ほうむ)りに行(い)かせてください」。 60彼(かれ)に言(い)われた、「その死人(しにん)を葬(ほうむ)ることは、死人(しにん)に任(まか)せておくがよい。あなたは、出(で)て行(い)って神(かみ)の国(くに)を告(つ)げひろめなさい」。 61またほかの人(ひと)が言(い)った、「主(しゅ)よ、従(したが)ってまいりますが、まず家(いえ)の者(もの)に別(わか)れを言(い)いに行(い)かせてください」。 62イエスは言(い)われた、「手(て)をすきにかけてから、うしろを見(み)る者(もの)は、神(かみ)の国(くに)にふさわしくないものである」。

第一〇章

1その後(のち)、主(しゅ)は別(べつ)に七十二人(にん)を選(えら)び、行(い)こうとしておられたすべての町(まち)や村(むら)へ、ふたりずつ先(さき)におつかわしになった。 2そのとき、彼(かれ)らに言(い)われた、「収穫(しゅうかく)は多(おお)いが、働(はたら)き人(びと)が少(すく)ない。だから、収穫(しゅうかく)の主(しゅ)に願(ねが)って、その収穫(しゅうかく)のために働(はたら)き人(びと)を送(おく)り出(だ)すようにしてもらいなさい。 3さあ、行(い)きなさい。わたしがあなたがたをつかわすのは、小羊(こひつじ)をおおかみの中(なか)に送(おく)るようなものである。 4財布(さいふ)も袋(ふくろ)もくつも持(も)って行(い)くな。だれにも道(みち)であいさつするな。 5どこかの家(いえ)にはいったら、まず『平安(へいあん)がこの家(いえ)にあるように』と言(い)いなさい。 6もし平安(へいあん)の子(こ)がそこにおれば、あなたがたの祈(いの)る平安(へいあん)はその人(ひと)の上(うえ)にとどまるであろう。もしそうでなかったら、それはあなたがたの上(うえ)に帰(かえ)って来(く)るであろう。 7それで、その同(おな)じ家(いえ)に留(とど)まっていて、家(いえ)の人(ひと)が出(だ)してくれるものを飲(の)み食(く)いしなさい。働(はたら)き人(びと)がその報(むく)いを得(え)るのは当然(とうぜん)である。家(いえ)から家(いえ)へと渡(わた)り歩(ある)くな。 8どの町(まち)へはいっても、人々(ひとびと)があなたがたを迎(むか)えてくれるなら、前(まえ)に出(だ)されるものを食(た)べなさい。 9そして、その町(まち)にいる病人(びょうにん)をいやしてやり、『神(かみ)の国(くに)はあなたがたに近(ちか)づいた』と言(い)いなさい。 10しかし、どの町(まち)へはいっても、人々(ひとびと)があなたがたを迎(むか)えない場合(ばあい)には、大通(おおどお)りに出(で)て行(い)って言(い)いなさい、 11『わたしたちの足(あし)についているこの町(まち)のちりも、ぬぐい捨(す)てて行(い)く。しかし、神(かみ)の国(くに)が近(ちか)づいたことは、承知(しょうち)しているがよい』。 12あなたがたに言(い)っておく。その日(ひ)には、この町(まち)よりもソドムの方(ほう)が耐(た)えやすいであろう。 13わざわいだ、コラジンよ。わざわいだ、ベツサイダよ。おまえたちの中(なか)でなされた力(ちから)あるわざが、もしツロとシドンでなされたなら、彼(かれ)らはとうの昔(むかし)に、荒布(あらぬの)をまとい灰(はい)の中(なか)にすわって、悔(く)い改(あらた)めたであろう。 14しかし、さばきの日(ひ)には、ツロとシドンの方(ほう)がおまえたちよりも、耐(た)えやすいであろう。 15ああ、カペナウムよ、おまえは天(てん)にまで上(あ)げられようとでもいうのか。黄泉(よみ)にまで落(おと)されるであろう。 16あなたがたに聞(き)き従(したが)う者(もの)は、わたしに聞(き)き従(したが)うのであり、あなたがたを拒(こば)む者(もの)は、わたしを拒(こば)むのである。そしてわたしを拒(こば)む者(もの)は、わたしをおつかわしになったかたを拒(こば)むのである」。

17七十二人(にん)が喜(よろこ)んで帰(かえ)ってきて言(い)った、「主(しゅ)よ、あなたの名(な)によっていたしますと、悪霊(あくれい)までがわたしたちに服従(ふくじゅう)します」。 18彼(かれ)らに言(い)われた、「わたしはサタンが電光(でんこう)のように天(てん)から落(お)ちるのを見(み)た。 19わたしはあなたがたに、へびやさそりを踏(ふ)みつけ、敵(てき)のあらゆる力(ちから)に打(う)ち勝(か)つ権威(けんい)を授(さづ)けた。だから、あなたがたに害(がい)をおよぼす者(もの)はまったく無(な)いであろう。 20しかし、霊(れい)があなたがたに服従(ふくじゅう)することを喜(よろこ)ぶな。むしろ、あなたがたの名(な)が天(てん)にしるされていることを喜(よろこ)びなさい」。

21そのとき、イエスは聖霊(せいれい)によって喜(よろこ)びあふれて言(い)われた、「天地(てんち)の主(しゅ)なる父(ちち)よ。あなたをほめたたえます。これらの事(こと)を知恵(ちえ)のある者(もの)や賢(かしこ)い者(もの)に隠(かく)して、幼(おさ)な子(ご)にあらわしてくださいました。父(ちち)よ、これはまことに、みこころにかなった事(こと)でした。 22すべての事(こと)は父(ちち)からわたしに任(まか)せられています。そして、子(こ)がだれであるかは、父(ちち)のほか知(し)っている者(もの)はありません。また父(ちち)がだれであるかは、子(こ)と、父(ちち)をあらわそうとして子(こ)が選(えら)んだ者(もの)とのほか、だれも知(し)っている者(もの)はいません」。 23それから弟子(でし)たちの方(ほう)に振(ふ)りむいて、ひそかに言(い)われた、「あなたがたが見(み)ていることを見(み)る目(め)は、さいわいである。 24あなたがたに言(い)っておく。多(おお)くの預言者(よげんしゃ)や王(おう)たちも、あなたがたの見(み)ていることを見(み)ようとしたが、見(み)ることができず、あなたがたの聞(き)いていることを聞(き)こうとしたが、聞(き)けなかったのである」。

25するとそこへ、ある律法(りっぽう)学者(がくしゃ)が現(あらわ)れ、イエスを試(こころ)みようとして言(い)った、「先生(せんせい)、何(なに)をしたら永遠(えいえん)の生命(せいめい)が受(う)けられましょうか」。 26彼(かれ)に言(い)われた、「律法(りっぽう)にはなんと書(か)いてあるか。あなたはどう読(よ)むか」。 27彼(かれ)は答(こた)えて言(い)った、「『心(こころ)をつくし、精神(せいしん)をつくし、力(ちから)をつくし、思(おも)いをつくして、主(しゅ)なるあなたの神(かみ)を愛(あい)せよ』。また、『自分(じぶん)を愛(あい)するように、あなたの隣(とな)り人(びと)を愛(あい)せよ』とあります」。 28彼(かれ)に言(い)われた、「あなたの答(こたえ)は正(ただ)しい。そのとおり行(おこな)いなさい。そうすれば、いのちが得(え)られる」。 29すると彼(かれ)は自分(じぶん)の立場(たちば)を弁護(べんご)しようと思(おも)って、イエスに言(い)った、「では、わたしの隣(とな)り人(びと)とはだれのことですか」。 30イエスが答(こた)えて言(い)われた、「ある人(ひと)がエルサレムからエリコに下(くだ)って行(い)く途中(とちゅう)、強盗(ごうとう)どもが彼(かれ)を襲(おそ)い、その着物(きもの)をはぎ取(と)り、傷(きず)を負(お)わせ、半殺(はんごろ)しにしたまま、逃(に)げ去(さ)った。 31するとたまたま、ひとりの祭司(さいし)がその道(みち)を下(くだ)ってきたが、この人(ひと)を見(み)ると、向(む)こう側(がわ)を通(とお)って行(い)った。 32同様(どうよう)に、レビ人(ひと)もこの場所(ばしょ)にさしかかってきたが、彼(かれ)を見(み)ると向(む)こう側(がわ)を通(とお)って行(い)った。 33ところが、あるサマリヤ人(びと)が旅(たび)をしてこの人(ひと)のところを通(とお)りかかり、彼(かれ)を見(み)て気(き)の毒(どく)に思(おも)い、 34近寄(ちかよ)ってきてその傷(きず)にオリブ油(ゆ)とぶどう酒(しゅ)とを注(そそ)いでほうたいをしてやり、自分(じぶん)の家畜(かちく)に乗(の)せ、宿屋(やどや)に連(つ)れて行(い)って介抱(かいほう)した。 35翌日(よくじつ)、デナリ二つを取(と)り出(だ)して宿屋(やどや)の主人(しゅじん)に手渡(てわた)し、『この人(ひと)を見(み)てやってください。費用(ひよう)がよけいにかかったら、帰(かえ)りがけに、わたしが支払(しはら)います』と言(い)った。 36この三人(にん)のうち、だれが強盗(ごうとう)に襲(おそ)われた人(ひと)の隣(とな)り人(びと)になったと思(おも)うか」。 37彼(かれ)が言(い)った、「その人(ひと)に慈悲(じひ)深(ぶか)い行(おこな)いをした人(ひと)です」。そこでイエスは言(い)われた、「あなたも行(い)って同(おな)じようにしなさい」。

38一同(いちどう)が旅(たび)を続(つづ)けているうちに、イエスがある村(むら)へはいられた。するとマルタという名(な)の女(おんな)がイエスを家(いえ)に迎(むか)え入(い)れた。 39この女(おんな)にマリヤという妹(いもうと)がいたが、主(しゅ)の足(あし)もとにすわって、御言(みことば)に聞(き)き入(い)っていた。 40ところが、マルタは接待(せったい)のことで忙(いそ)がしくて心(こころ)をとりみだし、イエスのところにきて言(い)った、「主(しゅ)よ、妹(いもうと)がわたしだけに接待(せったい)をさせているのを、なんともお思(おも)いになりませんか。わたしの手伝(てつだ)いをするように妹(いもうと)におっしゃってください」。 41主(しゅ)は答(こた)えて言(い)われた、「マルタよ、マルタよ、あなたは多(おお)くのことに心(こころ)を配(くば)って思(おも)いわずらっている。 42しかし、無(な)くてならぬものは多(おお)くはない。いや、一つだけである。マリヤはその良(よ)い方(ほう)を選(えら)んだのだ。そしてそれは、彼女(かのじょ)から取(と)り去(さ)ってはならないものである」。

第一一章

1また、イエスはある所(ところ)で祈(いの)っておられたが、それが終(おわ)ったとき、弟子(でし)のひとりが言(い)った、「主(しゅ)よ、ヨハネがその弟子(でし)たちに教(おし)えたように、わたしたちにも祈(いの)ることを教(おし)えてください」。 2そこで彼(かれ)らに言(い)われた、「祈(いの)るときには、こう言(い)いなさい、『父(ちち)よ、御名(みな)があがめられますように。御国(みくに)がきますように。 3わたしたちの日(ひ)ごとの食物(しょくもつ)を、日々(ひび)お与(あた)えください。 4わたしたちに負債(ふさい)のある者(もの)を皆(みな)ゆるしますから、わたしたちの罪(つみ)をもおゆるしください。わたしたちを試(こころ)みに会(あ)わせないでください』」。 5そして彼(かれ)らに言(い)われた、「あなたがたのうちのだれかに、友人(ゆうじん)があるとして、その人(ひと)のところへ真夜中(まよなか)に行(い)き、『友(とも)よ、パンを三つ貸(か)してください。 6友(とも)だちが旅先(たびさき)からわたしのところに着(つ)いたのですが、何(なに)も出(だ)すものがありませんから』と言(い)った場合(ばあい)、 7彼(かれ)は内(うち)から、『面倒(めんどう)をかけないでくれ。もう戸(と)は締(し)めてしまったし、子供(こども)たちもわたしと一緒(いっしょ)に床(とこ)にはいっているので、いま起(お)きて何(なに)もあげるわけにはいかない』と言(い)うであろう。 8しかし、よく聞(き)きなさい、友人(ゆうじん)だからというのでは起(お)きて与(あた)えないが、しきりに願(ねが)うので、起(お)き上(あ)がって必要(ひつよう)なものを出(だ)してくれるであろう。 9そこでわたしはあなたがたに言(い)う。求(もと)めよ、そうすれば、与(あた)えられるであろう。捜(さが)せ、そうすれば見(み)いだすであろう。門(もん)をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。 10すべて求(もと)める者(もの)は得(え)、捜(さが)す者(もの)は見(み)いだし、門(もん)をたたく者(もの)はあけてもらえるからである。 11あなたがたのうちで、父(ちち)であるものは、その子(こ)が魚(うお)を求(もと)めるのに、魚(うお)の代(かわ)りにへびを与(あた)えるだろうか。 12卵(たまご)を求(もと)めるのに、さそりを与(あた)えるだろうか。 13このように、あなたがたは悪(わる)い者(もの)であっても、自分(じぶん)の子供(こども)には、良(よ)い贈(おく)り物(もの)をすることを知(し)っているとすれば、天(てん)の父(ちち)はなおさら、求(もと)めて来(く)る者(もの)に聖霊(せいれい)を下(くだ)さらないことがあろうか」。

14さて、イエスが悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)しておられた。それは、おしの霊(れい)であった。悪霊(あくれい)が出(で)て行(い)くと、おしが物(もの)を言(い)うようになったので、群衆(ぐんしゅう)は不思議(ふしぎ)に思(おも)った。 15その中(なか)のある人々(ひとびと)が、「彼(かれ)は悪霊(あくれい)のかしらベルゼブルによって、悪霊(あくれい)どもを追(お)い出(だ)しているのだ」と言(い)い、 16またほかの人々(ひとびと)は、イエスを試(こころ)みようとして、天(てん)からのしるしを求(もと)めた。 17しかしイエスは、彼(かれ)らの思(おも)いを見抜(みぬ)いて言(い)われた、「おおよそ国(くに)が内部(ないぶ)で分裂(ぶんれつ)すれば自滅(じめつ)してしまい、また家(いえ)が分(わか)れ争(あらそ)えば倒(たお)れてしまう。 18そこでサタンも内部(ないぶ)で分裂(ぶんれつ)すれば、その国(くに)はどうして立(た)ち行(い)けよう。あなたがたはわたしがベルゼブルによって悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)していると言(い)うが、 19もしわたしがベルゼブルによって悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)すとすれば、あなたがたの仲間(なかま)はだれによって追(お)い出(だ)すのであろうか。だから、彼(かれ)らがあなたがたをさばく者(もの)となるであろう。 20しかし、わたしが神(かみ)の指(ゆび)によって悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)しているのなら、神(かみ)の国(くに)はすでにあなたがたのところにきたのである。 21強(つよ)い人(ひと)が十分(じゅうぶん)に武装(ぶそう)して自分(じぶん)の邸宅(ていたく)を守(まも)っている限(かぎ)り、その持(も)ち物(もの)は安全(あんぜん)である。 22しかし、もっと強(つよ)い者(もの)が襲(おそ)ってきて彼(かれ)に打(う)ち勝(か)てば、その頼(たの)みにしていた武具(ぶぐ)を奪(うば)って、その分捕(ぶんどり)品(ひん)を分(わ)けるのである。 23わたしの味方(みかた)でない者(もの)は、わたしに反対(はんたい)するものであり、わたしと共(とも)に集(あつ)めない者(もの)は、散(ち)らすものである。 24汚(けが)れた霊(れい)が人(ひと)から出(で)ると、休(やす)み場(ば)を求(もと)めて水(みず)の無(な)い所(ところ)を歩(ある)きまわるが、見(み)つからないので、出(で)てきた元(もと)の家(いえ)に帰(かえ)ろうと言(い)って、 25帰(かえ)って見(み)ると、その家(いえ)はそうじがしてある上(うえ)、飾(かざ)りつけがしてあった。 26そこでまた出(で)て行(い)って、自分(じぶん)以上(いじょう)に悪(わる)い他(た)の七つの霊(れい)を引(ひ)き連(つ)れてきて中(なか)にはいり、そこに住(す)み込(こ)む。そうすると、その人(ひと)の後(のち)の状態(じょうたい)は初(はじ)めよりももっと悪(わる)くなるのである」。

27イエスがこう話(はな)しておられるとき、群衆(ぐんしゅう)の中(なか)からひとりの女(おんな)が声(こえ)を張(は)りあげて言(い)った、「あなたを宿(やど)した胎(たい)、あなたが吸(す)われた乳房(ちぶさ)は、なんとめぐまれていることでしょう」。 28しかしイエスは言(い)われた、「いや、めぐまれているのは、むしろ、神(かみ)の言(ことば)を聞(き)いてそれを守(まも)る人(ひと)たちである」。

29さて群衆(ぐんしゅう)が群(むら)がり集(あつ)まったので、イエスは語(かた)り出(だ)された、「この時代(じだい)は邪悪(じゃあく)な時代(じだい)である。それはしるしを求(もと)めるが、ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与(あた)えられないであろう。 30というのは、ニネベの人々(ひとびと)に対(たい)してヨナがしるしとなったように、人(ひと)の子(こ)もこの時代(じだい)に対(たい)してしるしとなるであろう。 31南(みなみ)の女王(じょおう)が、今(いま)の時代(じだい)の人々(ひとびと)と共(とも)にさばきの場(ば)に立(た)って、彼(かれ)らを罪(つみ)に定(さだ)めるであろう。なぜなら、彼女(かのじょ)はソロモンの知恵(ちえ)を聞(き)くために、地(ち)の果(はて)からはるばるきたからである。しかし見(み)よ、ソロモンにまさる者(もの)がここにいる。 32ニネベの人々(ひとびと)が、今(いま)の時代(じだい)の人々(ひとびと)と共(とも)にさばきの場(ば)に立(た)って、彼(かれ)らを罪(つみ)に定(さだ)めるであろう。なぜなら、ニネベの人々(ひとびと)はヨナの宣教(せんきょう)によって悔(く)い改(あらた)めたからである。しかし見(み)よ、ヨナにまさる者(もの)がここにいる。

33だれもあかりをともして、それを穴倉(あなぐら)の中(なか)や枡(ます)の下(した)に置(お)くことはしない。むしろはいって来(く)る人(ひと)たちに、そのあかりが見(み)えるように、燭台(しょくだい)の上(うえ)におく。 34あなたの目(め)は、からだのあかりである。あなたの目(め)が澄(す)んでおれば、全身(ぜんしん)も明(あか)るいが、目(め)がわるければ、からだも暗(くら)い。 35だから、あなたの内(うち)なる光(ひかり)が暗(くら)くならないように注意(ちゅうい)しなさい。 36もし、あなたのからだ全体(ぜんたい)が明(あか)るくて、暗(くら)い部分(ぶぶん)が少(すこ)しもなければ、ちょうど、あかりが輝(かがや)いてあなたを照(てら)す時(とき)のように、全身(ぜんしん)が明(あか)るくなるであろう」。

37イエスが語(かた)っておられた時(とき)、あるパリサイ人(びと)が、自分(じぶん)の家(いえ)で食事(しょくじ)をしていただきたいと申(もう)し出(で)たので、はいって食卓(しょくたく)につかれた。 38ところが、食前(しょくぜん)にまず洗(あら)うことをなさらなかったのを見(み)て、そのパリサイ人(びと)が不思議(ふしぎ)に思(おも)った。 39そこで主(しゅ)は彼(かれ)に言(い)われた、「いったい、あなたがたパリサイ人(びと)は、杯(さかずき)や盆(ぼん)の外側(そとがわ)をきよめるが、あなたがたの内側(うちがわ)は貪欲(どんよく)と邪悪(じゃあく)とで満(み)ちている。 40愚(おろ)かな者(もの)たちよ、外側(そとがわ)を造(つく)ったかたは、また内側(うちがわ)も造(つく)られたではないか。 41ただ、内側(うちがわ)にあるものをきよめなさい。そうすれば、いっさいがあなたがたにとって、清(きよ)いものとなる。

42しかし、あなた方(ほう)パリサイ人(びと)は、わざわいである。はっか、うん香(こう)、あらゆる野菜(やさい)などの十分(ぶん)の一を宮(みや)に納(おさ)めておりながら、義(ぎ)と神(かみ)に対(たい)する愛(あい)とをなおざりにしている。それもなおざりにはできないが、これは行(おこな)わねばならない。 43あなたがたパリサイ人(びと)は、わざわいである。会堂(かいどう)の上席(じょうせき)や広場(ひろば)での敬礼(けいれい)を好(この)んでいる。 44あなたがたは、わざわいである。人目(ひとめ)につかない墓(はか)のようなものである。その上(うえ)を歩(ある)いても人々(ひとびと)は気(き)づかないでいる」。

45ひとりの律法(りっぽう)学者(がくしゃ)がイエスに答(こた)えて言(い)った、「先生(せんせい)、そんなことを言(い)われるのは、わたしたちまでも侮辱(ぶじょく)することです」。 46そこで言(い)われた、「あなたがた律法(りっぽう)学者(がくしゃ)も、わざわいである。負(お)い切(き)れない重荷(おもに)を人(ひと)に負(お)わせながら、自分(じぶん)ではその荷(に)に指(ゆび)一本(ぽん)でも触(ふ)れようとしない。 47あなたがたは、わざわいである。預言者(よげんしゃ)たちの碑(ひ)を建(た)てるが、しかし彼(かれ)らを殺(ころ)したのは、あなたがたの先祖(せんぞ)であったのだ。 48だから、あなたがたは、自分(じぶん)の先祖(せんぞ)のしわざに同意(どうい)する証人(しょうにん)なのだ。先祖(せんぞ)が彼(かれ)らを殺(ころ)し、あなたがたがその碑(ひ)を建(た)てるのだから。 49それゆえに、『神(かみ)の知恵(ちえ)』も言(い)っている、『わたしは預言者(よげんしゃ)と使徒(しと)とを彼(かれ)らにつかわすが、彼(かれ)らはそのうちのある者(もの)を殺(ころ)したり、迫害(はくがい)したりするであろう』。 50それで、アベルの血(ち)から祭壇(さいだん)と神殿(しんでん)との間(あいだ)で殺(ころ)されたザカリヤの血(ち)に至(いた)るまで、世(よ)の初(はじ)めから流(なが)されてきたすべての預言者(よげんしゃ)の血(ち)について、この時代(じだい)がその責任(せきにん)を問(と)われる。 51そうだ、あなたがたに言(い)っておく、この時代(じだい)がその責任(せきにん)を問(と)われるであろう。 52あなたがた律法(りっぽう)学者(がくしゃ)は、わざわいである。知識(ちしき)のかぎを取(と)りあげて、自分(じぶん)がはいらないばかりか、はいろうとする人(ひと)たちを妨(さまた)げてきた」。

53イエスがそこを出(で)て行(い)かれると、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)やパリサイ人(びと)は、激(はげ)しく詰(つ)め寄(よ)り、いろいろな事(こと)を問(と)いかけて、 54イエスの口(くち)から何(なに)か言(い)いがかりを得(え)ようと、ねらいはじめた。

第一二章

1その間(あいだ)に、おびただしい群衆(ぐんしゅう)が、互(たがい)に踏(ふ)み合(あ)うほどに群(むら)がってきたが、イエスはまず弟子(でし)たちに語(かた)りはじめられた、「パリサイ人(びと)のパン種(だね)、すなわち彼(かれ)らの偽善(ぎぜん)に気(き)をつけなさい。 2おおいかぶされたもので、現(あらわ)れてこないものはなく、隠(かく)れているもので、知(し)られてこないものはない。 3だから、あなたがたが暗(くら)やみで言(い)ったことは、なんでもみな明(あか)るみで聞(き)かれ、密室(みっしつ)で耳(みみ)にささやいたことは、屋根(やね)の上(うえ)で言(い)いひろめられるであろう。 4そこでわたしの友(とも)であるあなたがたに言(い)うが、からだを殺(ころ)しても、そのあとでそれ以上(いじょう)なにもできない者(もの)どもを恐(おそ)れるな。 5恐(おそ)るべき者(もの)がだれであるか、教(おし)えてあげよう。殺(ころ)したあとで、更(さら)に地獄(じごく)に投(な)げ込(こ)む権威(けんい)のあるかたを恐(おそ)れなさい。そうだ、あなたがたに言(い)っておくが、そのかたを恐(おそ)れなさい。 6五羽(わ)のすずめは二アサリオンで売(う)られているではないか。しかも、その一羽(わ)も神(かみ)のみまえで忘(わす)れられてはいない。 7その上(うえ)、あなたがたの頭(あたま)の毛(け)までも、みな数(かぞ)えられている。恐(おそ)れることはない。あなたがたは多(おお)くのすずめよりも、まさった者(もの)である。 8そこで、あなたがたに言(い)う。だれでも人(ひと)の前(まえ)でわたしを受(う)けいれる者(もの)を、人(ひと)の子(こ)も神(かみ)の使(つかい)たちの前(まえ)で受(う)けいれるであろう。 9しかし、人(ひと)の前(まえ)でわたしを拒(こば)む者(もの)は、神(かみ)の使(つかい)たちの前(まえ)で拒(こば)まれるであろう。 10また、人(ひと)の子(こ)に言(い)い逆(さか)らう者(もの)はゆるされるであろうが、聖霊(せいれい)をけがす者(もの)は、ゆるされることはない。 11あなたがたが会堂(かいどう)や役人(やくにん)や高官(こうかん)の前(まえ)へひっぱられて行(い)った場合(ばあい)には、何(なに)をどう弁明(べんめい)しようか、何(なに)を言(い)おうかと心配(しんぱい)しないがよい。 12言(い)うべきことは、聖霊(せいれい)がその時(とき)に教(おし)えてくださるからである」。

13群衆(ぐんしゅう)の中(なか)のひとりがイエスに言(い)った、「先生(せんせい)、わたしの兄弟(きょうだい)に、遺産(いさん)を分(わ)けてくれるようにおっしゃってください」。 14彼(かれ)に言(い)われた、「人(ひと)よ、だれがわたしをあなたがたの裁判人(さいばんにん)または分配(ぶんぱい)人(にん)に立(た)てたのか」。 15それから人々(ひとびと)にむかって言(い)われた、「あらゆる貪欲(どんよく)に対(たい)してよくよく警戒(けいかい)しなさい。たといたくさんの物(もの)を持(も)っていても、人(ひと)のいのちは、持(も)ち物(もの)にはよらないのである」。 16そこで一つの譬(たとえ)を語(かた)られた、「ある金持(かねもち)の畑(はたけ)が豊作(ほうさく)であった。 17そこで彼(かれ)は心(こころ)の中(なか)で、『どうしようか、わたしの作物(さくもつ)をしまっておく所(ところ)がないのだが』と思(おも)いめぐらして 18言(い)った、『こうしよう。わたしの倉(くら)を取(と)りこわし、もっと大(おお)きいのを建(た)てて、そこに穀物(こくもつ)や食糧(しょくりょう)を全部(ぜんぶ)しまい込(こ)もう。 19そして自分(じぶん)の魂(たましい)に言(い)おう。たましいよ、おまえには長年(ながねん)分(ぶん)の食糧(しょくりょう)がたくさんたくわえてある。さあ安心(あんしん)せよ、食(く)え、飲(の)め、楽(たの)しめ』。 20すると神(かみ)が彼(かれ)に言(い)われた、『愚(おろ)かな者(もの)よ、あなたの魂(たましい)は今夜(こんや)のうちにも取(と)り去(さ)られるであろう。そしたら、あなたが用意(ようい)した物(もの)は、だれのものになるのか』。 21自分(じぶん)のために宝(たから)を積(つ)んで神(かみ)に対(たい)して富(と)まない者(もの)は、これと同(おな)じである」。

22それから弟子(でし)たちに言(い)われた、「それだから、あなたがたに言(い)っておく。何(なに)を食(た)べようかと、命(いのち)のことで思(おも)いわずらい、何(なに)を着(き)ようかとからだのことで思(おも)いわずらうな。 23命(いのち)は食物(しょくもつ)にまさり、からだは着物(きもの)にまさっている。 24からすのことを考(かんが)えて見(み)よ。まくことも、刈(か)ることもせず、また、納屋(なや)もなく倉(くら)もない。それだのに、神(かみ)は彼(かれ)らを養(やしな)っていて下(くだ)さる。あなたがたは鳥(とり)よりも、はるかにすぐれているではないか。 25あなたがたのうち、だれが思(おも)いわずらったからとて、自分(じぶん)の寿命(じゅみょう)をわずかでも延(の)ばすことができようか。 26そんな小(ちい)さな事(こと)さえできないのに、どうしてほかのことを思(おも)いわずらうのか。 27野(の)の花(はな)のことを考(かんが)えて見(み)るがよい。紡(つむ)ぎもせず、織(お)りもしない。しかし、あなたがたに言(い)うが、栄華(えいが)をきわめた時(とき)のソロモンでさえ、この花(はな)の一つほどにも着飾(きかざ)ってはいなかった。 28きょうは野(の)にあって、あすは炉(ろ)に投(な)げ入(い)れられる草(くさ)でさえ、神(かみ)はこのように装(よそお)って下(くだ)さるのなら、あなたがたに、それ以上(いじょう)よくしてくださらないはずがあろうか。ああ、信仰(しんこう)の薄(うす)い者(もの)たちよ。 29あなたがたも、何(なに)を食(た)べ、何(なに)を飲(の)もうかと、あくせくするな、また気(き)を使(つか)うな。 30これらのものは皆(みな)、この世(よ)の異邦人(いほうじん)が切(せつ)に求(もと)めているものである。あなたがたの父(ちち)は、これらのものがあなたがたに必要(ひつよう)であることを、ご存(ぞん)じである。 31ただ、御国(みくに)を求(もと)めなさい。そうすれば、これらのものは添(そ)えて与(あた)えられるであろう。 32恐(おそ)れるな、小(ちい)さい群(む)れよ。御国(みくに)を下(くだ)さることは、あなたがたの父(ちち)のみこころなのである。 33自分(じぶん)の持(も)ち物(もの)を売(う)って、施(ほどこ)しなさい。自分(じぶん)のために古(ふる)びることのない財布(さいふ)をつくり、盗人(ぬすびと)も近寄(ちかよ)らず、虫(むし)も食(く)い破(やぶ)らない天(てん)に、尽(つ)きることのない宝(たから)をたくわえなさい。 34あなたがたの宝(たから)のある所(ところ)には、心(こころ)もあるからである。

35腰(こし)に帯(おび)をしめ、あかりをともしていなさい。 36主人(しゅじん)が婚(こん)宴(えん)から帰(かえ)ってきて戸(と)をたたくとき、すぐあけてあげようと待(ま)っている人(ひと)のようにしていなさい。 37主人(しゅじん)が帰(かえ)ってきたとき、目(め)を覚(さま)しているのを見(み)られる僕(しもべ)たちは、さいわいである。よく言(い)っておく。主人(しゅじん)が帯(おび)をしめて僕(しもべ)たちを食卓(しょくたく)につかせ、進(すす)み寄(よ)って給仕(きゅうじ)をしてくれるであろう。 38主人(しゅじん)が夜中(よなか)ごろ、あるいは夜明(よあ)けごろに帰(かえ)ってきても、そうしているのを見(み)られるなら、その人(ひと)たちはさいわいである。 39このことを、わきまえているがよい。家(いえ)の主人(しゅじん)は、盗賊(とうぞく)がいつごろ来(く)るかわかっているなら、自分(じぶん)の家(いえ)に押(お)し入(い)らせはしないであろう。 40あなたがたも用意(ようい)していなさい。思(おも)いがけない時(とき)に人(ひと)の子(こ)が来(く)るからである」。

41するとペテロが言(い)った、「主(しゅ)よ、この譬(たとえ)を話(はな)しておられるのはわたしたちのためなのですか。それとも、みんなの者(もの)のためなのですか」。 42そこで主(しゅ)が言(い)われた、「主人(しゅじん)が、召使(めしつかい)たちの上(うえ)に立(た)てて、時(とき)に応(おう)じて定(さだ)めの食事(しょくじ)をそなえさせる忠実(ちゅうじつ)な思慮(しりょ)深(ぶか)い家令(かれい)は、いったいだれであろう。 43主人(しゅじん)が帰(かえ)ってきたとき、そのようにつとめているのを見(み)られる僕(しもべ)は、さいわいである。 44よく言(い)っておくが、主人(しゅじん)はその僕(しもべ)を立(た)てて自分(じぶん)の全(ぜん)財産(ざいさん)を管理(かんり)させるであろう。 45しかし、もしその僕(しもべ)が、主人(しゅじん)の帰(かえ)りがおそいと心(こころ)の中(なか)で思(おも)い、男女(だんじょ)の召使(めしつかい)たちを打(う)ちたたき、そして食(た)べたり、飲(の)んだりして酔(よ)いはじめるならば、 46その僕(しもべ)の主人(しゅじん)は思(おも)いがけない日(ひ)、気(き)がつかない時(とき)に帰(かえ)って来(く)るであろう。そして、彼(かれ)を厳罰(げんばつ)に処(しょ)して、不(ふ)忠実(ちゅうじつ)なものたちと同(おな)じ目(め)にあわせるであろう。 47主人(しゅじん)のこころを知(し)っていながら、それに従(したが)って用意(ようい)もせず勤(つと)めもしなかった僕(しもべ)は、多(おお)くむち打(う)たれるであろう。 48しかし、知(し)らずに打(う)たれるようなことをした者(もの)は、打(う)たれ方(ほう)が少(すく)ないだろう。多(おお)く与(あた)えられた者(もの)からは多(おお)く求(もと)められ、多(おお)く任(まか)せられた者(もの)からは更(さら)に多(おお)く要求(ようきゅう)されるのである。

49わたしは、火(ひ)を地上(ちじょう)に投(とう)じるためにきたのだ。火(ひ)がすでに燃(も)えていたならと、わたしはどんなに願(ねが)っていることか。 50しかし、わたしには受(う)けねばならないバプテスマがある。そして、それを受(う)けてしまうまでは、わたしはどんなにか苦(くる)しい思(おも)いをすることであろう。 51あなたがたは、わたしが平和(へいわ)をこの地上(ちじょう)にもたらすためにきたと思(おも)っているのか。あなたがたに言(い)っておく。そうではない。むしろ分裂(ぶんれつ)である。 52というのは、今(いま)から後(のち)は、一家(いっか)の内(うち)で五人(にん)が相(あい)分(わか)れて、三人(にん)はふたりに、ふたりは三人(にん)に対立(たいりつ)し、 53また父(ちち)は子(こ)に、子(こ)は父(ちち)に、母(はは)は娘(むすめ)に、娘(むすめ)は母(はは)に、しゅうとめは嫁(よめ)に、嫁(よめ)はしゅうとめに、対立(たいりつ)するであろう」。

54イエスはまた群衆(ぐんしゅう)に対(たい)しても言(い)われた、「あなたがたは、雲(くも)が西(にし)に起(おこ)るのを見(み)るとすぐ、にわか雨(あめ)がやって来(く)る、と言(い)う。果(はた)してそのとおりになる。 55それから南風(みなみかぜ)が吹(ふ)くと、暑(あ)つくなるだろう、と言(い)う。果(はた)してそのとおりになる。 56偽善者(ぎぜんしゃ)よ、あなたがたは天地(てんち)の模様(もよう)を見分(みわ)けることを知(し)りながら、どうして今(いま)の時代(じだい)を見分(みわ)けることができないのか。 57また、あなたがたは、なぜ正(ただ)しいことを自分(じぶん)で判断(はんだん)しないのか。 58たとえば、あなたを訴(うった)える人(ひと)と一緒(いっしょ)に役人(やくにん)のところへ行(い)くときには、途中(とちゅう)でその人(ひと)と和解(わかい)するように努(つと)めるがよい。そうしないと、その人(ひと)はあなたを裁判官(さいばんかん)のところへひっぱって行(い)き、裁判官(さいばんかん)はあなたを獄吏(ごくり)に引(ひ)き渡(わた)し、獄吏(ごくり)はあなたを獄(ごく)に投(な)げ込(こ)むであろう。 59わたしは言(い)って置(お)く、最後(さいご)の一レプタまでも支払(しはら)ってしまうまでは、決(けっ)してそこから出(で)て来(く)ることはできない」。

第一三章

1ちょうどその時(とき)、ある人々(ひとびと)がきて、ピラトがガリラヤ人(びと)たちの血(ち)を流(なが)し、それを彼(かれ)らの犠牲(ぎせい)の血(ち)に混(ま)ぜたことを、イエスに知(し)らせた。 2そこでイエスは答(こた)えて言(い)われた、「それらのガリラヤ人(びと)が、そのような災難(さいなん)にあったからといって、他(た)のすべてのガリラヤ人(びと)以上(いじょう)に罪(つみ)が深(ふか)かったと思(おも)うのか。 3あなたがたに言(い)うが、そうではない。あなたがたも悔(く)い改(あらた)めなければ、みな同(おな)じように滅(ほろ)びるであろう。 4また、シロアムの塔(とう)が倒(たお)れたためにおし殺(ころ)されたあの十八人(にん)は、エルサレムの他(た)の全(ぜん)住民(じゅうみん)以上(いじょう)に罪(つみ)の負債(ふさい)があったと思(おも)うか。 5あなたがたに言(い)うが、そうではない。あなたがたも悔(く)い改(あらた)めなければ、みな同(おな)じように滅(ほろ)びるであろう」。

6それから、この譬(たとえ)を語(かた)られた、「ある人(ひと)が自分(じぶん)のぶどう園(えん)にいちじくの木(き)を植(う)えて置(お)いたので、実(み)を捜(さが)しにきたが見(み)つからなかった。 7そこで園丁(えんてい)に言(い)った、『わたしは三年間(ねんかん)も実(み)を求(もと)めて、このいちじくの木(き)のところにきたのだが、いまだに見(み)あたらない。その木(き)を切(き)り倒(たお)してしまえ。なんのために、土地(とち)をむだにふさがせて置(お)くのか』。 8すると園丁(えんてい)は答(こた)えて言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、ことしも、そのままにして置(お)いてください。そのまわりを掘(ほ)って肥料(ひりょう)をやって見(み)ますから。 9それで来年(らいねん)実(み)がなりましたら結構(けっこう)です。もしそれでもだめでしたら、切(き)り倒(たお)してください』」。

10安息日(あんそくにち)に、ある会堂(かいどう)で教(おし)えておられると、 11そこに十八年間(ねんかん)も病気(びょうき)の霊(れい)につかれ、かがんだままで、からだを伸(の)ばすことの全(まった)くできない女(おんな)がいた。 12イエスはこの女(おんな)を見(み)て、呼(よ)びよせ、「女(おんな)よ、あなたの病気(びょうき)はなおった」と言(い)って、 13手(て)をその上(うえ)に置(お)かれた。すると立(た)ちどころに、そのからだがまっすぐになり、そして神(かみ)をたたえはじめた。 14ところが会堂司(かいどうづかさ)は、イエスが安息日(あんそくにち)に病気(びょうき)をいやされたことを憤(いきどお)り、群衆(ぐんしゅう)にむかって言(い)った、「働(はたら)くべき日(ひ)は六日(むいか)ある。その間(あいだ)に、なおしてもらいにきなさい。安息日(あんそくにち)にはいけない」。 15主(しゅ)はこれに答(こた)えて言(い)われた、「偽善者(ぎぜんしゃ)たちよ、あなたがたはだれでも、安息日(あんそくにち)であっても、自分(じぶん)の牛(うし)やろばを家畜(かちく)小屋(こや)から解(と)いて、水(みず)を飲(の)ませに引(ひ)き出(だ)してやるではないか。 16それなら、十八年間(ねんかん)もサタンに縛(しば)られていた、アブラハムの娘(むすめ)であるこの女(おんな)を、安息日(あんそくにち)であっても、その束縛(そくばく)から解(と)いてやるべきではなかったか」。 17こう言(い)われたので、イエスに反対(はんたい)していた人(ひと)たちはみな恥(は)じ入(い)った。そして群衆(ぐんしゅう)はこぞって、イエスがなされたすべてのすばらしいみわざを見(み)て喜(よろこ)んだ。

18そこで言(い)われた、「神(かみ)の国(くに)は何(なに)に似(に)ているか。またそれを何(なに)にたとえようか。 19一粒(つぶ)のからし種(だね)のようなものである。ある人(ひと)がそれを取(と)って庭(にわ)にまくと、育(そだ)って木(き)となり、空(そら)の鳥(とり)もその枝(えだ)に宿(やど)るようになる」。 20また言(い)われた、「神(かみ)の国(くに)を何(なに)にたとえようか。 21パン種(だね)のようなものである。女(おんな)がそれを取(と)って三斗(と)の粉(こな)の中(なか)に混(ま)ぜると、全体(ぜんたい)がふくらんでくる」。

22さてイエスは教(おし)えながら町々(まちまち)村々(むらむら)を通(とお)り過(す)ぎ、エルサレムへと旅(たび)を続(つづ)けられた。 23すると、ある人(ひと)がイエスに、「主(しゅ)よ、救(すく)われる人(ひと)は少(すく)ないのですか」と尋(たず)ねた。 24そこでイエスは人々(ひとびと)にむかって言(い)われた、「狭(せま)い戸口(とぐち)からはいるように努(つと)めなさい。事実(じじつ)、はいろうとしても、はいれない人(ひと)が多(おお)いのだから。 25家(いえ)の主人(しゅじん)が立(た)って戸(と)を閉(と)じてしまってから、あなたがたが外(そと)に立(た)ち戸(と)をたたき始(はじ)めて、『ご主人様(しゅじんさま)、どうぞあけてください』と言(い)っても、主人(しゅじん)はそれに答(こた)えて、『あなたがたがどこからきた人(ひと)なのか、わたしは知(し)らない』と言(い)うであろう。 26そのとき、『わたしたちはあなたとご一緒(いっしょ)に飲(の)み食(く)いしました。また、あなたはわたしたちの大通(おおどお)りで教(おし)えてくださいました』と言(い)い出(だ)しても、 27彼(かれ)は、『あなたがたがどこからきた人(ひと)なのか、わたしは知(し)らない。悪事(あくじ)を働(はたら)く者(もの)どもよ、みんな行(い)ってしまえ』と言(い)うであろう。 28あなたがたは、アブラハム、イサク、ヤコブやすべての預言者(よげんしゃ)たちが、神(かみ)の国(くに)にはいっているのに、自分(じぶん)たちは外(そと)に投(な)げ出(だ)されることになれば、そこで泣(な)き叫(さけ)んだり、歯(は)がみをしたりするであろう。 29それから人々(ひとびと)が、東(ひがし)から西(にし)から、また南(みなみ)から北(きた)からきて、神(かみ)の国(くに)で宴会(えんかい)の席(せき)につくであろう。 30こうしてあとのもので先(さき)になるものがあり、また、先(さき)のものであとになるものもある」。

31ちょうどその時(とき)、あるパリサイ人(びと)たちが、イエスに近寄(ちかよ)ってきて言(い)った、「ここから出(で)て行(い)きなさい。ヘロデがあなたを殺(ころ)そうとしています」。 32そこで彼(かれ)らに言(い)われた、「あのきつねのところへ行(い)ってこう言(い)え、『見(み)よ、わたしはきょうもあすも悪霊(あくれい)を追(お)い出(だ)し、また、病気(びょうき)をいやし、そして三日(か)目(め)にわざを終(お)えるであろう。 33しかし、きょうもあすも、またその次(つぎ)の日(ひ)も、わたしは進(すす)んで行(い)かねばならない。預言者(よげんしゃ)がエルサレム以外(いがい)の地(ち)で死(し)ぬことは、あり得(え)ないからである』。 34ああ、エルサレム、エルサレム、預言者(よげんしゃ)たちを殺(ころ)し、おまえにつかわされた人々(ひとびと)を石(いし)で打(う)ち殺(ころ)す者(もの)よ。ちょうどめんどりが翼(つばさ)の下(した)にひなを集(あつ)めるように、わたしはおまえの子(こ)らを幾(いく)たび集(あつ)めようとしたことであろう。それだのに、おまえたちは応(おう)じようとしなかった。 35見(み)よ、おまえたちの家(いえ)は見捨(みす)てられてしまう。わたしは言(い)って置(お)く、
『主(しゅ)の名(な)によってきたるものに、祝福(しゅくふく)あれ』
とおまえたちが言(い)う時(とき)の来(く)るまでは、再(ふたた)びわたしに会(あ)うことはないであろう」。

第一四章

1ある安息日(あんそくにち)のこと、食事(しょくじ)をするために、あるパリサイ派(は)のかしらの家(いえ)にはいって行(い)かれたが、人々(ひとびと)はイエスの様子(ようす)をうかがっていた。 2するとそこに、水腫(すいしゅ)をわずらっている人(ひと)が、みまえにいた。 3イエスは律法(りっぽう)学者(がくしゃ)やパリサイ人(びと)たちにむかって言(い)われた、「安息日(あんそくにち)に人(ひと)をいやすのは、正(ただ)しいことかどうか」。 4彼(かれ)らは黙(だま)っていた。そこでイエスはその人(ひと)に手(て)を置(お)いていやしてやり、そしてお帰(かえ)しになった。 5それから彼(かれ)らに言(い)われた、「あなたがたのうちで、自分(じぶん)のむすこか牛(うし)が井戸(いど)に落(お)ち込(こ)んだなら、安息日(あんそくにち)だからといって、すぐに引(ひ)き上(あ)げてやらない者(もの)がいるだろうか」。 6彼(かれ)らはこれに対(たい)して返(かえ)す言葉(ことば)がなかった。

7客(きゃく)に招(まね)かれた者(もの)たちが上座(じょうざ)を選(えら)んでいる様子(ようす)をごらんになって、彼(かれ)らに一つの譬(たとえ)を語(かた)られた。 8「婚(こん)宴(えん)に招(まね)かれたときには、上座(じょうざ)につくな。あるいは、あなたよりも身分(みぶん)の高(たか)い人(ひと)が招(まね)かれているかも知(し)れない。 9その場合(ばあい)、あなたとその人(ひと)とを招(まね)いた者(もの)がきて、『このかたに座(ざ)を譲(ゆず)ってください』と言(い)うであろう。そのとき、あなたは恥(は)じ入(い)って末座(まつざ)につくことになるであろう。 10むしろ、招(まね)かれた場合(ばあい)には、末座(まつざ)に行(い)ってすわりなさい。そうすれば、招(まね)いてくれた人(ひと)がきて、『友(とも)よ、上座(じょうざ)の方(ほう)へお進(すす)みください』と言(い)うであろう。そのとき、あなたは席(せき)を共(とも)にするみんなの前(まえ)で、面目(めんぼく)をほどこすことになるであろう。 11おおよそ、自分(じぶん)を高(たか)くする者(もの)は低(ひく)くされ、自分(じぶん)を低(ひく)くする者(もの)は高(たか)くされるであろう」。

12また、イエスは自分(じぶん)を招(まね)いた人(ひと)に言(い)われた、「午餐(ごさん)または晩餐(ばんさん)の席(せき)を設(もう)ける場合(ばあい)には、友人(ゆうじん)、兄弟(きょうだい)、親族(しんぞく)、金持(かねもち)の隣(とな)り人(びと)などは呼(よ)ばぬがよい。恐(おそ)らく彼(かれ)らもあなたを招(まね)きかえし、それであなたは返礼(へんれい)を受(う)けることになるから。 13むしろ、宴会(えんかい)を催(もよお)す場合(ばあい)には、貧乏人(びんぼうにん)、不具者(ふぐしゃ)、足(あし)なえ、盲人(もうじん)などを招(まね)くがよい。 14そうすれば、彼(かれ)らは返礼(へんれい)ができないから、あなたはさいわいになるであろう。正(ただ)しい人々(ひとびと)の復活(ふっかつ)の際(さい)には、あなたは報(むく)いられるであろう」。

15列席者(れっせきしゃ)のひとりがこれを聞(き)いてイエスに「神(かみ)の国(くに)で食事(しょくじ)をする人(ひと)は、さいわいです」と言(い)った。 16そこでイエスが言(い)われた、「ある人(ひと)が盛大(せいだい)な晩餐(ばんさん)会(かい)を催(もよお)して、大(おお)ぜいの人(ひと)を招(まね)いた。 17晩餐(ばんさん)の時刻(じこく)になったので、招(まね)いておいた人(ひと)たちのもとに僕(しもべ)を送(おく)って、『さあ、おいでください。もう準備(じゅんび)ができましたから』と言(い)わせた。 18ところが、みんな一様(いちよう)に断(ことわ)りはじめた。最初(さいしょ)の人(ひと)は、『わたしは土地(とち)を買(か)いましたので、行(い)って見(み)なければなりません。どうぞ、おゆるしください』と言(い)った。 19ほかの人(ひと)は、『わたしは五対(つい)の牛(うし)を買(か)いましたので、それをしらべに行(い)くところです。どうぞ、おゆるしください』、 20もうひとりの人(ひと)は、『わたしは妻(つま)をめとりましたので、参(まい)ることができません』と言(い)った。 21僕(しもべ)は帰(かえ)ってきて、以上(いじょう)の事(こと)を主人(しゅじん)に報告(ほうこく)した。すると家(いえ)の主人(しゅじん)はおこって僕(しもべ)に言(い)った、『いますぐに、町(まち)の大通(おおどお)りや小道(こみち)へ行(い)って、貧乏人(びんぼうにん)、不具者(ふぐしゃ)、盲人(もうじん)、足(あし)なえなどを、ここへ連(つ)れてきなさい』。 22僕(しもべ)は言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、仰(おお)せのとおりにいたしましたが、まだ席(せき)がございます』。 23主人(しゅじん)が僕(しもべ)に言(い)った、『道(みち)やかきねのあたりに出(で)て行(い)って、この家(いえ)がいっぱいになるように、人々(ひとびと)を無理(むり)やりにひっぱってきなさい。 24あなたがたに言(い)って置(お)くが、招(まね)かれた人(ひと)で、わたしの晩餐(ばんさん)にあずかる者(もの)はひとりもないであろう』」。

25大(おお)ぜいの群衆(ぐんしゅう)がついてきたので、イエスは彼(かれ)らの方(ほう)に向(む)いて言(い)われた、 26「だれでも、父(ちち)、母(はは)、妻(つま)、子(こ)、兄弟(きょうだい)、姉妹(しまい)、さらに自分(じぶん)の命(いのち)までも捨(す)てて、わたしのもとに来(く)るのでなければ、わたしの弟子(でし)となることはできない。 27自分(じぶん)の十字架(じゅうじか)を負(お)うてわたしについて来(く)るものでなければ、わたしの弟子(でし)となることはできない。 28あなたがたのうちで、だれかが邸宅(ていたく)を建(た)てようと思(おも)うなら、それを仕上(しあ)げるのに足(た)りるだけの金(かね)を持(も)っているかどうかを見(み)るため、まず、すわってその費用(ひよう)を計算(けいさん)しないだろうか。 29そうしないと、土台(どだい)をすえただけで完成(かんせい)することができず、見(み)ているみんなの人(ひと)が、 30『あの人(ひと)は建(た)てかけたが、仕上(しあ)げができなかった』と言(い)ってあざ笑(わら)うようになろう。 31また、どんな王(おう)でも、ほかの王(おう)と戦(たたか)いを交(まじ)えるために出(で)て行(い)く場合(ばあい)には、まず座(ざ)して、こちらの一万人(まんにん)をもって、二万人(まんにん)を率(ひき)いて向(む)かって来(く)る敵(てき)に対抗(たいこう)できるかどうか、考(かんが)えて見(み)ないだろうか。 32もし自分(じぶん)の力(ちから)にあまれば、敵(てき)がまだ遠(とお)くにいるうちに、使者(ししゃ)を送(おく)って、和(わ)を求(もと)めるであろう。 33それと同(おな)じように、あなたがたのうちで、自分(じぶん)の財産(ざいさん)をことごとく捨(す)て切(き)るものでなくては、わたしの弟子(でし)となることはできない。 34塩(しお)は良(よ)いものだ。しかし、塩(しお)もききめがなくなったら、何(なに)によって塩味(しおあじ)が取(と)りもどされようか。 35土(つち)にも肥料(ひりょう)にも役(やく)立(た)たず、外(そと)に投(な)げ捨(す)てられてしまう。聞(き)く耳(みみ)のあるものは聞(き)くがよい」。

第一五章

1さて、取税人(しゅぜいにん)や罪人(つみびと)たちが皆(みな)、イエスの話(はなし)を聞(き)こうとして近寄(ちかよ)ってきた。 2するとパリサイ人(びと)や律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちがつぶやいて、「この人(ひと)は罪人(つみびと)たちを迎(むか)えて一緒(いっしょ)に食事(しょくじ)をしている」と言(い)った。 3そこでイエスは彼(かれ)らに、この譬(たとえ)をお話(はな)しになった、 4「あなたがたのうちに、百匹(ぴき)の羊(ひつじ)を持(も)っている者(もの)がいたとする。その一匹(ぴき)がいなくなったら、九十九匹(ひき)を野原(のはら)に残(のこ)しておいて、いなくなった一匹(ぴき)を見(み)つけるまでは捜(さが)し歩(ある)かないであろうか。 5そして見(み)つけたら、喜(よろこ)んでそれを自分(じぶん)の肩(かた)に乗(の)せ、 6家(いえ)に帰(かえ)ってきて友人(ゆうじん)や隣(とな)り人(びと)を呼(よ)び集(あつ)め、『わたしと一緒(いっしょ)に喜(よろこ)んでください。いなくなった羊(ひつじ)を見(み)つけましたから』と言(い)うであろう。 7よく聞(き)きなさい。それと同(おな)じように、罪人(つみびと)がひとりでも悔(く)い改(あらた)めるなら、悔改(くいあらた)めを必要(ひつよう)としない九十九人(にん)の正(ただ)しい人(ひと)のためにもまさる大(おお)きいよろこびが、天(てん)にあるであろう。

8また、ある女(おんな)が銀貨(ぎんか)十枚(まい)を持(も)っていて、もしその一枚(まい)をなくしたとすれば、彼女(かのじょ)はあかりをつけて家中(いえじゅう)を掃(は)き、それを見(み)つけるまでは注意深(ちゅういぶか)く捜(さが)さないであろうか。 9そして、見(み)つけたなら、女(おんな)友(とも)だちや近所(きんじょ)の女(おんな)たちを呼(よ)び集(あつ)めて、『わたしと一緒(いっしょ)に喜(よろこ)んでください。なくした銀貨(ぎんか)が見(み)つかりましたから』と言(い)うであろう。 10よく聞(き)きなさい。それと同(おな)じように、罪人(つみびと)がひとりでも悔(く)い改(あらた)めるなら、神(かみ)の御使(みつかい)たちの前(まえ)でよろこびがあるであろう」。

11また言(い)われた、「ある人(ひと)に、ふたりのむすこがあった。 12ところが、弟(おとうと)が父親(ちちおや)に言(い)った、『父(ちち)よ、あなたの財産(ざいさん)のうちでわたしがいただく分(ぶん)をください』。そこで、父(ちち)はその身代(しんだい)をふたりに分(わ)けてやった。 13それから幾日(いくにち)もたたないうちに、弟(おとうと)は自分(じぶん)のものを全部(ぜんぶ)とりまとめて遠(とお)い所(ところ)へ行(い)き、そこで放蕩(ほうとう)に身(み)を持(も)ちくずして財産(ざいさん)を使(つか)い果(はた)した。 14何(なに)もかも浪費(ろうひ)してしまったのち、その地方(ちほう)にひどいききんがあったので、彼(かれ)は食(た)べることにも窮(きゅう)しはじめた。 15そこで、その地方(ちほう)のある住民(じゅうみん)のところに行(い)って身(み)を寄(よ)せたところが、その人(ひと)は彼(かれ)を畑(はたけ)にやって豚(ぶた)を飼(か)わせた。 16彼(かれ)は、豚(ぶた)の食(た)べるいなご豆(まめ)で腹(はら)を満(み)たしたいと思(おも)うほどであったが、何(なに)もくれる人(ひと)はなかった。 17そこで彼(かれ)は本心(ほんしん)に立(た)ちかえって言(い)った、『父(ちち)のところには食物(しょくもつ)のあり余(あま)っている雇人(やといにん)が大(おお)ぜいいるのに、わたしはここで飢(う)えて死(し)のうとしている。 18立(た)って、父(ちち)のところへ帰(かえ)って、こう言(い)おう、父(ちち)よ、わたしは天(てん)に対(たい)しても、あなたにむかっても、罪(つみ)を犯(おか)しました。 19もう、あなたのむすこと呼(よ)ばれる資格(しかく)はありません。どうぞ、雇人(やといにん)のひとり同様(どうよう)にしてください』。 20そこで立(た)って、父(ちち)のところへ出(で)かけた。まだ遠(とお)く離(はな)れていたのに、父(ちち)は彼(かれ)をみとめ、哀(あわ)れに思(おも)って走(はし)り寄(よ)り、その首(くび)をだいて接吻(せっぷん)した。 21むすこは父(ちち)に言(い)った、『父(ちち)よ、わたしは天(てん)に対(たい)しても、あなたにむかっても、罪(つみ)を犯(おか)しました。もうあなたのむすこと呼(よ)ばれる資格(しかく)はありません』。 22しかし父(ちち)は僕(しもべ)たちに言(い)いつけた、『さあ、早(はや)く、最上(さいじょう)の着物(きもの)を出(だ)してきてこの子(こ)に着(き)せ、指輪(ゆびわ)を手(て)にはめ、はきものを足(あし)にはかせなさい。 23また、肥(こ)えた子(こ)牛(うし)を引(ひ)いてきてほふりなさい。食(た)べて楽(たの)しもうではないか。 24このむすこが死(し)んでいたのに生(い)き返(かえ)り、いなくなっていたのに見(み)つかったのだから』。それから祝宴(しゅくえん)がはじまった。 25ところが、兄(あに)は畑(はたけ)にいたが、帰(かえ)ってきて家(いえ)に近(ちか)づくと、音楽(おんがく)や踊(おど)りの音(おと)が聞(きこ)えたので、 26ひとりの僕(しもべ)を呼(よ)んで、『いったい、これは何事(なにごと)なのか』と尋(たず)ねた。 27僕(しもべ)は答(こた)えた、『あなたのご兄弟(きょうだい)がお帰(かえ)りになりました。無事(ぶじ)に迎(むか)えたというので、父上(ちちうえ)が肥(こ)えた子(こ)牛(うし)をほふらせなさったのです』。 28兄(あに)はおこって家(いえ)にはいろうとしなかったので、父(ちち)が出(で)てきてなだめると、 29兄(あに)は父(ちち)にむかって言(い)った、『わたしは何(なん)か年(ねん)もあなたに仕(つか)えて、一度(ど)でもあなたの言(い)いつけにそむいたことはなかったのに、友(とも)だちと楽(たの)しむために子(こ)やぎ一匹(ぴき)も下(くだ)さったことはありません。 30それだのに、遊女(ゆうじょ)どもと一緒(いっしょ)になって、あなたの身代(しんだい)を食(く)いつぶしたこのあなたの子(こ)が帰(かえ)ってくると、そのために肥(こ)えた子(こ)牛(うし)をほふりなさいました』。 31すると父(ちち)は言(い)った、『子(こ)よ、あなたはいつもわたしと一緒(いっしょ)にいるし、またわたしのものは全部(ぜんぶ)あなたのものだ。 32しかし、このあなたの弟(おとうと)は、死(し)んでいたのに生(い)き返(かえ)り、いなくなっていたのに見(み)つかったのだから、喜(よろこ)び祝(いわ)うのはあたりまえである』」。

第一六章

1イエスはまた、弟子(でし)たちに言(い)われた、「ある金持(かねもち)のところにひとりの家令(かれい)がいたが、彼(かれ)は主人(しゅじん)の財産(ざいさん)を浪費(ろうひ)していると、告(つ)げ口(ぐち)をする者(もの)があった。 2そこで主人(しゅじん)は彼(かれ)を呼(よ)んで言(い)った、『あなたについて聞(き)いていることがあるが、あれはどうなのか。あなたの会計(かいけい)報告(ほうこく)を出(だ)しなさい。もう家令(かれい)をさせて置(お)くわけにはいかないから』。 3この家令(かれい)は心(こころ)の中(なか)で思(おも)った、『どうしようか。主人(しゅじん)がわたしの職(しょく)を取(と)り上(あ)げようとしている。土(つち)を掘(ほ)るには力(ちから)がないし、物(もの)ごいするのは恥(は)ずかしい。 4そうだ、わかった。こうしておけば、職(しょく)をやめさせられる場合(ばあい)、人々(ひとびと)がわたしをその家(いえ)に迎(むか)えてくれるだろう』。 5それから彼(かれ)は、主人(しゅじん)の負債(ふさい)者(しゃ)をひとりびとり呼(よ)び出(だ)して、初(はじ)めの人(ひと)に、『あなたは、わたしの主人(しゅじん)にどれだけ負債(ふさい)がありますか』と尋(たず)ねた。 6『油(あぶら)百樽(たる)です』と答(こた)えた。そこで家令(かれい)が言(い)った、『ここにあなたの証書(しょうしょ)がある。すぐそこにすわって、五十樽(たる)と書(か)き変(か)えなさい』。 7次(つぎ)に、もうひとりに、『あなたの負債(ふさい)はどれだけですか』と尋(たず)ねると、『麦(むぎ)百石(こく)です』と答(こた)えた。これに対(たい)して、『ここに、あなたの証書(しょうしょ)があるが、八十石(こく)と書(か)き変(か)えなさい』と言(い)った。 8ところが主人(しゅじん)は、この不正(ふせい)な家令(かれい)の利口(りこう)なやり方(ほう)をほめた。この世(よ)の子(こ)らはその時代(じだい)に対(たい)しては、光(ひかり)の子(こ)らよりも利口(りこう)である。 9またあなたがたに言(い)うが、不正(ふせい)の富(とみ)を用(もち)いてでも、自分(じぶん)のために友(とも)だちをつくるがよい。そうすれば、富(とみ)が無(な)くなった場合(ばあい)、あなたがたを永遠(えいえん)のすまいに迎(むか)えてくれるであろう。 10小事(しょうじ)に忠実(ちゅうじつ)な人(ひと)は、大事(だいじ)にも忠実(ちゅうじつ)である。そして、小事(しょうじ)に不(ふ)忠実(ちゅうじつ)な人(ひと)は大事(だいじ)にも不(ふ)忠実(ちゅうじつ)である。 11だから、もしあなたがたが不正(ふせい)の富(とみ)について忠実(ちゅうじつ)でなかったら、だれが真(しん)の富(とみ)を任(まか)せるだろうか。 12また、もしほかの人(ひと)のものについて忠実(ちゅうじつ)でなかったら、だれがあなたがたのものを与(あた)えてくれようか。 13どの僕(しもべ)でも、ふたりの主人(しゅじん)に兼(か)ね仕(つか)えることはできない。一方(いっぽう)を憎(にく)んで他方(たほう)を愛(あい)し、あるいは、一方(いっぽう)に親(した)しんで他方(たほう)をうとんじるからである。あなたがたは、神(かみ)と富(とみ)とに兼(か)ね仕(つか)えることはできない」。

14欲(よく)の深(ふか)いパリサイ人(びと)たちが、すべてこれらの言葉(ことば)を聞(き)いて、イエスをあざ笑(わら)った。 15そこで彼(かれ)らにむかって言(い)われた、「あなたがたは、人々(ひとびと)の前(まえ)で自分(じぶん)を正(ただ)しいとする人(ひと)たちである。しかし、神(かみ)はあなたがたの心(こころ)をご存(ぞん)じである。人々(ひとびと)の間(あいだ)で尊(たっと)ばれるものは、神(かみ)のみまえでは忌(い)みきらわれる。 16律法(りっぽう)と預言者(よげんしゃ)とはヨハネの時(とき)までのものである。それ以来(いらい)、神(かみ)の国(くに)が宣(の)べ伝(つた)えられ、人々(ひとびと)は皆(みな)これに突入(とつにゅう)している。 17しかし、律法(りっぽう)の一画(いっかく)が落(お)ちるよりは、天地(てんち)の滅(ほろ)びる方(ほう)が、もっとたやすい。 18すべて自分(じぶん)の妻(つま)を出(だ)して他(た)の女(おんな)をめとる者(もの)は、姦淫(かんいん)を行(おこな)うものであり、また、夫(おっと)から出(だ)された女(おんな)をめとる者(もの)も、姦淫(かんいん)を行(おこな)うものである。

19ある金持(かねもち)がいた。彼(かれ)は紫(むらさき)の衣(ころも)や細(ほそ)布(ぬの)を着(き)て、毎日(まいにち)ぜいたくに遊(あそ)び暮(くら)していた。 20ところが、ラザロという貧乏人(びんぼうにん)が全身(ぜんしん)でき物(もの)でおおわれて、この金持(かねもち)の玄関(げんかん)の前(まえ)にすわり、 21その食卓(しょくたく)から落(お)ちるもので飢(う)えをしのごうと望(のぞ)んでいた。その上(うえ)、犬(いぬ)がきて彼(かれ)のでき物(もの)をなめていた。 22この貧乏人(びんぼうにん)がついに死(し)に、御使(みつかい)たちに連(つ)れられてアブラハムのふところに送(おく)られた。金持(かねもち)も死(し)んで葬(ほうむ)られた。 23そして黄泉(よみ)にいて苦(くる)しみながら、目(め)をあげると、アブラハムとそのふところにいるラザロとが、はるかに見(み)えた。 24そこで声(こえ)をあげて言(い)った、『父(ちち)、アブラハムよ、わたしをあわれんでください。ラザロをおつかわしになって、その指先(ゆびさき)を水(みず)でぬらし、わたしの舌(した)を冷(ひ)やさせてください。わたしはこの火炎(かえん)の中(なか)で苦(くる)しみもだえています』。 25アブラハムが言(い)った、『子(こ)よ、思(おも)い出(だ)すがよい。あなたは生前(せいぜん)よいものを受(う)け、ラザロの方(ほう)は悪(わる)いものを受(う)けた。しかし今(いま)ここでは、彼(かれ)は慰(なぐさ)められ、あなたは苦(くる)しみもだえている。 26そればかりか、わたしたちとあなたがたとの間(あいだ)には大(おお)きな淵(ふち)がおいてあって、こちらからあなたがたの方(ほう)へ渡(わた)ろうと思(おも)ってもできないし、そちらからわたしたちの方(ほう)へ越(こ)えて来(く)ることもできない』。 27そこで金持(かねもち)が言(い)った、『父(ちち)よ、ではお願(ねが)いします。わたしの父(ちち)の家(いえ)へラザロをつかわしてください。 28わたしに五人(にん)の兄弟(きょうだい)がいますので、こんな苦(くる)しい所(ところ)へ来(く)ることがないように、彼(かれ)らに警告(けいこく)していただきたいのです』。 29アブラハムは言(い)った、『彼(かれ)らにはモーセと預言者(よげんしゃ)とがある。それに聞(き)くがよかろう』。 30金持(かねもち)が言(い)った、『いえいえ、父(ちち)アブラハムよ、もし死人(しにん)の中(なか)からだれかが兄弟(きょうだい)たちのところへ行(い)ってくれましたら、彼(かれ)らは悔(く)い改(あらた)めるでしょう』。 31アブラハムは言(い)った、『もし彼(かれ)らがモーセと預言者(よげんしゃ)とに耳(みみ)を傾(かたむ)けないなら、死人(しにん)の中(なか)からよみがえってくる者(もの)があっても、彼(かれ)らはその勧(すす)めを聞(き)き入(い)れはしないであろう』」。

第一七章

1イエスは弟子(でし)たちに言(い)われた、「罪(つみ)の誘惑(ゆうわく)が来(く)ることは避(さ)けられない。しかし、それをきたらせる者(もの)は、わざわいである。 2これらの小(ちい)さい者(もの)のひとりを罪(つみ)に誘惑(ゆうわく)するよりは、むしろ、ひきうすを首(くび)にかけられて海(うみ)に投(な)げ入(い)れられた方(ほう)が、ましである。 3あなたがたは、自分(じぶん)で注意(ちゅうい)していなさい。もしあなたの兄弟(きょうだい)が罪(つみ)を犯(おか)すなら、彼(かれ)をいさめなさい。そして悔(く)い改(あらた)めたら、ゆるしてやりなさい。 4もしあなたに対(たい)して一日(にち)に七度(ど)罪(つみ)を犯(おか)し、そして七度(ど)『悔(く)い改(あらた)めます』と言(い)ってあなたのところへ帰(かえ)ってくれば、ゆるしてやるがよい」。

5使徒(しと)たちは主(しゅ)に「わたしたちの信仰(しんこう)を増(ま)してください」と言(い)った。 6そこで主(しゅ)が言(い)われた、「もし、からし種(だね)一粒(つぶ)ほどの信仰(しんこう)があるなら、この桑(くわ)の木(き)に、『抜(ぬ)け出(だ)して海(うみ)に植(う)われ』と言(い)ったとしても、その言葉(ことば)どおりになるであろう。 7あなたがたのうちのだれかに、耕作(こうさく)か牧畜(ぼくちく)かをする僕(しもべ)があるとする。その僕(しもべ)が畑(はたけ)から帰(かえ)って来(き)たとき、彼(かれ)に『すぐきて、食卓(しょくたく)につきなさい』と言(い)うだろうか。 8かえって、『夕食(ゆうしょく)の用意(ようい)をしてくれ。そしてわたしが飲(の)み食(く)いをするあいだ、帯(おび)をしめて給仕(きゅうじ)をしなさい。そのあとで、飲(の)み食(く)いをするがよい』と、言(い)うではないか。 9僕(しもべ)が命(めい)じられたことをしたからといって、主人(しゅじん)は彼(かれ)に感謝(かんしゃ)するだろうか。 10同様(どうよう)にあなたがたも、命(めい)じられたことを皆(みな)してしまったとき、『わたしたちはふつつかな僕(しもべ)です。すべき事(こと)をしたに過(す)ぎません』と言(い)いなさい」。

11イエスはエルサレムへ行(い)かれるとき、サマリヤとガリラヤとの間(あいだ)を通(とお)られた。 12そして、ある村(むら)にはいられると、十人(にん)のらい病人(びょうにん)に出会(であ)われたが、彼(かれ)らは遠(とお)くの方(ほう)で立(た)ちとどまり、 13声(こえ)を張(は)りあげて、「イエスさま、わたしたちをあわれんでください」と言(い)った。 14イエスは彼(かれ)らをごらんになって、「祭司(さいし)たちのところに行(い)って、からだを見(み)せなさい」と言(い)われた。そして、行(い)く途中(とちゅう)で彼(かれ)らはきよめられた。 15そのうちのひとりは、自分(じぶん)がいやされたことを知(し)り、大声(おおごえ)で神(かみ)をほめたたえながら帰(かえ)ってきて、 16イエスの足(あし)もとにひれ伏(ふ)して感謝(かんしゃ)した。これはサマリヤ人(びと)であった。 17イエスは彼(かれ)にむかって言(い)われた、「きよめられたのは、十人(にん)ではなかったか。ほかの九人(にん)は、どこにいるのか。 18神(かみ)をほめたたえるために帰(かえ)ってきたものは、この他国(たこく)人(じん)のほかにはいないのか」。 19それから、その人(ひと)に言(い)われた、「立(た)って行(い)きなさい。あなたの信仰(しんこう)があなたを救(すく)ったのだ」。

20神(かみ)の国(くに)はいつ来(く)るのかと、パリサイ人(びと)が尋(たず)ねたので、イエスは答(こた)えて言(い)われた、「神(かみ)の国(くに)は、見(み)られるかたちで来(く)るものではない。 21また『見(み)よ、ここにある』『あそこにある』などとも言(い)えない。神(かみ)の国(くに)は、実(じつ)にあなたがたのただ中(なか)にあるのだ」。

22それから弟子(でし)たちに言(い)われた、「あなたがたは、人(ひと)の子(こ)の日(ひ)を一日(にち)でも見(み)たいと願(ねが)っても見(み)ることができない時(とき)が来(く)るであろう。 23人々(ひとびと)はあなたがたに、『見(み)よ、あそこに』『見(み)よ、ここに』と言(い)うだろう。しかし、そちらへ行(い)くな、彼(かれ)らのあとを追(お)うな。 24いなずまが天(てん)の端(はし)からひかり出(で)て天(てん)の端(はし)へとひらめき渡(わた)るように、人(ひと)の子(こ)もその日(ひ)には同(おな)じようであるだろう。 25しかし、彼(かれ)はまず多(おお)くの苦(くる)しみを受(う)け、またこの時代(じだい)の人々(ひとびと)に捨(す)てられねばならない。 26そして、ノアの時(とき)にあったように、人(ひと)の子(こ)の時(とき)にも同様(どうよう)なことが起(おこ)るであろう。 27ノアが箱舟(はこぶね)にはいる日(ひ)まで、人々(ひとびと)は食(く)い、飲(の)み、めとり、とつぎなどしていたが、そこへ洪水(こうずい)が襲(おそ)ってきて、彼(かれ)らをことごとく滅(ほろ)ぼした。 28ロトの時(とき)にも同(おな)じようなことが起(おこ)った。人々(ひとびと)は食(く)い、飲(の)み、買(か)い、売(う)り、植(う)え、建(た)てなどしていたが、 29ロトがソドムから出(で)て行(い)った日(ひ)に、天(てん)から火(ひ)と硫黄(いおう)とが降(ふ)ってきて、彼(かれ)らをことごとく滅(ほろ)ぼした。 30人(ひと)の子(こ)が現(あらわ)れる日(ひ)も、ちょうどそれと同様(どうよう)であろう。 31その日(ひ)には、屋上(おくじょう)にいる者(もの)は、自分(じぶん)の持(も)ち物(もの)が家(いえ)の中(なか)にあっても、取(と)りにおりるな。畑(はたけ)にいる者(もの)も同(おな)じように、あとへもどるな。 32ロトの妻(つま)のことを思(おも)い出(だ)しなさい。 33自分(じぶん)の命(いのち)を救(すく)おうとするものは、それを失(うしな)い、それを失(うしな)うものは、保(たも)つのである。 34あなたがたに言(い)っておく。その夜(よ)、ふたりの男(おとこ)が一つ寝床(ねどこ)にいるならば、ひとりは取(と)り去(さ)られ、他(た)のひとりは残(のこ)されるであろう。 35ふたりの女(おんな)が一緒(いっしょ)にうすをひいているならば、ひとりは取(と)り去(さ)られ、他(た)のひとりは残(のこ)されるであろう。〔 36ふたりの男(おとこ)が畑(はたけ)におれば、ひとりは取(と)り去(さ)られ、他(た)のひとりは残(のこ)されるであろう〕」。 37弟子(でし)たちは「主(しゅ)よ、それはどこであるのですか」と尋(たず)ねた。するとイエスは言(い)われた、「死体(したい)のある所(ところ)には、またはげたかが集(あつ)まるものである」。

第一八章

1また、イエスは失望(しつぼう)せずに常(つね)に祈(いの)るべきことを、人々(ひとびと)に譬(たとえ)で教(おし)えられた。 2「ある町(まち)に、神(かみ)を恐(おそ)れず、人(ひと)を人(ひと)とも思(おも)わぬ裁判官(さいばんかん)がいた。 3ところが、その同(おな)じ町(まち)にひとりのやもめがいて、彼(かれ)のもとにたびたびきて、『どうぞ、わたしを訴(うった)える者(もの)をさばいて、わたしを守(まも)ってください』と願(ねが)いつづけた。 4彼(かれ)はしばらくの間(あいだ)きき入(い)れないでいたが、そののち、心(こころ)のうちで考(かんが)えた、『わたしは神(かみ)をも恐(おそ)れず、人(ひと)を人(ひと)とも思(おも)わないが、 5このやもめがわたしに面倒(めんどう)をかけるから、彼女(かのじょ)のためになる裁判(さいばん)をしてやろう。そうしたら、絶(た)えずやってきてわたしを悩(なや)ますことがなくなるだろう』」。 6そこで主(しゅ)は言(い)われた、「この不義(ふぎ)な裁判官(さいばんかん)の言(い)っていることを聞(き)いたか。 7まして神(かみ)は、日夜(にちや)叫(さけ)び求(もと)める選民(せんみん)のために、正(ただ)しいさばきをしてくださらずに長(なが)い間(あいだ)そのままにしておかれることがあろうか。 8あなたがたに言(い)っておくが、神(かみ)はすみやかにさばいてくださるであろう。しかし、人(ひと)の子(こ)が来(く)るとき、地上(ちじょう)に信仰(しんこう)が見(み)られるであろうか」。

9自分(じぶん)を義人(ぎじん)だと自任(じにん)して他人(たにん)を見下(みさ)げている人(ひと)たちに対(たい)して、イエスはまたこの譬(たとえ)をお話(はな)しになった。 10「ふたりの人(ひと)が祈(いの)るために宮(みや)に上(のぼ)った。そのひとりはパリサイ人(びと)であり、もうひとりは取税人(しゅぜいにん)であった。 11パリサイ人(びと)は立(た)って、ひとりでこう祈(いの)った、『神(かみ)よ、わたしはほかの人(ひと)たちのような貪欲(どんよく)な者(もの)、不正(ふせい)な者(もの)、姦淫(かんいん)をする者(もの)ではなく、また、この取税人(しゅぜいにん)のような人間(にんげん)でもないことを感謝(かんしゃ)します。 12わたしは一週(しゅう)に二度(ど)断食(だんじき)しており、全(ぜん)収入(しゅうにゅう)の十分(ぶん)の一をささげています』。 13ところが、取税人(しゅぜいにん)は遠(とお)く離(はな)れて立(た)ち、目(め)を天(てん)にむけようともしないで、胸(むね)を打(う)ちながら言(い)った、『神様(かみさま)、罪人(つみびと)のわたしをおゆるしください』と。 14あなたがたに言(い)っておく。神(かみ)に義(ぎ)とされて自分(じぶん)の家(いえ)に帰(かえ)ったのは、この取税人(しゅぜいにん)であって、あのパリサイ人(びと)ではなかった。おおよそ、自分(じぶん)を高(たか)くする者(もの)は低(ひく)くされ、自分(じぶん)を低(ひく)くする者(もの)は高(たか)くされるであろう」。

15イエスにさわっていただくために、人々(ひとびと)が幼(おさ)な子(ご)らをみもとに連(つ)れてきた。ところが、弟子(でし)たちはそれを見(み)て、彼(かれ)らをたしなめた。 16するとイエスは幼(おさ)な子(ご)らを呼(よ)び寄(よ)せて言(い)われた、「幼(おさ)な子(ご)らをわたしのところに来(く)るままにしておきなさい、止(と)めてはならない。神(かみ)の国(くに)はこのような者(もの)の国(くに)である。 17よく聞(き)いておくがよい。だれでも幼(おさ)な子(ご)のように神(かみ)の国(くに)を受(う)けいれる者(もの)でなければ、そこにはいることは決(けっ)してできない」。

18また、ある役人(やくにん)がイエスに尋(たず)ねた、「よき師(し)よ、何(なに)をしたら永遠(えいえん)の生命(せいめい)が受(う)けられましょうか」。 19イエスは言(い)われた、「なぜわたしをよき者(もの)と言(い)うのか。神(かみ)ひとりのほかによい者(もの)はいない。 20いましめはあなたの知(し)っているとおりである、『姦淫(かんいん)するな、殺(ころ)すな、盗(ぬす)むな、偽証(ぎしょう)を立(た)てるな、父(ちち)と母(はは)とを敬(うやま)え』」。 21すると彼(かれ)は言(い)った、「それらのことはみな、小(ちい)さい時(とき)から守(まも)っております」。 22イエスはこれを聞(き)いて言(い)われた、「あなたのする事(こと)がまだ一つ残(のこ)っている。持(も)っているものをみな売(う)り払(はら)って、貧(まず)しい人々(ひとびと)に分(わ)けてやりなさい。そうすれば、天(てん)に宝(たから)を持(も)つようになろう。そして、わたしに従(したが)ってきなさい」。 23彼(かれ)はこの言葉(ことば)を聞(き)いて非常(ひじょう)に悲(かな)しんだ。大金持(おおがねもち)であったからである。 24イエスは彼(かれ)の様子(ようす)を見(み)て言(い)われた、「財産(ざいさん)のある者(もの)が神(かみ)の国(くに)にはいるのはなんとむずかしいことであろう。 25富(と)んでいる者(もの)が神(かみ)の国(くに)にはいるよりは、らくだが針(はり)の穴(あな)を通(とお)る方(ほう)が、もっとやさしい」。 26これを聞(き)いた人々(ひとびと)が、「それでは、だれが救(すく)われることができるのですか」と尋(たず)ねると、 27イエスは言(い)われた、「人(ひと)にはできない事(こと)も、神(かみ)にはできる」。 28ペテロが言(い)った、「ごらんなさい、わたしたちは自分(じぶん)のものを捨(す)てて、あなたに従(したが)いました」。 29イエスは言(い)われた、「よく聞(き)いておくがよい。だれでも神(かみ)の国(くに)のために、家(いえ)、妻(つま)、兄弟(きょうだい)、両親(りょうしん)、子(こ)を捨(す)てた者(もの)は、 30必(かなら)ずこの時代(じだい)ではその幾(いく)倍(ばい)もを受(う)け、また、きたるべき世(よ)では永遠(えいえん)の生命(せいめい)を受(う)けるのである」。

31イエスは十二弟子(でし)を呼(よ)び寄(よ)せて言(い)われた、「見(み)よ、わたしたちはエルサレムへ上(のぼ)って行(い)くが、人(ひと)の子(こ)について預言者(よげんしゃ)たちがしるしたことは、すべて成就(じょうじゅ)するであろう。 32人(ひと)の子(こ)は異邦人(いほうじん)に引(ひ)きわたされ、あざけられ、はずかしめを受(う)け、つばきをかけられ、 33また、むち打(う)たれてから、ついに殺(ころ)され、そして三日(か)目(め)によみがえるであろう」。 34弟子(でし)たちには、これらのことが何一(なにひと)つわからなかった。この言葉(ことば)が彼(かれ)らに隠(かく)されていたので、イエスの言(い)われた事(こと)が理解(りかい)できなかった。

35イエスがエリコに近(ちか)づかれたとき、ある盲人(もうじん)が道(みち)ばたにすわって、物(もの)ごいをしていた。 36群衆(ぐんしゅう)が通(とお)り過(す)ぎる音(おと)を耳(みみ)にして、彼(かれ)は何事(なにごと)があるのかと尋(たず)ねた。 37ところが、ナザレのイエスがお通(とお)りなのだと聞(き)かされたので、 38声(こえ)をあげて、「ダビデの子(こ)イエスよ、わたしをあわれんで下(くだ)さい」と言(い)った。 39先頭(せんとう)に立(た)つ人々(ひとびと)が彼(かれ)をしかって黙(だま)らせようとしたが、彼(かれ)はますます激(はげ)しく叫(さけ)びつづけた、「ダビデの子(こ)よ、わたしをあわれんで下(くだ)さい」。 40そこでイエスは立(た)ちどまって、その者(もの)を連(つ)れて来(く)るように、とお命(めい)じになった。彼(かれ)が近(ちか)づいたとき、 41「わたしに何(なに)をしてほしいのか」とおたずねになると、「主(しゅ)よ、見(み)えるようになることです」と答(こた)えた。 42そこでイエスは言(い)われた、「見(み)えるようになれ。あなたの信仰(しんこう)があなたを救(すく)った」。 43すると彼(かれ)は、たちまち見(み)えるようになった。そして神(かみ)をあがめながらイエスに従(したが)って行(い)った。これを見(み)て、人々(ひとびと)はみな神(かみ)をさんびした。

第一九章

1さて、イエスはエリコにはいって、その町(まち)をお通(とお)りになった。 2ところが、そこにザアカイという名(な)の人(ひと)がいた。この人(ひと)は取税人(しゅぜいにん)のかしらで、金持(かねもち)であった。 3彼(かれ)は、イエスがどんな人(ひと)か見(み)たいと思(おも)っていたが、背(せ)が低(ひく)かったので、群衆(ぐんしゅう)にさえぎられて見(み)ることができなかった。 4それでイエスを見(み)るために、前(まえ)の方(ほう)に走(はし)って行(い)って、いちじく桑(くわ)の木(き)に登(のぼ)った。そこを通(とお)られるところだったからである。 5イエスは、その場所(ばしょ)にこられたとき、上(うえ)を見(み)あげて言(い)われた、「ザアカイよ、急(いそ)いで下(くだ)りてきなさい。きょう、あなたの家(いえ)に泊(と)まることにしているから」。 6そこでザアカイは急(いそ)いでおりてきて、よろこんでイエスを迎(むか)え入(い)れた。 7人々(ひとびと)はみな、これを見(み)てつぶやき、「彼(かれ)は罪人(つみびと)の家(いえ)にはいって客(きゃく)となった」と言(い)った。 8ザアカイは立(た)って主(しゅ)に言(い)った、「主(しゅ)よ、わたしは誓(ちか)って自分(じぶん)の財産(ざいさん)の半分(はんぶん)を貧民(ひんみん)に施(ほどこ)します。また、もしだれかから不正(ふせい)な取立(とりた)てをしていましたら、それを四倍(ばい)にして返(かえ)します」。 9イエスは彼(かれ)に言(い)われた、「きょう、救(すくい)がこの家(いえ)にきた。この人(ひと)もアブラハムの子(こ)なのだから。 10人(ひと)の子(こ)がきたのは、失(うしな)われたものを尋(たず)ね出(だ)して救(すく)うためである」。

11人々(ひとびと)がこれらの言葉(ことば)を聞(き)いているときに、イエスはなお一つの譬(たとえ)をお話(はな)しになった。それはエルサレムに近(ちか)づいてこられたし、また人々(ひとびと)が神(かみ)の国(くに)はたちまち現(あらわ)れると思(おも)っていたためである。 12それで言(い)われた、「ある身分(みぶん)の高(たか)い人(ひと)が、王位(おうい)を受(う)けて帰(かえ)ってくるために遠(とお)い所(ところ)へ旅立(たびだ)つことになった。 13そこで十人(にん)の僕(しもべ)を呼(よ)び十ミナを渡(わた)して言(い)った、『わたしが帰(かえ)って来(く)るまで、これで商売(しょうばい)をしなさい』。 14ところが、本国(ほんごく)の住民(じゅうみん)は彼(かれ)を憎(にく)んでいたので、あとから使者(ししゃ)をおくって、『この人(ひと)が王(おう)になるのをわれわれは望(のぞ)んでいない』と言(い)わせた。 15さて、彼(かれ)が王位(おうい)を受(う)けて帰(かえ)ってきたとき、だれがどんなもうけをしたかを知(し)ろうとして、金(かね)を渡(わた)しておいた僕(しもべ)たちを呼(よ)んでこさせた。 16最初(さいしょ)の者(もの)が進(すす)み出(で)て言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、あなたの一ミナで十ミナをもうけました』。 17主人(しゅじん)は言(い)った、『よい僕(しもべ)よ、うまくやった。あなたは小(ちい)さい事(こと)に忠実(ちゅうじつ)であったから、十の町(まち)を支配(しはい)させる』。 18次(つぎ)の者(もの)がきて言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、あなたの一ミナで五ミナをつくりました』。 19そこでこの者(もの)にも、『では、あなたは五つの町(まち)のかしらになれ』と言(い)った。 20それから、もうひとりの者(もの)がきて言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、さあ、ここにあなたの一ミナがあります。わたしはそれをふくさに包(つつ)んで、しまっておきました。 21あなたはきびしい方(ほう)で、おあずけにならなかったものを取(と)りたて、おまきにならなかったものを刈(か)る人(ひと)なので、おそろしかったのです』。 22彼(かれ)に言(い)った、『悪(わる)い僕(しもべ)よ、わたしはあなたの言(い)ったその言葉(ことば)であなたをさばこう。わたしがきびしくて、あずけなかったものを取(と)りたて、まかなかったものを刈(か)る人間(にんげん)だと、知(し)っているのか。 23では、なぜわたしの金(かね)を銀行(ぎんこう)に入(い)れなかったのか。そうすれば、わたしが帰(かえ)ってきたとき、その金(かね)を利子(りし)と一緒(いっしょ)に引(ひ)き出(だ)したであろうに』。 24そして、そばに立(た)っていた人々(ひとびと)に、『その一ミナを彼(かれ)から取(と)り上(あ)げて、十ミナを持(も)っている者(もの)に与(あた)えなさい』と言(い)った。 25彼(かれ)らは言(い)った、『ご主人様(しゅじんさま)、あの人(ひと)は既(すで)に十ミナを持(も)っています』。 26『あなたがたに言(い)うが、おおよそ持(も)っている人(ひと)には、なお与(あた)えられ、持(も)っていない人(ひと)からは、持(も)っているものまでも取(と)り上(あ)げられるであろう。 27しかしわたしが王(おう)になることを好(この)まなかったあの敵(てき)どもを、ここにひっぱってきて、わたしの前(まえ)で打(う)ち殺(ころ)せ』」。

28イエスはこれらのことを言(い)ったのち、先頭(せんとう)に立(た)ち、エルサレムへ上(のぼ)って行(い)かれた。 29そしてオリブという山(やま)に沿(そ)ったベテパゲとベタニヤに近(ちか)づかれたとき、ふたりの弟子(でし)をつかわして言(い)われた、 30「向(む)こうの村(むら)へ行(い)きなさい。そこにはいったら、まだだれも乗(の)ったことのないろばの子(こ)がつないであるのを見(み)るであろう。それを解(と)いて、引(ひ)いてきなさい。 31もしだれかが『なぜ解(と)くのか』と問(と)うたら、『主(しゅ)がお入(い)り用(よう)なのです』と、そう言(い)いなさい」。 32そこで、つかわされた者(もの)たちが行(い)って見(み)ると、果(はた)して、言(い)われたとおりであった。 33彼(かれ)らが、そのろばの子(こ)を解(と)いていると、その持(も)ち主(ぬし)たちが、「なぜろばの子(こ)を解(と)くのか」と言(い)ったので、 34「主(しゅ)がお入(い)り用(よう)なのです」と答(こた)えた。 35そしてそれをイエスのところに引(ひ)いてきて、その子(こ)ろばの上(うえ)に自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)をかけてイエスをお乗(の)せした。 36そして進(すす)んで行(い)かれると、人々(ひとびと)は自分(じぶん)たちの上着(うわぎ)を道(みち)に敷(し)いた。 37いよいよオリブ山(やま)の下(くだ)り道(みち)あたりに近(ちか)づかれると、大(おお)ぜいの弟子(でし)たちはみな喜(よろこ)んで、彼(かれ)らが見(み)たすべての力(ちから)あるみわざについて、声(こえ)高(たか)らかに神(かみ)をさんびして言(い)いはじめた、
38「主(しゅ)の御名(みな)によってきたる王(おう)に、
祝福(しゅくふく)あれ。
天(てん)には平和(へいわ)、
いと高(たか)きところには栄光(えいこう)あれ」。
39ところが、群衆(ぐんしゅう)の中(なか)にいたあるパリサイ人(びと)たちがイエスに言(い)った、「先生(せんせい)、あなたの弟子(でし)たちをおしかり下(くだ)さい」。 40答(こた)えて言(い)われた、「あなたがたに言(い)うが、もしこの人(ひと)たちが黙(だま)れば、石(いし)が叫(さけ)ぶであろう」。

41いよいよ都(みやこ)の近(ちか)くにきて、それが見(み)えたとき、そのために泣(な)いて言(い)われた、 42「もしおまえも、この日(ひ)に、平和(へいわ)をもたらす道(みち)を知(し)ってさえいたら……しかし、それは今(いま)おまえの目(め)に隠(かく)されている。 43いつかは、敵(てき)が周囲(しゅうい)に塁(るい)を築(きず)き、おまえを取(と)りかこんで、四方(しほう)から押(お)し迫(せま)り、 44おまえとその内(うち)にいる子(こ)らとを地(ち)に打(う)ち倒(たお)し、城内(じょうない)の一つの石(いし)も他(た)の石(いし)の上(うえ)に残(のこ)して置(お)かない日(ひ)が来(く)るであろう。それは、おまえが神(かみ)のおとずれの時(とき)を知(し)らないでいたからである」。 45それから宮(みや)にはいり、商売人(しょうばいにん)たちを追(お)い出(だ)しはじめて、 46彼(かれ)らに言(い)われた、「『わが家(や)は祈(いのり)の家(いえ)であるべきだ』と書(か)いてあるのに、あなたがたはそれを盗賊(とうぞく)の巣(す)にしてしまった」。

47イエスは毎日(まいにち)、宮(みや)で教(おし)えておられた。祭司長(さいしちょう)、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)また民衆(みんしゅう)の重立(おもだ)った者(もの)たちはイエスを殺(ころ)そうと思(おも)っていたが、 48民衆(みんしゅう)がみな熱心(ねっしん)にイエスに耳(みみ)を傾(かたむ)けていたので、手(て)のくだしようがなかった。

第二〇章

1ある日(ひ)、イエスが宮(みや)で人々(ひとびと)に教(おし)え、福音(ふくいん)を宣(の)べておられると、祭司長(さいしちょう)や律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが、長老(ちょうろう)たちと共(とも)に近寄(ちかよ)ってきて、 2イエスに言(い)った、「何(なに)の権威(けんい)によってこれらの事(こと)をするのですか。そうする権威(けんい)をあなたに与(あた)えたのはだれですか、わたしたちに言(い)ってください」。 3そこで、イエスは答(こた)えて言(い)われた、「わたしも、ひと言(こと)たずねよう。それに答(こた)えてほしい。 4ヨハネのバプテスマは、天(てん)からであったか、人(ひと)からであったか」。 5彼(かれ)らは互(たがい)に論(ろん)じて言(い)った、「もし天(てん)からだと言(い)えば、では、なぜ彼(かれ)を信(しん)じなかったのか、とイエスは言(い)うだろう。 6しかし、もし人(ひと)からだと言(い)えば、民衆(みんしゅう)はみな、ヨハネを預言者(よげんしゃ)だと信(しん)じているから、わたしたちを石(いし)で打(う)つだろう」。 7それで彼(かれ)らは「どこからか、知(し)りません」と答(こた)えた。 8イエスはこれに対(たい)して言(い)われた、「わたしも何(なに)の権威(けんい)によってこれらの事(こと)をするのか、あなたがたに言(い)うまい」。

9そこでイエスは次(つぎ)の譬(たとえ)を民衆(みんしゅう)に語(かた)り出(だ)された、「ある人(ひと)がぶどう園(えん)を造(つく)って農夫(のうふ)たちに貸(か)し、長(なが)い旅(たび)に出(で)た。 10季節(きせつ)になったので、農夫(のうふ)たちのところへ、ひとりの僕(しもべ)を送(おく)って、ぶどう園(えん)の収穫(しゅうかく)の分(わ)け前(まえ)を出(だ)させようとした。ところが、農夫(のうふ)たちは、その僕(しもべ)を袋(ふくろ)だたきにし、から手(て)で帰(かえ)らせた。 11そこで彼(かれ)はもうひとりの僕(しもべ)を送(おく)った。彼(かれ)らはその僕(しもべ)も袋(ふくろ)だたきにし、侮辱(ぶじょく)を加(くわ)えて、から手(て)で帰(かえ)らせた。 12そこで更(さら)に三人(にん)目(め)の者(もの)を送(おく)ったが、彼(かれ)らはこの者(もの)も、傷(きず)を負(お)わせて追(お)い出(だ)した。 13ぶどう園(えん)の主人(しゅじん)は言(い)った、『どうしようか。そうだ、わたしの愛子(あいし)をつかわそう。これなら、たぶん敬(うやま)ってくれるだろう』。 14ところが、農夫(のうふ)たちは彼(かれ)を見(み)ると、『あれはあと取(と)りだ。あれを殺(ころ)してしまおう。そうしたら、その財産(ざいさん)はわれわれのものになるのだ』と互(たがい)に話(はな)し合(あ)い、 15彼(かれ)をぶどう園(えん)の外(そと)に追(お)い出(だ)して殺(ころ)した。そのさい、ぶどう園(えん)の主人(しゅじん)は、彼(かれ)らをどうするだろうか。 16彼(かれ)は出(で)てきて、この農夫(のうふ)たちを殺(ころ)し、ぶどう園(えん)を他(た)の人々(ひとびと)に与(あた)えるであろう」。人々(ひとびと)はこれを聞(き)いて、「そんなことがあってはなりません」と言(い)った。 17そこで、イエスは彼(かれ)らを見(み)つめて言(い)われた、「それでは、
『家(いえ)造(つく)りらの捨(す)てた石(いし)が
隅(すみ)のかしら石(いし)になった』
と書(か)いてあるのは、どういうことか。 18すべてその石(いし)の上(うえ)に落(お)ちる者(もの)は打(う)ち砕(くだ)かれ、それがだれかの上(うえ)に落(お)ちかかるなら、その人(ひと)はこなみじんにされるであろう」。

19このとき、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちや祭司長(さいしちょう)たちはイエスに手(て)をかけようと思(おも)ったが、民衆(みんしゅう)を恐(おそ)れた。いまの譬(たとえ)が自分(じぶん)たちに当(あ)てて語(かた)られたのだと、悟(さと)ったからである。 20そこで、彼(かれ)らは機会(きかい)をうかがい、義人(ぎじん)を装(よそお)うまわし者(もの)どもを送(おく)って、イエスを総督(そうとく)の支配(しはい)と権威(けんい)とに引(ひ)き渡(わた)すため、その言葉(ことば)じりを捕(とら)えさせようとした。 21彼(かれ)らは尋(たず)ねて言(い)った、「先生(せんせい)、わたしたちは、あなたの語(かた)り教(おし)えられることが正(ただ)しく、また、あなたは分(わ)け隔(へだ)てをなさらず、真理(しんり)に基(もとづ)いて神(かみ)の道(みち)を教(おし)えておられることを、承知(しょうち)しています。 22ところで、カイザルに貢(みつぎ)を納(おさ)めてよいでしょうか、いけないでしょうか」。 23イエスは彼(かれ)らの悪巧(わるだく)みを見破(みやぶ)って言(い)われた、 24「デナリを見(み)せなさい。それにあるのは、だれの肖像(しょうぞう)、だれの記号(きごう)なのか」。「カイザルのです」と、彼(かれ)らが答(こた)えた。 25するとイエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「それなら、カイザルのものはカイザルに、神(かみ)のものは神(かみ)に返(かえ)しなさい」。 26そこで彼(かれ)らは、民衆(みんしゅう)の前(まえ)でイエスの言葉(ことば)じりを捕(とら)えることができず、その答(こたえ)に驚嘆(きょうたん)して、黙(だま)ってしまった。

27復活(ふっかつ)ということはないと言(い)い張(は)っていたサドカイ人(びと)のある者(もの)たちが、イエスに近寄(ちかよ)ってきて質問(しつもん)した、 28「先生(せんせい)、モーセは、わたしたちのためにこう書(か)いています、『もしある人(ひと)の兄(あに)が妻(つま)をめとり、子(こ)がなくて死(し)んだなら、弟(おとうと)はこの女(おんな)をめとって、兄(あに)のために子(こ)をもうけねばならない』。 29ところで、ここに七人(にん)の兄弟(きょうだい)がいました。長男(ちょうなん)は妻(つま)をめとりましたが、子(こ)がなくて死(し)に、 30そして次男(じなん)、三男(さんなん)と、次々(つぎつぎ)に、その女(おんな)をめとり、 31七人(にん)とも同様(どうよう)に、子(こ)をもうけずに死(し)にました。 32のちに、その女(おんな)も死(し)にました。 33さて、復活(ふっかつ)の時(とき)には、この女(おんな)は七人(にん)のうち、だれの妻(つま)になるのですか。七人(にん)とも彼女(かのじょ)を妻(つま)にしたのですが」。 34イエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「この世(よ)の子(こ)らは、めとったり、とついだりするが、 35かの世(よ)にはいって死人(しにん)からの復活(ふっかつ)にあずかるにふさわしい者(もの)たちは、めとったり、とついだりすることはない。 36彼(かれ)らは天使(てんし)に等(ひと)しいものであり、また復活(ふっかつ)にあずかるゆえに、神(かみ)の子(こ)でもあるので、もう死(し)ぬことはあり得(え)ないからである。 37死人(しにん)がよみがえることは、モーセも柴(しば)の篇(へん)で、主(しゅ)を『アブラハムの神(かみ)、イサクの神(かみ)、ヤコブの神(かみ)』と呼(よ)んで、これを示(しめ)した。 38神(かみ)は死(し)んだ者(もの)の神(かみ)ではなく、生(い)きている者(もの)の神(かみ)である。人(ひと)はみな神(かみ)に生(い)きるものだからである」。 39律法(りっぽう)学者(がくしゃ)のうちのある人々(ひとびと)が答(こた)えて言(い)った、「先生(せんせい)、仰(おお)せのとおりです」。 40彼(かれ)らはそれ以上(いじょう)何(なに)もあえて問(と)いかけようとしなかった。

41イエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「どうして人々(ひとびと)はキリストをダビデの子(こ)だと言(い)うのか。 42ダビデ自身(じしん)が詩篇(しへん)の中(なか)で言(い)っている、
『主(しゅ)はわが主(しゅ)に仰(おお)せになった、
43あなたの敵(てき)をあなたの足(あし)台(だい)とする時(とき)までは、
わたしの右(みぎ)に座(ざ)していなさい』。
44このように、ダビデはキリストを主(しゅ)と呼(よ)んでいる。それなら、どうしてキリストはダビデの子(こ)であろうか」。

45民衆(みんしゅう)がみな聞(き)いているとき、イエスは弟子(でし)たちに言(い)われた、 46「律法(りっぽう)学者(がくしゃ)に気(き)をつけなさい。彼(かれ)らは長(なが)い衣(ころも)を着(き)て歩(ある)くのを好(この)み、広場(ひろば)での敬礼(けいれい)や会堂(かいどう)の上席(じょうせき)や宴会(えんかい)の上座(じょうざ)をよろこび、 47やもめたちの家(いえ)を食(く)い倒(たお)し、見(み)えのために長(なが)い祈(いのり)をする。彼(かれ)らはもっときびしいさばきを受(う)けるであろう」。

第二一章

1イエスは目(め)をあげて、金持(かねもち)たちがさいせん箱(はこ)に献金(けんきん)を投(な)げ入(い)れるのを見(み)られ、 2また、ある貧(まず)しいやもめが、レプタ二つを入(い)れるのを見(み)て 3言(い)われた、「よく聞(き)きなさい。あの貧(まず)しいやもめはだれよりもたくさん入(い)れたのだ。 4これらの人(ひと)たちはみな、ありあまる中(なか)から献金(けんきん)を投(な)げ入(い)れたが、あの婦人(ふじん)は、その乏(とぼ)しい中(なか)から、持(も)っている生活(せいかつ)費(ひ)全部(ぜんぶ)を入(い)れたからである」。

5ある人々(ひとびと)が、見事(みごと)な石(いし)と奉納物(ほうのうぶつ)とで宮(みや)が飾(かざ)られていることを話(はな)していたので、イエスは言(い)われた、 6「あなたがたはこれらのものをながめているが、その石(いし)一つでもくずされずに、他(た)の石(いし)の上(うえ)に残(のこ)ることもなくなる日(ひ)が、来(く)るであろう」。 7そこで彼(かれ)らはたずねた、「先生(せんせい)、では、いつそんなことが起(おこ)るのでしょうか。またそんなことが起(おこ)るような場合(ばあい)には、どんな前兆(ぜんちょう)がありますか」。 8イエスが言(い)われた、「あなたがたは、惑(まど)わされないように気(き)をつけなさい。多(おお)くの者(もの)がわたしの名(な)を名(な)のって現(あらわ)れ、自分(じぶん)がそれだとか、時(とき)が近(ちか)づいたとか、言(い)うであろう。彼(かれ)らについて行(い)くな。 9戦争(せんそう)と騒乱(そうらん)とのうわさを聞(き)くときにも、おじ恐(おそ)れるな。こうしたことはまず起(おこ)らねばならないが、終(おわ)りはすぐにはこない」。

10それから彼(かれ)らに言(い)われた、「民(たみ)は民(たみ)に、国(くに)は国(くに)に敵対(てきたい)して立(た)ち上(あ)がるであろう。 11また大(だい)地震(じしん)があり、あちこちに疫病(えきびょう)やききんが起(おこ)り、いろいろ恐(おそ)ろしいことや天(てん)からの物(もの)すごい前兆(ぜんちょう)があるであろう。 12しかし、これらのあらゆる出来事(できごと)のある前(まえ)に、人々(ひとびと)はあなたがたに手(て)をかけて迫害(はくがい)をし、会堂(かいどう)や獄(ごく)に引(ひ)き渡(わた)し、わたしの名(な)のゆえに王(おう)や総督(そうとく)の前(まえ)にひっぱって行(い)くであろう。 13それは、あなたがたがあかしをする機会(きかい)となるであろう。 14だから、どう答弁(とうべん)しようかと、前(まえ)もって考(かんが)えておかないことに心(こころ)を決(き)めなさい。 15あなたの反対者(はんたいしゃ)のだれもが抗弁(こうべん)も否定(ひてい)もできないような言葉(ことば)と知恵(ちえ)とを、わたしが授(さづ)けるから。 16しかし、あなたがたは両親(りょうしん)、兄弟(きょうだい)、親族(しんぞく)、友人(ゆうじん)にさえ裏切(うらぎ)られるであろう。また、あなたがたの中(なか)で殺(ころ)されるものもあろう。 17また、わたしの名(な)のゆえにすべての人(ひと)に憎(にく)まれるであろう。 18しかし、あなたがたの髪(かみ)の毛(け)一すじでも失(うしな)われることはない。 19あなたがたは耐(た)え忍(しの)ぶことによって、自分(じぶん)の魂(たましい)をかち取(と)るであろう。

20エルサレムが軍隊(ぐんたい)に包囲(ほうい)されるのを見(み)たならば、そのときは、その滅亡(めつぼう)が近(ちか)づいたとさとりなさい。 21そのとき、ユダヤにいる人々(ひとびと)は山(やま)へ逃(に)げよ。市中(しちゅう)にいる者(もの)は、そこから出(で)て行(い)くがよい。また、いなかにいる者(もの)は市内(しない)にはいってはいけない。 22それは、聖書(せいしょ)にしるされたすべての事(こと)が実現(じつげん)する刑罰(けいばつ)の日(ひ)であるからだ。 23その日(ひ)には、身重(みおも)の女(おんな)と乳飲(ちの)み子(ご)をもつ女(おんな)とは、不幸(ふこう)である。地上(ちじょう)には大(おお)きな苦難(くなん)があり、この民(たみ)にはみ怒(いか)りが臨(のぞ)み、 24彼(かれ)らはつるぎの刃(は)に倒(たお)れ、また捕(とら)えられて諸国(しょこく)へ引(ひ)きゆかれるであろう。そしてエルサレムは、異邦人(いほうじん)の時期(じき)が満(み)ちるまで、彼(かれ)らに踏(ふ)みにじられているであろう。 25また日(ひ)と月(つき)と星(ほし)とに、しるしが現(あらわ)れるであろう。そして、地上(ちじょう)では、諸(しょ)国民(こくみん)が悩(なや)み、海(うみ)と大波(おおなみ)とのとどろきにおじ惑(まど)い、 26人々(ひとびと)は世界(せかい)に起(おこ)ろうとする事(こと)を思(おも)い、恐怖(きょうふ)と不安(ふあん)で気絶(きぜつ)するであろう。もろもろの天体(てんたい)が揺(ゆ)り動(うご)かされるからである。 27そのとき、大(おお)いなる力(ちから)と栄光(えいこう)とをもって、人(ひと)の子(こ)が雲(くも)に乗(の)って来(く)るのを、人々(ひとびと)は見(み)るであろう。 28これらの事(こと)が起(おこ)りはじめたら、身(み)を起(おこ)し頭(あたま)をもたげなさい。あなたがたの救(すくい)が近(ちか)づいているのだから」。

29それから一つの譬(たとえ)を話(はな)された、「いちじくの木(き)を、またすべての木(き)を見(み)なさい。 30はや芽(め)を出(だ)せば、あなたがたはそれを見(み)て、夏(なつ)がすでに近(ちか)いと、自分(じぶん)で気(き)づくのである。 31このようにあなたがたも、これらの事(こと)が起(おこ)るのを見(み)たなら、神(かみ)の国(くに)が近(ちか)いのだとさとりなさい。 32よく聞(き)いておきなさい。これらの事(こと)が、ことごとく起(おこ)るまでは、この時代(じだい)は滅(ほろ)びることがない。 33天地(てんち)は滅(ほろ)びるであろう。しかしわたしの言葉(ことば)は決(けっ)して滅(ほろ)びることがない。

34あなたがたが放縦(ほうじゅう)や、泥酔(でいすい)や、世(よ)の煩(わずら)いのために心(こころ)が鈍(にぶ)っているうちに、思(おも)いがけないとき、その日(ひ)がわなのようにあなたがたを捕(とら)えることがないように、よく注意(ちゅうい)していなさい。 35その日(ひ)は地(ち)の全面(ぜんめん)に住(す)むすべての人(ひと)に臨(のぞ)むのであるから。 36これらの起(おこ)ろうとしているすべての事(こと)からのがれて、人(ひと)の子(こ)の前(まえ)に立(た)つことができるように、絶(た)えず目(め)をさまして祈(いの)っていなさい」。

37イエスは昼(ひる)のあいだは宮(みや)で教(おし)え、夜(よる)には出(で)て行(い)ってオリブという山(やま)で夜(よ)をすごしておられた。 38民衆(みんしゅう)はみな、み教(おしえ)を聞(き)こうとして、いつも朝(あさ)早(はや)く宮(みや)に行(い)き、イエスのもとに集(あつ)まった。

第二二章

1さて、過越(すぎこし)といわれている除酵祭(じょこうさい)が近(ちか)づいた。 2祭司長(さいしちょう)たちや律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちは、どうかしてイエスを殺(ころ)そうと計(はか)っていた。民衆(みんしゅう)を恐(おそ)れていたからである。

3そのとき、十二弟子(でし)のひとりで、イスカリオテと呼(よ)ばれていたユダに、サタンがはいった。 4すなわち、彼(かれ)は祭司長(さいしちょう)たちや宮守(みやもり)がしらたちのところへ行(い)って、どうしてイエスを彼(かれ)らに渡(わた)そうかと、その方法(ほうほう)について協議(きょうぎ)した。 5彼(かれ)らは喜(よろこ)んで、ユダに金(かね)を与(あた)える取決(とりき)めをした。 6ユダはそれを承諾(しょうだく)した。そして、群衆(ぐんしゅう)のいないときにイエスを引(ひ)き渡(わた)そうと、機会(きかい)をねらっていた。

7さて、過越(すぎこし)の小羊(こひつじ)をほふるべき除酵祭(じょこうさい)の日(ひ)がきたので、 8イエスはペテロとヨハネとを使(つか)いに出(だ)して言(い)われた、「行(い)って、過越(すぎこし)の食事(しょくじ)ができるように準備(じゅんび)をしなさい」。 9彼(かれ)らは言(い)った、「どこに準備(じゅんび)をしたらよいのですか」。 10イエスは言(い)われた、「市内(しない)にはいったら、水(みず)がめを持(も)っている男(おとこ)に出会(であ)うであろう。その人(ひと)がはいる家(いえ)までついて行(い)って、 11その家(いえ)の主人(しゅじん)に言(い)いなさい、『弟子(でし)たちと一緒(いっしょ)に過越(すぎこし)の食事(しょくじ)をする座敷(ざしき)はどこか、と先生(せんせい)が言(い)っておられます』。 12すると、その主人(しゅじん)は席(せき)の整(ととの)えられた二階(かい)の広間(ひろま)を見(み)せてくれるから、そこに用意(ようい)をしなさい」。 13弟子(でし)たちは出(で)て行(い)ってみると、イエスが言(い)われたとおりであったので、過越(すぎこし)の食事(しょくじ)の用意(ようい)をした。

14時間(じかん)になったので、イエスは食卓(しょくたく)につかれ、使徒(しと)たちも共(とも)に席(せき)についた。 15イエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「わたしは苦(くる)しみを受(う)ける前(まえ)に、あなたがたとこの過越(すぎこし)の食事(しょくじ)をしようと、切(せつ)に望(のぞ)んでいた。 16あなたがたに言(い)って置(お)くが、神(かみ)の国(くに)で過越(すぎこし)が成就(じょうじゅ)する時(とき)までは、わたしは二度(ど)と、この過越(すぎこし)の食事(しょくじ)をすることはない」。 17そして杯(さかずき)を取(と)り、感謝(かんしゃ)して言(い)われた、「これを取(と)って、互(たがい)に分(わ)けて飲(の)め。 18あなたがたに言(い)っておくが、今(いま)からのち神(かみ)の国(くに)が来(く)るまでは、わたしはぶどうの実(み)から造(つく)ったものを、いっさい飲(の)まない」。 19またパンを取(と)り、感謝(かんしゃ)してこれをさき、弟子(でし)たちに与(あた)えて言(い)われた、「これは、あなたがたのために与(あた)えるわたしのからだである。わたしを記念(きねん)するため、このように行(おこな)いなさい」。 20食事(しょくじ)ののち、杯(さかずき)も同(おな)じ様(よう)にして言(い)われた、「この杯(さかずき)は、あなたがたのために流(なが)すわたしの血(ち)で立(た)てられる新(あたら)しい契約(けいやく)である。 21しかし、そこに、わたしを裏切(うらぎ)る者(もの)が、わたしと一緒(いっしょ)に食卓(しょくたく)に手(て)を置(お)いている。 22人(ひと)の子(こ)は定(さだ)められたとおりに、去(さ)って行(い)く。しかし人(ひと)の子(こ)を裏切(うらぎ)るその人(ひと)は、わざわいである」。 23弟子(でし)たちは、自分(じぶん)たちのうちのだれが、そんな事(こと)をしようとしているのだろうと、互(たがい)に論(ろん)じはじめた。

24それから、自分(じぶん)たちの中(なか)でだれがいちばん偉(えら)いだろうかと言(い)って、争論(そうろん)が彼(かれ)らの間(あいだ)に、起(おこ)った。 25そこでイエスが言(い)われた、「異邦(いほう)の王(おう)たちはその民(たみ)の上(うえ)に君臨(くんりん)し、また、権力(けんりょく)をふるっている者(もの)たちは恩人(おんじん)と呼(よ)ばれる。 26しかし、あなたがたは、そうであってはならない。かえって、あなたがたの中(なか)でいちばん偉(えら)い人(ひと)はいちばん若(わか)い者(もの)のように、指導(しどう)する人(ひと)は仕(つか)える者(もの)のようになるべきである。 27食卓(しょくたく)につく人(ひと)と給仕(きゅうじ)する者(もの)と、どちらが偉(えら)いのか。食卓(しょくたく)につく人(ひと)の方(ほう)ではないか。しかし、わたしはあなたがたの中(なか)で、給仕(きゅうじ)をする者(もの)のようにしている。 28あなたがたは、わたしの試錬(しれん)のあいだ、わたしと一緒(いっしょ)に最後(さいご)まで忍(しの)んでくれた人(ひと)たちである。 29それで、わたしの父(ちち)が国(くに)の支配(しはい)をわたしにゆだねてくださったように、わたしもそれをあなたがたにゆだね、 30わたしの国(くに)で食卓(しょくたく)について飲(の)み食(く)いをさせ、また位(くらい)に座(ざ)してイスラエルの十二の部族(ぶぞく)をさばかせるであろう。 31シモン、シモン、見(み)よ、サタンはあなたがたを麦(むぎ)のようにふるいにかけることを願(ねが)って許(ゆる)された。 32しかし、わたしはあなたの信仰(しんこう)がなくならないように、あなたのために祈(いの)った。それで、あなたが立(た)ち直(なお)ったときには、兄弟(きょうだい)たちを力(ちから)づけてやりなさい」。 33シモンが言(い)った、「主(しゅ)よ、わたしは獄(ごく)にでも、また死(し)に至(いた)るまでも、あなたとご一緒(いっしょ)に行(い)く覚悟(かくご)です」。 34するとイエスが言(い)われた、「ペテロよ、あなたに言(い)っておく。きょう、鶏(にわとり)が鳴(な)くまでに、あなたは三度(ど)わたしを知(し)らないと言(い)うだろう」。

35そして彼(かれ)らに言(い)われた、「わたしが財布(さいふ)も袋(ふくろ)もくつも持(も)たせずにあなたがたをつかわしたとき、何(なに)かこまったことがあったか」。彼(かれ)らは、「いいえ、何(なに)もありませんでした」と答(こた)えた。 36そこで言(い)われた、「しかし今(いま)は、財布(さいふ)のあるものは、それを持(も)って行(い)け。袋(ふくろ)も同様(どうよう)に持(も)って行(い)け。また、つるぎのない者(もの)は、自分(じぶん)の上着(うわぎ)を売(う)って、それを買(か)うがよい。 37あなたがたに言(い)うが、『彼(かれ)は罪人(つみびと)のひとりに数(かぞ)えられた』としるしてあることは、わたしの身(み)に成(な)しとげられねばならない。そうだ、わたしに係(かか)わることは成就(じょうじゅ)している」。 38弟子(でし)たちが言(い)った、「主(しゅ)よ、ごらんなさい、ここにつるぎが二振(ふ)りございます」。イエスは言(い)われた、「それでよい」。

39イエスは出(で)て、いつものようにオリブ山(やま)に行(い)かれると、弟子(でし)たちも従(したが)って行(い)った。 40いつもの場所(ばしょ)に着(つ)いてから、彼(かれ)らに言(い)われた、「誘惑(ゆうわく)に陥(おちい)らないように祈(いの)りなさい」。 41そしてご自分(じぶん)は、石(いし)を投(な)げてとどくほど離(はな)れたところへ退(しりぞ)き、ひざまずいて、祈(いの)って言(い)われた、 42「父(ちち)よ、みこころならば、どうぞ、この杯(さかずき)をわたしから取(と)りのけてください。しかし、わたしの思(おも)いではなく、みこころが成(な)るようにしてください」。 43そのとき、御使(みつかい)が天(てん)からあらわれてイエスを力(ちから)づけた。 44イエスは苦(くる)しみもだえて、ますます切(せつ)に祈(いの)られた。そして、その汗(あせ)が血(ち)のしたたりのように地(ち)に落(お)ちた。 45祈(いのり)を終(お)えて立(た)ちあがり、弟子(でし)たちのところへ行(い)かれると、彼(かれ)らが悲(かな)しみのはて寝入(ねい)っているのをごらんになって 46言(い)われた、「なぜ眠(ねむ)っているのか。誘惑(ゆうわく)に陥(おちい)らないように、起(お)きて祈(いの)っていなさい」。

47イエスがまだそう言(い)っておられるうちに、そこに群衆(ぐんしゅう)が現(あらわ)れ、十二弟子(でし)のひとりでユダという者(もの)が先頭(せんとう)に立(た)って、イエスに接吻(せっぷん)しようとして近(ちか)づいてきた。 48そこでイエスは言(い)われた、「ユダ、あなたは接吻(せっぷん)をもって人(ひと)の子(こ)を裏切(うらぎ)るのか」。 49イエスのそばにいた人(ひと)たちは、事(こと)のなりゆきを見(み)て、「主(しゅ)よ、つるぎで切(き)りつけてやりましょうか」と言(い)って、 50そのうちのひとりが、祭司長(さいしちょう)の僕(しもべ)に切(き)りつけ、その右(みぎ)の耳(みみ)を切(き)り落(おと)した。 51イエスはこれに対(たい)して言(い)われた、「それだけでやめなさい」。そして、その僕(しもべ)の耳(みみ)に手(て)を触(ふれ)て、おいやしになった。 52それから、自分(じぶん)にむかって来(く)る祭司長(さいしちょう)、宮守(みやもり)がしら、長老(ちょうろう)たちに対(たい)して言(い)われた、「あなたがたは、強盗(ごうとう)にむかうように剣(けん)や棒(ぼう)を持(も)って出(で)てきたのか。 53毎日(まいにち)あなたがたと一緒(いっしょ)に宮(みや)にいた時(とき)には、わたしに手(て)をかけなかった。だが、今(いま)はあなたがたの時(とき)、また、やみの支配(しはい)の時(とき)である」。

54それから人々(ひとびと)はイエスを捕(とら)え、ひっぱって大祭司(だいさいし)の邸宅(ていたく)へつれて行(い)った。ペテロは遠(とお)くからついて行(い)った。 55人々(ひとびと)は中庭(なかにわ)のまん中(なか)に火(ひ)をたいて、一緒(いっしょ)にすわっていたので、ペテロもその中(なか)にすわった。 56すると、ある女中(じょちゅう)が、彼(かれ)が火(ひ)のそばにすわっているのを見(み)、彼(かれ)を見(み)つめて、「この人(ひと)もイエスと一緒(いっしょ)にいました」と言(い)った。 57ペテロはそれを打(う)ち消(け)して、「わたしはその人(ひと)を知(し)らない」と言(い)った。 58しばらくして、ほかの人(ひと)がペテロを見(み)て言(い)った、「あなたもあの仲間(なかま)のひとりだ」。するとペテロは言(い)った、「いや、それはちがう」。 59約(やく)一時間(じかん)たってから、またほかの者(もの)が言(い)い張(は)った、「たしかにこの人(ひと)もイエスと一緒(いっしょ)だった。この人(ひと)もガリラヤ人(びと)なのだから」。 60ペテロは言(い)った、「あなたの言(い)っていることは、わたしにわからない」。すると、彼(かれ)がまだ言(い)い終(おわ)らぬうちに、たちまち、鶏(にわとり)が鳴(な)いた。 61主(しゅ)は振(ふ)りむいてペテロを見(み)つめられた。そのときペテロは、「きょう、鶏(にわとり)が鳴(な)く前(まえ)に、三度(ど)わたしを知(し)らないと言(い)うであろう」と言(い)われた主(しゅ)のお言葉(ことば)を思(おも)い出(だ)した。 62そして外(そと)へ出(で)て、激(はげ)しく泣(な)いた。

63イエスを監視(かんし)していた人(ひと)たちは、イエスを嘲弄(ちょうろう)し、打(う)ちたたき、 64目(め)かくしをして、「言(い)いあててみよ。打(う)ったのは、だれか」ときいたりした。 65そのほか、いろいろな事(こと)を言(い)って、イエスを愚弄(ぐろう)した。

66夜(よ)が明(あ)けたとき、人民(じんみん)の長老(ちょうろう)、祭司長(さいしちょう)たち、律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちが集(あつ)まり、イエスを議会(ぎかい)に引(ひ)き出(だ)して言(い)った、 67「あなたがキリストなら、そう言(い)ってもらいたい」。イエスは言(い)われた、「わたしが言(い)っても、あなたがたは信(しん)じないだろう。 68また、わたしがたずねても、答(こた)えないだろう。 69しかし、人(ひと)の子(こ)は今(いま)からのち、全能(ぜんのう)の神(かみ)の右(みぎ)に座(ざ)するであろう」。 70彼(かれ)らは言(い)った、「では、あなたは神(かみ)の子(こ)なのか」。イエスは言(い)われた、「あなたがたの言(い)うとおりである」。 71すると彼(かれ)らは言(い)った、「これ以上(いじょう)、なんの証拠(しょうこ)がいるか。われわれは直接(ちょくせつ)彼(かれ)の口(くち)から聞(き)いたのだから」。

第二三章

1群衆(ぐんしゅう)はみな立(た)ちあがって、イエスをピラトのところへ連(つ)れて行(い)った。 2そして訴(うった)え出(で)て言(い)った、「わたしたちは、この人(ひと)が国民(こくみん)を惑(まど)わし、貢(みつぎ)をカイザルに納(おさ)めることを禁(きん)じ、また自分(じぶん)こそ王(おう)なるキリストだと、となえているところを目撃(もくげき)しました」。 3ピラトはイエスに尋(たず)ねた、「あなたがユダヤ人(じん)の王(おう)であるか」。イエスは「そのとおりである」とお答(こた)えになった。 4そこでピラトは祭司長(さいしちょう)たちと群衆(ぐんしゅう)とにむかって言(い)った、「わたしはこの人(ひと)になんの罪(つみ)もみとめない」。 5ところが彼(かれ)らは、ますます言(い)いつのってやまなかった、「彼(かれ)は、ガリラヤからはじめてこの所(ところ)まで、ユダヤ全国(ぜんこく)にわたって教(おし)え、民衆(みんしゅう)を煽動(せんどう)しているのです」。 6ピラトはこれを聞(き)いて、この人(ひと)はガリラヤ人(びと)かと尋(たず)ね、 7そしてヘロデの支配下(しはいか)のものであることを確(たし)かめたので、ちょうどこのころ、ヘロデがエルサレムにいたのをさいわい、そちらへイエスを送(おく)りとどけた。 8ヘロデはイエスを見(み)て非常(ひじょう)に喜(よろこ)んだ。それは、かねてイエスのことを聞(き)いていたので、会(あ)って見(み)たいと長(なが)いあいだ思(おも)っていたし、またイエスが何(なに)か奇跡(きせき)を行(おこな)うのを見(み)たいと望(のぞ)んでいたからである。 9それで、いろいろと質問(しつもん)を試(こころ)みたが、イエスは何(なに)もお答(こた)えにならなかった。 10祭司長(さいしちょう)たちと律法(りっぽう)学者(がくしゃ)たちとは立(た)って、激(はげ)しい語調(ごちょう)でイエスを訴(うった)えた。 11またヘロデはその兵卒(へいそつ)どもと一緒(いっしょ)になって、イエスを侮辱(ぶじょく)したり嘲弄(ちょうろう)したりしたあげく、はなやかな着物(きもの)を着(き)せてピラトへ送(おく)りかえした。 12ヘロデとピラトとは以前(いぜん)は互(たがい)に敵視(てきし)していたが、この日(ひ)に親(した)しい仲(なか)になった。

13ピラトは、祭司長(さいしちょう)たちと役人(やくにん)たちと民衆(みんしゅう)とを、呼(よ)び集(あつ)めて言(い)った、 14「おまえたちは、この人(ひと)を民衆(みんしゅう)を惑(まど)わすものとしてわたしのところに連(つ)れてきたので、おまえたちの面前(めんぜん)でしらべたが、訴(うった)え出(で)ているような罪(つみ)は、この人(ひと)に少(すこ)しもみとめられなかった。 15ヘロデもまたみとめなかった。現(げん)に彼(かれ)はイエスをわれわれに送(おく)りかえしてきた。この人(ひと)はなんら死(し)に当(あた)るようなことはしていないのである。 16だから、彼(かれ)をむち打(う)ってから、ゆるしてやることにしよう」。〔 17祭(まつり)ごとにピラトがひとりの囚人(しゅうじん)をゆるしてやることになっていた。〕 18ところが、彼(かれ)らはいっせいに叫(さけ)んで言(い)った、「その人(ひと)を殺(ころ)せ。バラバをゆるしてくれ」。 19このバラバは、都(みやこ)で起(おこ)った暴動(ぼうどう)と殺人(さつじん)とのかどで、獄(ごく)に投(とう)ぜられていた者(もの)である。 20ピラトはイエスをゆるしてやりたいと思(おも)って、もう一度(ど)かれらに呼(よ)びかけた。 21しかし彼(かれ)らは、わめきたてて「十字架(じゅうじか)につけよ、彼(かれ)を十字架(じゅうじか)につけよ」と言(い)いつづけた。 22ピラトは三度目(どめ)に彼(かれ)らにむかって言(い)った、「では、この人(ひと)は、いったい、どんな悪事(あくじ)をしたのか。彼(かれ)には死(し)に当(あた)る罪(つみ)は全(まった)くみとめられなかった。だから、むち打(う)ってから彼(かれ)をゆるしてやることにしよう」。 23ところが、彼(かれ)らは大声(おおごえ)をあげて詰(つ)め寄(よ)り、イエスを十字架(じゅうじか)につけるように要求(ようきゅう)した。そして、その声(こえ)が勝(か)った。 24ピラトはついに彼(かれ)らの願(ねが)いどおりにすることに決定(けってい)した。 25そして、暴動(ぼうどう)と殺人(さつじん)とのかどで獄(ごく)に投(とう)ぜられた者(もの)の方(ほう)を、彼(かれ)らの要求(ようきゅう)に応(おう)じてゆるしてやり、イエスの方(ほう)は彼(かれ)らに引(ひ)き渡(わた)して、その意(い)のままにまかせた。

26彼(かれ)らがイエスをひいてゆく途中(とちゅう)、シモンというクレネ人(びと)が郊外(こうがい)から出(で)てきたのを捕(とら)えて十字架(じゅうじか)を負(お)わせ、それをになってイエスのあとから行(い)かせた。

27大(おお)ぜいの民衆(みんしゅう)と、悲(かな)しみ嘆(なげ)いてやまない女(おんな)たちの群(む)れとが、イエスに従(したが)って行(い)った。 28イエスは女(おんな)たちの方(ほう)に振(ふ)りむいて言(い)われた、「エルサレムの娘(むすめ)たちよ、わたしのために泣(な)くな。むしろ、あなたがた自身(じしん)のため、また自分(じぶん)の子供(こども)たちのために泣(な)くがよい。 29『不妊(ふにん)の女(おんな)と子(こ)を産(う)まなかった胎(たい)と、ふくませなかった乳房(ちぶさ)とは、さいわいだ』と言(い)う日(ひ)が、いまに来(く)る。 30そのとき、人々(ひとびと)は山(やま)にむかって、われわれの上(うえ)に倒(たお)れかかれと言(い)い、また丘(おか)にむかって、われわれにおおいかぶされと言(い)い出(だ)すであろう。 31もし、生木(なまき)でさえもそうされるなら、枯木(かれき)はどうされることであろう」。

32さて、イエスと共(とも)に刑(けい)を受(う)けるために、ほかにふたりの犯罪(はんざい)人(にん)も引(ひ)かれていった。 33されこうべと呼(よ)ばれている所(ところ)に着(つ)くと、人々(ひとびと)はそこでイエスを十字架(じゅうじか)につけ、犯罪(はんざい)人(にん)たちも、ひとりは右(みぎ)に、ひとりは左(ひだり)に、十字架(じゅうじか)につけた。 34そのとき、イエスは言(い)われた、「父(ちち)よ、彼(かれ)らをおゆるしください。彼(かれ)らは何(なに)をしているのか、わからずにいるのです」。人々(ひとびと)はイエスの着物(きもの)をくじ引(ひ)きで分(わ)け合(あ)った。 35民衆(みんしゅう)は立(た)って見(み)ていた。役人(やくにん)たちもあざ笑(わら)って言(い)った、「彼(かれ)は他人(たにん)を救(すく)った。もし彼(かれ)が神(かみ)のキリスト、選(えら)ばれた者(もの)であるなら、自分(じぶん)自身(じしん)を救(すく)うがよい」。 36兵卒(へいそつ)どももイエスをののしり、近寄(ちかよ)ってきて酢(す)いぶどう酒(しゅ)をさし出(だ)して言(い)った、 37「あなたがユダヤ人(じん)の王(おう)なら、自分(じぶん)を救(すく)いなさい」。 38イエスの上(うえ)には、「これはユダヤ人(じん)の王(おう)」と書(か)いた札(ふだ)がかけてあった。

39十字架(じゅうじか)にかけられた犯罪(はんざい)人(にん)のひとりが、「あなたはキリストではないか。それなら、自分(じぶん)を救(すく)い、またわれわれも救(すく)ってみよ」と、イエスに悪口(わるくち)を言(い)いつづけた。 40もうひとりは、それをたしなめて言(い)った、「おまえは同(おな)じ刑(けい)を受(う)けていながら、神(かみ)を恐(おそ)れないのか。 41お互(たがい)は自分(じぶん)のやった事(こと)のむくいを受(う)けているのだから、こうなったのは当然(とうぜん)だ。しかし、このかたは何(なに)も悪(わる)いことをしたのではない」。 42そして言(い)った、「イエスよ、あなたが御国(みくに)の権威(けんい)をもっておいでになる時(とき)には、わたしを思(おも)い出(だ)してください」。 43イエスは言(い)われた、「よく言(い)っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒(いっしょ)にパラダイスにいるであろう」。

44時(とき)はもう昼(ひる)の十二時(じ)ごろであったが、太陽(たいよう)は光(ひかり)を失(うしな)い、全(ぜん)地(ち)は暗(くら)くなって、三時(じ)に及(およ)んだ。 45そして聖所(せいじょ)の幕(まく)がまん中(なか)から裂(さ)けた。 46そのとき、イエスは声(こえ)高(たか)く叫(さけ)んで言(い)われた、「父(ちち)よ、わたしの霊(れい)をみ手(て)にゆだねます」。こう言(い)ってついに息(いき)を引(ひ)きとられた。 47百卒長(ひゃくそつちょう)はこの有様(ありさま)を見(み)て、神(かみ)をあがめ、「ほんとうに、この人(ひと)は正(ただ)しい人(ひと)であった」と言(い)った。 48この光景(こうけい)を見(み)に集(あつ)まってきた群衆(ぐんしゅう)も、これらの出来事(できごと)を見(み)て、みな胸(むね)を打(う)ちながら帰(かえ)って行(い)った。 49すべてイエスを知(し)っていた者(もの)や、ガリラヤから従(したが)ってきた女(おんな)たちも、遠(とお)い所(ところ)に立(た)って、これらのことを見(み)ていた。

50ここに、ヨセフという議員(ぎいん)がいたが、善良(ぜんりょう)で正(ただ)しい人(ひと)であった。 51この人(ひと)はユダヤの町(まち)アリマタヤの出身(しゅっしん)で、神(かみ)の国(くに)を待(ま)ち望(のぞ)んでいた。彼(かれ)は議会(ぎかい)の議決(ぎけつ)や行動(こうどう)には賛成(さんせい)していなかった。 52この人(ひと)がピラトのところへ行(い)って、イエスのからだの引取(ひきと)り方(かた)を願(ねが)い出(で)て、 53それを取(と)りおろして亜麻布(あまぬの)に包(つつ)み、まだだれも葬(ほうむ)ったことのない、岩(いわ)を掘(ほ)って造(つく)った墓(はか)に納(おさ)めた。 54この日(ひ)は準備(じゅんび)の日(ひ)であって、安息日(あんそくにち)が始(はじ)まりかけていた。 55イエスと一緒(いっしょ)にガリラヤからきた女(おんな)たちは、あとについてきて、その墓(はか)を見(み)、またイエスのからだが納(おさ)められる様子(ようす)を見(み)とどけた。 56そして帰(かえ)って、香料(こうりょう)と香油(こうゆ)とを用意(ようい)した。

それからおきてに従(したが)って安息日(あんそくにち)を休(やす)んだ。

第二四章

1週(しゅう)の初(はじ)めの日(ひ)、夜明(よあ)け前(まえ)に、女(おんな)たちは用意(ようい)しておいた香料(こうりょう)を携(たずさ)えて、墓(はか)に行(い)った。 2ところが、石(いし)が墓(はか)からころがしてあるので、 3中(なか)にはいってみると、主(しゅ)イエスのからだが見当(みあた)らなかった。 4そのため途方(とほう)にくれていると、見(み)よ、輝(かがや)いた衣(ころも)を着(き)たふたりの者(もの)が、彼(かれ)らに現(あらわ)れた。 5女(おんな)たちは驚(おどろ)き恐(おそ)れて、顔(かお)を地(ち)に伏(ふ)せていると、このふたりの者(もの)が言(い)った、「あなたがたは、なぜ生(い)きた方(ほう)を死人(しにん)の中(なか)にたずねているのか。 6そのかたは、ここにはおられない。よみがえられたのだ。まだガリラヤにおられたとき、あなたがたにお話(はな)しになったことを思(おも)い出(だ)しなさい。 7すなわち、人(ひと)の子(こ)は必(かなら)ず罪人(つみびと)らの手(て)に渡(わた)され、十字架(じゅうじか)につけられ、そして三日(か)目(め)によみがえる、と仰(おお)せられたではないか」。 8そこで女(おんな)たちはその言葉(ことば)を思(おも)い出(だ)し、 9墓(はか)から帰(かえ)って、これらいっさいのことを、十一弟子(でし)や、その他(た)みんなの人(ひと)に報告(ほうこく)した。 10この女(おんな)たちというのは、マグダラのマリヤ、ヨハンナ、およびヤコブの母(はは)マリヤであった。彼女(かのじょ)たちと一緒(いっしょ)にいたほかの女(おんな)たちも、このことを使徒(しと)たちに話(はな)した。 11ところが、使徒(しと)たちには、それが愚(おろ)かな話(はなし)のように思(おも)われて、それを信(しん)じなかった。〔 12ペテロは立(た)って墓(はか)へ走(はし)って行(い)き、かがんで中(なか)を見(み)ると、亜麻布(あまぬの)だけがそこにあったので、事(こと)の次第(しだい)を不思議(ふしぎ)に思(おも)いながら帰(かえ)って行(い)った。〕

13この日(ひ)、ふたりの弟子(でし)が、エルサレムから七マイルばかり離(はな)れたエマオという村(むら)へ行(い)きながら、 14このいっさいの出来事(できごと)について互(たがい)に語(かた)り合(あ)っていた。 15語(かた)り合(あ)い論(ろん)じ合(あ)っていると、イエスご自身(じしん)が近(ちか)づいてきて、彼(かれ)らと一緒(いっしょ)に歩(ある)いて行(い)かれた。 16しかし、彼(かれ)らの目(め)がさえぎられて、イエスを認(みと)めることができなかった。 17イエスは彼(かれ)らに言(い)われた、「歩(ある)きながら互(たがい)に語(かた)り合(あ)っているその話(はなし)は、なんのことなのか」。彼(かれ)らは悲(かな)しそうな顔(かお)をして立(た)ちどまった。 18そのひとりのクレオパという者(もの)が、答(こた)えて言(い)った、「あなたはエルサレムに泊(と)まっていながら、あなただけが、この都(みやこ)でこのごろ起(おこ)ったことをご存(ぞん)じないのですか」。 19「それは、どんなことか」と言(い)われると、彼(かれ)らは言(い)った、「ナザレのイエスのことです。あのかたは、神(かみ)とすべての民衆(みんしゅう)との前(まえ)で、わざにも言葉(ことば)にも力(ちから)ある預言者(よげんしゃ)でしたが、 20祭司長(さいしちょう)たちや役人(やくにん)たちが、死刑(しけい)に処(しょ)するために引(ひ)き渡(わた)し、十字架(じゅうじか)につけたのです。 21わたしたちは、イスラエルを救(すく)うのはこの人(ひと)であろうと、望(のぞ)みをかけていました。しかもその上(うえ)に、この事(こと)が起(おこ)ってから、きょうが三日(か)目(め)なのです。 22ところが、わたしたちの仲間(なかま)である数人(すうにん)の女(おんな)が、わたしたちを驚(おどろ)かせました。というのは、彼(かれ)らが朝(あさ)早(はや)く墓(はか)に行(い)きますと、 23イエスのからだが見当(みあた)らないので、帰(かえ)ってきましたが、そのとき御使(みつかい)が現(あらわ)れて、『イエスは生(い)きておられる』と告(つ)げたと申(もう)すのです。 24それで、わたしたちの仲間(なかま)が数人(すうにん)、墓(はか)に行(い)って見(み)ますと、果(はた)して女(おんな)たちが言(い)ったとおりで、イエスは見当(みあた)りませんでした」。 25そこでイエスが言(い)われた、「ああ、愚(おろ)かで心(こころ)のにぶいため、預言者(よげんしゃ)たちが説(と)いたすべての事(こと)を信(しん)じられない者(もの)たちよ。 26キリストは必(かなら)ず、これらの苦難(くなん)を受(う)けて、その栄光(えいこう)に入(はい)るはずではなかったのか」。 27こう言(い)って、モーセやすべての預言者(よげんしゃ)からはじめて、聖書(せいしょ)全体(ぜんたい)にわたり、ご自身(じしん)についてしるしてある事(こと)どもを、説(と)きあかされた。 28それから、彼(かれ)らは行(い)こうとしていた村(むら)に近(ちか)づいたが、イエスがなお先(さき)へ進(すす)み行(い)かれる様子(ようす)であった。 29そこで、しいて引(ひ)き止(と)めて言(い)った、「わたしたちと一緒(いっしょ)にお泊(と)まり下(くだ)さい。もう夕暮(ゆうぐれ)になっており、日(ひ)もはや傾(かたむ)いています」。イエスは、彼(かれ)らと共(とも)に泊(と)まるために、家(いえ)にはいられた。 30一緒(いっしょ)に食卓(しょくたく)につかれたとき、パンを取(と)り、祝福(しゅくふく)してさき、彼(かれ)らに渡(わた)しておられるうちに、 31彼(かれ)らの目(め)が開(ひら)けて、それがイエスであることがわかった。すると、み姿(すがた)が見(み)えなくなった。 32彼(かれ)らは互(たがい)に言(い)った、「道々(みちみち)お話(はな)しになったとき、また聖書(せいしょ)を説(と)き明(めい)してくださったとき、お互(たがい)の心(こころ)が内(うち)に燃(も)えたではないか」。 33そして、すぐに立(た)ってエルサレムに帰(かえ)って見(み)ると、十一弟子(でし)とその仲間(なかま)が集(あつ)まっていて、 34「主(しゅ)は、ほんとうによみがえって、シモンに現(あらわ)れなさった」と言(い)っていた。 35そこでふたりの者(もの)は、途中(とちゅう)であったことや、パンをおさきになる様子(ようす)でイエスだとわかったことなどを話(はな)した。 36こう話(はな)していると、イエスが彼(かれ)らの中(なか)にお立(た)ちになった。〔そして「やすかれ」と言(い)われた。〕 37彼(かれ)らは恐(おそ)れ驚(おどろ)いて、霊(れい)を見(み)ているのだと思(おも)った。 38そこでイエスが言(い)われた、「なぜおじ惑(まど)っているのか。どうして心(こころ)に疑(うたが)いを起(おこ)すのか。 39わたしの手(て)や足(あし)を見(み)なさい。まさしくわたしなのだ。さわって見(み)なさい。霊(れい)には肉(にく)や骨(ほね)はないが、あなたがたが見(み)るとおり、わたしにはあるのだ」。〔 40こう言(い)って、手(て)と足(あし)とをお見(み)せになった。〕 41彼(かれ)らは喜(よろこ)びのあまり、まだ信(しん)じられないで不思議(ふしぎ)に思(おも)っていると、イエスが「ここに何(なに)か食物(しょくもつ)があるか」と言(い)われた。 42彼(かれ)らが焼(や)いた魚(うお)の一きれをさしあげると、 43イエスはそれを取(と)って、みんなの前(まえ)で食(た)べられた。

44それから彼(かれ)らに対(たい)して言(い)われた、「わたしが以前(いぜん)あなたがたと一緒(いっしょ)にいた時分(じぶん)に話(はな)して聞(き)かせた言葉(ことば)は、こうであった。すなわち、モーセの律法(りっぽう)と預言(よげん)書(しょ)と詩篇(しへん)とに、わたしについて書(か)いてあることは、必(かなら)ずことごとく成就(じょうじゅ)する」。 45そこでイエスは、聖書(せいしょ)を悟(さと)らせるために彼(かれ)らの心(こころ)を開(ひら)いて 46言(い)われた、「こう、しるしてある。キリストは苦(くる)しみを受(う)けて、三日(か)目(め)に死人(しにん)の中(なか)からよみがえる。 47そして、その名(な)によって罪(つみ)のゆるしを得(え)させる悔改(くいあらた)めが、エルサレムからはじまって、もろもろの国民(こくみん)に宣(の)べ伝(つた)えられる。 48あなたがたは、これらの事(こと)の証人(しょうにん)である。 49見(み)よ、わたしの父(ちち)が約束(やくそく)されたものを、あなたがたに贈(おく)る。だから、上(うえ)から力(ちから)を授(さづ)けられるまでは、あなたがたは都(みやこ)にとどまっていなさい」。

50それから、イエスは彼(かれ)らをベタニヤの近(ちか)くまで連(つ)れて行(い)き、手(て)をあげて彼(かれ)らを祝福(しゅくふく)された。 51祝福(しゅくふく)しておられるうちに、彼(かれ)らを離(はな)れて、〔天(てん)にあげられた。〕 52彼(かれ)らは〔イエスを拝(はい)し、〕非常(ひじょう)な喜(よろこ)びをもってエルサレムに帰(かえ)り、 53絶(た)えず宮(みや)にいて、神(かみ)をほめたたえていた。